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50 敷地内の森
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もう何年も住んでいて、しかも他の街にも視察とか沢山しているのに、屋敷の敷地内に知らなかった所があったっていうのがちょっと衝撃だった。
ここは領主だったハワード先生のお屋敷があった所で、先生のお屋敷を少し改築して使う予定だったんだけど、お祖父様とお祖父様を尊敬する土魔法士の方たちがものすごい勢いでお手伝いをして下さって、もはやまったく別物になっていた。内部の装飾もすごく繊細でびっくりしたんだよね。
でもハワード先生のお屋敷を改築する前にもお屋敷は勿論その敷地内は見た筈なんだ。
お庭を新しく建てる小サロンの方に移して、元のお庭のスペースを広げて温室を作ったし、その奥には普通の屋敷にはないだろう、小さな畑も作ったし、あの妖精がくれた木も大きくなったものは屋敷の入口だけでなく、そこここに何本か植え替えもした。だからそういう事もあって敷地内はちゃんと見た筈だったんだけどな。
◇ ◇ ◇
馬を走らせて五、六リィン(分)。森というよりは林? のような木立は、いざ足を踏み入れるとあの東の森よりも木が高くて、ちょっと鬱蒼とした雰囲気があった。勿論まだ日が高い時間なので辺りの様子が分からない程暗いわけではないけれど、それでもフィンレーの東の森のような明るさはない。
「こちらに移る前に、乗馬が出来るようにこの辺りまでは少し木を伐採して整えたそうなんだけど、考えてみれば屋敷の敷地内で乗馬を楽しむような余裕がなかったかもしれないね。馬に乗るなら試作の畑に向かうという感じになっていたのも悪かったかな」
ちょっと困ったように笑った兄様に、僕は「そうですね」って返事をしながら、馬を森の入口近くの木に繋ぎ、兄様と護衛たちと一緒に森の中を歩き始めた。
「う~ん。これはこれで雰囲気がありますけど、もう少し枝を掃うか、木を減らして日の光を入れたいですね」
「ああ、そうだね。報告ではウサギやリス、それにイタチやキツネ、タヌキなどの小動物がいるようだよ。一応人が通る遊歩道のような所は手を入れていると書かれていたけれど、こうして散策をするならもう少し手を入れた方がいいかもしれないね。でもそうすると少し生態系が変わってしまうかな」
「どうでしょう。でもせっかくならフィンレーのあの森のように、自生のマルベリーやワイルドベリーなどが見つかると嬉しいなって」
「確かに。ではそういう森にしていこうか」
楽しそうに笑う兄様に僕はコクリと頷いた。
「はい。ふふふ、でもイタチやキツネにタヌキだなんて王城を思い出します」
「…………え? 王城?」
「あれ? ご存じありませんでしたか? 僕が王都の聖神殿に加護の鑑定をしに行った時に、王城の中にタヌキやキツネやイタチが入り込んで、父様が大変だったのです。調教師の方を手配して落ち着いたとか。王城の中にそんな動物たちが入り込んでしまうなんてってびっくりしたからよく覚えています。アルは見た事がありますか?」
「……そうだね。私が居た所にはあまり出てくる事はなかったけれど……まぁ、見かけた事はあるよ。多分」
「そうなんですか。じゃあここでも気を付けないといけないかな。でも屋敷には敷地とはまた別の結界が張ってあるから、大丈夫かな。王城は色々な人が出入りをするから、結界が難しいのかもしれませんね」
何となく、兄様とそしてフィンレーから来てくれた護衛騎士の様子がおかしいような気がしたけどなんだろう。ああ、もしかしたら王城の中にイタチとかが入ってしまう事は言ってはいけない事だったのかな。
初めて訪れた敷地内の森は少し手を入れる事にした。
住んでいる動物たちが追われて人里に悪さをしない程度に木を間引き、不要な枝を掃い、下草を刈り、肥料として使えそうな腐葉土は試作の畑で使う事にした。
もう少し奥に行けば小さな泉があるらしいけれど、今日はそこまでは行かれないのでこの次の楽しみに。フィンレーの東の森よりは深いので、道幅を馬が通れるくらいには広げて整備をしよう。
「また来ましょうね。それまでにもう少し明るい森にしましょう」
「ああ、そうしよう」
約束をしながら馬が待つ入口まで戻る途中で、兄様が「エディ」と僕を呼んだ。
「見てごらん。春を告げる花だ」
「春を告げる……あ!」
木漏れ日の落ちるそこにはブルーベルの花が咲いていた。
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ここは領主だったハワード先生のお屋敷があった所で、先生のお屋敷を少し改築して使う予定だったんだけど、お祖父様とお祖父様を尊敬する土魔法士の方たちがものすごい勢いでお手伝いをして下さって、もはやまったく別物になっていた。内部の装飾もすごく繊細でびっくりしたんだよね。
でもハワード先生のお屋敷を改築する前にもお屋敷は勿論その敷地内は見た筈なんだ。
お庭を新しく建てる小サロンの方に移して、元のお庭のスペースを広げて温室を作ったし、その奥には普通の屋敷にはないだろう、小さな畑も作ったし、あの妖精がくれた木も大きくなったものは屋敷の入口だけでなく、そこここに何本か植え替えもした。だからそういう事もあって敷地内はちゃんと見た筈だったんだけどな。
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馬を走らせて五、六リィン(分)。森というよりは林? のような木立は、いざ足を踏み入れるとあの東の森よりも木が高くて、ちょっと鬱蒼とした雰囲気があった。勿論まだ日が高い時間なので辺りの様子が分からない程暗いわけではないけれど、それでもフィンレーの東の森のような明るさはない。
「こちらに移る前に、乗馬が出来るようにこの辺りまでは少し木を伐採して整えたそうなんだけど、考えてみれば屋敷の敷地内で乗馬を楽しむような余裕がなかったかもしれないね。馬に乗るなら試作の畑に向かうという感じになっていたのも悪かったかな」
ちょっと困ったように笑った兄様に、僕は「そうですね」って返事をしながら、馬を森の入口近くの木に繋ぎ、兄様と護衛たちと一緒に森の中を歩き始めた。
「う~ん。これはこれで雰囲気がありますけど、もう少し枝を掃うか、木を減らして日の光を入れたいですね」
「ああ、そうだね。報告ではウサギやリス、それにイタチやキツネ、タヌキなどの小動物がいるようだよ。一応人が通る遊歩道のような所は手を入れていると書かれていたけれど、こうして散策をするならもう少し手を入れた方がいいかもしれないね。でもそうすると少し生態系が変わってしまうかな」
「どうでしょう。でもせっかくならフィンレーのあの森のように、自生のマルベリーやワイルドベリーなどが見つかると嬉しいなって」
「確かに。ではそういう森にしていこうか」
楽しそうに笑う兄様に僕はコクリと頷いた。
「はい。ふふふ、でもイタチやキツネにタヌキだなんて王城を思い出します」
「…………え? 王城?」
「あれ? ご存じありませんでしたか? 僕が王都の聖神殿に加護の鑑定をしに行った時に、王城の中にタヌキやキツネやイタチが入り込んで、父様が大変だったのです。調教師の方を手配して落ち着いたとか。王城の中にそんな動物たちが入り込んでしまうなんてってびっくりしたからよく覚えています。アルは見た事がありますか?」
「……そうだね。私が居た所にはあまり出てくる事はなかったけれど……まぁ、見かけた事はあるよ。多分」
「そうなんですか。じゃあここでも気を付けないといけないかな。でも屋敷には敷地とはまた別の結界が張ってあるから、大丈夫かな。王城は色々な人が出入りをするから、結界が難しいのかもしれませんね」
何となく、兄様とそしてフィンレーから来てくれた護衛騎士の様子がおかしいような気がしたけどなんだろう。ああ、もしかしたら王城の中にイタチとかが入ってしまう事は言ってはいけない事だったのかな。
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「また来ましょうね。それまでにもう少し明るい森にしましょう」
「ああ、そうしよう」
約束をしながら馬が待つ入口まで戻る途中で、兄様が「エディ」と僕を呼んだ。
「見てごらん。春を告げる花だ」
「春を告げる……あ!」
木漏れ日の落ちるそこにはブルーベルの花が咲いていた。
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