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35 八の月はチョコレートムースケーキ
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八の月に入って約束通りにチョコレートムースケーキを作ってもらった。
でもさ、色合いが地味でしょ? だから色々考えて間にオレンジのゼリーコーティングしたものを挟んで、上にはオレンジと生クリームとラズベリーの実を飾ってもらった。
「ああ、これは見た目も美しいね」
「オレンジもラズベリーもショコラに合うので美味しいと思います。しばらくフィンレーに行かれずに母様に心配をかけてしまったので、華やかなものをお見せしたくて」
「うん。いいじゃないかな。きっと母上も喜ぶよ。でもケーキよりも何よりもエディが元気なのが一番だからね」
「はい。でもケーキを見て喜んでいる母様を見るのはとても好きです」
「ああ、私もだ」
僕達はそう言ってふふふと笑った。味見用の物を食べて、綺麗にデコレーションされたホールのケーキはそのままマジックボックスにしまってもらった。
本当に空間魔法ってすごいなって思う。
そうしてお茶会の日。何でもない日の休日のお茶会はとても贅沢だ。
皆でお茶とケーキを楽しむだけの日。兄様は来られなかったけれど母様と僕、そして双子たちと途中からは父様も参加をして久しぶりのお茶会を楽しんだ。
今日はお茶会だからマルリカの実の話も、事件のその後の話も、王宮の話も何もなし。ただ美味しいケーキを食べて、おいしい紅茶を飲んで、双子たちの学園の話を聞いて懐かしいなと思ったり、ちょっと笑ってしまったりと幸せな時間を過ごした。
お茶会の終わりに、母様が昔みたいに僕の事をギュッとして、ゆっくりと話し出した。
「エディのいい所は一生懸命に考える事だけれど、無理をしてはいけません。一生懸命考えても答えが出ないものは沢山あります。そういう時はまだ答えが出せない時だと神様が言っているのだと思いなさい。そういうものの大半は時間が解決してくれるものですよ」
母様が何の事を言っているのか、僕には分かるような気がした。
だから「はい」って頷いて、僕もギュってしたよ。
もう大人になったのに、それでも子供の頃と変わらずに守られている事に感謝をして、「また来ます」って約束をして、僕はグリーンベリーに帰って来た。
お休みなのにお仕事をしてきた兄様は帰ってきて僕を見ると「楽しかったようで良かったね」って言って僕の事をびっくりさせた。
本当に兄様って何も話をしていないのに、すごい!
-*-*-*-*-
それから少しして、ルシルがやって来た。フィンレーに比べると暑い夏にも大分慣れた。
それでも屋敷の中には温度調整をする魔道具がしっかりと置かれているけどね。
中庭の方の小さなサロンのようなお部屋に入って、冷たい果実水を一口口にすると、ルシルはニッコリ笑って「もらってきたよ」と言った。
「え……」
「でもまだマジックバッグに入れてある」
「そ、そう」
という事は実を受け取りにはいったけれど、まだ喧嘩しているのかな。シルヴァン様はやっぱり子供は欲しくないのかな。
そんな事をぐるぐると考えているとルシルが口を開いた。
「いつ使うかは改めて相談をする事にしたんだ。お互いにきちんと納得をしていないと生まれてきた子供がかわいそうでしょ?」
「あ、うん。そうだよね」
「うん。でもさ、やっぱり受け取りの時はドキドキするね。みんなこんな気持ちで受け取りにくるのかなって思ったらちょっと泣きそうになったよ」
「……そう」
「うん。こんなにもドキドキして、ただ実を受け取るだけなのに、なんだか心臓が口から飛び出してきそうなくらい緊張した。あんまり緊張して顔色が悪くなったからシルヴィーがものすごく焦っていたのがちょっとおかしくて、嬉しいなって思ったよ」
少し顔を赤くしてそう言ったルシルに僕はようやく肩の力を抜いて小さく笑った。
「ねぇエディ」
「なぁに?」
「………実を使ったら、またこんな風に話に来てもいい?」
「ルシル?」
「使うぞって決めていたけど、やっぱり色々ドキドキしたり、時々不安になったりする。そして実を使った後にどうなるのかなって思うとちょっと怖いなって思うんだ。今年は実を使わないって決めたエディに話を聞いてほしいっていうのはどうなのかなって思うんだけど、どんな風になるとか、どうなっていくとか、エディが聞きたいなって思う事があれば答えるから、だから僕の話も時々聞いてくれるかな」
ルシルの言葉に僕はコクコクと頷いた。
「勿論だよ。ルシル。僕も、ちょっと知りたいなって思っていたよ。話す事でルシルの不安が少しでも減るなら嬉しいよ。でも」
「でも?」
「えっとマルリカの実の使い方は、アルに聞く事になっているからそれは言わないで?」
その瞬間ルシルは吹き出すように笑って「了解」って言った。
-----------
さすが兄様。
でもさ、色合いが地味でしょ? だから色々考えて間にオレンジのゼリーコーティングしたものを挟んで、上にはオレンジと生クリームとラズベリーの実を飾ってもらった。
「ああ、これは見た目も美しいね」
「オレンジもラズベリーもショコラに合うので美味しいと思います。しばらくフィンレーに行かれずに母様に心配をかけてしまったので、華やかなものをお見せしたくて」
「うん。いいじゃないかな。きっと母上も喜ぶよ。でもケーキよりも何よりもエディが元気なのが一番だからね」
「はい。でもケーキを見て喜んでいる母様を見るのはとても好きです」
「ああ、私もだ」
僕達はそう言ってふふふと笑った。味見用の物を食べて、綺麗にデコレーションされたホールのケーキはそのままマジックボックスにしまってもらった。
本当に空間魔法ってすごいなって思う。
そうしてお茶会の日。何でもない日の休日のお茶会はとても贅沢だ。
皆でお茶とケーキを楽しむだけの日。兄様は来られなかったけれど母様と僕、そして双子たちと途中からは父様も参加をして久しぶりのお茶会を楽しんだ。
今日はお茶会だからマルリカの実の話も、事件のその後の話も、王宮の話も何もなし。ただ美味しいケーキを食べて、おいしい紅茶を飲んで、双子たちの学園の話を聞いて懐かしいなと思ったり、ちょっと笑ってしまったりと幸せな時間を過ごした。
お茶会の終わりに、母様が昔みたいに僕の事をギュッとして、ゆっくりと話し出した。
「エディのいい所は一生懸命に考える事だけれど、無理をしてはいけません。一生懸命考えても答えが出ないものは沢山あります。そういう時はまだ答えが出せない時だと神様が言っているのだと思いなさい。そういうものの大半は時間が解決してくれるものですよ」
母様が何の事を言っているのか、僕には分かるような気がした。
だから「はい」って頷いて、僕もギュってしたよ。
もう大人になったのに、それでも子供の頃と変わらずに守られている事に感謝をして、「また来ます」って約束をして、僕はグリーンベリーに帰って来た。
お休みなのにお仕事をしてきた兄様は帰ってきて僕を見ると「楽しかったようで良かったね」って言って僕の事をびっくりさせた。
本当に兄様って何も話をしていないのに、すごい!
-*-*-*-*-
それから少しして、ルシルがやって来た。フィンレーに比べると暑い夏にも大分慣れた。
それでも屋敷の中には温度調整をする魔道具がしっかりと置かれているけどね。
中庭の方の小さなサロンのようなお部屋に入って、冷たい果実水を一口口にすると、ルシルはニッコリ笑って「もらってきたよ」と言った。
「え……」
「でもまだマジックバッグに入れてある」
「そ、そう」
という事は実を受け取りにはいったけれど、まだ喧嘩しているのかな。シルヴァン様はやっぱり子供は欲しくないのかな。
そんな事をぐるぐると考えているとルシルが口を開いた。
「いつ使うかは改めて相談をする事にしたんだ。お互いにきちんと納得をしていないと生まれてきた子供がかわいそうでしょ?」
「あ、うん。そうだよね」
「うん。でもさ、やっぱり受け取りの時はドキドキするね。みんなこんな気持ちで受け取りにくるのかなって思ったらちょっと泣きそうになったよ」
「……そう」
「うん。こんなにもドキドキして、ただ実を受け取るだけなのに、なんだか心臓が口から飛び出してきそうなくらい緊張した。あんまり緊張して顔色が悪くなったからシルヴィーがものすごく焦っていたのがちょっとおかしくて、嬉しいなって思ったよ」
少し顔を赤くしてそう言ったルシルに僕はようやく肩の力を抜いて小さく笑った。
「ねぇエディ」
「なぁに?」
「………実を使ったら、またこんな風に話に来てもいい?」
「ルシル?」
「使うぞって決めていたけど、やっぱり色々ドキドキしたり、時々不安になったりする。そして実を使った後にどうなるのかなって思うとちょっと怖いなって思うんだ。今年は実を使わないって決めたエディに話を聞いてほしいっていうのはどうなのかなって思うんだけど、どんな風になるとか、どうなっていくとか、エディが聞きたいなって思う事があれば答えるから、だから僕の話も時々聞いてくれるかな」
ルシルの言葉に僕はコクコクと頷いた。
「勿論だよ。ルシル。僕も、ちょっと知りたいなって思っていたよ。話す事でルシルの不安が少しでも減るなら嬉しいよ。でも」
「でも?」
「えっとマルリカの実の使い方は、アルに聞く事になっているからそれは言わないで?」
その瞬間ルシルは吹き出すように笑って「了解」って言った。
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さすが兄様。
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