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4 兄様に隠し事は出来ません
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ミッチェル君に強制送還をされてしまった僕は、マリーに即座にベッドに寝かされた。
いくら大丈夫って言っても「なりません」の一言。護衛のルーカスからしっかりと報告がいっているらしい。
ミッチェル君もルーカスも、そしてマリーも体調管理については本当に厳しいからね。
しかも寝かされたのは、夫婦の寝室じゃなくて僕の部屋のベッド。
でも丁度良かったかもしれないって思った。だってこのまま兄様に会ったら、絶対に何かあったって気づかれちゃうもの。
兄様は僕が育てたマルリカの実が、ルシルが言っていたマルリカの実と同じって分かっていたならどう思ったのかな。僕には何にも言わなかったけれど、もしも赤ちゃんが出来るなら欲しいって思ったのかな。それとも跡継ぎはウィルやハリーがいるから、いらないって思ったのかな。
そんな事を考えているうちに僕はそのまま眠ってしまっていた。
◇ ◇ ◇
そっと額に触れられた感覚に意識が浮かび上がった。
ゆっくりと目を開くと聞こえてくる名前を呼ぶ声。
「エディ……」
聞きなれている筈のその声は静かで、けれど心配そうな色を滲ませていて、僕は声を出そうとして……
「……っ……」
失敗してしまった。
「起こしちゃったね。ごめんね。熱を出したってマリーから聞いたよ」
「……ぃじょうぶです」
「ああ、起き上がらないでそのまま寝ていなさい。グリーンベリーにしては少し涼しい日が続いたからね。体調を崩してしまったのかもしれない。目が覚めたならお水を飲むかい? それとも少し何か食べられそうなら食べた方がいいかな?」
そういえば何も食べずに寝てしまったんだ。おかしな時間に眠ったからなんだか身体が怠い感じがするけれど明日ちゃんと仕事をしたいなら何か食べておいた方がいいのかな。でもあんまりお腹が減ってないな。
「お水だけ飲んで、このまま寝ます。すみません、アル」
「ああ、大丈夫だよ。うん、熱はまだ少しあるみたいだね。でも無理はしたらいけないからね」
そう言われて胸の中に罪悪感が湧いてくる。だって熱なんかないんだもの。きっと熱く感じたのは寝ていたからだ。そう思って身体を起こそうとした瞬間。
「あ……れ?」
クラリと眩暈がした。
「エディ! 急に起きたら駄目だよ。熱が下がっていないんだよ」
「え……」
熱なんて、なかったよね。あれれ?
「水を飲もう。ほら、薬を飲んだ方がいいかな。それともポーションにするか」
「お、お水で大丈夫です。すみません。えっと……風邪だったら感染してしまうと困るので自分で」
「これくらいはさせてほしいな。大丈夫、エディの風邪なら感染してもらってもいいけど、それだとエディを困らせてしまうからね。とりあえず、水ね」
そう言って兄様は僕の背中に手を回したまま、もう片方の手で水の入ったカップを口元にあてた。
それをコクリと一口口にすると、自分が結構喉が渇いていた事に気付いて、半分以上飲んでからそっとカップから口を離す。
「……大丈夫? 今日はこのまま眠ってしまいなさい」
「はい」
「明日の仕事はお休みにしようね」
「え、で、でも」
「執務のユードルフとレイモンドの二人に確かめたが、そこまで急ぎの仕事はないとの事だったよ」
「…………」
まさか、兄様がブライアン君とミッチェル君にすでに確認をしていたとは思っていなかった。それにしても僕、別に熱なんかなかった筈なのにな。本当に風邪でも引いちゃったのかな。
そんな事を考えていたら、兄様が再び口を開いた。
「そう言えばルシルが来たと聞いたよ。何の話だったのか、明日調子が戻ってきたら話をしようね」
「…………」
ニッコリと笑ってそう言われて、僕は兄様がその事をすでに分かっているのだと思った。
「はい」
「うん。とにかく、ゆっくりやすみなさい。これは熱の下がるおまじない」
そう言われて額にそっと口づけを落として、兄様は部屋から出て行った。
そして、僕は兄様には隠し事なんて出来ないなと、改めて思ったのだった。
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いくら大丈夫って言っても「なりません」の一言。護衛のルーカスからしっかりと報告がいっているらしい。
ミッチェル君もルーカスも、そしてマリーも体調管理については本当に厳しいからね。
しかも寝かされたのは、夫婦の寝室じゃなくて僕の部屋のベッド。
でも丁度良かったかもしれないって思った。だってこのまま兄様に会ったら、絶対に何かあったって気づかれちゃうもの。
兄様は僕が育てたマルリカの実が、ルシルが言っていたマルリカの実と同じって分かっていたならどう思ったのかな。僕には何にも言わなかったけれど、もしも赤ちゃんが出来るなら欲しいって思ったのかな。それとも跡継ぎはウィルやハリーがいるから、いらないって思ったのかな。
そんな事を考えているうちに僕はそのまま眠ってしまっていた。
◇ ◇ ◇
そっと額に触れられた感覚に意識が浮かび上がった。
ゆっくりと目を開くと聞こえてくる名前を呼ぶ声。
「エディ……」
聞きなれている筈のその声は静かで、けれど心配そうな色を滲ませていて、僕は声を出そうとして……
「……っ……」
失敗してしまった。
「起こしちゃったね。ごめんね。熱を出したってマリーから聞いたよ」
「……ぃじょうぶです」
「ああ、起き上がらないでそのまま寝ていなさい。グリーンベリーにしては少し涼しい日が続いたからね。体調を崩してしまったのかもしれない。目が覚めたならお水を飲むかい? それとも少し何か食べられそうなら食べた方がいいかな?」
そういえば何も食べずに寝てしまったんだ。おかしな時間に眠ったからなんだか身体が怠い感じがするけれど明日ちゃんと仕事をしたいなら何か食べておいた方がいいのかな。でもあんまりお腹が減ってないな。
「お水だけ飲んで、このまま寝ます。すみません、アル」
「ああ、大丈夫だよ。うん、熱はまだ少しあるみたいだね。でも無理はしたらいけないからね」
そう言われて胸の中に罪悪感が湧いてくる。だって熱なんかないんだもの。きっと熱く感じたのは寝ていたからだ。そう思って身体を起こそうとした瞬間。
「あ……れ?」
クラリと眩暈がした。
「エディ! 急に起きたら駄目だよ。熱が下がっていないんだよ」
「え……」
熱なんて、なかったよね。あれれ?
「水を飲もう。ほら、薬を飲んだ方がいいかな。それともポーションにするか」
「お、お水で大丈夫です。すみません。えっと……風邪だったら感染してしまうと困るので自分で」
「これくらいはさせてほしいな。大丈夫、エディの風邪なら感染してもらってもいいけど、それだとエディを困らせてしまうからね。とりあえず、水ね」
そう言って兄様は僕の背中に手を回したまま、もう片方の手で水の入ったカップを口元にあてた。
それをコクリと一口口にすると、自分が結構喉が渇いていた事に気付いて、半分以上飲んでからそっとカップから口を離す。
「……大丈夫? 今日はこのまま眠ってしまいなさい」
「はい」
「明日の仕事はお休みにしようね」
「え、で、でも」
「執務のユードルフとレイモンドの二人に確かめたが、そこまで急ぎの仕事はないとの事だったよ」
「…………」
まさか、兄様がブライアン君とミッチェル君にすでに確認をしていたとは思っていなかった。それにしても僕、別に熱なんかなかった筈なのにな。本当に風邪でも引いちゃったのかな。
そんな事を考えていたら、兄様が再び口を開いた。
「そう言えばルシルが来たと聞いたよ。何の話だったのか、明日調子が戻ってきたら話をしようね」
「…………」
ニッコリと笑ってそう言われて、僕は兄様がその事をすでに分かっているのだと思った。
「はい」
「うん。とにかく、ゆっくりやすみなさい。これは熱の下がるおまじない」
そう言われて額にそっと口づけを落として、兄様は部屋から出て行った。
そして、僕は兄様には隠し事なんて出来ないなと、改めて思ったのだった。
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