悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第9章   幸せになります

395. 十の月は忙しかった

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 成人のお祝いが終わって、十の月の後半になると結婚式の衣装の仮縫いが出来て来た。
 やっぱり騎士服にしてよかったなって思ったよ。でも白が基調になっているから汚したら困るなって思った。そうしたら母様が苦笑しながら神殿の中での式の時だけ着るものだから大丈夫って。
 ああ、そうだった。その後、結婚式が終わりましたって報告してお祝いのお食事をしたりするのはフィンレーに戻ってからで、今は聖神殿から転送陣を使うために父様が色々と苦労しているんだった。

「エドワード様、少しお痩せになりましたね?」

 テーラーの人の言葉に母様と兄様がものすごい勢いで振り返った。

「え、そそそそそうですか? そんな事は」
「いえ、この腰回りも、肩の辺りもほっそりしています。あまり華奢になられてしまうとマントのドレープが上手く出なくなってしまうので補正は入れますが、これ以上はお痩せにならないように気を付けて下さい」
「……わ、分かりました」

 その言葉をしっかりと聞いていた母様と兄様がニッコリと笑った。
 ああ、あの顔はちょっと怒っていますね? でも僕、元気ですよ? ただ成人のお祝いが終わってからも次々に色々な事があって、えっと、ルシルの畑の様子を見に行ったり、結婚式に出す予定の白いイチゴの畑に確認したり、来年から入る新しい官吏の面談をしたり、何故かどんどん増えている書類とか……。さすがにこれ以上はまずいかもって思って週末の視察はやめていたんだけどなぁ。

 結婚式の後のお祝い会の時の貴族服はお揃いの濃紺のコート。ウェストコートはそれぞれの色でシャツやクラバットや袖飾りとジャボは白。刺繍はちょっと華やかな感じでクラヴァットのブローチがお互いの色になっているみたい。とりあえずまだ仮縫いだけど、とても素敵なのは分かった。そして兄様はやっぱり何を着ても似合うのも分かったよ。そう言ったら兄様はすぐに「エディもね」って言ってくれた。
 
 試着が終わって「ではこちらで仕上げに入らせていただきます」ってテーラーさんが帰ってから、母様が僕の事を呼んだ。

「エディ、領の経営というのは先の長いものなのです。急いであれもこれもとやったからといって成果が上がるものではありません。もう少し人を増やす方向で考えなさい。それに結婚式の直前は何も無くても何だか慌ただしくて、緊張するものです。今から痩せてしまっては体力が持ちませんよ。衣装はダブつかないように多少は詰めてもらいますが、これ以上体重を落とさないように。なんなら太っても構いません。いいですね?」
「はい」

 そして兄様も僕の隣に座って口を開いた。

「エディ、食べる量を落とさないようにしようね。食事はなるべく一緒に取るようにしよう。これから試験もあるし、卒業式もある。心配だよ」

 兄様に顔を覗き込むようにして言われたらもう何も言えない。

「気を付けます」
「シェフにも少し栄養価の高いものを出してもらおう。ああ、でも重すぎないようにしないと食べられなかったら元も子もない」
「そうね。アル、いざとなったら食べさせるのも有りよ。とにかく体力を落とさないように気をつけましょう」
「エディ、あ~んってされたくなかったら頑張って食べようね」
「がががが頑張ります!」

 わぁ、成人したのに「あ~ん」なんて嫌だよ。
 ちょっぴり涙目になった僕に兄様は「エディの好きな物を色々出してもらおうね」って言ってくれた。
 母様は僕達を見ながら「頑張って」って笑っていた。

 こうして忙しかった十の月が終わろうとしていた。

-*-*-*-*-

 おはようの口づけをしてから一緒に食事をとって、学園に行って、帰ってきたら課題や試験の勉強をして、二日か三日に一度はグリーンベリーに行く。
 そしてお仕事を終えた兄様やハリー達と一緒に夕食をとって、少しゆっくりしながらお話をしたり、試験の勉強をしたりして、おやすみなさいの口づけをしてから眠る。最近の僕の一日は大体そんな感じだ。
 えっと、二日に一回の大人の口づけも続いている。でも慣れるのはちょっと難しいな。なんかね、えっとそれをしていると何故か分からないけど、ドキドキするっていうか、なんかムズムズするっていうか、なんかちょっと変なんだ。
 そう言ったら兄様に「良かった」って言われておまけの口づけをされてしまった。
 「おかしな事ではないから大丈夫だよ」って言われたからそうなんだって思った。

 グリーンベリーの事は兄様が少しお手伝いを増やしてくれたり、テオが父様と相談をしてフィンレーから少し人を集めて連れてきてくれたりして、毎日行かなくてもいいようにしてくれた。
 本当は色々と確認をしたい事もあるんだけど、全部自分でやるのは無理だから、分担をしていかないとダメなんだよね。
 そんな事を思いながらリビングで紅茶を飲んでいたら。

「エディ兄様、後期の試験は前期の試験とは違う感じなのでしょうか? 友人が後期の試験で悪い点数を取ると留年すると言っていたのですが本当でしょうか」

 ウィルが真剣な目でそう尋ねてきた。

「ええ? 初等部の一年で留年というのは聞いた事がないよ。でもあまり点数が悪いと補講になってしまうかもしれないね」
「補講……」

 ウィルは少し顔色を悪くした。え?ウィルってそんなにお勉強がダメだったかな? ちゃんと上位に入って居たような気がしたけど。

「大丈夫だよ。一年はそんなに大変な試験ではなかったと思うよ。後期の所からが主だけど、前期に教わった部分で関わりがある事を確認しておけば問題ないよ。実技も基本が出来て、その応用が一つ、二つ出来ていれば大丈夫。それでも心配ならまたお話を聞くからね」
「はい、ありがとうございます、エディ兄様。そのように思って見直します」
「うん。頑張って」

 ウィルと僕達のやり取りをハリーが少し困ったような顔をして見ていたのに、僕は気づく事がなかった。


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