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第9章   幸せになります

389. 見守る事の難しさ

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「アシュトンさん……」

 そうだった。ミッチェル君が前に言っていた。確か跡取りを辞してレイモンドを出てお祖父様の領に務めてしまったんだよね。
 なんかマーティン君と大喧嘩していたような事をミッチェル君がポツポツ話していた。結局そのままになっているのか。

「遅くなりましたが、叙爵おめでとうございます。グリーンベリー伯爵」
「有難うございます。レイモンド様もお元気そうで何よりです」
「どうぞ、以前のようにアシュトンとお呼び下さい。お陰様で元気に過ごしております。ジョシュア達が伯爵家に務めたとか。その内時間が出来たら手合わせなどお願いしたい」

 笑みを浮かべてそういうアシュトンさんに僕は笑いながら「伝えておきますね」と言った。
 うう~ん、ここでマーティン君とはどうなっているんですか? とか、レイモンド家は本気で継がないのですか? とはとても聞けないよね。
 そんな事を考えた途端、アシュトンさんが小さく笑った。

「エドワード様は隠し事が出来ないお方ですね」
「え、あ、えっと……」
「グリーンベリーにはミッチェルがお世話になっているのでしたね。ではお恥ずかしい話も多少はお聞きになっているのでしょう」
「…………」

 どう答えたらいいのか迷っているとアシュトンさんが再び口を開いた。

「ミッチェルは元気にしていますか?」
「! はい。元気です」
「そうですか。頑張るよう伝えて下さい。バタバタとしていて実は成人の祝いには行かれなかったのです」

 少しだけ苦い顔でそう言うアシュトンさんに僕はゆっくりと口を開いた。

「…………ご自分では伝えないのですか?」

 僕の問いかけに今度はアシュトンさんが黙ってしまった。けれど次の瞬間溜息が落としてアシュトンさんは「少し、お話をしませんか?」と言った。

「分かりました」

 そうして僕とアシュトンさんはお祖父様に確認をして応接室の一つをお借りした。マリーがお茶を出してくれた後にそのまま壁際に居てくれた。



「ああ、ええっと。どこから話せばいいかな」
「あの、アシュトンさんは今はどのようなお仕事をなさっているのですか?」
「え? ああ、カルロス様の所の騎士隊にいる。一応隊長だ。あと温室の手入れも。あとはちょっとした書類の整理のような事かな。一応、当主教育を受けてきたからね」

 アシュトンさんから当主の事が出たので僕は迷っていた事を口にした。

「ミッチェルからレイモンド家の跡を継がないと言って揉めてしまったと聞きました」
「ああ、それは本当の事だよ。ずっとそう思ってきた。6歳の魔法鑑定の時から当主になるのは難しいと思っていたんだ。それでも魔力量を増やす努力もしたし、属性も三つにした。だけど、それでは駄目なんだよ」

 アシュトンさんはそう言って小さく笑った。その微笑みは別に投げやりになってしまっているようにも、諦めてしまっているようにも見えなかった。

「エドワード様はご存じかな。レイモンド家は代々大魔導師の称号を持つ者が出る」
「……聞いた事はあります」
「祖父も、父も、大魔導師だ。私はね、大魔導師の称号を持つ者が家督を継ぐのが正しいと思っている。そして私にはどうやってもその称号は出ないだろう」
「…………」
「別に絶望をしているわけでも投げやりになっているわけでもないんだ。ただ、事実としてマーティンと私の魔力量の差は歴然で、しかも彼は四属性の他に光魔法の治癒能力を持っている。彼が、家督を継ぐのが正しいんだ」
「…………それは、マーティン様とももう一度きちんとお話をされた方が」

 僕の言葉にアシュトンさんは小さく笑った。

「そうだな。でも怒っていてね、この一年は話し合いにもならない。それにね、私はもう随分前から父にはマーティンが大魔導師の称号を得たらレイモンドを出たいと言っていた。自棄になっているわけではないんだ。でもマーティンにはそれが通じない。放棄するのではなく、正しい後継者に渡したい」
「アシュトン様……」

 ニッコリと笑うアシュトンさんに僕はまたしても何も言えなくなってしまった。

「出来損ないの兄と呼ばれ続けてきた。それでも努力はしてきた。でも魔法は好きだよ。自分を鍛える事もね。だから諦めたわけではない。いつか、それが判ってもらえたらとは思っている。さすがにね、大魔導師の弟を差し置いて当主に収まるほど、みっともない事はしたくない。それくらいの矜持は許してほしいと思っている。それにカルロス様は私たち土魔法使いの憧れの方だ。『首』の封印にも関わらせて頂いて、そばで色々と学びたいと思った。だから逃げているわけでも、絶望して自分のやるべき事を放棄したとも思っていない。それがマーティンには伝わらず、ミッチェルには可哀相な思いをさせてしまった。話が出来るようならするつもりはある。何度でも繰り返ししようとも思っている。今は、機会がないけれどね」

 そう言ってもう一度笑ったアシュトンさんに、僕は結局まともな受け答えが出来ず、また勉強会を開きましょうと的外れな事を言って、グリーンベリーに帰って来た。

-*-*-*-

「元気がないようだね。何かあったの?」

 兄様にそう言われて僕はハッと顔を上げた。

「あ、えっと、なんでも……」
「無くはないよね?」
「……はい」

 学園に行った後、お祖父様の所にご挨拶に行って、アシュトンさんと話をして、それから少しだけブライアン君から回って来ていた書類に目を通した。タウンハウスで夕食と思っていたけれど、何となく気持ちが沈んで、そのままグリーンベリーで食事をするようにタウンハウスに知らせたら、兄様がやって来た。
 そして一緒に食事をする事になったんだけど……

「約束だよ、エディ? 何があったのかちゃんと話をしてほしいな」
「はい。えっと……」

 僕はお祖父様の屋敷でアシュトンさんにあった事と聞いた話を伝えた。勿論、僕がちゃんと話す事が出来なかった事も伝えたよ。

「……なるほど」
「すみません。受け答えがきちんとできないような話を安易に聞いて」
「ああ、うん。そうだね。でもアシュトン様がそれを話されたんだから彼の中では大分昇華してきているんじゃないかな。厄介なのはマーティンの方だ。これはレイモンドの問題で、私たちがとやかく言えるものではない」
「はい」
「まぁ、それでもフィンレーに二兄弟が来てしまっている現状はレイモンドも重くは見ているようだ。父上にはきちんと話が行っているし、アシュトン様の事もまだ当主をマーティンに譲ると正式には出されていない。あくまでも修行のような形で公爵家に来ている形になっている。彼は務めていると思っているが、実はフィンレー領の客人扱いになっているんだ」
「そう、なのですね」
「長年当主教育をしてきた嫡男だからね。それに今の所マーティンに大魔導師の称号はない。まぁ、だからこそ彼は怒っているんだけれど」

 兄様はそう言って苦い笑いを零した。

「レイモンドの事はレイモンドが決めることだ。気になるかもしれないが、今は見守る事しか出来ない。それぞれがそれぞれに答えを出さなければしこりが残ってしまうからね。話を聞いてやる事は構わないけれど、気持ちを引きずられるのはいけないよ。その気持ちも相手には伝わってしまうからね」
「はい」
「それぞれにとって良い答えが出るように願っていよう。そして、その答えを友人としてきちんと受け止めてあげるのがいいんじゃないかな」
「はい、兄様」
「うん、では、まずはきちんと食事をね」
「はい!」

 元気よく返事をして、僕はお肉をパクリと口にした。兄様はそれを見て笑って頷いた。
 
-------------
すみません。自分で決めた設定を見逃してました。
賢者や大魔導師はスキルではなく称号です。
認められて後付けされる。誰に認められるのかは謎(;^ω^)

 
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