26 / 107
24 今年の実について
しおりを挟む
大応接室の中、緊張に包まれていたのは僕だけなのかもしれない。
テーブルの上にはあの白いイチゴが乗ったタルトと紅茶。そして集まった人たちは何だか嬉しそうにタルトを食べている。
おかしいな。今日はものすごく大事な会議で集まっている筈なのに。タルトは後にして紅茶だけにすればよかったのかな。
そんな事を考えていたら隣に座った兄様がそっと僕の背中をトントンってしてくれた。
部屋に居るのは父様と、ハワード先生と、ニールデン公爵と、そして今年はフードで顔を隠す事なくそのまま堂々といる国王陛下。
そしてシェルバーネ側は筆頭公爵家である宰相の代理としてシャマル様、宰相次官、そして大神殿の神殿長だ。ダリウス叔父様は護衛や書記官などと一緒に後ろに下がったテーブルの方にいる。
ちなみに僕と兄様はルフェリット側の書記官や多分宰相府の人達と一緒にやはり後ろのテーブルの方に座っている。居てもいいのかなって思ったけど、マルリカの実を育てた者として居るべきだと父様が言っていた。
「やはり白いイチゴは美味しいな。しかもこの紅茶もとても美味しい」
シャマル様がそう言って下さって僕はちょっと嬉しくなった。
実はね、紅茶も作ってみたんだ。お茶の木が手に入ったからどうかな~っと思って、温室で育てたらいい感じに育った。それでエリック君に紹介をしてもらった紅茶の職人さんに来てもらって、作ってもらったら何だかすごく美味しかったんだ。
以前、既存の茶葉にドライフルーツをブレンドして色々なフルーツティを作った事はあったけれど、紅茶自体から作るのは初めてだったからちょっとドキドキした。でも職人さんも良い茶葉ですって褒めてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「おや、ではこの紅茶はグリーンベリー産なのかな?」
「試してみました。喜んでいただけて嬉しいです」
僕の返事にシャマル様はニッコリ笑って、父様はちょっと顔を引きつらせて、ハワード先生はなぜか笑いを堪える様な顔をした。
「さて、ではそろそろ話し合いを始めましょう」
口を開いたのはニールデン公爵だった。
「まずはマルリカの実について、今年の収穫量ですが、先日グリーンベリー卿が収穫をして下さり、数は3126個という報告がありました。昨年はルフェリットでは使わないという事で全てをシェルバーネが買い取りをする事になりましたが、今年はルフェリットもマルリカの実について王国内に告知をする事が決定されています。ただ、王国では初めての実という事もあり、どれほどの需要があるのか分かりません。貴重な実ですので、その点を考慮しルフェリットは三分の一の実を買取りたい」
「なるほど。では約2000個がシェルバーネ。約1000個がルフェリットという事ですか?」
「はい、今年の状況を見て、次年度以降はまたご相談をさせていただきたいと思っております。シェルバーネ国としてはどのようにお考えでしたでしょうか?」
ニールデン公爵の問いにシャマル様と宰相次官の人が顔を見合わせてから、宰相次官の人が口を開いた。
「約2000個というのは我が国としても大変有り難い。端数に関しても三分の二という事でもよろしいのでしょうか。それともルフェリットではどの程度の需要があるのか分からないという事を考えると端数の126個は予備としてフィンレー卿にお預かりいただくという事にいたしますか」
ニッコリと笑った宰相次官にニールデン公爵はちらりと国王グレアムに視線を移してから「ルフェリットはそれで構いません」と答えた。
「では必要になった時にはお互いに書状を交わし、同意が得られればフィンレー卿から卸していただくという流れでよろしければ、シェルバーネは覚書に署名をさせていただきます」
「……はい、ルフェリットもそちらの条件で覚え書きに署名をいたします」
「そう致しましたら、卸値につきましてはどのようにお考えですか?」
宰相次官の問いに今度は父様が口を開いた。
「昨年と同じで。願う者が手に出来るようにと。グリーンベリー伯爵からの申し出です。」
「ありがとうございます。けれど、本当にそれでよろしいのでしょうか? グリーンベリー伯爵」
シャマル様の言葉に僕は「はい」と答えた。
「マルリカの実が3000以上も実り、こうして二国で手にする事が出来たのもグリーンベリー卿の功。本当に有難く思っています」
「過分なお言葉をいただきまして光栄です」
「ではその恩に報いるためにも、起きてしまった事に対してきちんとした事を行わねばなりませんね」
「はい。ではそちらの話に移る前に先ほど確認をいたしました割り当てと卸値の額面につきまして、覚書にご署名をお願いいたします」
ニールデン公爵がそう言うと壁際に控えてきた文官が書類を持ってハワード先生の所へやってきた。そしてハワード先生が確認をしてニールデン公爵の所へ。そして公爵が確認をすると国王陛下の元に渡り、陛下は同じように書面を確認してさらさらと署名をして、今度はシェルバーネ側へと運ばれていく。
え? きちんとした事は王城で行うんじゃなかったの? グリーンベリーでいいの?
僕が呆然とする中で、話し合いは更に進んで行く。
「そう致しましたら、事件に関する事に移りますが、グリーンベリー卿はこのまま在籍をされていてよろしいですか?」
「構わん。王国の貴族の一人として知る権利がある。ましてや伯爵は実の生産者だ」
国王陛下の一言で僕はそのまま事件の話も聞く事になった。
-------------
一旦切ります。
テーブルの上にはあの白いイチゴが乗ったタルトと紅茶。そして集まった人たちは何だか嬉しそうにタルトを食べている。
おかしいな。今日はものすごく大事な会議で集まっている筈なのに。タルトは後にして紅茶だけにすればよかったのかな。
そんな事を考えていたら隣に座った兄様がそっと僕の背中をトントンってしてくれた。
部屋に居るのは父様と、ハワード先生と、ニールデン公爵と、そして今年はフードで顔を隠す事なくそのまま堂々といる国王陛下。
そしてシェルバーネ側は筆頭公爵家である宰相の代理としてシャマル様、宰相次官、そして大神殿の神殿長だ。ダリウス叔父様は護衛や書記官などと一緒に後ろに下がったテーブルの方にいる。
ちなみに僕と兄様はルフェリット側の書記官や多分宰相府の人達と一緒にやはり後ろのテーブルの方に座っている。居てもいいのかなって思ったけど、マルリカの実を育てた者として居るべきだと父様が言っていた。
「やはり白いイチゴは美味しいな。しかもこの紅茶もとても美味しい」
シャマル様がそう言って下さって僕はちょっと嬉しくなった。
実はね、紅茶も作ってみたんだ。お茶の木が手に入ったからどうかな~っと思って、温室で育てたらいい感じに育った。それでエリック君に紹介をしてもらった紅茶の職人さんに来てもらって、作ってもらったら何だかすごく美味しかったんだ。
以前、既存の茶葉にドライフルーツをブレンドして色々なフルーツティを作った事はあったけれど、紅茶自体から作るのは初めてだったからちょっとドキドキした。でも職人さんも良い茶葉ですって褒めてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「おや、ではこの紅茶はグリーンベリー産なのかな?」
「試してみました。喜んでいただけて嬉しいです」
僕の返事にシャマル様はニッコリ笑って、父様はちょっと顔を引きつらせて、ハワード先生はなぜか笑いを堪える様な顔をした。
「さて、ではそろそろ話し合いを始めましょう」
口を開いたのはニールデン公爵だった。
「まずはマルリカの実について、今年の収穫量ですが、先日グリーンベリー卿が収穫をして下さり、数は3126個という報告がありました。昨年はルフェリットでは使わないという事で全てをシェルバーネが買い取りをする事になりましたが、今年はルフェリットもマルリカの実について王国内に告知をする事が決定されています。ただ、王国では初めての実という事もあり、どれほどの需要があるのか分かりません。貴重な実ですので、その点を考慮しルフェリットは三分の一の実を買取りたい」
「なるほど。では約2000個がシェルバーネ。約1000個がルフェリットという事ですか?」
「はい、今年の状況を見て、次年度以降はまたご相談をさせていただきたいと思っております。シェルバーネ国としてはどのようにお考えでしたでしょうか?」
ニールデン公爵の問いにシャマル様と宰相次官の人が顔を見合わせてから、宰相次官の人が口を開いた。
「約2000個というのは我が国としても大変有り難い。端数に関しても三分の二という事でもよろしいのでしょうか。それともルフェリットではどの程度の需要があるのか分からないという事を考えると端数の126個は予備としてフィンレー卿にお預かりいただくという事にいたしますか」
ニッコリと笑った宰相次官にニールデン公爵はちらりと国王グレアムに視線を移してから「ルフェリットはそれで構いません」と答えた。
「では必要になった時にはお互いに書状を交わし、同意が得られればフィンレー卿から卸していただくという流れでよろしければ、シェルバーネは覚書に署名をさせていただきます」
「……はい、ルフェリットもそちらの条件で覚え書きに署名をいたします」
「そう致しましたら、卸値につきましてはどのようにお考えですか?」
宰相次官の問いに今度は父様が口を開いた。
「昨年と同じで。願う者が手に出来るようにと。グリーンベリー伯爵からの申し出です。」
「ありがとうございます。けれど、本当にそれでよろしいのでしょうか? グリーンベリー伯爵」
シャマル様の言葉に僕は「はい」と答えた。
「マルリカの実が3000以上も実り、こうして二国で手にする事が出来たのもグリーンベリー卿の功。本当に有難く思っています」
「過分なお言葉をいただきまして光栄です」
「ではその恩に報いるためにも、起きてしまった事に対してきちんとした事を行わねばなりませんね」
「はい。ではそちらの話に移る前に先ほど確認をいたしました割り当てと卸値の額面につきまして、覚書にご署名をお願いいたします」
ニールデン公爵がそう言うと壁際に控えてきた文官が書類を持ってハワード先生の所へやってきた。そしてハワード先生が確認をしてニールデン公爵の所へ。そして公爵が確認をすると国王陛下の元に渡り、陛下は同じように書面を確認してさらさらと署名をして、今度はシェルバーネ側へと運ばれていく。
え? きちんとした事は王城で行うんじゃなかったの? グリーンベリーでいいの?
僕が呆然とする中で、話し合いは更に進んで行く。
「そう致しましたら、事件に関する事に移りますが、グリーンベリー卿はこのまま在籍をされていてよろしいですか?」
「構わん。王国の貴族の一人として知る権利がある。ましてや伯爵は実の生産者だ」
国王陛下の一言で僕はそのまま事件の話も聞く事になった。
-------------
一旦切ります。
292
お気に入りに追加
2,996
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!
ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました
。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。
令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。
そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。
ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる