【書籍化進行中】ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん

tamura-k

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番外編

番外編18 レアな個体だったよ!

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 戦いが始まったのはすぐに分かった。山の方から物凄い音が聞こえて来たから。
 悲鳴とかじゃなくて、ワーッて声を上げているような人の声も聞こえて来る。俺はもうそれだけでドキドキしてしまった。

 ベヒモスは本当に健太郎さんが見せてくれた資料みたいに50m以上もあるようなゾウ&カバ&サイみたいな魔物なんだろうか。
 どんな力があるんだろうか。50m。競泳用のプールくらい? でかい。でかいよ。恐竜だよ。そんなのと戦うって冒険者ってなんなんだよ。

「ねぇ、ベヒモスってさ、何か攻撃みたいなのできるの?」

 たしか傷を受けるとそこがもっと硬くなって無敵みたいなことが書かれていた。

「う~ん、よく分かんないんだよねぇ。個体によっては火を吹いたり、毒ガス吐いたりとか言われているけど、見た事はないねぇ」

 モニカさんは持ってきたミノタウロス丼を食べながらのんびりとそう言った。うん。とても近くで死闘が繰り広げられている感じはしない。さすがだ。

 俺たちのいる所には依頼をされなかった冒険者達もいる。高ランクの人達が疲れてきたり、怪我をしたりするとそういう人達にも声がかかるらしい。
 はじめは高ランクの人しかいないから、Bとか、Cとかのランクの人がいると足を引っ張っちゃうことがあるんだって。分かるような気もするけど、わりとシビアだよね。
 
「モニカさんはさ、ベヒモスと戦った事がある?」
「野生のベヒモスとはないねぇ。ダンジョンの中に出てきた事はあったよ」
「ええ! ダンジョンの中にも出てくるの!?」
「そりゃまぁ、ダンジョンだからねぇ。色々出るよぉ」
「そそそそれで、どう、どうやって戦ったの?」
「どうやってって、切って、焼いて、氷漬けにしてって感じ?」
「ひぇぇぇぇぇ!」
「パーティを組んでいたからねぇ。剣士もいれば魔法使いもいるし、治癒魔法士なんかもいっしょだったしね」
「すすすすすごい!」
「すごくはないけど、疲れたねぇ。まぁ、デカい魔石が出たし、宝箱も出たから良かったけどさぁ」
「宝箱!」
「そうそう。国を滅ぼしたとか言われる曰く付きのティアラとか、使い手を選ぶ剣とかあってさぁ。普通の宝石か金貨にしてくれって思ったんだよね」

 うん。なんだか、ダンジョンの宝も微妙だね。俺はなんちゃってエリクサーを仕込む方がいいな。
 そんな事を思っていたらドーンって物凄い音がして、地面がグラグラと揺れた。

「じ、地震!」
「はぁ? 何それ?」
「え、えっと地底のプレートとかが動いて、地面が揺れたりする……」
「……よく分からないけど、これはちょっと派手にやっている証拠だよぉ」
「派手?」

 モニカさんの言葉に眉を寄せると、もう一度ドーンっ言う音がして、奥の山の方から大きな炎が上がった。
 モニカさんが食べかけのミノタウロス丼を販売カウンターの上に置いて、珍しく怖い顔をする、

「ああ、これはちょっと厄介かもしれないねぇ」

 え? ど、どういう事?
 隣にいるザイルさんまで眉間の皺を深くする。嫌だ、ちゃんと俺にも分かるように話してよ。
 そう思った瞬間、またドーンっていう、今までよりも大きな音と一緒に地面が揺れた。
 それと同時に聞こえてくる「うわぁぁぁ!!」っていう叫ぶような声と聞いたことのない嗄れたような音? 鳴き声?も聞こえて、道の向こうの森の奥にある山の上が吹き飛んだ。

「は? ちょ……ま、何? ええぇぇぇぇ!?」

 や、山、三角だったよね? 日本の富士山みたいに綺麗な三角じゃなかったけど。
 なんでてっぺんフラット? さっきより空の面積多くない? っていうか遠目に見えてるあれ、何? ゴ○ラ?
カバって言わなかった? じいちゃんとレンタルして見た初期の頃のゴジ○だよね?

 ガタガタと出張販売所が揺れる。
 
「マジか、火を吹く個体だわぁ」

 モニカさんの独り言が聞こえた。
 そして目の前の山がまた一つ消えた。というかてっぺんがフラットになった。
 ワァワァという声がして傷を負った冒険者たちがやって来た。
 出張販売所は一気に忙しくなる。
 うん、分かっていたんだ。ポーションを販売するって言うのがどういう事なのか。だけど血だらけの人とかが担ぎ込まれてくるなんて想像していなかった。だって、戦いの場はここから離れた山奥で、冒険者たちはみんな自前のポーションは持っているものだから。だから、こんな風に転移を使えるような人が、傷ついた仲間をまるであっちの世界のテレビドラマで見ていた救命救急みたいに担ぎ込んでくるなんて俺には想定外だったんだ。

「エリクサーの怪我特化を販売していると聞いた! 売ってくれ!」
「は、はい!」

 俺は半分泣きそうになりながらエリクサーベータを売った。
 それを飲んだ人は瞬く間に怪我が治って、今度はそれを買い求める人の列が出来た。

「販売できるのはこの戦いに参加をして、怪我を負った者だけだよ。予備はない」

 顔色を悪くしている俺に変わってモニカさんがきっぱりと言い切った。

「普通の傷ならこっちのポーションで十分だよ。初級でも中級なみだよ。こっちはちぎれた時や潰れた時だけにしておきな」

 ひぃぃぃぃぃ!! モニカさん、詳しく言わないで!

 そうしている間にも地震は断続的に起こって、向かい側の森の後ろの山は完全に崩れて、その手前の森もヤバい事になっているような気がした。
 そして……

(やっぱり、やっぱりフラグじゃんよ~~~~~)

  崩れた山と踏みつぶされた森の中に火を吹くカバ〇ジラがはっきりと見えるようになってきて、この場所に待機をしていたBやCランクの冒険者たちが、うちのポーションを抱えてそちらに向かって行く。
 ダグラスは、ダグラスはどうしているだろう。さっきの人みたいに怪我をしていないだろうか。

「あ~、山を崩してこっちに来ちゃったんだねぇ。ソウタ、もう少し奥に店を移そう。あれはデカいからさぁ、道のこっち側まで来られるとちょっとヤバいんだよぉ」

 モニカさん、もうこれ以上フラグを立てるのは止めて下さい。
  

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