悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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22 きっともっと好きになる

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 今まではそんな事を考えてもいなかったのに、どうしてそんな風に思ったのか僕にも分からなかった。
 でも何かを言えば言うほど、自分の頭の中がグチャグチャになって、何だか兄様との子供なんて欲しくないって言っているみたいに思えて、今度はそんな風に思わせたら嫌だという気持ちが溢れ出してきて、涙が止まらなくなってしまう。

「エディ、大丈夫だよ。泣かないで。今は子供の事を考えるのは止めよう」
「でも僕は」
「大丈夫。私がエディを愛している事も、エディが私の事を愛してくれている事も変わらないよ。分からない事を怖いと思うのは当たり前の事だ。ルシルとエディは違う。私はちゃんと分かっている。子供の事は不用意に聞くべき事ではなかったね。いずれ、また一緒に相談をしよう。だからエディ、泣き止んで?」

 トントンと背中を叩く手にあやされるようにしながら、目元や額、そして頬に口づけが落とされて、僕はまだ涙の残る目で兄様の顔を見つめて、ゆっくりと口を開いた。

「……アルは、もしも子供が授かる事が出来るなら、ほしいですか?」

 途端に兄様の顔が困ったように歪んだ。

「エディ、もうその話は」
「教えてほしい。もしも、子供が出来るなら欲しい気持ちはある?」
「…………そうだねぇ、エディとの子供だったら可愛いだろうなとは思うよ。エディに似てくれたら幸せだなとも考えたりはしたかな」

 その答えに僕はびっくりしてしまった。

「ええ? 僕に似る? アルに似た方がカッコいいですよ」

 うん。絶対に兄様に似た方がカッコいいよ。僕が知らない小さな兄様だって、きっとカッコよくて可愛いかったと思うんだ。

「ふふふ、そうかな。でも絶対に小さいエディと大きいエディが一緒に話していたら、見ているだけで皆が幸せになれそうだな」
「小さい僕と大きな僕……」

 いつの間にか涙は止まっていた。

「エディ。子供の事は正直に言えば、なるようになればいいと思っていたんだ。私にとっての一番はエディだから。それは絶対に変わる事がないから。今日聞いたのも子供が欲しくて聞いたんじゃないんだ。何となくエディが色々と考えているんじゃないかなって思ったから、一度どう思っているのか聞いてみようって。それだけなんだよ。エディは自分が育てた実を使ってみたいのかなって。思ってもいないような事件が起きて、色々と悩んでいたみたいだし、実の事や、子供を作るっていう事でエディの負担になったりしていなければいいなって思っただけなんだ。だけどかえって不安にさせてしまったね」

 そう言いながら兄様は僕の髪や、泣いてしまった目元に再び優しい口づけをいくつも落とした。

「でもね、エディ。これだけは言わせて? もしも私たちの子供が出来たら、エディはきっと誰よりも可愛がると思うよ。ウィルとハリーの時も二人をとても可愛がっていて、私は少しだけ嫉妬していたような気がする」
「ええ⁉」

 信じられないような言葉に顔を上げると、兄様は笑いながら「驚いた?」って言った。

「驚きました」
「あの頃は双子の所に通い詰めていただろう? それを見ると何だか胸の辺りがチクチクするような気がしたんだ。後からもしかしてって思って、自分の狭量さに少し落ち込んだ事があったんだよ。まぁ、他にも色々ね……」
「…………そんな事」
「だからね、子供が出来てエディが子供ばかりを可愛がっていたら、また嫉妬してしまうかもしれないな。子供とエディを取り合ったらどうしよう」

 僕の顔を覗き込んでそう言う兄様の空色の瞳は、言葉とは裏腹にとても優しくて、悪戯っぽくも見えて、僕は思わず笑い出してしまった。

「ふふふ、それは困りますね」
「ああ、困るな」
「でもきっと、アルは僕にしてくれたみたいに絵本を読んでくれたり、魔法や剣の稽古を見せてくれたり、色々なお菓子も教えてくれると思います。そうしたら僕は子供と並んで一緒にそれを見たりして……きっと、もっともっとアルの事が好きになっちゃいますね」

 そう言って、僕は一度言葉を切って、再び口を開いた。

「ありがとうございます、アル。子供の事は、今はあんまり考えられないけれど、子供は授かりものだとお祖父様が以前仰っていらしたように、そんな風に考えられたらいいなって思います。あと、自分でも考えていたわけじゃない事まで口に出てしまってすみません。でも怖いと思う中にはそれも入っていたのかなって分かって良かったです」
「うん。私もエディが思う怖い気持ちが分かって良かった」
「はい……えっと、アル」
「うん?」
「いつか、さっき話をしていたような日が来るのもいいなって思いました」
「ああ、そうだね。私もそんな気持ちだ。とにかくエディの事が好きだと気付いてから十一年経ってようやく手に入れたんだから、もう少し、私だけのエディでいてほしいな」

 ニッコリと笑った顔で、兄様はチュッと音を立てて、唇に口づけてきた。

「ということで、今夜はとびきり仲良くしてもいいかな」
「……アルの、好きなように」
「それはものすごい誘い文句だよ、エディ。ではお言葉に甘えて」
「さそ……っ……ま、あ、んん!」

 腰かけていたベッドの上に押し倒されて、唇を塞がれて……押し寄せてきた甘い波に、僕はあっという間に何が何だか分からなくなってしまった。

 翌日はとても久しぶりにポーションを飲んだ。

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