43 / 109
41 二十一歳の誕生日
しおりを挟む
十の月になってダリウス叔父様からまた映像付きの書簡が来た。
瑞々しい緑の麦畑は、美しい黄金色に染まっていた。本当は収穫も見に行きたかったけれど、さすがにそんなに行き来は出来ないので、そのまま天気の良い日に収穫となった。うん。でもこの映像が見られただけでも嬉しいって思ったよ。
収穫した麦の葉や茎などは肥料として畑に混ぜる事をもう一度確認した。今回使った畑にも勿論肥料として収穫した後のそれを混ぜ込むけれど、この十一の月に植える新しい畑にも混ぜて一カ月くらい馴染ませる。それから苗植えだ。直播はまだしない。苗は前回と同じようにグリーンベリーの温室から持って行って貰う事が決まっている。
ちなみに今回の麦は三分の一はその次に直播をする為にマジックボックスで保存をするんだ。一応次の麦も畑の拡張をする為に直播分は分けるよ。
そうして少しずつ少しずつシェルバーネの麦と麦畑を増やしていく。なんだかワクワクするよね。
そんな感じでシェルバーネの事と、グリーンベリーのイチゴの事や来年度の採用についての話をしているうちに十の月の十一日、僕の誕生日がやってきた。
兄様は朝一番に「お誕生日おめでとう」って言ってくれたよ。
でもお祝はお互いに今日の仕事が終わってから。そうしたら明日は月の日でお休みだからね。
職場ではミッチェル君とブライアン君が「おめでとうございます」って言ってくれて、恒例のように「アルフレッド様のプレゼントより絶対に後で開けてくださいね」ってプレゼントをくれた。
別に兄様はそんな事は気にしないのにって思いながら僕は「ありがとう」って二人からのプレゼントを受け取ったんだ。
定時になるとミッチェル君から「はい。おしまい。また来週。お疲れさまでした」って執務室から追い立てるように出されてひらひらと手を振られた。僕は苦笑をしながら業務終了。そのまま屋敷に戻った。
さすがにまだ兄様は帰っていなかったので、少しだけ考えて温室を見に行く事にした。出来るだけ自分でも手を入れるようにはしているけれど、それでも毎日というわけにはいかない。もっともその為にマークや他の庭師さんもいるのでそれは安心しているんだけどね。
『えでぃー! ひさしぶり』
果物の温室に入るとティオの声が聞こえてきた。
あれからもう少しだけ契約をして姿が見える妖精も増えてきたし、何より小さかったティオが少し大きくなっているような気がする。
「ティオ、お久しぶり。元気にしていた?」
『うん。ティオいつもげんき!』
「それは良かった。今日は一人で遊びにきたの?」
『ティオがきた時にえでぃがきたの』
「そうだったんだ。丁度良かったんだね。じゃあジャムか蜂蜜を食べていく?」
『ジャムをもらう。それと、これ。ティオが見つけたの。キラキラできれいだったの。えでぃにあげる』
テオはそう言って、昔僕が贈った緑色のバッグから取り出したものを僕の手の中に落とした。コロリと転がった石? ペリドットみたいなグリーンに似ているけど、もっと何だろう色んな色が混じっているっていうか、反射してキラキラしている。
「わぁ、本当だ。すごくキラキラだね。でもティオ、これは大事な物じゃない? エディがもらってもいいの?」
「うん。だって今日はおたんじょうびだから。この前はりーに聞いたの。エディが生まれた日って。大きい人が人間は生まれた日におめでとうっておいわいする事があるっておしえてくれたよ」
「そう。だからティオはおめでとうってお祝に来てくれたんだね」
「そう! おめでとう、えでぃ」
「ありがとうティオ。大事にするね」
結局温室でティオと話をしてジャムをあげて、僕は本邸に戻った。兄様が帰って来たってルーカスが知らせてくれたんだ。
「お帰りなさい、アル」
「ただいま、エディ。温室に居たみたいだね。誰か来ていた?」
「はい。ティオが。どうやらハリーが僕の誕生日を教えたみたいで、お祝いに来てくれました。綺麗な石を見つけて届けてくれました」
そう言って手を開いて石を見せた。
「鑑定をしてみたら『スフェーン』という石みたいです」
「へぇ、美しい石だね。色のついたダイヤモンドみたいだ。何かに加工できるといいね」
「はい。大事そうにバッグから出してくれたんです。ジャムを食べて帰りました」
「ふふふ、妖精たちからはエディの瞳はこんな風にキラキラと見えているのかもしれないね」
楽しそうにそう言う兄様に何だか照れてしまって、僕はポーチの中にそっと石をしまった。
その後は着替えをして一緒に夕食を食べて、約束のカクテルも一緒に飲んだよ。ただし、僕の分はグラスにちょっとだけなんだけどね。
部屋に行くと兄様が「改めて、お誕生日おめでとう」ってプレゼントをくれた。前に言っていた魔道具だった。
「叔父上から届いた中に面白いものがあったよ。以前星見の魔道具があったけれど、それと似たものみたいだね。本当はビデオカメラの映像書簡をもう少し改良して贈りたかったんだけど、さすがに無理だった」
「はい。無理をして急がないで下さいね。でも楽しみにしています。それでこの魔道具は……」
「ふふ、こうするらしいよ」
兄様は楽しそうに笑って小さな小さな魔石を嵌め込んだするとカタカタと音を立てて魔道具が動き出して、懐かしい絵本が映し出された。
「え? これって」
「色々な事を思いつくなと思ったよ。絵本を読み聞かせる為の魔道具だそうだ」
「よ、読み聞かせるための?」
ええ? どういう事なのかな?
「ここにね、声を登録して、読みたい本をここに入れるとね」
『あるところに美しいお姫様がいました』
「!! え? どう、ええ⁉」
だって魔道具には絵本の絵が映し出されていて、兄様の声が聞こえてくるんだもの!
「面白いよね。私は絵本をエディと一緒に見るのが楽しかったけれど、どうしても一緒に居られない時にはこういうのもいいなって少しだけ思ったよ」
耳に流れ込んでくるのはあの頃の兄様の声ではなくて今の兄様の声だ。大好きだった『お姫様と騎士』の絵本。もちろん一緒に目の前で読んでくれる方がいいなって思うけれど、この魔道具も確かに面白いし、もしも兄様が学園に通い出した頃にこれがあったらきっと僕は毎日のようにこの魔道具を使っていたんじゃないかしら。
「すごく、素敵なプレゼントです。ありがとうございます、アル!」
魔道具の声が騎士の剣が金色に輝いた事を伝えてくる中で、僕は思わず兄様に飛びついていた。
勿論兄様はしっかりと僕の身体を抱き留めてくれた。
--------------
瑞々しい緑の麦畑は、美しい黄金色に染まっていた。本当は収穫も見に行きたかったけれど、さすがにそんなに行き来は出来ないので、そのまま天気の良い日に収穫となった。うん。でもこの映像が見られただけでも嬉しいって思ったよ。
収穫した麦の葉や茎などは肥料として畑に混ぜる事をもう一度確認した。今回使った畑にも勿論肥料として収穫した後のそれを混ぜ込むけれど、この十一の月に植える新しい畑にも混ぜて一カ月くらい馴染ませる。それから苗植えだ。直播はまだしない。苗は前回と同じようにグリーンベリーの温室から持って行って貰う事が決まっている。
ちなみに今回の麦は三分の一はその次に直播をする為にマジックボックスで保存をするんだ。一応次の麦も畑の拡張をする為に直播分は分けるよ。
そうして少しずつ少しずつシェルバーネの麦と麦畑を増やしていく。なんだかワクワクするよね。
そんな感じでシェルバーネの事と、グリーンベリーのイチゴの事や来年度の採用についての話をしているうちに十の月の十一日、僕の誕生日がやってきた。
兄様は朝一番に「お誕生日おめでとう」って言ってくれたよ。
でもお祝はお互いに今日の仕事が終わってから。そうしたら明日は月の日でお休みだからね。
職場ではミッチェル君とブライアン君が「おめでとうございます」って言ってくれて、恒例のように「アルフレッド様のプレゼントより絶対に後で開けてくださいね」ってプレゼントをくれた。
別に兄様はそんな事は気にしないのにって思いながら僕は「ありがとう」って二人からのプレゼントを受け取ったんだ。
定時になるとミッチェル君から「はい。おしまい。また来週。お疲れさまでした」って執務室から追い立てるように出されてひらひらと手を振られた。僕は苦笑をしながら業務終了。そのまま屋敷に戻った。
さすがにまだ兄様は帰っていなかったので、少しだけ考えて温室を見に行く事にした。出来るだけ自分でも手を入れるようにはしているけれど、それでも毎日というわけにはいかない。もっともその為にマークや他の庭師さんもいるのでそれは安心しているんだけどね。
『えでぃー! ひさしぶり』
果物の温室に入るとティオの声が聞こえてきた。
あれからもう少しだけ契約をして姿が見える妖精も増えてきたし、何より小さかったティオが少し大きくなっているような気がする。
「ティオ、お久しぶり。元気にしていた?」
『うん。ティオいつもげんき!』
「それは良かった。今日は一人で遊びにきたの?」
『ティオがきた時にえでぃがきたの』
「そうだったんだ。丁度良かったんだね。じゃあジャムか蜂蜜を食べていく?」
『ジャムをもらう。それと、これ。ティオが見つけたの。キラキラできれいだったの。えでぃにあげる』
テオはそう言って、昔僕が贈った緑色のバッグから取り出したものを僕の手の中に落とした。コロリと転がった石? ペリドットみたいなグリーンに似ているけど、もっと何だろう色んな色が混じっているっていうか、反射してキラキラしている。
「わぁ、本当だ。すごくキラキラだね。でもティオ、これは大事な物じゃない? エディがもらってもいいの?」
「うん。だって今日はおたんじょうびだから。この前はりーに聞いたの。エディが生まれた日って。大きい人が人間は生まれた日におめでとうっておいわいする事があるっておしえてくれたよ」
「そう。だからティオはおめでとうってお祝に来てくれたんだね」
「そう! おめでとう、えでぃ」
「ありがとうティオ。大事にするね」
結局温室でティオと話をしてジャムをあげて、僕は本邸に戻った。兄様が帰って来たってルーカスが知らせてくれたんだ。
「お帰りなさい、アル」
「ただいま、エディ。温室に居たみたいだね。誰か来ていた?」
「はい。ティオが。どうやらハリーが僕の誕生日を教えたみたいで、お祝いに来てくれました。綺麗な石を見つけて届けてくれました」
そう言って手を開いて石を見せた。
「鑑定をしてみたら『スフェーン』という石みたいです」
「へぇ、美しい石だね。色のついたダイヤモンドみたいだ。何かに加工できるといいね」
「はい。大事そうにバッグから出してくれたんです。ジャムを食べて帰りました」
「ふふふ、妖精たちからはエディの瞳はこんな風にキラキラと見えているのかもしれないね」
楽しそうにそう言う兄様に何だか照れてしまって、僕はポーチの中にそっと石をしまった。
その後は着替えをして一緒に夕食を食べて、約束のカクテルも一緒に飲んだよ。ただし、僕の分はグラスにちょっとだけなんだけどね。
部屋に行くと兄様が「改めて、お誕生日おめでとう」ってプレゼントをくれた。前に言っていた魔道具だった。
「叔父上から届いた中に面白いものがあったよ。以前星見の魔道具があったけれど、それと似たものみたいだね。本当はビデオカメラの映像書簡をもう少し改良して贈りたかったんだけど、さすがに無理だった」
「はい。無理をして急がないで下さいね。でも楽しみにしています。それでこの魔道具は……」
「ふふ、こうするらしいよ」
兄様は楽しそうに笑って小さな小さな魔石を嵌め込んだするとカタカタと音を立てて魔道具が動き出して、懐かしい絵本が映し出された。
「え? これって」
「色々な事を思いつくなと思ったよ。絵本を読み聞かせる為の魔道具だそうだ」
「よ、読み聞かせるための?」
ええ? どういう事なのかな?
「ここにね、声を登録して、読みたい本をここに入れるとね」
『あるところに美しいお姫様がいました』
「!! え? どう、ええ⁉」
だって魔道具には絵本の絵が映し出されていて、兄様の声が聞こえてくるんだもの!
「面白いよね。私は絵本をエディと一緒に見るのが楽しかったけれど、どうしても一緒に居られない時にはこういうのもいいなって少しだけ思ったよ」
耳に流れ込んでくるのはあの頃の兄様の声ではなくて今の兄様の声だ。大好きだった『お姫様と騎士』の絵本。もちろん一緒に目の前で読んでくれる方がいいなって思うけれど、この魔道具も確かに面白いし、もしも兄様が学園に通い出した頃にこれがあったらきっと僕は毎日のようにこの魔道具を使っていたんじゃないかしら。
「すごく、素敵なプレゼントです。ありがとうございます、アル!」
魔道具の声が騎士の剣が金色に輝いた事を伝えてくる中で、僕は思わず兄様に飛びついていた。
勿論兄様はしっかりと僕の身体を抱き留めてくれた。
--------------
332
お気に入りに追加
3,112
あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる