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第9章   幸せになります

344. ひとつめの目印

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 約束の週末。
 僕達はモーリスの守塚の前にいた。
 モーリスの守塚自体は『首』が封じられていたわけでは無いので、何だろうって思う感じの石碑があるだけ。それでもこの近くにある港からダンジョンのある島に渡っていく冒険者とか、ここを通る商人みたいな人達は何かの守り神様かなって思ってお祈りをしていく人が多い。
 それにしてもダンジョンがある所ってほんとに離れていたんだな。地図で見て島だと分かってはいたんだけど、何となくどこかが繋がっているような気がしていた。
 スタンピードの時はこちらまで魔物が来たみたい。海を渡って来たのかな?それともスタンピードの時には何か別の入口みたいなのが出来ちゃうのかしら。
 ダンジョンかぁ、ちょっと興味はあるけれど、入ろうとは思わないな。もう魔物には出来る限り会いたくない。

「扉をつけたのはここです」

 そう言ってスティーブ君が石碑の後ろ辺りを示した。
 今回一緒に来ているのはお祖父様と兄様とスティーブ君と僕。勿論ルーカスとジョシュアとマリーは一緒。その他にフィンレーの魔導騎士が10名ほど同行している。

「ではこの石碑の辺りがいいかもしれませんね。根が張っても扉を壊してしまう心配はなさそうですし」

 僕がそう言うと、兄様が辺りを確認するように見回してから「そうだね」と答えた。それを聞いて僕はお祖父様の方を向く。

「お祖父様、この石碑を一度外してこちらに木を植えたいと思います。細いままですと万が一折られてしまうと大変なので、少しここで大きくしたいのですが……」
「うむ…………」

 お祖父様はちょっと考えるように眉間に皴を寄せた。

「ああ、やっぱり人通りがあるので難しいでしょうか」

 だけど大きくなった木を植えるのもちょっと大変だし、やっぱりここで植えてから根っこを伸ばしたいよね。

「私が壁を作ります。それに認識阻害を付与します」

 マリーがすぐにそう言ってくれた。ジョシュアも一緒にやってくれる事になった。

 というわけで、スティーブ君が教えてくれた所にきちんと扉があるかを魔導騎士隊の人が探索サーチを使って確認してから、石碑を取って、お祖父様が苗木を植えた。
僕はそのまま土に手をついて木が扉を傷つけることなく大きくな目印となってほしいと願う。

「…………っ…………」

 青みがかった緑色の葉っぱがさわさわと揺れて、細かった幹が太くなり始め、背丈もぐんぐん伸びていく。
幹が太くなると枝も長く大きくなって、沢山の葉が茂り、日の光を浴びてキラキラと輝く。
 幹が小さな子供が両手を回して抱きつけるくらいの太さになり、木の高さも見上げるようになって、青い空の下で綺麗な青緑の葉が風に揺れるのを見ながら僕は祈りを止めた。

「この位で。後はこの木自身で時間をかけて育ってほしいと思います」
「うむ。よく出来た。石碑はこの隣に立てておこう」

 そう言うとお祖父様は元の石碑を木の横に立てて、その何も書かれていなかった表面に『守塚』と彫り込んだ。

「わわわ! 何だか本当に祈りの場になったみたいです」
「うん。本当に」

 スティーブ君もそう言って頷いた。

「この下には扉しかないけれど、皆が守塚に無事を祈っていく事を、この木がちゃんと受け止めていってくれる気がするよ」

それが例え『首』の事でなくても、安心して過ごせるようにという思いは同じだから。きっと大丈夫。そう思えるんだ。

「カルロス様、木と石碑を囲むように、小さな祈りの休憩所のようなものを作っておきましょうか。多少の雨風がしのげるような場所があれば、この場に集う様な者も出てきましょう」
「ああ、そうだな。ではそのように。華美なものはいらん。後で手に負えなくなる」
「畏まりました」

 どうやら魔導騎士達の中には土魔法を使う人がいたみたいで、嬉々として壁を作り始めた。それを見ながらマリーとジョシュアが認識阻害を解く。
 数名の魔導騎士達はみるみるうちに木と石碑の周りを囲い、その隣に雨風がしのげる三方の壁と屋根だけの簡素な建物を作ってゆく。

「シンプルだけど、何となく神殿の面影もある様な感じで素敵ですね」
「ありがとうございます!」

 魔導騎士の一人が嬉しそうに答えた。その声を聞いて僕も何だか嬉しくなる。
 お祖父様が仕上げというように石碑に保存と強化の魔法をかけて、新しい祈り場は出来上がった。

「ふふふ、何だか本当に足を止めてお祈りをしたくなりますね」
「せっかくだから一番にお祈りをしてから王城の方へ行こうか」

 兄様の言葉に僕は「はい!」と元気よく返事をした。
 そうして皆で木と石碑が並んだそこに祈りを捧げ、もう一つの扉、王城の庭へ向けて王都へと転移をした。


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短めですが、区切りました。
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