悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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21 溢れ出した気持ち

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 父様は「たまには家で食事をしないと母様に叱られる」と言い、僕と兄様にも「時々は顔を見せにきてやってくれ」と口にしてフィンレーに帰っていった。
 そう言えばマルリカの実の事で何だかバタバタしていてちょっと間が空いてしまった。実の事がいったん落ち着いたら母様とお茶会を開こう。あちらの温室も時々は様子を見に行かないとね。

 もう夕方に近い時間になっていたので仕事をするのを止めて、僕は兄様と少し早めの夕食を食べて部屋に戻って、ゆっくりとお風呂に入った。そうしてそのまま夫婦の寝室の方でベッドの端っこに腰かけた。

「はぁ、ちょっとびっくりしたけど、父様達が来てくれて良かった」

 この所ずっとモヤモヤした気持ちがあったんだ。でも、マルリカの実に関してはこのまま何もしないという事が決まった。今回起きた事件に関してルフェリットでもシェルバーネでも何かしらの策を講じる。それによって何が防げて、何が起こるのかをしっかり見極めて、新たに出てきた事や、抜けてしまっていた事などに対して、改めて何が出来るのかを考えていく。
 一度に全てを叶えようとしなくていいのだという父様の言葉で、何か出来ないかって思っていた気持ちが凄く軽くなった。
 そして、ここまで溜め込んでしまって兄様にも申し訳なかったなって思った。
 きっと色々考えて父様に話してくれたんだろうな。そんな事を考えていたら兄様の方の部屋の扉が開いた。

「エディ、今日はお疲れ様。急ぎの仕事はなかったかな」
「大丈夫です。試験場の方の新しい苗の販売をどうしようかっていう話をしていただけなので。そんなに急ぎの事ではなかったですし、実の収穫があるから、あまり大変なものは入れてないんです」
「そう。それなら良かった」

 そう言って兄様は僕が腰かけていたベッドの隣に腰を下ろした。

「一緒に話をしようって言っていたのに、父上に話してしまってごめんね」
「いいえ、僕の方こそ一緒に話をしようって言ってもらっていたのに、考えすぎてしまって相談出来なくてすみませんでした。でも、言っていただいて良かったです」
「そう?」
「はい」

 コクリと頷いて、僕は兄様の顔を見つめたまま言葉を繋げた。

「色んな事を考えながら何か違うなって思っていたんです。でも何かしなきゃって思いが強くて、凄く視野が狭くなっていたっていうか、もう少し考えたら父様に言われた事だって気づけたはずなのに。決めた事のその先に起こるかもしれない事も考えなかったら駄目でした。特に今回みたいに事件が絡んでいるような時はそうしないといけないって気づきました。もっともっとちゃんと色々な視点から考えなければいけないなって。でも考えた事は無駄じゃないという意味も分かりました」
「それなら良かった。父上が仰っていた通り、エディは上の者の考え方が随分出来るようになってきたね」

 兄様にそう言われて僕はちょっとテレってなりながら「アルのお陰です」って答えた。

「エディにそう言って貰えて嬉しいよ。ところで、色々と話をして疲れているかもしれないけれど、私からも少し話をしてもいいかな」
「はい」
「いつかね、きちんと聞いてみようって思っていたんだけど、なかなか機会がなくて。でももうすぐ二度目の収穫だし、それを待って王国内にも正式にマルリカの実に関してのお布令が出るからね」
「はい」
「エディ……エディは、子供が欲しいと思っている?」
「…………え」
「マルリカの実を使えば、同性同士でも子供を授かる事が出来る。あの実をエディが受け取った時にシャマル様が使い方を教えてくれたんだ」
「そ……そうだったのですね」
「一度ね、きちんと話をしなければ思っていたいたんだ。エディは、何も知らずに実を育てた。そして、今回マルリカの実がどんな実なのかを知った。エディはどう思ったかな。そして、使ってみたいと思ったのかな」

 兄様はとても静かな声で僕に尋ねてきた。
 僕はドキンドキンとうるさく騒ぎ出した心臓の音を全身で感じながらハクハクと口を開いて、閉じる。

「ゆっくり息を吸って、吐いてごらん。大丈夫だよ。今の時点でエディがどう思っているのかなって知りたかっただけなんだ。答えたくないならそれでもいい。無理をしないで」

 いつもと同じ優しい青い瞳で兄様はじっと僕を見て、僕の返事を待っていた。多分、分からないっていったら兄様はこの話を終わらせるだろう。でも……
 
「……僕は」
「うん」
「……実の事を知った時に、驚いたのと一緒に、怖いって思いました」
「怖い……か。そうか。そうだよね。そう思っても当然だ」

 兄様はそう言って僕を抱き寄せて背中をトントンってしてくれた。それに励まされるように僕はゆっくりと言葉を続けた。

「ルシルが……マルリカの実を探してほしいって言いに来て、マルリカの実の事を聞いた時に、すごいなって思ったんです。本当なら、子供が出来ない筈なのに、欲しいって思って、探しているって聞いてすごいなって」
「多分、ルシルには前もっての知識があったっていうのも大きいんじゃないかな。男性同士でも子供が出来るなんて知らなかったエディと、マルリカの実の事を知っていたルシルでは単純に比べる事は出来ないよね」
「はい……でも、すごいなって思いました。殿下の、シルヴァン様の子供が欲しいってあんなにしっかり思えるなんて。僕は……言えなかったから。結婚したのも、跡継ぎとしてハリーとウィルが居るって言う事が前提だったし。でもそれよりも、僕は、やっぱり怖かったんです」
「……エディ、ごめんね。こんな日に聞いて。もう止めよう。ゆっくり休んで……」
「聞いて下さい。あの、僕は……僕は別に、兄様の……アルの、子供が欲しくないって言ってるわけではないんです。だけど、やっぱり、ルシルみたいに欲しいって、あんなにはっきり言う事が出来なくて。本当にアルの事が嫌いなわけじゃないんです。信じて下さい。でも、それでも怖いんだもの。自分がどうなっちゃうのかなとか、子供が出来てもちゃんと領主の仕事を続けていけるのかなとか、父様や母様みたいにちゃんと大事に育てられるのかなとか、子供が出来て僕が、僕じゃないみたいになっちゃったら、じ、自分がされていたような事をしてしまったらどうしようとか」

 堰を切ったように溢れ出した僕の言葉を聞きながら、兄様は抱きしめていた手にギュッと力を込めた。


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きっと、心のどこかに引っかかっている事もあると思うんです。
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