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第9章 幸せになります
372.婚約式②
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昼になりサロンに集まっていた人たちが婚約式会場のホールに案内され始めた。
別棟は一階に大きなサロンといくつかの応接室。そして転移の為のお部屋がある。2階には大勢の人が集まる事が出来るホールがあって、更にその上には宿泊をされる方のお部屋があるんだ。勿論親しい人は本館の方にも泊まれるようになっているよ。今回はお祖父様たちが前日からいらして宿泊をされた。新しい公爵領のお話も聞けたよ。その内遊びに行きたいなって思った。
「さて、いよいよ二人の婚約式が始まるよ。先ほど母様が言ったように一生に一度の日だからね。良い日になるように願っているよ」
「はい、ありがとうございます」
「はい、父様、ありがとうございます。良い日にします」
「うん。そうだね。では、テオが合図をしたら入ってきなさい」
そう言って父様は一足先に会場のホールの中に入っていった。今日はいらしてくださってありがとうって伝えて、僕達の婚約式を始めますって挨拶をして下さる。そして僕たちが一緒にホールへ入っていく段取りだ。
先ほどのドキドキとはまた違ったドキドキを感じながら僕は息を大きく吸って、吐く。
「エディ」
「はい」
「一緒にいるから大丈夫だよ」
「はい。そうでした」
そうだ。隣には兄様がいる。僕を見て、大好きな微笑みを浮かべている兄様と一緒にいるんだから大丈夫。
「大好きだよ、エディ」
「はい。僕も兄様が大好きです。ずっとずっと、大好き」
「うん。幸せになろう」
「はい」
そう返事をした途端、テオが横から「いってらっしゃいませ」と声をかけてきて、扉が開いた。
わっというような沸き立つ声に迎えられるようにして僕と兄様は腕を組んだまま一つお辞儀をしてからホールの中に入った。真っ直ぐに前を見て、転ばないように、気を付けて。
「大丈夫だよ。転びそうになったらちゃんと助けてあげるから、そんなに緊張しないで」
こっそりと兄様にそう言われて、僕はちょっとだけ笑ってしまった。
「そうそう。ほら、父上も笑っているよ」
壇上では兄様が言っている通りに父様と母様が僕たちが来るのを待っている。それを見て、もう一度隣を歩く兄様を見て小さく「はい」って返事をした。
そんなに遠くないのに、ちょっと時間がかかってしまったけれど、作られたひな壇の下で父様達にお辞儀をして、それから立会人のニールデン卿とスタンリー卿にもお辞儀をしてからひな壇の上に上がった。
そしてゆっくりと会場の方に顔を向けて、お辞儀をして顔を上げると、ニコニコとしている皆の顔が見えて、その瞬間ブワッと視界が滲んだ。
「エディ?」
「ごめ、ごめんなさい。皆の顔が見えたら何だかちょっと嬉しくなっちゃって」
涙が浮かんだ僕の目を兄様がサッとハンカチで拭くと、父様が苦笑して、母様は僕と一緒になって目を潤ませていた。
「さて、二人とも少し落ち着いたかな。では、アルフレッド皆様にご挨拶を」
「はい」
その返事と一緒に僕は兄様から腕を外した。一瞬だけ僕に視線を向けて微笑んだ兄様はそのまま会場を見回すようにしてもう一度お辞儀をする。僕はその隣の少しだけ後ろに立って同じように一礼した。
「本日はお忙しい中、私アルフレッド・グランデス・フィンレーとエドワード・フィンレー・グリーンベリーの婚約式にお集まりくださいまして有難うございます。立会人のニールデン公爵様並びにスタンリー公爵様と共に、皆様にも婚約を見届けて、祝福していただければ幸いです。よろしくお願い致します」
そうしてまた一緒にお辞儀。よし、ちょっと感激して涙が出ちゃったけれど、ここまでは何とか出来た。次は立会人のお二人からの言葉をいただいて、用意をされている婚約の書類にサインをする。そしてそのサインを立会人のお二人が確認をして「認めます」って言って貰ったら婚約は認められて、僕と兄様は婚約者って言う事になるんだ。
ニールデン様がお祝いの言葉と素敵な瞬間に立ち会えて感謝しますというお話をして下さった。ニコニコしてとても優しそうな方だった。
ジェイムズ君のお父様のスタンリー様は、長年思い合っていた二人がと言って、思わず赤くなったら兄様が笑みを浮かべたままそっと僕の手を握り締めたから、更に顔が熱くなった。
「ではこちらの婚約証にサインを」
用意をされていた羊皮紙にはすでに婚約しますというような文字が書かれていて、後は僕と兄様がそれぞれに名前を書くだけになっている。
手を繋いだまま婚約書の台の所まで一緒に進んで、それからそっと手が離されて、兄様が先にサインをした。
そして。
「はい、エディの番」
振り向いた時に聞こえた小さな声。台の上の羊皮紙にはたった今書かれた兄様の名前がある。
間違えないように何度も練習したんだ。グリーンベリーって書き忘れないように。練習に付き合ってくれた兄様が笑い出してしまうほど何度も何度も練習したから大丈夫。大丈夫なんだけど……
「……っ……」
ペンを持つ手が震えてどうしようって思った。いやだ、こんな所で失敗なんてしたくないし、もしかしたらサインをしたくないんじゃないかなんて思われたらどうしよう。サインをする時は一人だけの決まりだ。それは無理矢理サインをさせられるような事が出来ないようにと決まっている。だから兄様は来てはくれない。
そう思った瞬間。ニールデン様がコソリと呟いた。
「大丈夫ですよ。エドワード様。一つ大きく息を吸って、吐きましょう。そうすれば落ち着きが戻ってきますよ」
その言葉に従って僕大きく深呼吸をした。何だか一番最初の魔力を回す訓練みたいだって思ったらおかしくなった。そして。
ペンを持つ手の震えが止まって僕は練習をしたように自分の名前をそこに記して思わずほぅっと息を吐く。
すかさず兄様が隣に来てくれた。
「ドキドキしたけど、書けました」
「うん。頑張ったね」
再びギュッて握られた手。
「アルフレッド様の婚約の印を認めます」
スタンリー卿が静かにそう言った。
「エドワード様の婚約の印を認めます」
ふわりと笑ってニールデン卿がそう言った。
「立会人の元、二人の婚約が認められました。皆様末永く二人をよろしくお願いいたします」
父様がそう宣言をして、会場が「おめでとうございます」と声を上げた。
「エディ、これからもよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
そうして食事が始まった中、僕達はテーブル席を回って挨拶をする事になった。
皆が「おめでとう」って言ってくれて、隣には兄様がいて、そうして沢山挨拶をした。
マーティン君達にからかわれて、エリック君の婚約者を紹介されて、トーマス君の所に来た時に「次はトーマス君だね」って言ったらものすごく赤い顔をして「うん」って言っていた。ウィルとハリーは「素敵でした!」って何度も言っていた。何だか二人とも目が赤い気がしたよ。そうして一番最後に父様と母様の前に来て「ありがとうございました」ってお辞儀をしたら、母様が「二人とも頑張りました」って泣いていた。
ふふふ、二人が涙もろいのは母様に似たのかな。でも、僕も嬉しくて泣いてしまったから、僕もやっぱり母様に似ているなって思った。とても幸せな、大事な日になった。
無事婚約式が終わった後に、会場では食べる事が出来なかった食事を本邸の小サロンで兄様と一緒にとった。
せっかくだったから、婚約式の洋服のままで食事をする事にしたよ。
「もう慣れたから照れないね」って言うから「まだほんとはドキドキします」って答えたら、兄様は嬉しそうに笑いながら「じゃあ結婚式もエディの色を着ようかな」って。
「そうしたら式の間じゅうドキドキしっぱなしになってしまいますよ」
「大丈夫、今回の反省を生かして出来上がった衣装を着て見せ合う事にしよう」
その言葉に「はい」って答えたけれど、きっと何度でもドキドキしちゃうんだろうなって僕は思った。
食事はとても美味しかった。皆も喜んでくれて本当に良かったなって思いながらシェフたちに感謝をしながら頑張って食べたよ。本当に昔に比べたら沢山食べられるようになったなって思う。
「一日でこんなに沢山のおめでとうを言われたのは初めてです」
「そうだね、でもきっと結婚式はもっと沢山言われるよ。今日はあまり招かなかったグリーンベリーの方からも呼ぶようになるだろうし。でも大丈夫。今度は一人ずつサインをする事はないからね。ずっと一緒にいられる」
「はい」
そうなんだ。また色々と教えていただいたり、練習をさせてもらったりしよう。僕は胸の中でそう思いながら目の前の兄様を見て笑った。
デザートのケーキと紅茶が出されて、クリームの上にお菓子で作られた緑と赤のイチゴが乗っていて思わず笑みが浮かんでしまった。
「きっとシェフが考えてくれたんですね。ふふふ、美味しい」
母様が言っていた緑のイチゴと赤いイチゴ。今日のそれは甘いお菓子で作られているからどちらも甘くて美味しいな。そう思いながら口に入れると。兄様がそっと口を開いた。
「早く、結婚式がきたらいいのにね」
「兄様?」
「ふふふ、そうしたら兄様ではなくなるね。エディになんて呼んでもらおうかな」
「あ……」
そそそそそうだった。結婚したら兄様は兄様ではなくなるんだ。ええっと……
「残念ながらまだ一年以上あるからゆっくり考えて? でもその前に、今日の記念をもらってもいい?」
「記念?」
「そう、エドワード・フィンレー・グリーンベリー伯爵」
「は、はい!」
「婚約の記念に私と踊っていただけますか?」
「へ? え? こ、ここで、ですか?」
「そう、ほら、こんなものを手に入れたんだ」
そう言うと兄様はテーブルの上にコトリと小さな箱を出した。そしてそれに小さな魔石を一つ取り付けて箱の蓋を開ける。すると……
「お、音楽が聞こえてきました!」
それはルフェリットでは一番最初に習うようなダンスの曲だった。
「よろしくお願いいたします」
横に来て、差し伸べられた手。
「よ、喜んでお受けいたします」
僕はゆっくりと兄様の手を取った。
小さな美しい箱型の魔道具から鳴る曲に合わせて僕たちは踊る。曲はそれほど長いものではなくて、すぐに終わってしまった。
ゆっくりとお辞儀をして僕はそっとその手を離そうとして抱き寄せられる。
「ありがとう、エディ」
「あ、僕こそ、ありがとうございます。素敵な一日になりました。こ、婚約者として、これからもどうぞよろしくお願いします」
腕の中で顔を見上げながらそう言うと兄様はふわりと笑った。そして。
「うん。よろしくね、エディ。私の婚約者様」
そう言って重ねられた唇はやっぱり甘くて。
「愛しているよ、エディ」
「は、はい。僕も……愛してます……にい……えっと、えっと」
何ていったらいいのか分からなくてグリーンのコートの背中に回した手で思わずギュッとしがみつくようにしたら、二度目の口づけが落ちてきた。
-----------
ふふふ、分けずにバーンと4300文字♪
やっとここまで(゜-Å) ホロリ
別棟は一階に大きなサロンといくつかの応接室。そして転移の為のお部屋がある。2階には大勢の人が集まる事が出来るホールがあって、更にその上には宿泊をされる方のお部屋があるんだ。勿論親しい人は本館の方にも泊まれるようになっているよ。今回はお祖父様たちが前日からいらして宿泊をされた。新しい公爵領のお話も聞けたよ。その内遊びに行きたいなって思った。
「さて、いよいよ二人の婚約式が始まるよ。先ほど母様が言ったように一生に一度の日だからね。良い日になるように願っているよ」
「はい、ありがとうございます」
「はい、父様、ありがとうございます。良い日にします」
「うん。そうだね。では、テオが合図をしたら入ってきなさい」
そう言って父様は一足先に会場のホールの中に入っていった。今日はいらしてくださってありがとうって伝えて、僕達の婚約式を始めますって挨拶をして下さる。そして僕たちが一緒にホールへ入っていく段取りだ。
先ほどのドキドキとはまた違ったドキドキを感じながら僕は息を大きく吸って、吐く。
「エディ」
「はい」
「一緒にいるから大丈夫だよ」
「はい。そうでした」
そうだ。隣には兄様がいる。僕を見て、大好きな微笑みを浮かべている兄様と一緒にいるんだから大丈夫。
「大好きだよ、エディ」
「はい。僕も兄様が大好きです。ずっとずっと、大好き」
「うん。幸せになろう」
「はい」
そう返事をした途端、テオが横から「いってらっしゃいませ」と声をかけてきて、扉が開いた。
わっというような沸き立つ声に迎えられるようにして僕と兄様は腕を組んだまま一つお辞儀をしてからホールの中に入った。真っ直ぐに前を見て、転ばないように、気を付けて。
「大丈夫だよ。転びそうになったらちゃんと助けてあげるから、そんなに緊張しないで」
こっそりと兄様にそう言われて、僕はちょっとだけ笑ってしまった。
「そうそう。ほら、父上も笑っているよ」
壇上では兄様が言っている通りに父様と母様が僕たちが来るのを待っている。それを見て、もう一度隣を歩く兄様を見て小さく「はい」って返事をした。
そんなに遠くないのに、ちょっと時間がかかってしまったけれど、作られたひな壇の下で父様達にお辞儀をして、それから立会人のニールデン卿とスタンリー卿にもお辞儀をしてからひな壇の上に上がった。
そしてゆっくりと会場の方に顔を向けて、お辞儀をして顔を上げると、ニコニコとしている皆の顔が見えて、その瞬間ブワッと視界が滲んだ。
「エディ?」
「ごめ、ごめんなさい。皆の顔が見えたら何だかちょっと嬉しくなっちゃって」
涙が浮かんだ僕の目を兄様がサッとハンカチで拭くと、父様が苦笑して、母様は僕と一緒になって目を潤ませていた。
「さて、二人とも少し落ち着いたかな。では、アルフレッド皆様にご挨拶を」
「はい」
その返事と一緒に僕は兄様から腕を外した。一瞬だけ僕に視線を向けて微笑んだ兄様はそのまま会場を見回すようにしてもう一度お辞儀をする。僕はその隣の少しだけ後ろに立って同じように一礼した。
「本日はお忙しい中、私アルフレッド・グランデス・フィンレーとエドワード・フィンレー・グリーンベリーの婚約式にお集まりくださいまして有難うございます。立会人のニールデン公爵様並びにスタンリー公爵様と共に、皆様にも婚約を見届けて、祝福していただければ幸いです。よろしくお願い致します」
そうしてまた一緒にお辞儀。よし、ちょっと感激して涙が出ちゃったけれど、ここまでは何とか出来た。次は立会人のお二人からの言葉をいただいて、用意をされている婚約の書類にサインをする。そしてそのサインを立会人のお二人が確認をして「認めます」って言って貰ったら婚約は認められて、僕と兄様は婚約者って言う事になるんだ。
ニールデン様がお祝いの言葉と素敵な瞬間に立ち会えて感謝しますというお話をして下さった。ニコニコしてとても優しそうな方だった。
ジェイムズ君のお父様のスタンリー様は、長年思い合っていた二人がと言って、思わず赤くなったら兄様が笑みを浮かべたままそっと僕の手を握り締めたから、更に顔が熱くなった。
「ではこちらの婚約証にサインを」
用意をされていた羊皮紙にはすでに婚約しますというような文字が書かれていて、後は僕と兄様がそれぞれに名前を書くだけになっている。
手を繋いだまま婚約書の台の所まで一緒に進んで、それからそっと手が離されて、兄様が先にサインをした。
そして。
「はい、エディの番」
振り向いた時に聞こえた小さな声。台の上の羊皮紙にはたった今書かれた兄様の名前がある。
間違えないように何度も練習したんだ。グリーンベリーって書き忘れないように。練習に付き合ってくれた兄様が笑い出してしまうほど何度も何度も練習したから大丈夫。大丈夫なんだけど……
「……っ……」
ペンを持つ手が震えてどうしようって思った。いやだ、こんな所で失敗なんてしたくないし、もしかしたらサインをしたくないんじゃないかなんて思われたらどうしよう。サインをする時は一人だけの決まりだ。それは無理矢理サインをさせられるような事が出来ないようにと決まっている。だから兄様は来てはくれない。
そう思った瞬間。ニールデン様がコソリと呟いた。
「大丈夫ですよ。エドワード様。一つ大きく息を吸って、吐きましょう。そうすれば落ち着きが戻ってきますよ」
その言葉に従って僕大きく深呼吸をした。何だか一番最初の魔力を回す訓練みたいだって思ったらおかしくなった。そして。
ペンを持つ手の震えが止まって僕は練習をしたように自分の名前をそこに記して思わずほぅっと息を吐く。
すかさず兄様が隣に来てくれた。
「ドキドキしたけど、書けました」
「うん。頑張ったね」
再びギュッて握られた手。
「アルフレッド様の婚約の印を認めます」
スタンリー卿が静かにそう言った。
「エドワード様の婚約の印を認めます」
ふわりと笑ってニールデン卿がそう言った。
「立会人の元、二人の婚約が認められました。皆様末永く二人をよろしくお願いいたします」
父様がそう宣言をして、会場が「おめでとうございます」と声を上げた。
「エディ、これからもよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
そうして食事が始まった中、僕達はテーブル席を回って挨拶をする事になった。
皆が「おめでとう」って言ってくれて、隣には兄様がいて、そうして沢山挨拶をした。
マーティン君達にからかわれて、エリック君の婚約者を紹介されて、トーマス君の所に来た時に「次はトーマス君だね」って言ったらものすごく赤い顔をして「うん」って言っていた。ウィルとハリーは「素敵でした!」って何度も言っていた。何だか二人とも目が赤い気がしたよ。そうして一番最後に父様と母様の前に来て「ありがとうございました」ってお辞儀をしたら、母様が「二人とも頑張りました」って泣いていた。
ふふふ、二人が涙もろいのは母様に似たのかな。でも、僕も嬉しくて泣いてしまったから、僕もやっぱり母様に似ているなって思った。とても幸せな、大事な日になった。
無事婚約式が終わった後に、会場では食べる事が出来なかった食事を本邸の小サロンで兄様と一緒にとった。
せっかくだったから、婚約式の洋服のままで食事をする事にしたよ。
「もう慣れたから照れないね」って言うから「まだほんとはドキドキします」って答えたら、兄様は嬉しそうに笑いながら「じゃあ結婚式もエディの色を着ようかな」って。
「そうしたら式の間じゅうドキドキしっぱなしになってしまいますよ」
「大丈夫、今回の反省を生かして出来上がった衣装を着て見せ合う事にしよう」
その言葉に「はい」って答えたけれど、きっと何度でもドキドキしちゃうんだろうなって僕は思った。
食事はとても美味しかった。皆も喜んでくれて本当に良かったなって思いながらシェフたちに感謝をしながら頑張って食べたよ。本当に昔に比べたら沢山食べられるようになったなって思う。
「一日でこんなに沢山のおめでとうを言われたのは初めてです」
「そうだね、でもきっと結婚式はもっと沢山言われるよ。今日はあまり招かなかったグリーンベリーの方からも呼ぶようになるだろうし。でも大丈夫。今度は一人ずつサインをする事はないからね。ずっと一緒にいられる」
「はい」
そうなんだ。また色々と教えていただいたり、練習をさせてもらったりしよう。僕は胸の中でそう思いながら目の前の兄様を見て笑った。
デザートのケーキと紅茶が出されて、クリームの上にお菓子で作られた緑と赤のイチゴが乗っていて思わず笑みが浮かんでしまった。
「きっとシェフが考えてくれたんですね。ふふふ、美味しい」
母様が言っていた緑のイチゴと赤いイチゴ。今日のそれは甘いお菓子で作られているからどちらも甘くて美味しいな。そう思いながら口に入れると。兄様がそっと口を開いた。
「早く、結婚式がきたらいいのにね」
「兄様?」
「ふふふ、そうしたら兄様ではなくなるね。エディになんて呼んでもらおうかな」
「あ……」
そそそそそうだった。結婚したら兄様は兄様ではなくなるんだ。ええっと……
「残念ながらまだ一年以上あるからゆっくり考えて? でもその前に、今日の記念をもらってもいい?」
「記念?」
「そう、エドワード・フィンレー・グリーンベリー伯爵」
「は、はい!」
「婚約の記念に私と踊っていただけますか?」
「へ? え? こ、ここで、ですか?」
「そう、ほら、こんなものを手に入れたんだ」
そう言うと兄様はテーブルの上にコトリと小さな箱を出した。そしてそれに小さな魔石を一つ取り付けて箱の蓋を開ける。すると……
「お、音楽が聞こえてきました!」
それはルフェリットでは一番最初に習うようなダンスの曲だった。
「よろしくお願いいたします」
横に来て、差し伸べられた手。
「よ、喜んでお受けいたします」
僕はゆっくりと兄様の手を取った。
小さな美しい箱型の魔道具から鳴る曲に合わせて僕たちは踊る。曲はそれほど長いものではなくて、すぐに終わってしまった。
ゆっくりとお辞儀をして僕はそっとその手を離そうとして抱き寄せられる。
「ありがとう、エディ」
「あ、僕こそ、ありがとうございます。素敵な一日になりました。こ、婚約者として、これからもどうぞよろしくお願いします」
腕の中で顔を見上げながらそう言うと兄様はふわりと笑った。そして。
「うん。よろしくね、エディ。私の婚約者様」
そう言って重ねられた唇はやっぱり甘くて。
「愛しているよ、エディ」
「は、はい。僕も……愛してます……にい……えっと、えっと」
何ていったらいいのか分からなくてグリーンのコートの背中に回した手で思わずギュッとしがみつくようにしたら、二度目の口づけが落ちてきた。
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