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45 悩める僕と頼りになる旦那様
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フィンレーの冬祭りも終わっていよいよ十二の月も半分くらい過ぎた。
父様は冬祭りの後ホッとする間もなく、この前話し合いをした事の会議をしているらしい。
十一の月の間に王家に報告して、十二の月には公・侯爵位の領主たちが集められた。また遅くなっているのかな。身体には気を付けてほしいな。
僕はミッチェル君に言われた通りにほぼ通常の業務をこなしつつ、年末に向けてご挨拶をした方が良い所、えっとグリーンベリーと大き目の取引をして下さっている爵位のある方々に「来年もよろしくね」っていうようなご挨拶状を出したり、温室の白イチゴをお贈りしたりしているんだ。もっとも実際にそれをやってくれているのはスティーブ君なんだけどね。僕はそれを確認したり、お礼状の宛名書きと書面のサインをしているだけ。
領地の事と、屋敷やグリーンベリー家の事を分けて考えるのって最初はよく分からなかったんだけど、グリーンベリー家はグリーンベリー家として行っている事業とか、色々あるからね。マルリカの実もそう。あれはグリーンベリー領が作っているわけではなく、グリーンベリー伯爵家が作っている。国はグリーンベリー伯爵家から卸してもらっている。
そしてグリーンベリー伯爵家が稼いだ分には勿論税金がかかる。それを含めての領地の税収……になるそうだ。もっとも領主の事業はある程度免税になる事が国で決められている。中々難しい。
話が逸れてしまったけれど、とにかくこれから忙しくなるのは公務よりもグリーンベリー伯爵家としての年間の収支。もっともそれは来年にならなければきちんとした数字は出てこない。だからどちらかと言えば僕が忙しくなるのは年が明けてからになるかな。もっともそれまでの事は毎月きちんとテオとスティーブ君がまとめてくれているので、そんなに心配はしていないんだ。ただ今年は白イチゴを領民におろしたから、それがちょっと煩雑になるかなって思っている。
何はともあれ、今一番僕の頭の中を占めているのは慰労会のメニューだ。
だって、せっかく領都の役場と執務室で働いてくれていた人を招くんだもの、去年と同じではつまらないでしょう? いや、定番のものがあってもいいんだけれど、何かこう目新しいメインになるものが欲しいじゃない。
去年はクラーケンが獲れたってトーマス君からお知らせが来て、皆に食べさせたいからって無理を言って結構な量を買い取らせてもらったんだ。今年はお肉系かな。でもミノタウロスやオークは嫌なんだ。美味しくても嫌なの。
「エディ、ここに皺が寄っているよ? 悩み事があるなら話をして?」
いつの間に帰って来ていたのか、兄様が後ろから抱きしめるようにして僕の顔を覗き込んで、眉間に長い指をトンと置いた。
「わぁ! アル、お帰りなさい」
「ただいまエディ。それで、エディはどんな難しい事を考えていたの?」
腕の中に抱き込まれたまま問われて、僕は一瞬だけ言葉を詰まらせて、そっと口を開いた。
「あ、あの、慰労会のメニューをどうしようかなって」
「メニュー? シェフが考えるのではなくエディが考えるの?」
「えっと、勿論シェフが考えるんですが、その、昨年はロマースク様からクラーケンをお譲り戴いたので、今年も何か定番のもの以外に目新しいものがあるといいなぁと思って。で、でも、ミノタウロスとかオークは嫌だなって考えていたんです」
僕の言葉に兄様は珍しくポカンとした顔をして、次の瞬間笑い出した。
「ア、アル!」
「ごめん、ごめん。でもエディがあんまり必死に言うから。そうだね。せっかくの慰労会だ。何か目玉のなるようなものがあるといいね。う~~ん……ああ、そう言えば王都でパイ包みという料理が流行っているよ」
「パイ包みですか?」
「ああ、肉や魚や色々なものをアップルパイのようなパイ生地で包んで焼くらしい。魔物の肉はともかく普通の牛肉の包み焼きやサーモンのなども美味しいって聞いたよ。その辺りで何か珍しい素材が使えないかシェフと相談をするのはどうかな」
「相談してみます! アル、ありがとうございます」
「ふふふ、困っている奥さんの役に立てたなら良かった。さぁ、ではメニューではなく、夕食にしよう。先ほどからマリー達が困っているよ」
そう言われて振り返ると壁際にマリー達メイドが並んで立っていた。
「マリー、夕食にするよ」
「かしこまりました」
後日、慰労会のメニューはお祖父様が下さったシカ肉を使ったパイ包みと、フィンレーの川で獲れたサーモンにチーズクリームとマッシュルームというキノコのパイ包みの2種類が今年のメインになった。マッシュルームは急遽温室で育てた。緑の手の力を使わせてもらったよ。
試作で作ったものはフィンレーで母様たちと一緒に食べた。とても美味しかった。
もうじき、一年が終わろうとしていた。
-----------
何となく小さい頃の雰囲気をほんのりと……
父様は冬祭りの後ホッとする間もなく、この前話し合いをした事の会議をしているらしい。
十一の月の間に王家に報告して、十二の月には公・侯爵位の領主たちが集められた。また遅くなっているのかな。身体には気を付けてほしいな。
僕はミッチェル君に言われた通りにほぼ通常の業務をこなしつつ、年末に向けてご挨拶をした方が良い所、えっとグリーンベリーと大き目の取引をして下さっている爵位のある方々に「来年もよろしくね」っていうようなご挨拶状を出したり、温室の白イチゴをお贈りしたりしているんだ。もっとも実際にそれをやってくれているのはスティーブ君なんだけどね。僕はそれを確認したり、お礼状の宛名書きと書面のサインをしているだけ。
領地の事と、屋敷やグリーンベリー家の事を分けて考えるのって最初はよく分からなかったんだけど、グリーンベリー家はグリーンベリー家として行っている事業とか、色々あるからね。マルリカの実もそう。あれはグリーンベリー領が作っているわけではなく、グリーンベリー伯爵家が作っている。国はグリーンベリー伯爵家から卸してもらっている。
そしてグリーンベリー伯爵家が稼いだ分には勿論税金がかかる。それを含めての領地の税収……になるそうだ。もっとも領主の事業はある程度免税になる事が国で決められている。中々難しい。
話が逸れてしまったけれど、とにかくこれから忙しくなるのは公務よりもグリーンベリー伯爵家としての年間の収支。もっともそれは来年にならなければきちんとした数字は出てこない。だからどちらかと言えば僕が忙しくなるのは年が明けてからになるかな。もっともそれまでの事は毎月きちんとテオとスティーブ君がまとめてくれているので、そんなに心配はしていないんだ。ただ今年は白イチゴを領民におろしたから、それがちょっと煩雑になるかなって思っている。
何はともあれ、今一番僕の頭の中を占めているのは慰労会のメニューだ。
だって、せっかく領都の役場と執務室で働いてくれていた人を招くんだもの、去年と同じではつまらないでしょう? いや、定番のものがあってもいいんだけれど、何かこう目新しいメインになるものが欲しいじゃない。
去年はクラーケンが獲れたってトーマス君からお知らせが来て、皆に食べさせたいからって無理を言って結構な量を買い取らせてもらったんだ。今年はお肉系かな。でもミノタウロスやオークは嫌なんだ。美味しくても嫌なの。
「エディ、ここに皺が寄っているよ? 悩み事があるなら話をして?」
いつの間に帰って来ていたのか、兄様が後ろから抱きしめるようにして僕の顔を覗き込んで、眉間に長い指をトンと置いた。
「わぁ! アル、お帰りなさい」
「ただいまエディ。それで、エディはどんな難しい事を考えていたの?」
腕の中に抱き込まれたまま問われて、僕は一瞬だけ言葉を詰まらせて、そっと口を開いた。
「あ、あの、慰労会のメニューをどうしようかなって」
「メニュー? シェフが考えるのではなくエディが考えるの?」
「えっと、勿論シェフが考えるんですが、その、昨年はロマースク様からクラーケンをお譲り戴いたので、今年も何か定番のもの以外に目新しいものがあるといいなぁと思って。で、でも、ミノタウロスとかオークは嫌だなって考えていたんです」
僕の言葉に兄様は珍しくポカンとした顔をして、次の瞬間笑い出した。
「ア、アル!」
「ごめん、ごめん。でもエディがあんまり必死に言うから。そうだね。せっかくの慰労会だ。何か目玉のなるようなものがあるといいね。う~~ん……ああ、そう言えば王都でパイ包みという料理が流行っているよ」
「パイ包みですか?」
「ああ、肉や魚や色々なものをアップルパイのようなパイ生地で包んで焼くらしい。魔物の肉はともかく普通の牛肉の包み焼きやサーモンのなども美味しいって聞いたよ。その辺りで何か珍しい素材が使えないかシェフと相談をするのはどうかな」
「相談してみます! アル、ありがとうございます」
「ふふふ、困っている奥さんの役に立てたなら良かった。さぁ、ではメニューではなく、夕食にしよう。先ほどからマリー達が困っているよ」
そう言われて振り返ると壁際にマリー達メイドが並んで立っていた。
「マリー、夕食にするよ」
「かしこまりました」
後日、慰労会のメニューはお祖父様が下さったシカ肉を使ったパイ包みと、フィンレーの川で獲れたサーモンにチーズクリームとマッシュルームというキノコのパイ包みの2種類が今年のメインになった。マッシュルームは急遽温室で育てた。緑の手の力を使わせてもらったよ。
試作で作ったものはフィンレーで母様たちと一緒に食べた。とても美味しかった。
もうじき、一年が終わろうとしていた。
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何となく小さい頃の雰囲気をほんのりと……
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