悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

文字の大きさ
上 下
41 / 109

39 優しい子守歌

しおりを挟む

…………

……

重い会場のドアをメイと共に開けると、賑やかな音楽が耳に飛び込んできた。
高級そうな料理や、いつも以上に華やかな会場の飾りつけが目に入り、1週間前に戦地にいたなんて嘘みたいな光景に、呆気《あっけ》にとられる。


戦勝パーティ会場を見回すと、下級クラスの生徒はいないようだった。
そのことに、心の中で『当たり前だ』とつぶやく。

下級生であるルイーゼ達は、私たちが特別野外活動に行っていたと思っているのだから。

ちなみに私を襲った男子達は、指揮官から学園に報告され、帰還するなり塔に入れられた。だから今は不在だ。



「カミヅキ様ぁ~」
そんな台詞セリフが耳に入ってきて、自然と目が行く。

すると大きく胸の開いた、タイトな黒のロングドレスを着たFクラス講師が映った。そして、その隣にはディオン。

ディオンは品のある黒のスーツを着ていて、長い黒髪を後ろで束ねている。既に周りは女生徒だらけだ。

Fクラス講師は、大きな胸を見せつけるようにしてディオンに迫っているのに、ディオンは嫌がる様子も見せずに何やら話をしている。

服の色が同じだからか、そんな2人がとてもお似合いに見えて、思わずムッとしてしまう。

そんな時、ディオンとバチっと目が合って、思わずプイっとそっぽを向いてしまった。


再び目を向けると、もうディオンは女生徒の方を向いていた。
その事に更に怒りが湧く。


キスまでしてきたくせに!なんなのよ!
ふと、これまでのキスを思い出してしまい、そっと唇に指を当てると、顔にぼっと火がついた。

あああーー!
恥ずかしくなって脳内の私が頭を抱えて叫ぶと、次に私を殺した奴の言葉が浮かび上がった。

『あれぇ?まだ生きてんの』
『早く死んで』


……まただ。
最近ずっと、殺される直前の事ばかり思い出してしまう。



それもこれも……

長く艶のある黒いディオンの髪に目を向ける。


あの姿を目にすると、どうしても私を殺した人物を思い出してしまう。


戦争が終わったら告白しようと思っていたのに、なんかそれどころじゃなくなっちゃった……


疑いは深まる事も、解決する事もなく、ずっと平行線のまま。

やっぱり、ディオンが私を殺した犯人なんかじゃないとは思う。
でも、そう思っても疑いが完全に晴れるわけではない。

いっそのこと、全部話してしまえば楽になれるのに……
もし、本当に犯人だったら……って思うと、怖くて言えない。



「はぁー」
ため息をついて誰も居なさそうなテラスに出ると、「シエルちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
その声に振り返ると、派手な柄物のスーツを着たアランが映った。


「アラン……」
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...