悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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29 僕の気持ち

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「あのさ、ルシルは……怖くないの?」
「エディ?」

 僕の小さな言葉にルシルはびっくりしたような表情を浮かべた。

「こ……こんな事言ったら、どうなのかなって思ったりしたんだけど」
「うん」
「僕は……子供が出来て、産むっていうのがよく分からなくて。以前アルから子供が欲しいか聞かれたんだけど、怖いって言っちゃった。でもその後にちゃんと話をしたけどね」
「そうなんだ。けどアルフレッド様ときちんと話が出来たなら良かった」

 そう言われて、一つ息を吐いて、僕は再び口を開いた。

「うん。一緒に考えようって言われたよ。でも一番は僕だとも言われた」
「そうなんだ。どこも同じなのかな。一番はっていうのは僕も言われたよ。でもちゃんとどうしたいのか聞いてくれて、一緒に考えようって言ってくれたなら良かったね」
「…………うん。でもね、それでもやっぱり考えてしまう時があるよ。自分の中に命が宿るっていうのは、きっと嬉しい事なんだと思うんだ。だけど、そう思うそばから怖くなる」

 言いながら自分の手をギュッと掴んでいた僕の手に、ルシルの手が重なった。

「……エディ、それは多分、みんな怖いと思うよ」
「そう、かな……」
「うん。きっとね、女の人だって、最初は怖いって思うと思う。赤ちゃんが出来て嬉しいっていう気持ちと同じくらい、ちゃんと産めるのかなとか、苦しいのかなとかって考えたりするんじゃないのかな」
「女の人も……?」
「うん。多分ね。僕は、その、だいぶ『記憶』も薄くはなってきているけれど、前世は女性だったからさ。だから出産って言う事に対してあんまり何かを思う事もなかったんだけどさ。でもそれでもマルリカの実を使ってほんとに子供が出来るのかなとか、産めるのかなって考えたりするよ」

 ああ、そうか。そう言えばそう言っていた。うん。でも使うって決めているルシルでもそうなんだ。

「実を使うって決めているルシルでも、そんな事を考えるんだ……」
「考えるよ。大体さ、あの実がどうして赤ちゃんになるのかがよく分からないじゃない?」
「た、たしかに」

 魔力がある実って言われても、それが子供に繋がるっていうのがピンとこないんだ。だって普通は魔法で子供を作るなんて事は出来ないもの。

「僕はさ、『記憶』の中のゲームに出てきて「ほんとにあったんだ!」みたいに受け入れちゃったけど、シェルバーネの人はどうやってそれを知って、使ったのかなってちょっと思ったりもしたよ」
「うん」

 僕が頷くと、ルシルは握っていた僕の手をもう一度ギュッとして、言葉を繋げた。
 
「だからさ、エディ。使わなくてもいいんだよ? もちろん使ってもいいんだけど」
「え……」

 突然使わなくてもいいなんて言われて、僕は俯き加減だった顔を勢いよく上げてしまった。目の前には真っ直ぐに僕を見ているルシルがいる。

「アルフレッド様は一緒に考えて行こうって言っているんでしょう? だからそれでいいんだよ。二人で考えて、使ってみようって二人が思った時に試してみたらいい。やっぱり怖いって思うなら使わないっていう選択をしてもいい。だって無理をする事じゃないもの。それにさっきも言ったけど、怖いのは多分みんなそうだと思うよ。きっと今までマルリカの実があったシェルバーネの人だって同じだと思う。ちゃんと出来るかな、育ってくれるかな、無事に生まれてきてくれるかな。でもさ、それは実を使う使わないに限らず、子供が欲しいと思って産む人は皆考えると思うよ。だから生まれてきてくれた子供を慈しむんだよ。少なくとも僕はそうでありたいと思う」

 ルシルの言葉を聞きながら僕は目の縁がじんわりと熱くなってくるのを感じていた。

「うん。ごめんね、ルシル」
「謝らないで、エディ。悪い事なんて一つもないよ。エディが僕に自分の気持ちを話してくれて嬉しいよ。それにさ、エディが不安に感じた事はきっと沢山の人が思う事だと思うから。だからエディはその人たちの気持ちに寄り添って考えられたって事だよ。でも決めるのは自分たちだから。だからちゃんとエディが納得いくまでアルフレッド様と話をしてね。アルフレッド様は何度でも、きちんとエディの話を聞いて下さると思うよ。そうしてきっと「大丈夫」って言ってくれるんじゃないかな」
「うん。僕もそう思っている」
「ふふふ、良かった。きっとね、同性婚をした人は皆同じような気持ちになっていると思うよ。多分そのうちにトーマスがやって来るんじゃないかな」


 ルシルの予想通りに、四の月の半ば頃トーマス君がやって来た。


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次回可愛い枠再びwww
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