【書籍化進行中】ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん

tamura-k

文字の大きさ
上 下
62 / 68
番外編

番外編15 悪魔が来りて

しおりを挟む
 家に戻るとダグラスが居て、それだけで泣きたくなった。
 結局俺も健太郎さんと一緒だ。好きな人が恐ろしい魔物を討伐する事になるかもしれないって思うだけで泣きたくなってしまう。そんな事じゃ駄目だと思っても駄目なんだ。
 どうしよう。どうしたらいいんだろう。本当に何か斜め上を飛び越しちゃうようなものが出来ないんだろうか。

「すぐに行くわけじゃないし、依頼自体が成立をしない場合だってある。さすがに俺だって一人でベヒモスに挑むような馬鹿な真似はしない。でも俺はこの町が好きだ。魔物になんて滅茶苦茶になんてされたくない。それだけは分かってほしい」
「うん……」
「そんな顔をするな」
「そんな顔ってどんな顔だよ」
「う~ん、泣くのを我慢しているような顔。慰めてキスをしたくなるような顔」

 言いながらダグラスは俺の顔にキスを落とし始めた。

「おい!」
「ダメだよ。その顔は誘っているのと同じだよ」
「! ば、誰が! ちょ!……やらないんだからな!」
「うんうん」
「ほんとにしないんだからな!」
「うん」
「聞いているのか、ダグラス……っぁ……俺は……やぁ」

 ほら、もうこうなったらグズグズだ。くそぅ。

「ベッドにしようか、それとも風呂に行こうか」
「どっちもしな……っあぁ!」
「どっちもなのか? 積極的だな、ソウタ。じゃあ、まずはベッドでしてから風呂場に行こう」
「やぁっ! ちが……んん……ぅ……」

 唇を塞がれて、肉厚の舌が入ってきたらもう背中がビリビリってしてくる。こんな体にしたのはダグラスなんだからな! だからちゃんと最後まで責任をとってずっとずっと俺のそばに居なきゃ駄目なんだからな!
 
「あ、あ、やぁ! 胸、舐めるなぁ!」
「じゃあ、吸うか?」
「! オヤジすぎる! って……あん!」

 ベッドに連れて行かれて、服をまるで手品みたいに取り払われて、そのままのしかかられて、肌を辿る手の平の熱さにただただ啼いた。
 貫かれて、揺さぶられて、馬鹿みたいに甘い声を上げながら「やっぱり行っちゃやだ!」って子供みたいにしがみついた。
 2回戦をして、その後風呂場に移動してほとんど意識のないままにもう一度抱かれた。のぼせる寸前でベッドに戻ってきた時は、口移しで飲ませてもらった果実水で生き返ったような気持ちになった。
 それでも……



「眠れないのか?」

 頭の上からかけられた声に俺は小さく身じろいだ。身体はこの上なく疲れているんだけど、とにかく頭が休めない感じなんだ。
「……どうしたら戦わないで済むのかなぁ」

 ダグラスは何も言わなかった。

「なんかさ、ベヒモスがいきなり消えちゃうような方法ってないのかなぁ……」
「ソウタ…………」

 大きな手がギュッと俺の身体を引き寄せる。それでも俺の頭は考える事をやめてくれない。

「……弱点ってないのかなぁ」
「休め。目を瞑ってごらん」

 大きな手が目を覆うけどそれでも声は漏れ落ちる。

「何か作れないかなぁ……」
「……」

 ダグラスはそれ以上もう何も言わなくなった。それでも俺を抱きしめた腕にもう少しだけ力を込めた。
 俺の独り言は夜半まで続いた、らしい。


-*-*-*-*-


「やはり、どうしたらいいのか作戦を練るには敵を知る事です」

 目の下どころか目の周りにものすごいクマを作りながらいきなりそう言いだしたのは健太郎さんだった。

「あ、おはようございます。ソウタさんもひどい顔ですね」

 言いたい事は分かるけどなんだかものすごくムカッとする言葉だった。でも俺は実年齢はともかく、異世界では先輩なので文句を言うのは我慢をする。視界の端でこちらを見ているらしいカイザックがいたけれど、どうやら放っておく事を決めたらしくこちらには近づいては来なかった。

「ふふふふ、私はですね何も出来ないと言うのは大嫌いなんです。もちろん泣き寝入りとか、諦めると言う言葉も嫌いです。前世ではそう言った事はやむなく行いましたが、現世ではやりたくない事はやらないと決めているんです」
「お、おう」
「ソウタさんもそうですよね」

 勝手に決めんな。という言葉を飲み込んで俺は健太郎さんのものすごく人相の悪くなった顔を見つめた。

「なので、手始めは敵を知る事です。これがまとめあげたベヒモスの資料です」

 そう言って健太郎さんは仕事そっちのけで俺の前にものすごく綺麗な、なんなら写真付き??? っていう資料を並べた。

「こ、これって」
 
 そこにあったのはカバみたいな、ゾウみたいな、サイみたいななんだか不思議な生き物だった。

「この世界のベヒモスこれだそうです」
「は、え……?」
「我々のいた世界では架空の生き物として旧約聖書の中に登場していた陸の怪物だそうですが、そんな知識は邪魔です。この世界のベヒモスがどんなもので、何が弱点なのか。欲しい情報はそれです。でもそれは私たちには分からないし、冒険者たちに聞いても、そんなに現れる事のない魔物だそうですからきちんとした事を答えられる者がいませんでした。なので、こういう時に使うのはあれです」
「あ、れ?」
「そう。あれです。ふふふふふ返信があるまで緊急用の問い合わせメールを送り付けてやりましたよ。明け方になってやめてほしいって言ってきました。仕方がないですよね。だってダーリンを守る為ですからこっちも必死です」
「ダーリン……」
「そうです。はい、基本情報はこれです。個体差はありますが、全長は約50m。再生能力を持っていると言われていて、傷を受ける度に皮膚が分厚くなります。大食漢で、見定めた対象を殲滅します。雷や竜巻を起こす個体もいると言われています。とにかくデカいので動いただけで被害甚大。剣は全く役に立ちません。でも外は駄目でも内は普通のデカいカバですよ」

 健太郎さんはそう言ってニヤリと悪魔のような笑みを浮かべる。
 目のクマも相まってものすごく怖い。

「ソウタさん、無いものは作る、私たちの常識ですよね」

 その言葉は確かに悪魔の囁きだった。 



 討伐は三日後に決まった。


------------------

しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

異世界転生して病んじゃったコの話

るて
BL
突然ですが、僕、異世界転生しちゃったみたいです。 これからどうしよう… あれ、僕嫌われてる…? あ、れ…? もう、わかんないや。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 異世界転生して、病んじゃったコの話 嫌われ→総愛され 性癖バンバン入れるので、ごちゃごちゃするかも…

処理中です...