34 / 109
32 三度目の挑戦
しおりを挟む
五の月の終わり、三度目の挑戦になる麦の苗をエルグランド家に渡した。
本当はシェルバーネに行って一緒に植えたかったんだけど、マルリカの実の事件の事もあるし、父様からも兄様からも、そしてエルグランド家からも了承が得られなかった。
うん。そうだよね。万が一何かあったら困るものね。
シェルバーネの砂漠に初めて麦を植えたのは一昨年の二の月の始め。でも四の月には枯れていた。
改良をして二度目の挑戦は去年の三の月。でも六の月には全て枯れてしまった。
またまた強化と改良を重ねて、沢山お祈りもして今回が三度目の挑戦だ。
ちなみに僕はまだ一度もシェルバーネに行った事はない。
「今度こそ根付いてくれるといいなぁ。そうしたら砂漠に揺れる青々とした麦畑を見に行くんだ」
温室の中でシェルバーネの砂漠の砂の上に育った麦を見て泣いていたシャマル様。今度こそ、それを本当のシェルバーネの砂漠で見せたいんだ。
「きっと綺麗だろうな……」
百年以上何も育たなかった死の砂漠。未だにじわじわと広がっていくそれに打ち勝つのは難しいかもしれない。それでも諦めずにいればきっと願いは叶うと思うから。
そんな風に思いながら、六の月に入って少しした頃、エルグランド家に渡した麦の苗は無事に砂漠の畑に植えられたという知らせが届いてホッとした。ホッとしたんだけど、ビックリした。だって、その知らせは魔道具の書簡でとどいたんだけど、以前売ってほしいと言われてお譲りをしたビデオカメラで撮ったのだろう映像が、以前ダリウス叔父様が投影されていた魔道具で映し出されていたんだ。
砂の畑に綺麗に植えられた麦の苗の映像。
砂漠の砂は見た事があるけれど、山みたいに続く砂漠を見るのは初めてだった。その白くてキラキラと日の光で輝く砂漠に作られた畑に植えられているまだまだ頼りない麦の苗。
叔父様の声が、こんな風に綺麗に植えられたよって言っている。
僕はこれが砂漠の畑なんだって、ドキドキして見ていたんだけど、隣で見ていた兄様は畑よりも魔道具に釘付けだった。書簡を兄様が何度も見返していた。これはきっと作ろうと思っているね。
フィンレーの王都でのお仕事と、グリーンベリーのお仕事もあるから中々魔道具を考える様な時間が取れないんだけど、元々魔道具に興味をもっていたんだ。だから自分が作ったビデオカメラがこんな風に応用されて、ものすごく刺激されたって言う感じかな。きっと兄様はこれを解析して、もっとどうにか出来ないかっていうのをどこかにねじ込んでくる。そんな気がした。
でも確かにこれなら映像が見られて、声もついてすごく分かりやすいし、初めて見る人はビックリするよね。
だけど、ビックリする事はそれだけじゃなかったんだ。ダリウス叔父様の声と麦畑の映像だけじゃなくて、書簡には途中からシャマル様が映っていた。
多分ダリウス叔父様が撮っているんだろうシャマル様は「ちゃんと映っているのか?」って言ってからぺこりと頭を下げた。
『エドワード様、三度目の麦が植え終わりました。本当にありがとうございます。今はまだ、小さな苗ですが、この次にはしっかり根付いた畑をお見せしたいと思います。今度こそ。そう思っています。それからもう一つお知らせがあります。色々と考えて、マルリカの実を使いました。まだ安定期にはなりませんが、ここに私とダリウスの命が宿っています。こちらも大事に、育てていきたいと思います。順調にいけば、来年の一月にはお二人のいとこが生まれます。どうぞよろしく。ではまた』
僕と兄様は隣国にいとこが生まれる事よりも、シャマル様がお母さんになるっていう方が衝撃的だった。
うん。まぁ、一番初めの自己紹介の時に書類上ではダリウス叔父様の夫って言っていたものね。それにここでダリウス叔父様が赤ちゃんを産むって聞いたらもっとびっくりだったよね。
うんうん。そうだよ。でも、そうか……。マルリカの実を使ったんだって思った。
二人は赤ちゃんが欲しいって思ったんだね。
その後、見返した書簡の映像で僕はついついシャマル様のお腹を見てしまって、兄様に笑われてしまった。
-------------
シャマル様、母に……
本当はシェルバーネに行って一緒に植えたかったんだけど、マルリカの実の事件の事もあるし、父様からも兄様からも、そしてエルグランド家からも了承が得られなかった。
うん。そうだよね。万が一何かあったら困るものね。
シェルバーネの砂漠に初めて麦を植えたのは一昨年の二の月の始め。でも四の月には枯れていた。
改良をして二度目の挑戦は去年の三の月。でも六の月には全て枯れてしまった。
またまた強化と改良を重ねて、沢山お祈りもして今回が三度目の挑戦だ。
ちなみに僕はまだ一度もシェルバーネに行った事はない。
「今度こそ根付いてくれるといいなぁ。そうしたら砂漠に揺れる青々とした麦畑を見に行くんだ」
温室の中でシェルバーネの砂漠の砂の上に育った麦を見て泣いていたシャマル様。今度こそ、それを本当のシェルバーネの砂漠で見せたいんだ。
「きっと綺麗だろうな……」
百年以上何も育たなかった死の砂漠。未だにじわじわと広がっていくそれに打ち勝つのは難しいかもしれない。それでも諦めずにいればきっと願いは叶うと思うから。
そんな風に思いながら、六の月に入って少しした頃、エルグランド家に渡した麦の苗は無事に砂漠の畑に植えられたという知らせが届いてホッとした。ホッとしたんだけど、ビックリした。だって、その知らせは魔道具の書簡でとどいたんだけど、以前売ってほしいと言われてお譲りをしたビデオカメラで撮ったのだろう映像が、以前ダリウス叔父様が投影されていた魔道具で映し出されていたんだ。
砂の畑に綺麗に植えられた麦の苗の映像。
砂漠の砂は見た事があるけれど、山みたいに続く砂漠を見るのは初めてだった。その白くてキラキラと日の光で輝く砂漠に作られた畑に植えられているまだまだ頼りない麦の苗。
叔父様の声が、こんな風に綺麗に植えられたよって言っている。
僕はこれが砂漠の畑なんだって、ドキドキして見ていたんだけど、隣で見ていた兄様は畑よりも魔道具に釘付けだった。書簡を兄様が何度も見返していた。これはきっと作ろうと思っているね。
フィンレーの王都でのお仕事と、グリーンベリーのお仕事もあるから中々魔道具を考える様な時間が取れないんだけど、元々魔道具に興味をもっていたんだ。だから自分が作ったビデオカメラがこんな風に応用されて、ものすごく刺激されたって言う感じかな。きっと兄様はこれを解析して、もっとどうにか出来ないかっていうのをどこかにねじ込んでくる。そんな気がした。
でも確かにこれなら映像が見られて、声もついてすごく分かりやすいし、初めて見る人はビックリするよね。
だけど、ビックリする事はそれだけじゃなかったんだ。ダリウス叔父様の声と麦畑の映像だけじゃなくて、書簡には途中からシャマル様が映っていた。
多分ダリウス叔父様が撮っているんだろうシャマル様は「ちゃんと映っているのか?」って言ってからぺこりと頭を下げた。
『エドワード様、三度目の麦が植え終わりました。本当にありがとうございます。今はまだ、小さな苗ですが、この次にはしっかり根付いた畑をお見せしたいと思います。今度こそ。そう思っています。それからもう一つお知らせがあります。色々と考えて、マルリカの実を使いました。まだ安定期にはなりませんが、ここに私とダリウスの命が宿っています。こちらも大事に、育てていきたいと思います。順調にいけば、来年の一月にはお二人のいとこが生まれます。どうぞよろしく。ではまた』
僕と兄様は隣国にいとこが生まれる事よりも、シャマル様がお母さんになるっていう方が衝撃的だった。
うん。まぁ、一番初めの自己紹介の時に書類上ではダリウス叔父様の夫って言っていたものね。それにここでダリウス叔父様が赤ちゃんを産むって聞いたらもっとびっくりだったよね。
うんうん。そうだよ。でも、そうか……。マルリカの実を使ったんだって思った。
二人は赤ちゃんが欲しいって思ったんだね。
その後、見返した書簡の映像で僕はついついシャマル様のお腹を見てしまって、兄様に笑われてしまった。
-------------
シャマル様、母に……
316
お気に入りに追加
3,042
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください
ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。
※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる