悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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20 一度に全てを叶えようとしなくてもいい

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 父様の言葉に僕は「はい」と答えた。
 すると父様はまた一つ頷いて、再び話し始める。

「それも確かに一つだろうね。だが、もしもその付与が実に付けられたとしたら、どんな事が起こりうるか分かるかい?」
「どんな事が……?」
「ああ、そうだ。子供を産ませようと攫ってきて、それを買い取った者が、実を使っても子供が出来なかったら……。それに売られた者だけでなく、他の人たちも実を使うだろう。その時に子を授かる事が出来なかったとしたら」
「…………あ」

 僕は思わず小さな声を上げていた。父様はそんな僕を見て言葉を続けた。

「うん。人はね、悲しいけれど時としてとても身勝手になる時がある。望まれないような子供が生まれないようにと考えても、そうと受け取らない者もいる。マルリカの実は子を授かろうとする二人で食すのだそうだ。だが、付与の力で二人が本当に子を欲しいと思わなければ子は授からない。子を生す為に実を食べたのに何故なのか。おそらくは自分ではない片方が子を望まなかったからだと思うだろう。そしてそれを責めたり、もしかしたらお前のせいだと、実を無駄にしたと、もっとひどい事をするかもしれない」

 そうだ。確かにそうだ。二人が同じ気持ちでなければ子を授からない実を食べて、子供が出来なければ、相手が同じ気持ちでなかったからだと思うに違いない。
 父様の言う通りそれを責める人も出てくるだろうし、何としても子を産ませるためにと更にひどい事を考えるかもしれない。それに、子が欲しいと思っていても、実を使ってもしも子供が出来なかったらと、使う事を躊躇う者も出てくるだろう。どうして僕はそこまで考えられなかったんだろう。
 きっと顔色を悪くしたのだろう僕に父様は少しだけ苦笑してゆっくりと口を開いた。

「一度に全てを叶えようとしなくてもいいんだよ、エドワード」
「え?」
「狡賢い者もいるからね、出来た法の隙間をつついて来る者は必ず出る」
「……はい」
「おそらく、しばらくの間は法を掻い潜るような『いたちごっこ』になるかもしれないな。それでも少しずつ自分が信じる事に近づいていけたらいいと思っている。一歩一歩確実に、自分が何をしたかったのかさえ見失わなければ、必ずそこに辿り着くと信じていくしかないんだ。新しい事を入れるというのはそういう覚悟も必要になる」
「はい」
「それでもどうしても愚かな者が出るならば、シェルバーネで実が生らなくなってきたように、きっとあの実は消えてしまうだろう」
「父様……」
「そういう伝説にしておけばいいさ。勿論そんな事にならないようにしていくつもりだがね」

 ニッコリと笑った父様に僕はコクリと頷いた。
 そうだ。急いで考える事はないんだ。子供が欲しい人の所に実が届き、その実が希望を叶えられるように。まずはそれを祈りたい。
 そうしてルフェリットでもマルリカの実が人の中に根付いてくれればいい。
 きっと、今の僕みたいに使う事を怖いって思う人も沢山いるだろう。どうなるのか分からない実を使って子供を産むなんて考えられないって思う人もいる筈だ。
 だから少しずつ、きちんとマルリカの実が認められていくように。

「付与についてはまた改めて、必要な事があれば考えていけたらいいなって思います。まずは今回の事件が繰り返されないように。人の力で防げる事をしっかり防ぐ事から始めなければなりませんね。そして、シェルバーネの事だけではなく、ルフェリットではどんな事が起きるのかもしっかり見て行かなければいけない」
「ふふふ、そうだね。エドワードは随分と上の立場で考える力がついてきた」
「ありがとうございます。……アルも、ありがとうございました」

 僕はどこかスッキリとした気持ちで二人に頭を下げた。
 うん。人の力を信じよう。信じて、よく見て、考えて、何かが違うなって思ったらそこからまた出来る事を考えて行こう。
 顔を上げると、父様も兄様も嬉しそうに笑っていた。



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難しいけれど、一つずつ……
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