悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

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41 二十一歳の誕生日

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 十の月になってダリウス叔父様からまた映像付きの書簡が来た。
 瑞々みずみずしい緑の麦畑は、美しい黄金色に染まっていた。本当は収穫も見に行きたかったけれど、さすがにそんなに行き来は出来ないので、そのまま天気の良い日に収穫となった。うん。でもこの映像が見られただけでも嬉しいって思ったよ。

 収穫した麦の葉や茎などは肥料として畑に混ぜる事をもう一度確認した。今回使った畑にも勿論肥料として収穫した後のそれを混ぜ込むけれど、この十一の月に植える新しい畑にも混ぜて一カ月くらい馴染ませる。それから苗植えだ。直播じかまきはまだしない。苗は前回と同じようにグリーンベリーの温室から持って行って貰う事が決まっている。
 ちなみに今回の麦は三分の一はその次に直播をする為にマジックボックスで保存をするんだ。一応次の麦も畑の拡張をする為に直播分は分けるよ。
 そうして少しずつ少しずつシェルバーネの麦と麦畑を増やしていく。なんだかワクワクするよね。

 そんな感じでシェルバーネの事と、グリーンベリーのイチゴの事や来年度の採用についての話をしているうちに十の月の十一日、僕の誕生日がやってきた。
 兄様は朝一番に「お誕生日おめでとう」って言ってくれたよ。
 でもお祝はお互いに今日の仕事が終わってから。そうしたら明日はつきの日でお休みだからね。

 職場ではミッチェル君とブライアン君が「おめでとうございます」って言ってくれて、恒例のように「アルフレッド様のプレゼントより絶対に後で開けてくださいね」ってプレゼントをくれた。
 別に兄様はそんな事は気にしないのにって思いながら僕は「ありがとう」って二人からのプレゼントを受け取ったんだ。

 定時になるとミッチェル君から「はい。おしまい。また来週。お疲れさまでした」って執務室から追い立てるように出されてひらひらと手を振られた。僕は苦笑をしながら業務終了。そのまま屋敷に戻った。
 さすがにまだ兄様は帰っていなかったので、少しだけ考えて温室を見に行く事にした。出来るだけ自分でも手を入れるようにはしているけれど、それでも毎日というわけにはいかない。もっともその為にマークや他の庭師さんもいるのでそれは安心しているんだけどね。

『えでぃー! ひさしぶり』

 果物の温室に入るとティオの声が聞こえてきた。
 あれからもう少しだけ契約をして姿が見える妖精も増えてきたし、何より小さかったティオが少し大きくなっているような気がする。

「ティオ、お久しぶり。元気にしていた?」
『うん。ティオいつもげんき!』
「それは良かった。今日は一人で遊びにきたの?」 
『ティオがきた時にえでぃがきたの』
「そうだったんだ。丁度良かったんだね。じゃあジャムか蜂蜜を食べていく?」
『ジャムをもらう。それと、これ。ティオが見つけたの。キラキラできれいだったの。えでぃにあげる』

 テオはそう言って、昔僕が贈った緑色のバッグから取り出したものを僕の手の中に落とした。コロリと転がった石? ペリドットみたいなグリーンに似ているけど、もっと何だろう色んな色が混じっているっていうか、反射してキラキラしている。

「わぁ、本当だ。すごくキラキラだね。でもティオ、これは大事な物じゃない? エディがもらってもいいの?」
「うん。だって今日はおたんじょうびだから。この前はりーに聞いたの。エディが生まれた日って。大きい人が人間は生まれた日におめでとうっておいわいする事があるっておしえてくれたよ」
「そう。だからティオはおめでとうってお祝に来てくれたんだね」
「そう! おめでとう、えでぃ」
「ありがとうティオ。大事にするね」

 結局温室でティオと話をしてジャムをあげて、僕は本邸に戻った。兄様が帰って来たってルーカスが知らせてくれたんだ。




「お帰りなさい、アル」
「ただいま、エディ。温室に居たみたいだね。誰か来ていた?」
「はい。ティオが。どうやらハリーが僕の誕生日を教えたみたいで、お祝いに来てくれました。綺麗な石を見つけて届けてくれました」

 そう言って手を開いて石を見せた。

「鑑定をしてみたら『スフェーン』という石みたいです」
「へぇ、美しい石だね。色のついたダイヤモンドみたいだ。何かに加工できるといいね」
「はい。大事そうにバッグから出してくれたんです。ジャムを食べて帰りました」
「ふふふ、妖精たちからはエディの瞳はこんな風にキラキラと見えているのかもしれないね」

 楽しそうにそう言う兄様に何だか照れてしまって、僕はポーチの中にそっと石をしまった。
 その後は着替えをして一緒に夕食を食べて、約束のカクテルも一緒に飲んだよ。ただし、僕の分はグラスにちょっとだけなんだけどね。


 部屋に行くと兄様が「改めて、お誕生日おめでとう」ってプレゼントをくれた。前に言っていた魔道具だった。

「叔父上から届いた中に面白いものがあったよ。以前星見の魔道具があったけれど、それと似たものみたいだね。本当はビデオカメラの映像書簡をもう少し改良して贈りたかったんだけど、さすがに無理だった」
「はい。無理をして急がないで下さいね。でも楽しみにしています。それでこの魔道具は……」
「ふふ、こうするらしいよ」

 兄様は楽しそうに笑って小さな小さな魔石を嵌め込んだするとカタカタと音を立てて魔道具が動き出して、懐かしい絵本が映し出された。

「え? これって」
「色々な事を思いつくなと思ったよ。絵本を読み聞かせる為の魔道具だそうだ」
「よ、読み聞かせるための?」

 ええ? どういう事なのかな?

「ここにね、声を登録して、読みたい本をここに入れるとね」

『あるところに美しいお姫様がいました』
「!! え? どう、ええ⁉」

 だって魔道具には絵本の絵が映し出されていて、兄様の声が聞こえてくるんだもの!

「面白いよね。私は絵本をエディと一緒に見るのが楽しかったけれど、どうしても一緒に居られない時にはこういうのもいいなって少しだけ思ったよ」

 耳に流れ込んでくるのはあの頃の兄様の声ではなくて今の兄様の声だ。大好きだった『お姫様と騎士』の絵本。もちろん一緒に目の前で読んでくれる方がいいなって思うけれど、この魔道具も確かに面白いし、もしも兄様が学園に通い出した頃にこれがあったらきっと僕は毎日のようにこの魔道具を使っていたんじゃないかしら。

「すごく、素敵なプレゼントです。ありがとうございます、アル!」

 魔道具の声が騎士の剣が金色に輝いた事を伝えてくる中で、僕は思わず兄様に飛びついていた。
 勿論兄様はしっかりと僕の身体を抱き留めてくれた。

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