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第9章 幸せになります
350. それは裏技的な感じ
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「ああ、泣くんじゃないよ。勿論エドワードが私の子供である事は変わらないし、フィンレー家から出ると言っても繋がりが無くなるわけではないから落ち着きなさい。アルフレッドもね」
とにかく座りなさいと言われて、椅子に座り直して、先ほど兄様から貸してもらったハンカチで顔を拭いていると見かねたマリーがそっとハンカチを差し出してきた。さすが僕の専属メイド。
「受けてもいいと言ったのは、アルフレッドとの結婚の事があるからだ」
「え……」
「言っただろう? ルフェリット王国では兄弟の結婚は認められていない。これに対して一時的にエドワードをどこかの養子にして結婚出来るようにする、またはフィンレーが持っている別の爵位を継がせてから結婚をする。やり方は色々とあるし、養子縁組に関しても手を上げる家のアテもある。だが、エドワード自身が爵位を与えられてフィンレーを出る事になれば、養子縁組も何もない。そのままエドワードの伯爵家とフィンレーとの縁組となる。この場合は伯爵家を継ぐ者も必要になるが、それこそ養子縁組をすればいい。うちには三男と四男がいるからね」
「………………」
僕は涙が引っ込んでしまうほど驚いていた。え? それって父様、それはかなり裏技的な感じですか?
「に、兄様と結婚するのに、僕自身に爵位があって、家を出ていた方がいいっていう事ですか?」
「うん。便宜上ね。勿論本当に出る事はない。それに領地経営は誰かに任せるという事も出来るしね」
「…………」
「とりあえず、六の月には発表になるだろう。基本的には断る事はないものだけれど、それでも受けるかどうかはエドワード自身が決めなさい。ただし、分からない事や悩むような事があればどんな事でもいいから、私かアルフレッドに話しなさい。決して一人で悩む事がないように。いいね?」
「は、はい」
僕の返事に父様は小さく溜息をつくと、次にふわりと優しい微笑みを浮かべた。
「まったく、早とちりで泣かれるとは思ってもいなかった。拝領される場所はまたこれから詰めて行くけれど、候補に上がっていた元ハーヴィンは外してもらったよ。王室としては祈りの場がある所に要の者を置きたいようだが、私はどういう事情があってもあの地にエドワードをやるつもりは無い」
「はい」
父様の言葉を聞いて僕はこくりと頷いた。それを見て父様も頷く。
そうだね。あの屋敷の地下にあった『首』はもう眠っているけれど、それでもあの地を治めるというのは僕自身も抵抗がある。
それにきっと、ハーヴィンの領民達も元領主との血の繋がりがある僕が舞い戻るような事になれば、面白く思わない人だっているだろう。跡目争いから領が荒れて、魔物も出て、大切な人を亡くしたり、住むところを追われたり、大変な思いをした人達が沢山いる筈だから。
「まぁ転移陣があるし、そこに行っても簡単に行き来は出来る。先ほど言ったように領地の経営は信頼できるものに任せる事も可能だ。実際にそうしている領主もいる。難しく考える事はない。とりあえずエドワードがずっと言い続けてきた、自分の出来る事を出来る限りにやって行けばいい。ああ、勿論領を動かしてみたいという事であれば私も出来る限りのサポートはするよ」
「ありがとうございます」
何だか信じられないような話だった。
僕が伯爵になって領を持つ? 本当に?
「ああ、ちなみに一旦は断ったんだが、フィンレーは公爵家になるだろう。ただし、領地替えはない。フィンレーがこの地を動く事はない。それは決定だ。だが、公爵家の領地は拝領する事になるかもしれない。私としてはシルヴァン殿下がこの大きな変更に合わせて臣籍降下されるというので、北の森と南の森に近い所は殿下とスタンリーが持てばいいと思っているんだけれどね」
「え? シルヴァン殿下は臣籍降下されるのですか?」
「そのようだね。本人がそう願い出たそうだ。魔物の討伐などがあって、シルヴァン様を押すような勢力もあったのも事実だ。だが殿下の方がそれを断ち切った形になるのかな」
そうなんだ。シルヴァン殿下は公爵家になるんだ。
「領地が増えるのはとても面倒なんだが、六家ある筈の公爵家が今は二家。スタンリーとシルヴァン様が入ってもまだ四家だ。仕方がないね。まぁ、ゆくゆくはアルフレッドとエドワードに任せられるしね」
ハハハと笑う父様に、離れて座る兄様の顔がちょっと強張っている気がしたよ。
その他にもエリック君は嫡男で伯爵家を継ぐので報奨金を。トールマンは『首』の封印も、スタンピードも参戦しているけれど、父様達と比べると参戦の回数は少ないため、家の爵位はそのままでレナード君に領地付きの子爵位が与えられる事になった。
そしてミッチェル君とユージーン君、クラウス君には褒賞として子爵位が。ちなみにユージーン君の所は家の爵位も上がっているけど、それはあの行方不明事件の時に港や船の事とかを調べてくれたり、その他にも情報を提供したり、ハーヴィンからの領民の受け入れとかも積極的に行ってくれたからなんだって。
スティーブ君には男爵位と領地が与えられる事になった。お祖父様と一緒に扉を閉めてくれた事が大きかったって。
勿論それぞれの討伐などに参戦をした騎士たちにもちゃんと報奨金が出るそうだ。
あ、あと、トーマス君のカーライルはトーマス君がポーションを作って、それをきちんと分けてくれたりした事と、自領の騎士がダンジョンのスタンピードへの討伐参加の事もあって陞爵対象になったみたい。
うん。これだけ聞いただけでも大変だなって思った。
これを決めた人たちは本当に本当にお疲れ様って思うし、調整の協力などをしていた父様たちもすごいなって思ったよ。
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とにかく座りなさいと言われて、椅子に座り直して、先ほど兄様から貸してもらったハンカチで顔を拭いていると見かねたマリーがそっとハンカチを差し出してきた。さすが僕の専属メイド。
「受けてもいいと言ったのは、アルフレッドとの結婚の事があるからだ」
「え……」
「言っただろう? ルフェリット王国では兄弟の結婚は認められていない。これに対して一時的にエドワードをどこかの養子にして結婚出来るようにする、またはフィンレーが持っている別の爵位を継がせてから結婚をする。やり方は色々とあるし、養子縁組に関しても手を上げる家のアテもある。だが、エドワード自身が爵位を与えられてフィンレーを出る事になれば、養子縁組も何もない。そのままエドワードの伯爵家とフィンレーとの縁組となる。この場合は伯爵家を継ぐ者も必要になるが、それこそ養子縁組をすればいい。うちには三男と四男がいるからね」
「………………」
僕は涙が引っ込んでしまうほど驚いていた。え? それって父様、それはかなり裏技的な感じですか?
「に、兄様と結婚するのに、僕自身に爵位があって、家を出ていた方がいいっていう事ですか?」
「うん。便宜上ね。勿論本当に出る事はない。それに領地経営は誰かに任せるという事も出来るしね」
「…………」
「とりあえず、六の月には発表になるだろう。基本的には断る事はないものだけれど、それでも受けるかどうかはエドワード自身が決めなさい。ただし、分からない事や悩むような事があればどんな事でもいいから、私かアルフレッドに話しなさい。決して一人で悩む事がないように。いいね?」
「は、はい」
僕の返事に父様は小さく溜息をつくと、次にふわりと優しい微笑みを浮かべた。
「まったく、早とちりで泣かれるとは思ってもいなかった。拝領される場所はまたこれから詰めて行くけれど、候補に上がっていた元ハーヴィンは外してもらったよ。王室としては祈りの場がある所に要の者を置きたいようだが、私はどういう事情があってもあの地にエドワードをやるつもりは無い」
「はい」
父様の言葉を聞いて僕はこくりと頷いた。それを見て父様も頷く。
そうだね。あの屋敷の地下にあった『首』はもう眠っているけれど、それでもあの地を治めるというのは僕自身も抵抗がある。
それにきっと、ハーヴィンの領民達も元領主との血の繋がりがある僕が舞い戻るような事になれば、面白く思わない人だっているだろう。跡目争いから領が荒れて、魔物も出て、大切な人を亡くしたり、住むところを追われたり、大変な思いをした人達が沢山いる筈だから。
「まぁ転移陣があるし、そこに行っても簡単に行き来は出来る。先ほど言ったように領地の経営は信頼できるものに任せる事も可能だ。実際にそうしている領主もいる。難しく考える事はない。とりあえずエドワードがずっと言い続けてきた、自分の出来る事を出来る限りにやって行けばいい。ああ、勿論領を動かしてみたいという事であれば私も出来る限りのサポートはするよ」
「ありがとうございます」
何だか信じられないような話だった。
僕が伯爵になって領を持つ? 本当に?
「ああ、ちなみに一旦は断ったんだが、フィンレーは公爵家になるだろう。ただし、領地替えはない。フィンレーがこの地を動く事はない。それは決定だ。だが、公爵家の領地は拝領する事になるかもしれない。私としてはシルヴァン殿下がこの大きな変更に合わせて臣籍降下されるというので、北の森と南の森に近い所は殿下とスタンリーが持てばいいと思っているんだけれどね」
「え? シルヴァン殿下は臣籍降下されるのですか?」
「そのようだね。本人がそう願い出たそうだ。魔物の討伐などがあって、シルヴァン様を押すような勢力もあったのも事実だ。だが殿下の方がそれを断ち切った形になるのかな」
そうなんだ。シルヴァン殿下は公爵家になるんだ。
「領地が増えるのはとても面倒なんだが、六家ある筈の公爵家が今は二家。スタンリーとシルヴァン様が入ってもまだ四家だ。仕方がないね。まぁ、ゆくゆくはアルフレッドとエドワードに任せられるしね」
ハハハと笑う父様に、離れて座る兄様の顔がちょっと強張っている気がしたよ。
その他にもエリック君は嫡男で伯爵家を継ぐので報奨金を。トールマンは『首』の封印も、スタンピードも参戦しているけれど、父様達と比べると参戦の回数は少ないため、家の爵位はそのままでレナード君に領地付きの子爵位が与えられる事になった。
そしてミッチェル君とユージーン君、クラウス君には褒賞として子爵位が。ちなみにユージーン君の所は家の爵位も上がっているけど、それはあの行方不明事件の時に港や船の事とかを調べてくれたり、その他にも情報を提供したり、ハーヴィンからの領民の受け入れとかも積極的に行ってくれたからなんだって。
スティーブ君には男爵位と領地が与えられる事になった。お祖父様と一緒に扉を閉めてくれた事が大きかったって。
勿論それぞれの討伐などに参戦をした騎士たちにもちゃんと報奨金が出るそうだ。
あ、あと、トーマス君のカーライルはトーマス君がポーションを作って、それをきちんと分けてくれたりした事と、自領の騎士がダンジョンのスタンピードへの討伐参加の事もあって陞爵対象になったみたい。
うん。これだけ聞いただけでも大変だなって思った。
これを決めた人たちは本当に本当にお疲れ様って思うし、調整の協力などをしていた父様たちもすごいなって思ったよ。
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