253 / 335
第9章 幸せになります
358. 貴族服と騎士服
しおりを挟む
『叙爵式の服が出来たので合わせにいらっしゃい。ついでに婚約式の服も相談しましょう』
母様からの書簡が来た。そうだよね。兄様から言われていたものね。叙爵式はもう来週だからギリギリだし、婚約式ももう六の月だから、服の事だけじゃなくて、誰を招くというのも決めないといけないんだよね。でもその辺りは父様が決めるんじゃないのかな。僕と兄様で決めると親戚とお友達になっちゃうけど、それでいいのかな。
学園は結局お休みしているので、兄様に合わせてフィンレーに行くと、母様がやってきた。
「やっと来たわね。間に合わなくなったらどうしようかと思ったわ。とにかく先に合わせますよ」
そう言われて僕達は大きめの応接室に向かった。中にはすでにいつものテーラーが来ていて「お待ちしておりました」と言われた。
今度の叙爵式は貴族服というものを着用する事になる。騎士服や普通のスーツのようなものではなく、コートとウエストコート、ブリーチズに膝までの白い絹靴下、ジャボと袖口飾りが付いたシャツにクラヴァット。ちなみにクラヴァットに留めるピンはアクアマリンの石がついたものだ。
「ヒラヒラも刺繍もすごいです……」
「でもこれでも簡素になったのよ。昔はもっと凄かったのよ~。金糸も銀糸も使って宝石までつけてキラキラでね。お祖父様の更にお祖父様のお洋服というのを見せていただいた事があるんだけれど、凄いの一言でしたよ」
母様が凄いって言うなら本当に凄いんだろうなって思ったよ。それに聞いているだけで重そうだ。
「着てごらんなさい。直すような所があれば急がないと」
そう言われて僕と兄様はメイド達とテーラーの人達に囲まれるようにして、立てられた衝立の後ろでものすごい勢いで着替えをさせられた。とにかくきちんとした貴族服なんて初めてだから何が何だか分からなくて、クラヴァットが苦しくて涙目になった。
そうしてどうにかこうにか着替えが終わり、首も苦しくないように直してもらって、アクアマリンのついたピンを留めて母様の前に出た。
「まぁ! とても似合いますよ。ふふふ、この柔らかなペールグリーンのコートは正解でしたね。袖の返しとウエストコートの刺繍も華美にならず、品が良くて素敵ね」
「貴族服は初めてです」
「そうね。でも似合っていますよ。刺繍は植物のモチーフでやっぱり良かった」
母様と話していると向こうの衝立の後ろから兄様が出てきた。
「ふふふ、ますます父上に似てきたわね」
「身長は追いつきましたよ」
「あら、そう」
兄様がにっこり笑ってそう言ったので僕は「え! そうなんですか!?」と思わず声を上げてしまった。そんな、父様と兄様が同じ身長なんて。ズルい。どうして僕は伸びないの?
「エディ、良く似合っているよ」
「あり、ありがとうございます。兄様は今、どれくらいあるんですか?」
「うん? ああ、身長? 190くらいかな」
「兄様は学園を卒業してからも伸びているのですね」
「エディもこれからかもしれないよ? ほら、そんな顔をしていないで良く見せて? せっかくの貴族服なんだから。ああ、いいね。とても似合っている」
「ヒラヒラがいっぱいですが、大丈夫でしょうか」
「うん。大丈夫だよ。これくらいないと淋しくなってしまうからね」
兄様に言われて僕は大きな姿見の前に行った。
「ほら、カッコいいし、派手過ぎず、だけど華やかで、若い領主という感じだね」
「ありがとうございます。えっと兄様は……どうして貴族服ではないのですか?」
そうなんだ、兄様は騎士服を着ている。濃紺のマントはとてもかっこよくて、中も普通の騎士服よりも飾りのある感じの華やかさがあって、襟とかマントとかに綺麗な刺繍がしてあるけれど……
「ああ、私は爵位ではなく、褒賞だけだからね。ふふふ、でもお揃いだね」
兄様の襟元にはペリドットのピンが留められていた。
「はい。えっと、あの、言うのが遅くなったけど、兄様もカッコいいです。すごく、カッコいいです!」
「ありがとう、エディ」
兄様はそう言って、そっと僕の髪に口づけた。
「さぁ、じゃあ、式典用の服はこれで大丈夫ね。そうしたら次は婚約式の服ね」
母様の言葉に僕はハッとして兄様から離れた。周りには母様も、テーラーの人達も、メイド達もいたんだ。
「着替えてきます!」
「そうね。お茶でも飲みながらお話ししましょう」
「はい」
返事をして衝立の方に向かった僕の耳に……
「アル、よく我慢しましたね」
「忍耐力は誰にも負けないような気がしますよ」
「ではもう少し頑張りなさい」
「…………まぁ、徐々に、という事にさせていただきたいと」
「そうねぇ。それがいいかもしれないわね」
「はい。では私も着替えてまいります」
少し声を抑えたような母様と兄様の会話が聞こえてきたけれど、僕には何の事かさっぱり分からなかった。
婚約式は、せっかくだからって、貴族服で行う事になった。
母様が「今度はもう少し派手な感じにしてもいいわね」って言って、兄様が「お手柔らかに」って笑った。
僕は兄様の貴族服が見られるんだなって楽しみになった。
------------------
兄様、がんばれ
母様からの書簡が来た。そうだよね。兄様から言われていたものね。叙爵式はもう来週だからギリギリだし、婚約式ももう六の月だから、服の事だけじゃなくて、誰を招くというのも決めないといけないんだよね。でもその辺りは父様が決めるんじゃないのかな。僕と兄様で決めると親戚とお友達になっちゃうけど、それでいいのかな。
学園は結局お休みしているので、兄様に合わせてフィンレーに行くと、母様がやってきた。
「やっと来たわね。間に合わなくなったらどうしようかと思ったわ。とにかく先に合わせますよ」
そう言われて僕達は大きめの応接室に向かった。中にはすでにいつものテーラーが来ていて「お待ちしておりました」と言われた。
今度の叙爵式は貴族服というものを着用する事になる。騎士服や普通のスーツのようなものではなく、コートとウエストコート、ブリーチズに膝までの白い絹靴下、ジャボと袖口飾りが付いたシャツにクラヴァット。ちなみにクラヴァットに留めるピンはアクアマリンの石がついたものだ。
「ヒラヒラも刺繍もすごいです……」
「でもこれでも簡素になったのよ。昔はもっと凄かったのよ~。金糸も銀糸も使って宝石までつけてキラキラでね。お祖父様の更にお祖父様のお洋服というのを見せていただいた事があるんだけれど、凄いの一言でしたよ」
母様が凄いって言うなら本当に凄いんだろうなって思ったよ。それに聞いているだけで重そうだ。
「着てごらんなさい。直すような所があれば急がないと」
そう言われて僕と兄様はメイド達とテーラーの人達に囲まれるようにして、立てられた衝立の後ろでものすごい勢いで着替えをさせられた。とにかくきちんとした貴族服なんて初めてだから何が何だか分からなくて、クラヴァットが苦しくて涙目になった。
そうしてどうにかこうにか着替えが終わり、首も苦しくないように直してもらって、アクアマリンのついたピンを留めて母様の前に出た。
「まぁ! とても似合いますよ。ふふふ、この柔らかなペールグリーンのコートは正解でしたね。袖の返しとウエストコートの刺繍も華美にならず、品が良くて素敵ね」
「貴族服は初めてです」
「そうね。でも似合っていますよ。刺繍は植物のモチーフでやっぱり良かった」
母様と話していると向こうの衝立の後ろから兄様が出てきた。
「ふふふ、ますます父上に似てきたわね」
「身長は追いつきましたよ」
「あら、そう」
兄様がにっこり笑ってそう言ったので僕は「え! そうなんですか!?」と思わず声を上げてしまった。そんな、父様と兄様が同じ身長なんて。ズルい。どうして僕は伸びないの?
「エディ、良く似合っているよ」
「あり、ありがとうございます。兄様は今、どれくらいあるんですか?」
「うん? ああ、身長? 190くらいかな」
「兄様は学園を卒業してからも伸びているのですね」
「エディもこれからかもしれないよ? ほら、そんな顔をしていないで良く見せて? せっかくの貴族服なんだから。ああ、いいね。とても似合っている」
「ヒラヒラがいっぱいですが、大丈夫でしょうか」
「うん。大丈夫だよ。これくらいないと淋しくなってしまうからね」
兄様に言われて僕は大きな姿見の前に行った。
「ほら、カッコいいし、派手過ぎず、だけど華やかで、若い領主という感じだね」
「ありがとうございます。えっと兄様は……どうして貴族服ではないのですか?」
そうなんだ、兄様は騎士服を着ている。濃紺のマントはとてもかっこよくて、中も普通の騎士服よりも飾りのある感じの華やかさがあって、襟とかマントとかに綺麗な刺繍がしてあるけれど……
「ああ、私は爵位ではなく、褒賞だけだからね。ふふふ、でもお揃いだね」
兄様の襟元にはペリドットのピンが留められていた。
「はい。えっと、あの、言うのが遅くなったけど、兄様もカッコいいです。すごく、カッコいいです!」
「ありがとう、エディ」
兄様はそう言って、そっと僕の髪に口づけた。
「さぁ、じゃあ、式典用の服はこれで大丈夫ね。そうしたら次は婚約式の服ね」
母様の言葉に僕はハッとして兄様から離れた。周りには母様も、テーラーの人達も、メイド達もいたんだ。
「着替えてきます!」
「そうね。お茶でも飲みながらお話ししましょう」
「はい」
返事をして衝立の方に向かった僕の耳に……
「アル、よく我慢しましたね」
「忍耐力は誰にも負けないような気がしますよ」
「ではもう少し頑張りなさい」
「…………まぁ、徐々に、という事にさせていただきたいと」
「そうねぇ。それがいいかもしれないわね」
「はい。では私も着替えてまいります」
少し声を抑えたような母様と兄様の会話が聞こえてきたけれど、僕には何の事かさっぱり分からなかった。
婚約式は、せっかくだからって、貴族服で行う事になった。
母様が「今度はもう少し派手な感じにしてもいいわね」って言って、兄様が「お手柔らかに」って笑った。
僕は兄様の貴族服が見られるんだなって楽しみになった。
------------------
兄様、がんばれ
288
お気に入りに追加
10,697
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。