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第9章   幸せになります

361. 叙爵式

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「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。今回はかなりの人数になるので、前にも言ったけれど簡略化されている事も多いからね」
 王城に向かう馬車の中で父様から苦笑しながら言われて、僕は「はい」と返事をした。
 本当なら一人一人名前を呼ばれて陛下の前で礼をとり、爵位の授与のお言葉を頂き、更に領地を拝領するお言葉もあって、それぞれに羊皮紙に書かれた書面を戴くんだけど、今回は同じ家の人はまとめて呼ばれて、横並びで待つ事になった。そして爵位と領地と両方共拝領する場合は爵位及び領地と告げられて、書面も一緒に戴く。
 ちょっとした事かもしれないけれど、これだけでも随分時間が短縮出来るんだって。さすがに褒賞だけの人も一緒にすると大変なので、そちらは別日に。
 今回公爵の爵位を受けるのは三人。シルヴァン様とスタンリー様と父様。この三家は一緒に謁見の間に通される。
 最初にシルヴァン様が、次にスタンリー様が、そして僕は父様と一緒に御前に進んで、先に父様が、その次に僕が呼ばれて授与されるんだって。
 すぐなのはドキドキするけど、ずっと緊張して待っているよりはずっと良い。

 お城に着いて、待つためのお部屋に通されてホッと息をつくと兄様が顔を見せてくれた。

「エディ、大丈夫だよ。練習通りにね」

 今日はシルヴァン様の側近のお仕事として登城している。

「貴族服も良く似合っている。父上と一緒だし、そんなに緊張しないで。私も後ろの方で応援しているよ」
「ありがとうございます、アル兄様。頑張ります」

 僕がそう答えると兄様は笑って頷いて「また後でね」と戻っていった。

 そうしていよいよ式典が始まり、僕達は謁見の間に移動した。重厚な扉が開かれてシルヴァン殿下、スタンリー様が部屋の中に入る。

「エドワード、行くよ」
「はい、父上」

 返事をして僕は父様に続いて謁見の間に入り、中央少し後ろの方まで進み、片膝をついた。まだ顔を上げたらいけない。
 宰相様のこれから陞爵及び叙爵の授与を行いますという内容の言葉があって、国王陛下から「面を上げよ」と声がかかる。だけどこれでも上げたらダメなんだって。

「この度の厄災に関わる様々な事象に対しての大きな働き、感謝する。無事禍が収まった事を祝い、ここに爵位を授与し、領地を与える。皆、今後とも王国のために尽くしてほしい」

 陛下のお言葉に全員が「御意」って答えた。そうして陛下はもう一度「面を上げよ」と仰って、僕達はようやく顔を上げた。

 前方の玉座には、王家の印と言われるプラチナブロンドの髪を持つ王。一度お会いしている筈なんだけど、あの時は緊張や気持ちの悪さと、怖いと言う気持ちの方が大きくてあまり記憶が無い。

 そんな事を思っているうちに陞爵の授与が始まった。シルヴァン様の名前が呼ばれて陛下の前に進み出て跪く。殿下の場合は陞爵ではなく、正確には臣籍降下。王室から離れ、一臣下となって王国を支えていく存在となる。殿下自身が望んだ事だった。ふとルシルとはどうなったのかなって思ったけれど、今はそんな事を考えている場合ではないと頭からそれを追い出した。
 そう。今はとにかく間違いがなく、この式典を乗り切らなくては!

 父様は時々心配そうに僕に視線を向けてくれる。
 陛下の御前なのでさすがにこちらに顔を向ける事は出来ないものね。僕も大丈夫ですって頷き返す事は出来ないけれど、お忙しい中教えて下さった父様や、何度も練習に付き合って下さった兄様のためにもしっかりしないといけない。きっとこの部屋の後ろの方で、シルヴァン様の側近として兄様も見ていてくださるから。

 式は進み、スタンリー様の授与が終わり、いよいよ僕と父様の番になった。

「ディヴィット・グランデス・フィンレー、並びにエドワード・フィンレー」
「はい」

 名前を呼ばれて僕たちは陛下の前に進み、再び跪いた。

「デイヴィット、この度の数々の働き、心より感謝をする」
「もったいないお言葉でございます」
「そう畏まるな。ふふふ、今回も無理を通した。力になってくれ」
「御意」

 そんなやり取りの後で父様は公爵位と領地を授与されて、更に褒賞として父様が倒したワイバーンの素材と魔石、そして大金貨が渡された。

「叙爵、エドワード、フィンレー」
「はい」

 さあ、僕の番だ。父様がちらりと僕を見た。その目が「大丈夫」って言っている。
 僕は陛下の前に進み、跪いた。

「この度のスタンピードでの働きと、祖父カルロスと共にエターナルレディの薬草の栽培、ポーションの開発など、多岐に渡り王国に力を尽くしてくれた事を感謝する」
「身に余るお言葉をいただきましてありがとうございます」
「その力を王国のためにだけ使って欲しいとは言わん。勿論囲うつもりも無い。力はそなた自身のもの。私もそれを忘れない。新しい領地でも自由に過ごして欲しい」

 そう言ってふわりと笑った顔に、僕は一瞬だけ呆然として「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
 これは陛下なりの約束というか、他者への牽制なのかもしれないなと思った。
 本当はもっと難しい言葉で礼を取らなければいけなかったかもしれないけれど、今の僕にはそれが精一杯だった。

 そうして伯爵位を受け、領地を授与され、褒賞としてマルコシアスの他にいくつもの魔石と大金貨を頂いた。上手く全てを持つ事が出来ずにいると、父様が隣に来て手を貸してくれた。陛下はそれを見て、楽しそうに笑いながら再び口を開いた。

「新しい領地の名前は決めているか?」
「ま、まだです」
「好きな名前をつけていい。決まったら届出なさい。それが伯爵家の家名になる」
「はい」
「なんでもいいんだよ」
 
 そうか。自分で好きな名前を考えていいんだ。

「好きな物とかの名前でもいい。何か思いつくものはあるかな」

 好きな物……

「マカロ……」
「エドワード! 帰ってからじっくり考えて届け出よう! 今決めなくても大丈夫だ」

 父様の声にハッとして、僕は「そのように致します。ありがとうございます」と頭を下げた。
 父様はホッとしたように息をつき、陛下と、式典を進行している宰相様は明らかに笑っていた。

 あれ? もしかしてから揶揄われたのかな? いやいや、陛下が僕を揶揄うわけないよね。
 まぁいいや、とりあえずこうして僕は無事伯爵位と領地を授かった。

 扉を出たら兄様が待っていて下さって「おめでとう」って言ってくれた。一緒にいたに皆様も「おめでとう」って言ってくれたけど、何故かマーティン君とダニエル君が笑いを堪えたような顔をしていて、ニールデン様もいつもとは少し違う何かを我慢している? 感じで、ジェイムズ君は「さすがエディだ! 叙爵の祝いの品は王都で評判のマカロンにしよう」と言った。
 うん? なんでマカロンなのかな。でも大好きだから嬉しいな。

「ありがとうございます、ジェイムズ様」

 父様が呼んでいるので僕は皆様に、お辞儀をしてそこから離れた。
 後ろから楽しそうな笑い声が聞こえた。



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ふふふ(*´艸`)考えていた台詞、書けました🎶

あわや「マカロン伯爵家爆誕」
(oˆ罒ˆo)
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