65 / 68
番外編
番外編18 レアな個体だったよ!
しおりを挟む
戦いが始まったのはすぐに分かった。山の方から物凄い音が聞こえて来たから。
悲鳴とかじゃなくて、ワーッて声を上げているような人の声も聞こえて来る。俺はもうそれだけでドキドキしてしまった。
ベヒモスは本当に健太郎さんが見せてくれた資料みたいに50m以上もあるようなゾウ&カバ&サイみたいな魔物なんだろうか。
どんな力があるんだろうか。50m。競泳用のプールくらい? でかい。でかいよ。恐竜だよ。そんなのと戦うって冒険者ってなんなんだよ。
「ねぇ、ベヒモスってさ、何か攻撃みたいなのできるの?」
たしか傷を受けるとそこがもっと硬くなって無敵みたいなことが書かれていた。
「う~ん、よく分かんないんだよねぇ。個体によっては火を吹いたり、毒ガス吐いたりとか言われているけど、見た事はないねぇ」
モニカさんは持ってきたミノタウロス丼を食べながらのんびりとそう言った。うん。とても近くで死闘が繰り広げられている感じはしない。さすがだ。
俺たちのいる所には依頼をされなかった冒険者達もいる。高ランクの人達が疲れてきたり、怪我をしたりするとそういう人達にも声がかかるらしい。
はじめは高ランクの人しかいないから、Bとか、Cとかのランクの人がいると足を引っ張っちゃうことがあるんだって。分かるような気もするけど、わりとシビアだよね。
「モニカさんはさ、ベヒモスと戦った事がある?」
「野生のベヒモスとはないねぇ。ダンジョンの中に出てきた事はあったよ」
「ええ! ダンジョンの中にも出てくるの!?」
「そりゃまぁ、ダンジョンだからねぇ。色々出るよぉ」
「そそそそれで、どう、どうやって戦ったの?」
「どうやってって、切って、焼いて、氷漬けにしてって感じ?」
「ひぇぇぇぇぇ!」
「パーティを組んでいたからねぇ。剣士もいれば魔法使いもいるし、治癒魔法士なんかもいっしょだったしね」
「すすすすすごい!」
「すごくはないけど、疲れたねぇ。まぁ、デカい魔石が出たし、宝箱も出たから良かったけどさぁ」
「宝箱!」
「そうそう。国を滅ぼしたとか言われる曰く付きのティアラとか、使い手を選ぶ剣とかあってさぁ。普通の宝石か金貨にしてくれって思ったんだよね」
うん。なんだか、ダンジョンの宝も微妙だね。俺はなんちゃってエリクサーを仕込む方がいいな。
そんな事を思っていたらドーンって物凄い音がして、地面がグラグラと揺れた。
「じ、地震!」
「はぁ? 何それ?」
「え、えっと地底のプレートとかが動いて、地面が揺れたりする……」
「……よく分からないけど、これはちょっと派手にやっている証拠だよぉ」
「派手?」
モニカさんの言葉に眉を寄せると、もう一度ドーンっ言う音がして、奥の山の方から大きな炎が上がった。
モニカさんが食べかけのミノタウロス丼を販売カウンターの上に置いて、珍しく怖い顔をする、
「ああ、これはちょっと厄介かもしれないねぇ」
え? ど、どういう事?
隣にいるザイルさんまで眉間の皺を深くする。嫌だ、ちゃんと俺にも分かるように話してよ。
そう思った瞬間、またドーンっていう、今までよりも大きな音と一緒に地面が揺れた。
それと同時に聞こえてくる「うわぁぁぁ!!」っていう叫ぶような声と聞いたことのない嗄れたような音? 鳴き声?も聞こえて、道の向こうの森の奥にある山の上が吹き飛んだ。
「は? ちょ……ま、何? ええぇぇぇぇ!?」
や、山、三角だったよね? 日本の富士山みたいに綺麗な三角じゃなかったけど。
なんでてっぺんフラット? さっきより空の面積多くない? っていうか遠目に見えてるあれ、何? ゴ○ラ?
カバって言わなかった? じいちゃんとレンタルして見た初期の頃のゴジ○だよね?
ガタガタと出張販売所が揺れる。
「マジか、火を吹く個体だわぁ」
モニカさんの独り言が聞こえた。
そして目の前の山がまた一つ消えた。というかてっぺんがフラットになった。
ワァワァという声がして傷を負った冒険者たちがやって来た。
出張販売所は一気に忙しくなる。
うん、分かっていたんだ。ポーションを販売するって言うのがどういう事なのか。だけど血だらけの人とかが担ぎ込まれてくるなんて想像していなかった。だって、戦いの場はここから離れた山奥で、冒険者たちはみんな自前のポーションは持っているものだから。だから、こんな風に転移を使えるような人が、傷ついた仲間をまるであっちの世界のテレビドラマで見ていた救命救急みたいに担ぎ込んでくるなんて俺には想定外だったんだ。
「エリクサーの怪我特化を販売していると聞いた! 売ってくれ!」
「は、はい!」
俺は半分泣きそうになりながらエリクサーベータを売った。
それを飲んだ人は瞬く間に怪我が治って、今度はそれを買い求める人の列が出来た。
「販売できるのはこの戦いに参加をして、怪我を負った者だけだよ。予備はない」
顔色を悪くしている俺に変わってモニカさんがきっぱりと言い切った。
「普通の傷ならこっちのポーションで十分だよ。初級でも中級なみだよ。こっちはちぎれた時や潰れた時だけにしておきな」
ひぃぃぃぃぃ!! モニカさん、詳しく言わないで!
そうしている間にも地震は断続的に起こって、向かい側の森の後ろの山は完全に崩れて、その手前の森もヤバい事になっているような気がした。
そして……
(やっぱり、やっぱりフラグじゃんよ~~~~~)
崩れた山と踏みつぶされた森の中に火を吹くカバ〇ジラがはっきりと見えるようになってきて、この場所に待機をしていたBやCランクの冒険者たちが、うちのポーションを抱えてそちらに向かって行く。
ダグラスは、ダグラスはどうしているだろう。さっきの人みたいに怪我をしていないだろうか。
「あ~、山を崩してこっちに来ちゃったんだねぇ。ソウタ、もう少し奥に店を移そう。あれはデカいからさぁ、道のこっち側まで来られるとちょっとヤバいんだよぉ」
モニカさん、もうこれ以上フラグを立てるのは止めて下さい。
-------------
悲鳴とかじゃなくて、ワーッて声を上げているような人の声も聞こえて来る。俺はもうそれだけでドキドキしてしまった。
ベヒモスは本当に健太郎さんが見せてくれた資料みたいに50m以上もあるようなゾウ&カバ&サイみたいな魔物なんだろうか。
どんな力があるんだろうか。50m。競泳用のプールくらい? でかい。でかいよ。恐竜だよ。そんなのと戦うって冒険者ってなんなんだよ。
「ねぇ、ベヒモスってさ、何か攻撃みたいなのできるの?」
たしか傷を受けるとそこがもっと硬くなって無敵みたいなことが書かれていた。
「う~ん、よく分かんないんだよねぇ。個体によっては火を吹いたり、毒ガス吐いたりとか言われているけど、見た事はないねぇ」
モニカさんは持ってきたミノタウロス丼を食べながらのんびりとそう言った。うん。とても近くで死闘が繰り広げられている感じはしない。さすがだ。
俺たちのいる所には依頼をされなかった冒険者達もいる。高ランクの人達が疲れてきたり、怪我をしたりするとそういう人達にも声がかかるらしい。
はじめは高ランクの人しかいないから、Bとか、Cとかのランクの人がいると足を引っ張っちゃうことがあるんだって。分かるような気もするけど、わりとシビアだよね。
「モニカさんはさ、ベヒモスと戦った事がある?」
「野生のベヒモスとはないねぇ。ダンジョンの中に出てきた事はあったよ」
「ええ! ダンジョンの中にも出てくるの!?」
「そりゃまぁ、ダンジョンだからねぇ。色々出るよぉ」
「そそそそれで、どう、どうやって戦ったの?」
「どうやってって、切って、焼いて、氷漬けにしてって感じ?」
「ひぇぇぇぇぇ!」
「パーティを組んでいたからねぇ。剣士もいれば魔法使いもいるし、治癒魔法士なんかもいっしょだったしね」
「すすすすすごい!」
「すごくはないけど、疲れたねぇ。まぁ、デカい魔石が出たし、宝箱も出たから良かったけどさぁ」
「宝箱!」
「そうそう。国を滅ぼしたとか言われる曰く付きのティアラとか、使い手を選ぶ剣とかあってさぁ。普通の宝石か金貨にしてくれって思ったんだよね」
うん。なんだか、ダンジョンの宝も微妙だね。俺はなんちゃってエリクサーを仕込む方がいいな。
そんな事を思っていたらドーンって物凄い音がして、地面がグラグラと揺れた。
「じ、地震!」
「はぁ? 何それ?」
「え、えっと地底のプレートとかが動いて、地面が揺れたりする……」
「……よく分からないけど、これはちょっと派手にやっている証拠だよぉ」
「派手?」
モニカさんの言葉に眉を寄せると、もう一度ドーンっ言う音がして、奥の山の方から大きな炎が上がった。
モニカさんが食べかけのミノタウロス丼を販売カウンターの上に置いて、珍しく怖い顔をする、
「ああ、これはちょっと厄介かもしれないねぇ」
え? ど、どういう事?
隣にいるザイルさんまで眉間の皺を深くする。嫌だ、ちゃんと俺にも分かるように話してよ。
そう思った瞬間、またドーンっていう、今までよりも大きな音と一緒に地面が揺れた。
それと同時に聞こえてくる「うわぁぁぁ!!」っていう叫ぶような声と聞いたことのない嗄れたような音? 鳴き声?も聞こえて、道の向こうの森の奥にある山の上が吹き飛んだ。
「は? ちょ……ま、何? ええぇぇぇぇ!?」
や、山、三角だったよね? 日本の富士山みたいに綺麗な三角じゃなかったけど。
なんでてっぺんフラット? さっきより空の面積多くない? っていうか遠目に見えてるあれ、何? ゴ○ラ?
カバって言わなかった? じいちゃんとレンタルして見た初期の頃のゴジ○だよね?
ガタガタと出張販売所が揺れる。
「マジか、火を吹く個体だわぁ」
モニカさんの独り言が聞こえた。
そして目の前の山がまた一つ消えた。というかてっぺんがフラットになった。
ワァワァという声がして傷を負った冒険者たちがやって来た。
出張販売所は一気に忙しくなる。
うん、分かっていたんだ。ポーションを販売するって言うのがどういう事なのか。だけど血だらけの人とかが担ぎ込まれてくるなんて想像していなかった。だって、戦いの場はここから離れた山奥で、冒険者たちはみんな自前のポーションは持っているものだから。だから、こんな風に転移を使えるような人が、傷ついた仲間をまるであっちの世界のテレビドラマで見ていた救命救急みたいに担ぎ込んでくるなんて俺には想定外だったんだ。
「エリクサーの怪我特化を販売していると聞いた! 売ってくれ!」
「は、はい!」
俺は半分泣きそうになりながらエリクサーベータを売った。
それを飲んだ人は瞬く間に怪我が治って、今度はそれを買い求める人の列が出来た。
「販売できるのはこの戦いに参加をして、怪我を負った者だけだよ。予備はない」
顔色を悪くしている俺に変わってモニカさんがきっぱりと言い切った。
「普通の傷ならこっちのポーションで十分だよ。初級でも中級なみだよ。こっちはちぎれた時や潰れた時だけにしておきな」
ひぃぃぃぃぃ!! モニカさん、詳しく言わないで!
そうしている間にも地震は断続的に起こって、向かい側の森の後ろの山は完全に崩れて、その手前の森もヤバい事になっているような気がした。
そして……
(やっぱり、やっぱりフラグじゃんよ~~~~~)
崩れた山と踏みつぶされた森の中に火を吹くカバ〇ジラがはっきりと見えるようになってきて、この場所に待機をしていたBやCランクの冒険者たちが、うちのポーションを抱えてそちらに向かって行く。
ダグラスは、ダグラスはどうしているだろう。さっきの人みたいに怪我をしていないだろうか。
「あ~、山を崩してこっちに来ちゃったんだねぇ。ソウタ、もう少し奥に店を移そう。あれはデカいからさぁ、道のこっち側まで来られるとちょっとヤバいんだよぉ」
モニカさん、もうこれ以上フラグを立てるのは止めて下さい。
-------------
67
お気に入りに追加
1,579
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる