悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

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第9章   幸せになります

419.領主と次期当主夫人 *

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 ジルカレの街の知事、ナザールからはお詫びの書状と、知事を辞するという書類が届いた。
 それを見た兄様は「あの場でのあの発言を考えれば仕方の無い事だね。不敬罪でもっと酷い罰を受けても仕方の無い事だった」と言った。僕は今更ながら兄様が言った書簡というのは、こういう事だったのかなと思った。

『未成年で叙爵したばかり。正直迷った。けれど住み慣れた土地を捨てて一から新しい土地で始める事も不安だった。だから、噂にかけてみた。フィンレーに伝わる話と同じ力を持っているのではないかという貴方の噂に。それなのにすぐにフィンレーの次期当主とのご結婚。この領の事を今後どのように……』

 ナザールが言った事は、多かれ少なかれ恐らくは皆が思っているんだろう。
 王国初の未成年での叙爵。しかもいきなりの伯爵位に驚いた人は多い。公に出された、未成年の身でありながら王国の窮地であるスタンピードに騎士を揃えて駆けつけ、大きな功績を上げたという事では何をしたのか分からず、余計に憶測を呼んだかもしれない。
 そんなにすごい事をしたのかとか、力があるのかとか、そう思った人もいたのかな。
 とにかく謎の多い僕が領主になるというのは領民にとっては、やはり不安も大きかったんだろうという事は理解は出来る。しかも前の領主は賢者となったハワード先生だ。このまま残って大丈夫だろうかと思うのは当然だ。

 ナザールだけでなく、遠回しではあるけれど、フィンレー公爵家の次期当主夫人でもあるという事は、ゆくゆくはフィンレーに戻るのかと言う事を聞いてきた者もいる。

 グリーンベリー伯爵とフィンレー次期当主夫人。
 当面は両立、そして兄様も一緒に手伝ってくれる事になっている。でもその先は…………

「エディ、眉間に皺が寄っているよ」
「え……」
「そんな顔も可愛いけど、エディは笑っている方がいいよ」

 兄様はそう言って僕の頬っぺたにチュッて口づけをした。

「一応ノックはしたんだけどね」
「す、すみません、気づかずにいて。えっと、お仕事は終わりましたか?」
「うん。片付いたよ。明日は一日こちらでエディの手伝いが出来るかな」
「……ありがとうございます」

 僕がそう言うと、兄様はクスリと笑ってソファに座っていた僕の身体を抱き寄せた。そしてそのまま隣に座り、僕を膝の上に乗せてしまった。

「ににににに兄様!」
「エディ、違うよ?」
「いえ、あの、アル。あの、あの、僕は抱っこをされるような赤ちゃんではなくて」
「うん。赤ちゃんではないね。というか赤ちゃんでは困るな」

 笑いながらそう言って、今度は目元に口付けて、それから唇にも触れるだけの口づけを落とす。そして。

「ナザールの事を考えていた?」
「…………はい。他の事も」

 膝に座って向き合うと隠し事なんて何も出来ない。というよりも僕が兄様に隠し事なんか出来る筈がないんだ。
 兄様は僕の答えを聞いて、そのまま何も言わずに黙って背中をポンポンした。
 昔から変わらない優しくて、あたたかな温もりとリズム。  

「…………多分」
「うん」
「皆、多かれ少なかれナザールと同じような事は思っているのだと思ったのです」
「……そうかもしれないが、それを口に上らせるという事は、あってはならない事だったんだよ」
「はい。それは僕にも分かっています。兄様が書簡をとおっしゃったその意味も。でもその人たちの気持ちも分かるような気がするんです。勿論僕の力を頼っていてはダメなのは分かります。そんな領経営をしてはいけない事も分かっています。それぞれに出来る事をして高めていく。そんな事を目指していきたいと思っています。でもそれをどうやって伝えて行ったらいいのかなぁ。領主と領民は対等ではない。領主が負うべき事も勿論沢山あります。でもそれだけでは領は回って行かない。ううん。僕が居なくなっても、ちゃんと領が成り立って新しい領主と共に支え合っていかれるようなそんな領になってほしいんです」

 兄様は「エディ」と僕の名を呼んだ。

「父上にも、母上にも言われたよ。領の経営は長い目で見ていくものだって」
「……はい」
「急がなくても、エディの思いが変わらなければ、それは必ず下へ下へと伝わっていくだろう。同じ思いを持つ者は必ずエディの元に集まって来る。大丈夫。父上もまだまだ公爵家の当主としてフィンレーを支えていく。私もまだまだ父上から教えていただく事がある。大体エディがフィンレーに戻るには、この領の新しい領主が必要だよ。ハロルドたちの卒業はまだ随分と先だし、彼らの成人は更にその先だ」
「はい。そうですね。急ぎすぎました」

 僕がそう言って笑うと兄様も笑った。 

「私の奥さんはちょっと働き過ぎだね。夕食を食べたら仕事の事は忘れてゆっくりしよう」

 再び優しい口づけが僕の額に落とされた。

「に……あぅ……そんな事はない、です。でも、今日はもうお仕事の話はしません」
「うん。力の話も、ついでに視察の話もしばらくなしだ」
「ええ⁉」

 視察の話も? しばらくってどれくらいかな。じゃあ畑の話とか、温室の話ならいいのかな? あ、新しく採用をする為の話とかは大丈夫?
 僕が頭の中でそんな事を考えていると兄様は「思い出した事があるんだけれど」と言葉を繋げた。

「あの小説が書かれた国では結婚をすると新婚旅行っていうものをするらしいよ。ねぇ、エディどこかに旅行にいってみようか」
「旅行?」
「そうゆっくりと二人きりというわけにはいかないけれど、最低限の護衛たちを連れて。何を見て回ろうか。ああ、駄目だな。見て回るなんて言ったらきっとエディは視察と勘違いをしてしまいそうだ」
「そそそそんな事は……」

 ないと思うけど……ちょっと危ないかもしれない。
 僕が黙り込むと兄様はクスリと笑って唇にもう一度触れるだけの口付けをしてきた。

「グリーンベリーの領主とフィンレー次期当主夫人。しばらくはその二つ、ああ、大事な事を忘れていた。肩書きなんて何も無い、私だけが独占出来る、私の愛するエディもね」

 兄様は甘い微笑みを浮かべて、今度は大人の口付けをしてきた。

「……っ……ふ……ぁ…………」

 どうしよう。もうすぐ夕食の時間なのに。ソファに座った兄様のお膝に抱っこされたまま、ドキドキして身体から力が抜けていってしまうなんて、どうしたらいいんだろう。

「に……あ、アル……ダメ」
「うん。もう少しだけ」

 さっきトントンってしてくれていた手が、スルリと腰を撫でて、そのまま長い指が背中を辿っていく。
 どんどん深くなっていく口づけにゾクリと身体が震えた。

「や……ぁ……」
「……うん。ごめんね。夕食の前にこんな所でなんて、またレオラに叱られそうだ」
「レオラ……っ……」
「こっちは夜で、ここだけ、いい?」

 服の上から触れられた二か所に、僕は赤い顔でコクリと頷いた。
 そして…………

「あ、あ、に……やぁ……ん……」
「……もう少し。一緒に……いこう」

 熱くなる身体。兄様の手の中で熱くなっていく二人のもの。膝の上から落ちないように首に縋りつくようにして、荒くなる息を吐くその口を引き寄せられるように合わせて。

「……あぁぁ!」

 弾かれた熱と脱力する身体。そっと抱きしめられたまま兄様は僕の頭のてっぺんに口付けて、クリーンの魔法をかけ、乱れてしまった服も直してくれた。

「夕食までもう少しあるから、何にも考えないで寝ていなさい。ちゃんと起こしてあげるから」
「…………はい」

 膝からソファに下ろされて、兄様に凭れかかるようにしながら僕は目を閉じた。
 僅かな時間に見た夢の中では、鮮やかな緑の麦畑が風に吹かれて揺れていた。



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