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13 やりきれないような気持ち

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 部屋に戻ってから兄様はまだ話の続きをするかと尋ねてきた。兄様が大丈夫なら聞きたいと答えると、兄様は少し苦笑して部屋の中にあるテーブルセットの椅子に腰を下ろして話の続きをしてくれた。

「側室として婚姻をした者、または妾となった者、届け出があった者の数は確かに正常化をした時よりも、昨年の三の月以降が圧倒的に多くなっていたけれど、メイソン卿とシェルバーネの役人は更に婚姻に限らず、ルフェリットからシェルバーネに向けて出た者と入った者の数を調べ、合わせてマルリカの実が売られた数も調べた。誰が買ったのかまでの把握はきちんとされていなかったが、購入に際して身分証明は求められ、一度に手に入れられる個数は三つと決まっていたそうだ。もっともその隙をつくやり方は色々とありそうだけれどね」

 兄様は一度言葉を切って、僕の顔を見てから再びゆっくりと話し出した。

「そうしている間に、今度はルフェリット側で行方不明になっている者が増えているという話が上がって来た。そこで、何か大きな組織が動いているのではないかと両国で抜き打ちの検査をしたところ、船荷の中から奴隷紋が貼られている王国の者が発見されたんだ。それが昨年の秋の終わりだ」
「奴隷紋……」
「うん。禁止魔法の一つだよ。隷属の魔法陣というものがあってね。その陣を身体に刻んで他人を隷属させるんだ。古い魔法だし、使える人も少ないと聞いていたけれど、まさかそれを札にして貼り付けて運ぶというのは父上たちも驚いていた。商品に傷を付けたくなかったんだろうね。保護をされたのは二十名。その中には行方不明の届け出が出ている者や、親や恋人に売られた者もいたらしい」
「……親や、恋人ですか?」
「ああ。魔力量の高い者ほど高く売れるそうだ。この為被害者は魔法鑑定を終えた六歳からいるらしくてね、保護をした中には7歳の子供もいたと聞いたよ。さすがにその年齢では実を使っても子を生す事は難しいらしいが……」
「そんな……」

 怖い、と思った。
 魔力欲しさに、お金欲しさに人を売り買いする事も、その中に魔力鑑定を終えたばかりの子供が含まれているという事も、何よりもそれを仕事として行っている者達が居る事も恐ろしいと思った。

「その時に捕らえたのは商品である魔力持ちを運ぶ闇商人たちで、組織の者ではなかったけれど両国とも事態を重く見て捜査を行い、組織についてはすでに付きとめたと聞いているよ。ただ人身売買の組織が一つとは限らないので他にも同じような事が行われていないか現在も調査中だ。シェルバーネでは奴隷を買った者を罰するという法を作ったと聞いた。ルフェリットでも奴隷の禁止は法で定められているけれど、人身売買に関する法はなく、それは早急に整える事になっている。もっともシェルバーネのようにすぐにというわけにはいかなかったけれどね」

 兄様は口惜し気な表情を浮かべた。王国なのだから王様がサッと決めてしまえばいいのになって思うんだけど、何か新しい事を始める時、ルフェリットは必ず会議にかけて荒れる。でも事は命のやりとりだ。それでも時間をかける意味って何なのだろう。

「エディ、また今度にしよう」

 どうやら僕の身体は震えていたらしい。向かい合わせに座っていたのに、いつの間にか隣に来て抱き寄せられて、僕はホォと息を吐いた。

「では、最後に、今まで奴隷としてシェルバーネに入った人がどれくらいいるのか、どうしているのかっていうのは分かっているのかだけ教えてもらえますか?」
「調べているけれど、中々難しいようだ。取引の帳簿のようなものが出てくればいいのだけれど、お金の受け渡しだけで終わっている事も多かったみたいだね。ただ、運んでいた船の記録を辿ると、少なくとも三の月以降毎月二度行き来がある。その度に積んでいたとすると、それだけでも三百人近くなる。それに使われていたのはその船だけではないかもしれない。もっともそれだけの人数が簡単に集められたかは疑問だし、それだけの数の行方不明者が出ていたら、もっと早くに被害届が上がっていた筈だ。一応現時点では数百名の被害者を予想して調べを進めているよ」

「アル……」
「うん?」
「三の月に……マルリカの実を手に入れたら、こ、子供が生まれるのはいつになりますか?」
「……最後の質問は終わった筈だよ?」
「でも……」
「…………三の月に実を手に入れて、子供が生まれるのは早ければ十二の月、遅くても一の月の始めだそうだ」
「じゃ、じゃあ、もう……」
「うん。子供が生まれている可能性はあるね」
「…………そんな……そ、そうしたら……」
「うまくマルリカの実を手に入れられていたら、再び子を宿している可能性はある」

 使い潰される。そんな事が本当にあるんだって思った。可能なんだって。大体去年の三の月よりも前から起きていた事なのかもしれないっていう事にもショックを受けていた。だって、国交が正常化したのはもっと前で、それまでにだって、マルリカの実は少ないにしろ全くなかったわけではないのだろう。

 そしてそれよりも何よりも、父様が懸念をしていた子供を産む使い捨てのような存在が出来てしまうかもしれない。攫われて、売られて、ずっと子供を産み続ける。生まれた子供はどうなるんだろう。魔力を持っているけれど生まれた事自体が隠されているから、上手く育ててまた子を産む道具になるのかな。

「……もう休もう」
「僕は……」
「エディ」
「僕はそんな風にする為にマルリカを育てたわけではないです」
「分かっているよ」
「……どうしたらいいんだろう。どうしたらそんな恐ろしい事を考えられなく出来るんだろう」
「エディ、落ち着いて。誰か、マリーを呼んでくれ」

 その後マリーが来てくれて、僕は眠りの魔法をかけられた。
 闇属性の魔法を持つマリーの魔法で眠りに落ちていきながら「怖がらせてごめんね」という兄様の声が聞こえた。


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