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お気に入り888記念『ニ十歳の誕生日』

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「ニ十歳の誕生日おめでとう。エディ」

 朝、目が覚めた途端、大好きな笑みを浮かべてそう言われて、僕は「ありがとうございます」って言いながら兄様に抱きついた。
 
「ふふふ、本当なら一日エディと一緒に居たかったけれど、さすがに平日の休みは許されなったね」

 兄様が不本意そうにそう言ったので、僕はしがみついたまま顔を上げた。
 そう。ルフェリットは光、火、水、風、土、月の六日で月の日が休日になっているんだ。一カ月は5週間で、一年は十二ヶ月。だから日にちの曜日は固定されていて、兄様は六日だからいつも月の曜日で休日。僕は十一日だからいつも土の曜日になる。

「仕方がないです。アルみたいにお誕生日が休日だったら良かったんだけど。それに僕も熱を出したりしてお休みが続いたから今日は仕事に出かけます」
「ああ。そうだね。でもなるべく早く帰って来よう」
「はい。僕もなるべく早く帰ります」

 僕が答えると兄様はもう一度笑って、そっと口づけてきた。

「約束だ」
「はい」
「王都でクリのケーキを予約している。新作だそうだ」
「わぁ、楽しみです。それを楽しみに頑張ります」

 僕がそう言うと兄様は「何だか嬉しいような、ちょっと複雑な気持ちだな」って言いながらもう一度、今度はさっきよりも深い口づけを落として「キリがない」って笑いながらベッドから起き上がった。


 ◇ ◇ ◇


「あれ? エディ。今日は誕生日じゃなかった?」

 執務室に入った途端ミッチェル君にそう言われて僕は「うん」と返事をした。

「ああ、ええっとお誕生日おめでとう。てっきり今日は休みだと思っていたよ」
「ええ? 今日は土の日だもの。お休みは明日でしょう? それに熱を出したりして休んだからね。あ、えっと、ありがとう」
「そんなの気にしなくて大丈夫だよ。ちゃんと仕事の予定は組んでいるから。でもよくアルフレッド様が許したね」
「許すも許さないも、アルも王都の方で仕事だよ。でもお互いになるべく早く帰るって約束したよ」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、まぁ、二人がそれでいいなら。そうしたら来週にしようと思っていた九の月の帳簿の確認をお願いしちゃおうかな」

 ミッチェル君はそう言って分厚い書類の束を僕の机の方に置いた。

「分かった。九の月は何か困るような事はなかった?」
「急ぎの案件はなかったかなぁ。一応来年の予算に関係しそうな所は分かるようにしてある。確認しながら、やっぱり話し合いを設けた方が良ければ、ブライアンの方に回してどこまでを集めるかも相談して決めてほしい」
「分かった。ブライアンの方は?」
「今日の所は特にありません。来週中に来月の視察場所を決定して予定を立てる感じですね。一応候補はピックアップ済みです。それと部署毎から上がってきているものもまとめました。急ぎの件はすでに対応済みですから、対応の確認だけしておいてください」
「了解です」

 僕は早く終わらせるぞと気合を入れて自分の椅子に座った。それを見て二人がやれやれと言ったような顔をする。

「急ぎはないんだから休めば良かったのに」
「うん。でも休んでもアルはいないし、ダラダラするよりも仕事を進めた方がいいじゃない?」
「エディらしいね。そんなエディにプレゼント。でもアルフレッド様からのプレゼントよりも後に開けてね」
「私も。こちらを。ミッチェルと同じ対応でお願いします」
「あ、ありがとう。えっと、開くのはそうするね」

 僕はどうして兄様のプレゼントより後なのかよく分からなかったんだけど、二人が同じことを言うんだからそうしないといけないんだなって思った。

 ミッチェル君の経理関連のまとめはいつ見ても完璧だ。本当にすごいなって思う。そしてブライアン君の事務処理能力もすごいんだよ。幾つもの案件があるのにきちんとまとめて、しかも急ぎのものは別枠にして僕が決めなくて大丈夫な事はその場所に指示を出しておいてくれるんだ。本当に良い人達が来てくれてグリーンベリーは良かったな。

 そんな事を考えながら確認を終えて、僕は追い立てられるように定時に執務室を出された。

「エディの誕生日がさ、休前日で良かったよ」
「はぇ?」
「ミッチェル。ではまた来週。良いお誕生日を」
「あ、うん。二人ともありがとう」

 そうして僕は執務室の奥の部屋にある転移陣から屋敷へと戻った。


 ◇ ◇ ◇


「エディ、改めてニ十歳の誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」

 グラスを少しだけ上げて二人で乾杯をした。
 実は、僕達はどちらかの誕生日の度にあのカクテル「夢のはじまり」を飲んでいるんだ。
 兄様はそのうち何か新しいカクテルを作りたいみたいだったんだけど中々思うようにいかなかったみたい。

 お料理はシェフ渾身のって言う感じのコース料理が出て来てびっくりしたよ。
 そうしてデザートのクリのケーキの後に出てきたのは……

「え……」
「ふふふ、驚いた? やっと納得いくものが出来てね。シェフにはかなり無理を言ってしまった。ベースはウォッカという、かなり度数の高いお酒なんだけど、そこは少し加減をしてもらった。後はメロンのリキュールとかモモとかライムとか色々だそうだ。甘めに作ってもらったよ。エディの色だ」

 僕の前に置かれたカクテルグラスには確かにペリドット色に輝いたお酒が入っている。
 それはキラキラとしていて、とても綺麗で、何だか嬉しくなった。

「凄いです。ありがとうございます。えへへ。このカクテルは何ていう名前なのですか?」
「それはエディがつけるんだよ」
「ええ!」
「私も「夢のはじまり」を名付けたからね。エディにも名付けてほしいなと思ったんだ」

 兄様が楽しそうにそう言うので僕はそっとカクテルグラスを手に取って眺めた。

「メロンとモモとライムと……」
「エディ、まずは飲んでみようか」
「はい」

 最初のカクテルみたいに少しだけグラスを上げて僕たちは新しいカクテルを口にした。
 とても強いお酒が入っているって聞いたから大丈夫かなって思ったけれど、口に入れたそれは驚くほど飲みやすくて、甘くて……

「美味しい……」

 思わず零れ落ちた言葉に兄様が嬉しそうに笑った。

「それなら良かった。でも飲みやすくても飲み過ぎてはいけないよ。これ一杯だけにしようね」
「はい。アル、素敵なプレゼントをありがとうございます」
「ふふふ、プレゼントはこっちもね」

 渡された箱を開けると綺麗な懐中時計が入っていた。

「わぁ! すごく素敵です! あ、ペリドットとアクアマリン」

 真上と、針の中央に嵌められているのは僕達の色の石だ。

「ありがとうございます。大事にします」
「うん。さて、じゃあ、そろそろ部屋に戻ろうか」
「はい。あ、待って下さい」

 そう言って僕は残りのカクテルを飲み干してしまった。

「エ、エディ⁉ 大丈夫?」
「はい。だってせっかくアルのプレゼントなのに残したらもったいないです。それにすごく美味しかったから。ふふふ、名前、何にしようかな」
 

 その後、僕の記憶はどんどん曖昧になっていく。お酒を飲んでいるからやめなさいと言われたのにお風呂に入って、湯舟の中で寝た……らしい。

 翌朝…………

「エディはお酒に気を付けないといけないね」
「はい」
「……でも可愛かったから今回は許してあげる」
「はぇ……」
「他の人と一緒には飲んだら駄目だよ」

 僕は一体、何をしてしまったのかな? お風呂の中で寝ちゃっただけじゃないの?
 ニッコリ笑った兄様の言葉に僕は勿論「はい」という返事しか出来なかった。



 僕の色のカクテルは「夢のつづき」になった。

fin


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さて、何をしたのかな(ΦωΦ)ふふふ・・・・
ご想像にお任せだ!
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