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第9章   幸せになります

400.ウィルの気持ち

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「なぜ、ウィリアムはこの挑発を受けたのかな?」
「…………成績が上ならば、今後このような事が無くなるかと思ったのと……彼女の名誉も傷つかずに済むかと思ったからです」
「名誉とは?」
「彼女が、夏のお茶会で、少し誘導尋問をされるような経緯ではあったようですが、私の名前を出したのだと聞きました。けれど、私は彼女に婚約の打診をしておりません。その為、妹気取りで勝手に熱を上げているという噂があると妹がいる友人から聞きました。その事が彼の手によってもっと拡散をされたら、彼女が傷つくと思ったんです」

 ウィルの言葉を聞いて父様は「傷つくねぇ」と呟くように口にしてから「では」と言葉を続けた。

「ウィリアムにとっては彼女の事は、そういった対象には思えないのかな?」

 父様の問いかけにウィルは少し迷うような表情を浮かべて、やがて口を開いた。

「…………分かりません。可愛らしいとは思いますし、傷ついたりしてほしくないとも思います。でも、婚約とか、結婚なんて、まだ考えられないし、考えようとも思えない……です。ルフェリットが女性の割合が低く、女性は小さい頃から婚約する事が多いのも知っています。だけど、だからと言って今、彼女と婚約をするのは違うなって。ひどいかもしれないけれど、もしも今、彼女が誰かと婚約をすると聞いても、多分……おめでとうって言えると思うんです。すみません」

 ウィルの言葉に父様はふわりと笑った。

「いや、謝る事ではない。それは気持ちの問題だし、家によって考え方は異なるだろうが、私はそういった気持ちは大事にしたいと思っているよ。そうだね。では最後にもう一つ。学園からも知らせが入っているので、当初ウィリアムが考えていたように自分が了承すればそれで済むといったような事は難しい。もちろん、賭けに負けてしまったらもっと困った事が起きるだろう」
「…………はい」
「それを踏まえて、ウィリアムはこの件をどう着地させたいと思っているのかな」
「……………………出来れば、大事にしたくはないのです。アンジュの事もそうだけど手出しをするような事はやめてほしい。彼の家も、彼も、関わらないでいてくれたら私は、それでいいです」
「それは無理だ」

 即座に返された言葉に僕は息を飲んだ。
 ウィルもハリーも同じように顔を強張らせている。

「この問題はすでに君とその子息の問題だけでは済まされない。それだけの事を彼はしているし、ウィリアム、君に対しても安易に賭け事にのったという罰則があるかもしれない」
「…………はい」
「そうならないように私としても手を打つが、これはね、ウィリアム、子供同士の問題だけではないんだよ。そしてこんな卑怯な事を何もなかったというようにしては駄目なんだ。その結果がどのようになろうともフィンレーは公爵家だ」
「はい」
「公爵家の人間に対してやってはならない事をしてしまった、それは彼が償うべき事だ。そうでなければ爵位を無視する事になる。それはいけない。学園から正式にフィンレー家として相手の家に抗議を行う。勿論君がその挑発行為に乗った事は認めるしかない。だが、それでもこれはね、子供がした事では済まされないし、子供の中にこれだけのものがくすぶるには、その家にそれだけものがあったと思わざるを得ない。妬み、嫉み、恨み、そう言った負の感情がどういものを生んでしまうのか、我々は嫌と言うほど分かったはずだ。あのようなものを二度と生み出してはいけない。皆がそう思わなければならない。それにね、降爵などの処分は陛下がお決めになった事だ。それに不満を持つ事が何を意味するのか、もう分らない年ではない」
「……はい」

 顔を強張らせながら、ウィルはけれどしっかりと頷いた。

「明日は学園を休みなさい。試験はきちんと受けられるように話をつけておくから安心しなさい。勿論成績云々の事はなしだ。どういう沙汰が出たとしても、公爵家の一員として毅然としていなさい。それが我々に求められているものだ。これは預かる。そしてメルトス家の令嬢に関してはこちらから注意を入れさせてもらうよ」
「はい、申し訳ございませんでした。よろしくお願いいたします」

 立ち上がって頭を下げたウィルに父様は頷いてから、少しだけ苦い笑いを浮かべた。

「ウィリアム、もう少し頼ってほしいね。私にとってはみんな同じ、大切な子供だという事を忘れないでほしい」
「あ……ありがとうございます!」
「ああ、それからハロルド。色々と調べるのはもう少し親兄弟を当てにしてほしい。薬草やポーションなどのやりとりでそれなりに手は広がっているのかもしれないが、それでも見る目を養わないと足を掬われてしまう事もある」
「……! 申し訳ございません!」

 ハリーも慌てて椅子から立ち上がって頭を下げた。

「まぁ、二人とも後期の試験が近いからね、明日は家で勉強をしなさい。分からないところはアルフレッドに教えてもらえばいい。アルフレッド頼めるかな」
「はい。初等部はかなり前ですが、大丈夫だと思います」

 兄様がにっこりと笑った。それを見て何だか僕も嬉しくなった。

「エドワード、領の仕事を抱えすぎていないかい?」
「はい。大丈夫です。僕も後期の……学園最後の試験を頑張ります」
「ああ、そうだね。それから『噂』を知らせてくれた友人にはよくお礼を言ってほしい」
「はい」


 

 父様がどう動いたのかは分からなかったけれど、伯爵家の子息は謹慎処分となった。試験を受ける事はかなわず、初等部一年の初の留年を言い渡された。そして、それをまた逆恨みするようであれば伯爵家から出されることになると言う。伯爵家自体は今回は降爵や減領を免れる形になったが、その処分にフィンレーの手を借りる事になった。
 そして、メルトス家からは謝罪が来た。父様が彼女にどんな風にウィルの気持ちを伝えたのかは分からないけれど、現時点でウィルの婚約などは考えていない事は伝えたみたいだった。そしてウィルがメルトス家に行く事もなくなった。
 それでもアンジェリカさんはやっぱりアンジェリカさんで、ウィルを振り向かせるような素晴らしいレディになって見せるとリゼット様に宣言したとか。もっともその前には大変なご迷惑をかけてしまったと大泣きをしていたというので、一応はきちんと反省はしたみたい。



 こんなドタバタで十一の月も半分が終わって来週からは試験が始まる。

「なんとかウィルの気持ちに最大限沿うような形にしていただけて良かったです」

 紅茶を飲みながらそう言うと向かいに座っている兄様が小さく笑って「そうだね」って答えてくれた。
 結局何だか落ち着かなくて、僕はこの週末はグリーンベリーに来ている。「それなら一緒に行こうかな」って兄様も来てくれた。

 少し間の空いてしまった温室の状態を確認したり、ちょっと色々収穫したり、その合間に兄様が試験に出そうな事をいきなり質問してきたり……。

「ウィルもまだ十二歳ですものね。なかなか婚約とか結婚とか決めるのは難しいですよね」

 サクサクとしたクッキーをつまんでそう言ったら、兄様は楽しそうな顔をして「私がエディと結婚したいと決めたのは十二歳だったよ」と言った。
「!!!」
「ふふふ、年は関係ないよ。ウィルと結婚したいと思っているアンジェリカ嬢も十一歳だしね」
「そそそそそそうですね!」

 良かった。紅茶を飲んでいなくて。
 僕がそう思っていると兄様が「エディ」って名前を呼んだ。そして。

「試験期間は少し我慢をするから、今日は2回大人の口づけをしてもいい?」
「ふぇっ……ぇぇぇぇ!」

 瞬時に真っ赤になった僕に、兄様は笑いながらギュって抱きしめてきた。しかも何だか良く分からないうちに兄様の膝の上に座っているってなんでだろう?

「……頭がグラグラして、覚えた事が零れ落ちそうです……」
「ふふふ、そうしたらまた覚えなおすのを手伝うよ」
「…………零れないようにします」

 兄様が吹き出すようにして笑った。


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分けずに行きました!久しぶりの3000字越え。
そして兄様が加速度を付けてきている、十一の月の半ば( *´艸`) 
 

 
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