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2 十の月の始め
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「急に来てごめんね」
そう言ったのはリュミエール伯爵家の当主、ルシル・マーロウ・リュミエール伯爵だった。
小説の中で愛し子と呼ばれ、【光の愛し子】という加護を持つ彼は、先月コルベック公爵家の当主、シルヴァン・ルフェリット・コルベック、元ルフェリット王国の第二王子と結婚したんだ。
「ううん。大丈夫だよ。ルシルの方はその後どう? 殿下……じゃなくてシルヴァン様は相変わらずなのかな?」
僕がそう尋ねるとルシルは少しだけ顔を赤くして「まぁね」と答えた。
小説では僕とルシルは敵対をする、というか、僕がルシルたちの邪魔をしたりするんだけど、この世界では僕とルシルは友達だ。
でもルシルは僕の『記憶』の中にあった小説では女の子だったんだよ。だけどルシルが言うにはあの小説はゲームっていうものにもなっていて、ゲームというものでは主人公の性別が選べるんだって。
ルシルは最初、この世界はゲームの世界だって僕たちに言ったんだ。もっともその後は似ているけど違う世界だってルシル自身も言っていた。だって僕たちはゲームの中の人ではなくて、この世界で生きている。多分その事を一番痛感したのはきっとルシル自身だったんだと思う。
僕も『悪役令息』にはならなかったし、兄様も殺されなかったしね。
小説やゲームの内容を知っているだけにルシルはルシルで色々悩んで、自分自身で考えて、選んで、生きて来たんだと思う。実際にシルヴァン様と結婚するのも結構大変だったしね。ルシルは小説やゲームのシルヴァン様が好きだったみたいだけど、それでもシルヴァン様からの求愛を拒んでいた事もあるし。
まぁ、その原因はシルヴァン様自身が言葉が下手、あわわわわ、上手くない……う~~ん、まぁ、ルシルの方が現実を受け入れていて、それをちゃんと考えられていたっていうのかな。
でも僕は本当にそれだけいいのかなって思ったんだ。身分とか、立場とか、そう言う事で本当に自分の気持ちを抑え込んでしまっていいのかなって思った。
僕も兄様に好きって言われた時にはじめは無理だって思ったんだ。でも兄様は大丈夫だよって言うし、父様からも何とでもなるって言われた。だけど結婚するって決めたのはそれだけじゃなくて、やっぱり兄様の事がずっとずっと大好きで、これからも一緒に居たいって思ったから。
だからルシルにそれでいいのか、シルヴァン様の事を好きじゃないのかって話をした事もあったし、もう断ったって言うから、シルヴァン様だってやり直しをしたんだからルシルもやり直しをしたらいいって言ったんだ。
でもね、そんな僕の意見よりも何よりも、とにかくシルヴァン様は強かった。というか負けなかった。
お互いに領主だから結婚なんて無理だと言うルシルにそんな事は何でもないと言い切って、お祝会の後ミッチェル君が聞き出した情報によれば、シルヴァン様はルシルになんと28回もプロポーズをしているんだって!
ちなみにそれはやり直しの前は数えていないんだとか。さすが数に細かいミッチェル君!
ともあれまだ色々問題はあるみたいだけど、ルシルが三度目の麦の収穫をした一の月の終わりに28回目のプロポーズをして約束通りに受け入れられると、そのふた月後の三の月には婚約式を行った。
ルシルは招待される方も迷惑だから! と言ったらしいけど、ニッコリと笑いながら「大丈夫だ。来たい者だけくればいい」と言ったとか。
兄様はそれを聞いて深い深い溜息をついていた。
そして予想通りに、婚約式から半年後の九の月に二人は結婚式を挙げたんだ。ルシルは「これでも本当に色々迷惑だし、間に合わないからって遅らせたんだ!」って言っていた。
これもまたミッチェル君情報だけど、マーティン君は結婚式の招待状を受け取った時に「どれだけ逃げられないように必死なんだ」と呟いていたらしい。
お互いにそれぞれの領の領主だし、どちらもまだ出来てからそんなに時間が経っていない領だからって、二人は一緒には暮らしていない。どうしているかといえば、シルヴァン様がリュミエールに通ってきているらしい。そしてたまにはルシルがコルベック領に行ったりしているって。うん。これもミッチェル君がルシルから聞き出している。すごいな、ミッチェル君。
そんなルシルが十の月の始めに僕の領を訪ねて来るなんてどうしたのかな。喧嘩でもしたのかしら。
そんな事を思っていると、ルシルは意を決したって言う感じで口を開いた。
「エディ! 頼みがあるんだ」
「う、うん。僕に出来る事なら」
「分からないけど、でも多分エディになら出来ると思うんだ」
「へ……あ、うん。そう、なのかな。じゃあ、とりあえず、頼みの内容を聞かせてくれる?」
「うん……あの、この世界にあるのかも分からないんだけど……ずっと前に話した事のあるゲームのアイテムだった、マルリカの実を探してほしいんだ」
パキパキと顔が固まってしまいそうな感じでルシルはそう言った。
「マルリカの、実?」
え? あれ? それって……
「うん。初めて会った頃に話をしたと思うんだけどゲームのアイテムで、その……男性でも妊娠が可能になる実なんだ」
え? ちょっと待って? 僕は今何を言われたのかな? 妊娠? 妊娠って、赤ちゃんが出来る事だよね。男性でも妊娠?
「男性でも、妊娠が……」
「うん。シルヴィーはいらないって言うけど、結婚したんだし、可能であれば……シ、シルヴィーの子供が、欲しいんだ」
「………………」
「エディ?」
「……あ、うん。ごめんね。えっと……ルシル……マルリカの実っていうのは……その……」
頭が上手く働かない。えっと、えっと……マルリカの実って……そういう実だったの? 僕はシャマル様から赤ちゃんが出来る実を作ってほしいって頼まれていたの? あの実が? 本当に?
「男性でも子供が出来るようになる実だよ。魔法でね……可能にして、子宮に変わる器官をつくるんだとか……」
「そ、そう、なんだ」
僕の頭の中には温室の実がグルグルと回っていた。
------------
すみません。まだ説明回💦
でも諜報部員ミッチェルが( ̄m ̄〃)ぷぷっ!
そう言ったのはリュミエール伯爵家の当主、ルシル・マーロウ・リュミエール伯爵だった。
小説の中で愛し子と呼ばれ、【光の愛し子】という加護を持つ彼は、先月コルベック公爵家の当主、シルヴァン・ルフェリット・コルベック、元ルフェリット王国の第二王子と結婚したんだ。
「ううん。大丈夫だよ。ルシルの方はその後どう? 殿下……じゃなくてシルヴァン様は相変わらずなのかな?」
僕がそう尋ねるとルシルは少しだけ顔を赤くして「まぁね」と答えた。
小説では僕とルシルは敵対をする、というか、僕がルシルたちの邪魔をしたりするんだけど、この世界では僕とルシルは友達だ。
でもルシルは僕の『記憶』の中にあった小説では女の子だったんだよ。だけどルシルが言うにはあの小説はゲームっていうものにもなっていて、ゲームというものでは主人公の性別が選べるんだって。
ルシルは最初、この世界はゲームの世界だって僕たちに言ったんだ。もっともその後は似ているけど違う世界だってルシル自身も言っていた。だって僕たちはゲームの中の人ではなくて、この世界で生きている。多分その事を一番痛感したのはきっとルシル自身だったんだと思う。
僕も『悪役令息』にはならなかったし、兄様も殺されなかったしね。
小説やゲームの内容を知っているだけにルシルはルシルで色々悩んで、自分自身で考えて、選んで、生きて来たんだと思う。実際にシルヴァン様と結婚するのも結構大変だったしね。ルシルは小説やゲームのシルヴァン様が好きだったみたいだけど、それでもシルヴァン様からの求愛を拒んでいた事もあるし。
まぁ、その原因はシルヴァン様自身が言葉が下手、あわわわわ、上手くない……う~~ん、まぁ、ルシルの方が現実を受け入れていて、それをちゃんと考えられていたっていうのかな。
でも僕は本当にそれだけいいのかなって思ったんだ。身分とか、立場とか、そう言う事で本当に自分の気持ちを抑え込んでしまっていいのかなって思った。
僕も兄様に好きって言われた時にはじめは無理だって思ったんだ。でも兄様は大丈夫だよって言うし、父様からも何とでもなるって言われた。だけど結婚するって決めたのはそれだけじゃなくて、やっぱり兄様の事がずっとずっと大好きで、これからも一緒に居たいって思ったから。
だからルシルにそれでいいのか、シルヴァン様の事を好きじゃないのかって話をした事もあったし、もう断ったって言うから、シルヴァン様だってやり直しをしたんだからルシルもやり直しをしたらいいって言ったんだ。
でもね、そんな僕の意見よりも何よりも、とにかくシルヴァン様は強かった。というか負けなかった。
お互いに領主だから結婚なんて無理だと言うルシルにそんな事は何でもないと言い切って、お祝会の後ミッチェル君が聞き出した情報によれば、シルヴァン様はルシルになんと28回もプロポーズをしているんだって!
ちなみにそれはやり直しの前は数えていないんだとか。さすが数に細かいミッチェル君!
ともあれまだ色々問題はあるみたいだけど、ルシルが三度目の麦の収穫をした一の月の終わりに28回目のプロポーズをして約束通りに受け入れられると、そのふた月後の三の月には婚約式を行った。
ルシルは招待される方も迷惑だから! と言ったらしいけど、ニッコリと笑いながら「大丈夫だ。来たい者だけくればいい」と言ったとか。
兄様はそれを聞いて深い深い溜息をついていた。
そして予想通りに、婚約式から半年後の九の月に二人は結婚式を挙げたんだ。ルシルは「これでも本当に色々迷惑だし、間に合わないからって遅らせたんだ!」って言っていた。
これもまたミッチェル君情報だけど、マーティン君は結婚式の招待状を受け取った時に「どれだけ逃げられないように必死なんだ」と呟いていたらしい。
お互いにそれぞれの領の領主だし、どちらもまだ出来てからそんなに時間が経っていない領だからって、二人は一緒には暮らしていない。どうしているかといえば、シルヴァン様がリュミエールに通ってきているらしい。そしてたまにはルシルがコルベック領に行ったりしているって。うん。これもミッチェル君がルシルから聞き出している。すごいな、ミッチェル君。
そんなルシルが十の月の始めに僕の領を訪ねて来るなんてどうしたのかな。喧嘩でもしたのかしら。
そんな事を思っていると、ルシルは意を決したって言う感じで口を開いた。
「エディ! 頼みがあるんだ」
「う、うん。僕に出来る事なら」
「分からないけど、でも多分エディになら出来ると思うんだ」
「へ……あ、うん。そう、なのかな。じゃあ、とりあえず、頼みの内容を聞かせてくれる?」
「うん……あの、この世界にあるのかも分からないんだけど……ずっと前に話した事のあるゲームのアイテムだった、マルリカの実を探してほしいんだ」
パキパキと顔が固まってしまいそうな感じでルシルはそう言った。
「マルリカの、実?」
え? あれ? それって……
「うん。初めて会った頃に話をしたと思うんだけどゲームのアイテムで、その……男性でも妊娠が可能になる実なんだ」
え? ちょっと待って? 僕は今何を言われたのかな? 妊娠? 妊娠って、赤ちゃんが出来る事だよね。男性でも妊娠?
「男性でも、妊娠が……」
「うん。シルヴィーはいらないって言うけど、結婚したんだし、可能であれば……シ、シルヴィーの子供が、欲しいんだ」
「………………」
「エディ?」
「……あ、うん。ごめんね。えっと……ルシル……マルリカの実っていうのは……その……」
頭が上手く働かない。えっと、えっと……マルリカの実って……そういう実だったの? 僕はシャマル様から赤ちゃんが出来る実を作ってほしいって頼まれていたの? あの実が? 本当に?
「男性でも子供が出来るようになる実だよ。魔法でね……可能にして、子宮に変わる器官をつくるんだとか……」
「そ、そう、なんだ」
僕の頭の中には温室の実がグルグルと回っていた。
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