【書籍化進行中】ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん

tamura-k

文字の大きさ
上 下
42 / 68

42 想定外の事実

しおりを挟む
「だからどうしてお前は勝手に面倒なものを作るんだよ……」

頭を抱えているカイザックに俺は小さく「だって、一番いい材料が揃っちゃったから」と言う。

「で?どうするんだ?これ。ダグラスに飲ませるのか?」
「わ、分からない。でも聞いてはみようと思う」

そう、10歳若返るエリクサー劣化版。これをどうするかは俺だけじゃ決められないよね。
だってさ、いくら鑑定では完璧でも飲むのはダグラスだし、本当に若返るのかなんて誰も分からないし。

「はぁぁ、これが世の中に出回ったら大変だぞ?分かっているのか?」
「分かっていませんでした」
「言い切るな!」
「だって!自分たちの事しか考えなかったんだもん」

今俺は15歳。ダグラスは聞いてはいないけれどそろそろ35歳になると思う多分。
その差は約20歳。
今はまだいいよ。
でもさ、これが25と45になって35と55になって45と65……うん?
まままま待ってくれ!

「カ、カイザック!この世界の男の平均的な寿命っていくつくらいなの?」

俺は半分涙目になりながらそう訊ねた。

「ああ?ああ、そうだな。平均的には120くらいか?ダグラスみたいに魔力が大きくてしっかりした奴だともっと長生きするかもな」
「は? え、ええええええ!!!!」

ま、まさかの寿命が違いすぎか!短いんじゃなくて長いのか!!!

「こ、これを飲まなきゃならないのは俺かもしれない」
「はぁぁ⁉」

神様は俺の事をどう作り直しているんだろう?こっちに合わせてくれているんだろうか。
それとも元は変わらないからあっちと同じか?
いやいやいやいや、俺も一応魔法が使えるようになっているんだからこっち仕様になっているんじゃないかと思いたい。思いたいけど!!

「ダグラスが平均120として35歳だから換算すれば…………24歳くらい?、で俺の平均寿命が80くらいだとして、15歳だから約19歳。ででででも」

この差は大きい。だって例えば10年したらさ、俺は25歳だけど実質は31で、ダグラスはええっと45だけど実質は37!

「俺が35歳で………43に対して、ダグラスは55歳だけど、んっと……38………逆転!逆転だ!!」
「………お前は、何を計算しているんだ」

いきなりガリガリと紙を出して計算を始めた俺に、カイザックは可哀そうな子を見るような顔をした。

「うううう、見かけの年齢に騙されちゃいけなかったんだ。寿命120だなんて聞いてない。俺は、どっち仕様になっているんだか教えろ。神! じゃなくて、俺、俺………あと65年くらいしかグラスと一緒に居られないかもしれない。ダグ、ダグラスはこれから少なくても85年も生きるのに……っ………ぅ……うぅ……」
「おい……何で泣く?意味が分からねぇ。とにかく落ち着け」
「落ち着けない!だって、だって寿命が、寿命が」
「今すぐの話じゃねだろうが。大体異世界の寿命がなんだって?」
「80」
「はぁ?」

俺の心を抉るような大きな「はぁ?」が来た。

「前後差はあるけど男の方が短いからもっと短いかもしれないし、俺、俺、ダグラスをおいて死んじゃうんだ。20歳も離れているのに、俺の方が20年も先に死んじゃうんだ」
「…………………65年も先の事だがな」

頭を抱えたカイザックに、とにかく一度落ち着けと言われた。
丁度鑑定依頼が入ったのか、カイザックの部屋にモニカさんがやってきて、俺が泣いているのを見てモニカさんが切れた。

「てめぇ、ソウタに何しやがった」って何だかすごく怖かった。

間一髪モニカさんの拳をよけたカイザックに、とりあえずダグラスと相談して決めろって言われて、出来上がったエリクサー劣化版はカイザックがギルドで預かるという事になった。
ものすごい古くて、でも頑丈そうな宝箱に入れられて、時間経過のない保管庫に納められた。

「うちに帰る。もしかしたらダグラスが帰ってくるかもしれないから」
「それならギルドに寄ると思うぞ。完了の手続きをするからな」
「うん。でも帰る。なんか疲れたし、考えたいし」
「今考えても仕方がないぞ。寿命を確かめるような術はないが、運よくその神様とやらにもう一度会えた時に聞いてみればいいさ。さっきの計算では逆転するのは約20年後なんだろう?時間はたっぷりある」
「わかった。ありがとう。モニカさんも騒がせてごめんなさい」
「いいんだよぉ。ソウタ。カイザックを殴って気が晴れるならいくらでも殴ってやるからね」
「は、はははは。あ、ブドウ味は30で、他のは15ずつ作れていますから」
「おう、お疲れ様。大人しく寝ろよ。明日には絶対に戻ってくるからな」
「うん。お疲れさまでした」

俺はそう言ってギルドを出た。
少しだけ歩いて、ズルをして転移で家に帰った。

「あ、ご飯もらってくるの忘れた」

自分では作れないので、いつもエイダの所でテイクアウトしてくるのだ。

「さすがにもう一回行くのはいやだな。いいや。もうお風呂に入って寝ちゃおう」

ここにはスマホも、ゲームも、テレビもない。
娯楽なんて何にもないからやる事がなければ寝てしまうしかない。

「ダグラス、明日は戻ってくるといいな」

遅れているという知らせはないから、きっと予定通りに帰ってくるだろう。
そうしたらエリクサー劣化版の話をしよう。そして寿命の話も。
神に会えるなら会って寿命の確認もしたい。なんなら今すぐでてきてほしい。
どんなものにだってメンテナンス作業というものがあるだろう。
今の所もらったスキルに不満はないが、寿命が、寿命が気になりすぎる!!

「風呂……も面倒になってきた。いいや。クリーンかけてもう寝ちゃおう」

俺は2階に上がって、少しだけ考えて、巨大なベッドにもぐりこんだ。

「ほんとに……でかすぎだって」

一人じゃ淋しくて仕方がない。

「下の部屋にベッド買おう」

ダグラス、嫌がるだろうな。そんな事を思いながら、目を閉じた。


-----------------
自分で書いていて吹き出しました。
馬鹿な子ほどかわいい………
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

処理中です...