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第9章   幸せになります

358. 貴族服と騎士服

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『叙爵式の服が出来たので合わせにいらっしゃい。ついでに婚約式の服も相談しましょう』

 母様からの書簡が来た。そうだよね。兄様から言われていたものね。叙爵式はもう来週だからギリギリだし、婚約式ももう六の月だから、服の事だけじゃなくて、誰を招くというのも決めないといけないんだよね。でもその辺りは父様が決めるんじゃないのかな。僕と兄様で決めると親戚とお友達になっちゃうけど、それでいいのかな。

 学園は結局お休みしているので、兄様に合わせてフィンレーに行くと、母様がやってきた。

「やっと来たわね。間に合わなくなったらどうしようかと思ったわ。とにかく先に合わせますよ」

 そう言われて僕達は大きめの応接室に向かった。中にはすでにいつものテーラーが来ていて「お待ちしておりました」と言われた。
 今度の叙爵式は貴族服というものを着用する事になる。騎士服や普通のスーツのようなものではなく、コートとウエストコート、ブリーチズに膝までの白い絹靴下、ジャボと袖口飾りが付いたシャツにクラヴァット。ちなみにクラヴァットに留めるピンはアクアマリンの石がついたものだ。

「ヒラヒラも刺繍もすごいです……」
「でもこれでも簡素になったのよ。昔はもっと凄かったのよ~。金糸も銀糸も使って宝石までつけてキラキラでね。お祖父様の更にお祖父様のお洋服というのを見せていただいた事があるんだけれど、凄いの一言でしたよ」

 母様が凄いって言うなら本当に凄いんだろうなって思ったよ。それに聞いているだけで重そうだ。

「着てごらんなさい。直すような所があれば急がないと」

 そう言われて僕と兄様はメイド達とテーラーの人達に囲まれるようにして、立てられた衝立の後ろでものすごい勢いで着替えをさせられた。とにかくきちんとした貴族服なんて初めてだから何が何だか分からなくて、クラヴァットが苦しくて涙目になった。
 そうしてどうにかこうにか着替えが終わり、首も苦しくないように直してもらって、アクアマリンのついたピンを留めて母様の前に出た。

「まぁ! とても似合いますよ。ふふふ、この柔らかなペールグリーンのコートは正解でしたね。袖の返しとウエストコートの刺繍も華美にならず、品が良くて素敵ね」
「貴族服は初めてです」
「そうね。でも似合っていますよ。刺繍は植物のモチーフでやっぱり良かった」

 母様と話していると向こうの衝立の後ろから兄様が出てきた。
 
「ふふふ、ますます父上に似てきたわね」
「身長は追いつきましたよ」
「あら、そう」

  兄様がにっこり笑ってそう言ったので僕は「え! そうなんですか!?」と思わず声を上げてしまった。そんな、父様と兄様が同じ身長なんて。ズルい。どうして僕は伸びないの?

「エディ、良く似合っているよ」
「あり、ありがとうございます。兄様は今、どれくらいあるんですか?」
「うん? ああ、身長? 190くらいかな」
「兄様は学園を卒業してからも伸びているのですね」
「エディもこれからかもしれないよ? ほら、そんな顔をしていないで良く見せて? せっかくの貴族服なんだから。ああ、いいね。とても似合っている」
「ヒラヒラがいっぱいですが、大丈夫でしょうか」
「うん。大丈夫だよ。これくらいないと淋しくなってしまうからね」

 兄様に言われて僕は大きな姿見の前に行った。

「ほら、カッコいいし、派手過ぎず、だけど華やかで、若い領主という感じだね」
「ありがとうございます。えっと兄様は……どうして貴族服ではないのですか?」
 
 そうなんだ、兄様は騎士服を着ている。濃紺のマントはとてもかっこよくて、中も普通の騎士服よりも飾りのある感じの華やかさがあって、襟とかマントとかに綺麗な刺繍がしてあるけれど……

「ああ、私は爵位ではなく、褒賞だけだからね。ふふふ、でもお揃いだね」

 兄様の襟元にはペリドットのピンが留められていた。

「はい。えっと、あの、言うのが遅くなったけど、兄様もカッコいいです。すごく、カッコいいです!」
「ありがとう、エディ」

 兄様はそう言って、そっと僕の髪に口づけた。

「さぁ、じゃあ、式典用の服はこれで大丈夫ね。そうしたら次は婚約式の服ね」

 母様の言葉に僕はハッとして兄様から離れた。周りには母様も、テーラーの人達も、メイド達もいたんだ。

「着替えてきます!」
「そうね。お茶でも飲みながらお話ししましょう」
「はい」

 返事をして衝立の方に向かった僕の耳に……

「アル、よく我慢しましたね」
「忍耐力は誰にも負けないような気がしますよ」
「ではもう少し頑張りなさい」
「…………まぁ、徐々に、という事にさせていただきたいと」
「そうねぇ。それがいいかもしれないわね」
「はい。では私も着替えてまいります」

 少し声を抑えたような母様と兄様の会話が聞こえてきたけれど、僕には何の事かさっぱり分からなかった。



 婚約式は、せっかくだからって、貴族服で行う事になった。
 母様が「今度はもう少し派手な感じにしてもいいわね」って言って、兄様が「お手柔らかに」って笑った。
 僕は兄様の貴族服が見られるんだなって楽しみになった。


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兄様、がんばれ
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