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34 一番大事
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再びダリウス叔父様から連絡が来た。七の月になったら麦踏みをしましょうっていうのを実行したらしい。本来は秋播きの麦に耐寒力を上げて分げつを促進する為に行う作業なんだけど、シェルバーネの場合は昼と夜の温度差が大きい事と、砂の上という事で、根付きの為にやってみようっていう事になったんだ。
過去二回は一般的な春播きと同じように麦踏みはしなかったんだよね。だから今回麦踏みが初めてだっていう人も居て、せっかく育ってきた苗を踏みつけてしまうなんて! ってものすごく反対をされたとか。うん、そうだよね。僕の始めはこんなに踏んじゃうの? って思ったもの。ちなみにフィンレーは二期作の両方とも麦踏みをするんだ。
まぁ、色々あったけどとにかくやってみようって麦踏みをして、四、五日でしっかりと復活してきた麦を見て涙を流している人もいたとか。
シャマル様も立ち会いたかったらしいけど、何だか調子が悪いらしくて叔父様も心配されていたよ。マリーに聞いたら「つわりかもしれませんね」って。ううん、よく分からないけど何だか色々あるんだね。
でもとりあえず麦はしっかりと根付いたみたいだし、これからの季節はシェルバーネは暑くなるし、夜は冷えて温度差が激しくなるけれど、何とか夏を超えて収穫までいってほしい。分げつがしっかり出来ていれば今度は丈が伸びてくると思うんだよ。
気が早いって言われちゃうかもしれないけれど、この麦が収穫出来たら、今度はリュミエール領と同じように収穫をした小麦の要らない部分を畑に混ぜて肥料として入れて休ませて、違う畑にもう一度苗植えをする。そして大丈夫だったらまた肥料を入れて休ませて、最初の畑に直播きだ。
でも人の畑ばかりを気にしてもいられない。試験場の畑から魔力回復のポーションに使われる薬草を下ろす事が決まった。味を良くする為に僕が繰り返し品種改良をしたものだ。味だけでなくなぜか効果も高くなったけど。
とりあえずこれに関してはまだしばらくの間は領外への持ち出しは禁止にする。そしてこの持ち出し不可という事が上手くいけば、今年中には白いイチゴを領民が扱えるようにするんだ。
「頑張らないとね」
書簡を前にそう言っていると、後ろから「ほどほどにね」っていう声がかかった。
「アル! いつの間に帰ってきていたんですか? え? もうそんな時間?」
おかしいな。お昼休みに温室の手入れをして、ついでに試験場の状態を確認して、書類に目を通して、ミッチェル君に「今日はもう終わり」って言われて屋敷に帰されたら書簡が来ていてそれを見て……あれれ?
「エディ、仕事が好きなのはいいけど、のめり込んでしまってはいけないよ。まぁ、今日はまだ夕食には少し早い時間だけどね」
それを聞いて僕はホッとして「お帰りなさい」って言いながら触れるだけの口づけをした。これは、えっと、毎日の約束なんだよ。ちゃんとお帰りなさいっていう時は出来るだけそうしようって。
「ただいま、エディ。またダリウス叔父様から書簡が来ていたんだって?」
「はい。麦踏みが終わって、しっかり根付いた事が確認できたみたいです。後は水の量と、気温差の状況ですね。まぁ麦は元々寒さには強いですから」
「そうだね、雪の下から芽吹くからね。もっともフィンレーは力技で雪を融かして種まきをするけど」
「ふふふ、そうですね。グランディス様の恵みに感謝です。とりあえずはこれでまたしばらく様子を見る感じです。出来れば収穫の前に麦畑を見に行きたいです」
僕がそう言うと兄様はちょっとだけ困ったように笑ってから「父上と相談だね」と言った。
「はい。でもやっぱりちょっとだけでも見たいんです。砂漠の中に作った砂の畑で揺れる青緑の麦を」
「…………マルリカ関連が大きな問題が起きなければ、だね」
「はい。シャマル様にもおめでとうが言いたいし。お話しも聞きたいなって」
「エディ?」
兄様がびっくりしたように僕を見た。
「あ、えっと、マルリカの実を使った人が近くにいないから。ちょっとだけ話を聞きたかったんです。それだけです。、すみません」
「謝る事はないよ。そうだね、確かにそういう話を聞けるのは貴重だね。ただ」
「ただ?」
「……何でもないよ。割合はっきりとお話しされる方だから、個人差というものもあるだろうし、エディがかえって不安になってしまうような事がないといいなと思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
うん確かにそうかもしれないな。そうしたらやっぱりルシルが使ったら、こっそり聞く方がいいのかな。
「以前話をした通り、どうするのかは一緒に考えよう。それは忘れないでエディ」
「はい」
「エディが一番っていうのもね」
「はい」
ううう、照れる。でも嬉しいって思うよ。
「僕も、アルが一番です」
そう言って笑ったら兄様は一瞬だけ間をおいて「夕食にしようか」って言った。
夕食には今日のお昼に収穫をしたマンゴーが出てきた。すごく甘くて美味しかった。
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過去二回は一般的な春播きと同じように麦踏みはしなかったんだよね。だから今回麦踏みが初めてだっていう人も居て、せっかく育ってきた苗を踏みつけてしまうなんて! ってものすごく反対をされたとか。うん、そうだよね。僕の始めはこんなに踏んじゃうの? って思ったもの。ちなみにフィンレーは二期作の両方とも麦踏みをするんだ。
まぁ、色々あったけどとにかくやってみようって麦踏みをして、四、五日でしっかりと復活してきた麦を見て涙を流している人もいたとか。
シャマル様も立ち会いたかったらしいけど、何だか調子が悪いらしくて叔父様も心配されていたよ。マリーに聞いたら「つわりかもしれませんね」って。ううん、よく分からないけど何だか色々あるんだね。
でもとりあえず麦はしっかりと根付いたみたいだし、これからの季節はシェルバーネは暑くなるし、夜は冷えて温度差が激しくなるけれど、何とか夏を超えて収穫までいってほしい。分げつがしっかり出来ていれば今度は丈が伸びてくると思うんだよ。
気が早いって言われちゃうかもしれないけれど、この麦が収穫出来たら、今度はリュミエール領と同じように収穫をした小麦の要らない部分を畑に混ぜて肥料として入れて休ませて、違う畑にもう一度苗植えをする。そして大丈夫だったらまた肥料を入れて休ませて、最初の畑に直播きだ。
でも人の畑ばかりを気にしてもいられない。試験場の畑から魔力回復のポーションに使われる薬草を下ろす事が決まった。味を良くする為に僕が繰り返し品種改良をしたものだ。味だけでなくなぜか効果も高くなったけど。
とりあえずこれに関してはまだしばらくの間は領外への持ち出しは禁止にする。そしてこの持ち出し不可という事が上手くいけば、今年中には白いイチゴを領民が扱えるようにするんだ。
「頑張らないとね」
書簡を前にそう言っていると、後ろから「ほどほどにね」っていう声がかかった。
「アル! いつの間に帰ってきていたんですか? え? もうそんな時間?」
おかしいな。お昼休みに温室の手入れをして、ついでに試験場の状態を確認して、書類に目を通して、ミッチェル君に「今日はもう終わり」って言われて屋敷に帰されたら書簡が来ていてそれを見て……あれれ?
「エディ、仕事が好きなのはいいけど、のめり込んでしまってはいけないよ。まぁ、今日はまだ夕食には少し早い時間だけどね」
それを聞いて僕はホッとして「お帰りなさい」って言いながら触れるだけの口づけをした。これは、えっと、毎日の約束なんだよ。ちゃんとお帰りなさいっていう時は出来るだけそうしようって。
「ただいま、エディ。またダリウス叔父様から書簡が来ていたんだって?」
「はい。麦踏みが終わって、しっかり根付いた事が確認できたみたいです。後は水の量と、気温差の状況ですね。まぁ麦は元々寒さには強いですから」
「そうだね、雪の下から芽吹くからね。もっともフィンレーは力技で雪を融かして種まきをするけど」
「ふふふ、そうですね。グランディス様の恵みに感謝です。とりあえずはこれでまたしばらく様子を見る感じです。出来れば収穫の前に麦畑を見に行きたいです」
僕がそう言うと兄様はちょっとだけ困ったように笑ってから「父上と相談だね」と言った。
「はい。でもやっぱりちょっとだけでも見たいんです。砂漠の中に作った砂の畑で揺れる青緑の麦を」
「…………マルリカ関連が大きな問題が起きなければ、だね」
「はい。シャマル様にもおめでとうが言いたいし。お話しも聞きたいなって」
「エディ?」
兄様がびっくりしたように僕を見た。
「あ、えっと、マルリカの実を使った人が近くにいないから。ちょっとだけ話を聞きたかったんです。それだけです。、すみません」
「謝る事はないよ。そうだね、確かにそういう話を聞けるのは貴重だね。ただ」
「ただ?」
「……何でもないよ。割合はっきりとお話しされる方だから、個人差というものもあるだろうし、エディがかえって不安になってしまうような事がないといいなと思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
うん確かにそうかもしれないな。そうしたらやっぱりルシルが使ったら、こっそり聞く方がいいのかな。
「以前話をした通り、どうするのかは一緒に考えよう。それは忘れないでエディ」
「はい」
「エディが一番っていうのもね」
「はい」
ううう、照れる。でも嬉しいって思うよ。
「僕も、アルが一番です」
そう言って笑ったら兄様は一瞬だけ間をおいて「夕食にしようか」って言った。
夕食には今日のお昼に収穫をしたマンゴーが出てきた。すごく甘くて美味しかった。
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