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28 ルシルの決意

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 マルリカの実の販売が始まってから初めて迎えた休日。ルシルがグリーンベリーを訪ねてきた。

「何だかエディの所に来るのはいつも急でごめんね」
「ううん。今日はお休みの日だから大丈夫。リュミエール領はどう?」
「ああ、お布令の後はやっぱりちょっと大変だったかな。でもまぁ、思っていたよりは落ち着いてきたような気がする。色々とあった領だからね。領民もかなりの人数が流出したままだし、砂漠になってしまった所全てを麦畑に出来るわけではないからね。それに砂漠の上に家を建てるのも難しいし。その辺りはやっぱり時間はかかるなって思っているよ。マルリカの実を受けにきたのもまだ数組だ。皆どういうものなのかが分からなくて手を出せないんだろうね」
「うん。そうだね。グリーンベリーも同じような感じだよ」

 僕たちはそう言って顔を見合わせてふふっと笑った。

「前に実の事を相談しに来てくれたのに、ちゃんとした事が言えずにごめんね」

 僕が思い出したようにそう言うと、ルシルは「ううん」と首を横に振った。

「マルリカの実についての貴族会議があったから事情は分かっていたよ。そういえばエディは出席していなかったみたいだけど」
「うん。アルが代わりに参加をしてくれたんだ。気を付けてはいたんだけど、僕が実を育てている事を知っている者が居たみたいでね。面倒な事になると困るからって」
「ああ、そうか。そうだよね」

 ルシルは難しい顔をしてから、話題を変えるように笑みを浮かべて再び口を開いた。

「でもさ、本当にあるんだなって感動したよ。マルリカの実ってゲームの課金アイテムだったから、画面の中では金色だったんだよ。本物を見てなんだかマンゴスティンみたいだなって思ったよ」
「マンゴスティン?」
「ああ、こちらにはない植物かな。でもそれよりは大きいし、見た目はゴツゴツでライチにも似ている感じがした」

 僕は<課金アイテム>も<マンゴスティン>も<ライチ>もよく分からなかったけど、そうなんだって思った。僕の中にあった『彼』の記憶は小説の事をほんの少しだけ覚えているって言う感じで、もうほとんど残っていないんだ。でも今重要なのはそれじゃなくて、ルシルがマルリカの実を見たという事は……

「ルシルは……もうシルヴァン様とマルリカの実を受け取りに行ったんだね」
「……あ……ううん。神殿で販売する前に領主として受け渡しの確認をして。その時に見せてもらったんだ」
「そう、なんだ……」

 ルシルの事だからてっきり一番に貰いに行ったのかなって思っていた。

「うん。実はね、ものすごく反対されている」
「ええ⁉」

 どう言う事だろう。えっとシルヴァン様は子供が欲しくないって言う事なのかな? 僕がオロオロとしているとルシルが「ハァ」と溜息をついてから言葉を続けた。

「心配なんだって。そんなわけの分からない実を使わせるのが。もうねぇ、しつこいくらい何度も何度も何度も何度も言われたよ。王室がマルリカの実の受け入れを決めたのに、第二王子だった人がその態度はどうなのって軽く喧嘩しているからまだ貰いに行っていないんだ。でも貰いに行くよ、絶対に」
「そ、そう」
「うん。シルヴィーはね、僕の事だけじゃなく、子供も迷っているんだ。元々子供は出来ない筈だったし、結婚する時もどうとでもなるって言っていたから、もしかしたら必要ないって思っているのかもしれない。でも、僕は欲しいって思っている。生まれてくる子供が決してゴタゴタに巻き込まれたりしないように気を付けていればいいって思っているよ。だってさ、絶対に可愛いと思わない? ちびっこのシルヴァン様だよ? もうさ~「かあさま」なんて言われたらほんとに何でもしてあげたくなっちゃうよ。ちなみにそう言ったら元殿下は更に不機嫌になったけどね」

 唇を尖らせてムッとした表情を浮かべるルシルに僕は少しだけ笑ってしまった。

「とりあえず、近いうちに実は受け取りに行く。でも実際に使うのはちゃんとシルヴィーが納得をしてからにするよ。だって、その、一人では出来ない事だから」
 
 ルシルはそう言って少しだけ顔を赤くした。そしてチラリと僕を見て小さく口を開く。

「えっとさ、あの……え、エディは貰った?」
「……ううん。まだ」
「……もしかして、アルフレッド様も反対を? ってこれは聞いたらいけない事だよね。それぞれの考えがあるからね。ごめんね」

頭を下げたルシルに、僕は胸の辺りをギュッと押えるようにして、奥に隠しておいた言葉をそっと吐き出した。


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デレてる元殿下
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