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第8章  収束への道のり

330. 終わりと始まり

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 僕が意識を取り戻した翌々日、皆がフィンレーに来てくれた。

「エディ!!!」

 最初に名前を呼んで泣きながら抱きついてきたのはトーマス君だった。

「良かった、無事で良かった!」

 そう言ってポロポロと泣くトーマス君の背中をトントンってしながら僕は「心配かけてごめんね」と言った。
 一昨日、スープが出来て起きた時に母様とハリーとウィルが来てくれて、その時にハリーから聞いたんだけど、トーマス君はあの日、ずっとずっとハリー達と一緒にポーションを作りながら僕たちの事を待っていてくれたんだって。だけど夜になっても皆は戻ってこないし、時折来る知らせは2回目のスタンピードが起きたとか、3回目のスタンピードが起きたとか、不安になる知らせばかりだし、しかも、モーリス近隣のギルドや神殿からポーションがあったら分けてほしいって連絡が入ってきてハリーやテオ達と一緒にカーライルを通して対応をしてくれたんだ。
 フィンレーから当主不在時に他領のギルドに送るのは難しいから、トーマス君がカーライルに一度魔法陣で送って、そこからカーライルの当主が窓口になって仕切ってくれた。カーライルとはポーションのやりとりがあるし、エターナルレディの薬草も育てているしね。しかもモーリス領にも比較的近い位置にある。

 そんな風にバタバタとしているうちに僕が兄様に抱かれて意識を失って戻ってきたから、屋敷の中はハリーとウィルとトーマス君の泣き声で一時騒然としたって後から聞いて本当に申し訳なく思っていたんだ。

「ごめんね。そして色々とありがとう、トーマス君」
「ううん。こうして元気になったエディに会えて嬉しいよ」
「うん。僕もトーマス君に会えて嬉しい。皆も僕が言い出した事なのに事後処理が何も出来なくてごめんなさい」
 そう言って頭を下げると一番初めに口を開いたのはやっぱりレナード君だった。

「頭を上げて、エディ。まずはスタンピードを収束してくれてありがとう。魔物達の始末もどうにか終わって今は王宮の神殿で浄化をしているみたいだ。沢山だから少しずつ無理ない程度に行っているみたいだよ。庭の方はしばらくは大変な状態みたいだけど、まぁそれも徐々に直していくんじゃないかな。街の方は壊れた建物などの修理を始まっているって聞いた。城壁もね」
「そうなんだね。被害は勿論出たって聞いたけれど、でも立ち直りが早いみたいで良かった」

 僕がそう言うとエリック君が「エディのお陰だよ」って言った。

「そんな事ないよ。皆で一生懸命に戦って守ったんだもの」

 すると皆はちょっと顔を見合わせてから、今度はユージーン君が口を開いた。ユージーン君の所はいつも情報が早いんだよね。

「多分もう聞いていると思うけど、スタンピードを収束するにあたり、奇跡を起こしたのはフィンレー家の次男、エドワード様だと言うのは周知の事実になっている。学生の身でありながら王国の危機を知り、仲間たちを募り100名もの戦力を集めて馳せ参じたのは称賛に価するとね」
「そんな……」

 父様はあれ以来こちらには帰ってきていないし、兄様は様子を見に来て下さるけど、それでもやっぱり忙しそうで、目が覚めた日以来どうなっているかの話はしていないんだ。まさかそんな事になっているなんて夢にも思っていなかった。

「今回の件で王国は色々と考えているみたいだっていう噂もある。昨年の粛清でかなり王国管理領が増えているから、その辺りの事もきちんとさせたいんじゃないかって言われているよ。勿論まだ発表されたわけではない。ただ、予想として挙げられているのはスタンリーとフィンレーが公爵家へ、レイモンドは侯爵家に陞爵されるんじゃないかって。他にも陞爵されたり、叙爵されたりする者がいるんじゃないかって言われているんだ」

 ええ⁉ フィンレーが公爵家へ? そんな話が噂になっているの? ユージーン君の話に呆然としていると再びレナード君が口を開いた。

「その最たるものがエディ、君だよ」
「へ?」
「まぁ、そうなるよな。今回の一番の功労者はどう考えてもエディだよ」

 クラウス君までもがそんな事を言う。

「色々とまだ調整はあるだろうし、何度も言うけど決まった事ではないしね。ただそんな話が上がっているって事だよ。もう少し具体的になったらお父上から改めてお話があると思うよ。一応そんな話も出ているって事」
「あ、うん。ありがとうレオン。でも」
「でも?」
「僕なんかよりも沢山戦った人はいっぱいいると思うんだ。そういう人たちの所に手厚い配慮をしてあげてほしいよね」
「ふふふ、エディらしいね。でも僕らはそれを言える立場ではないからね。下された事を精いっぱい務めていくしかない。ただ、あの加護の力はやはり驚くべきものだったから、フィンレーがエディの事を大切に、力がおかしな事に使われたり不当な扱いを受けたりしないようにって大切に隠してきた事はとてもよく分かる」
「うん…………」
「ごめんね。まだ完全に本調子じゃないのにこんな話をして」
「ううん。ありがとう。父様達がどんな風に話して来るか分からないけれど、その前段階でそう言う話が出ていたんだなって分かったのは有難いよ。力を見せてしまう事には勿論色々と考える事もあったけれど、僕は僕の出来る事をしただけだし、間違ったことはしていないしね。加護が判った時に色々な可能性も聞いて、隠したし、使わないようにした。でもそうじゃなくて、どんな風に役に立てるのか分かった方がいいし、きちんと自分で使えるようになりたいと思った。だからね、後悔はしていないよ」

 そう言って小さく笑った僕に皆も笑って頷いてくれた。やっぱり僕は皆の事が大好きだなって思った。

 それから僕たちはエリック君のスキルの力の話や、クラウス君のミスリル隊の話、スティーブ君のスキルの話、そしてミッチェル君のスキルの声の話をして改めて驚いたり、感心したり、笑ってしまったりと楽しい時間を過ごした。

「ルシルも来られたら良かったんだけど、まだ忙しいみたいでね、よろしくって言っていたよ。またお茶会にも誘ってほしいって」

 ミッチェル君からそう言われて、ああ、そう言えばもう三の月も半分が過ぎてしまったと改めて思った。

「うん。またお茶会を開くから皆も遊びに来てね。シェフがきっと新しいメニューを考えると思うよ」
「ふふふ、楽しみだな。フィンレーのお菓子は本当に美味しいからね。ところでエディ、あの、えっと、あの、ア、アルフレッド様と」
「あ……」

 ちょっと赤い顔になったトーマス君に言われて僕も顔を赤くしてしまった。

「えっとね、あの、色々あるけど全部大丈夫って言われてね、け、結婚してほしいって言われて、はいってお返事したんだ。でもまだこんなだから父様や母様たちにはきちんと報告していなくて、だから、えっとその、こ、こ、婚約とかはまだ全然決まっていないの」
「そ、そうなんだ。でもおめでとう」
「うん。ありがとう」

 ああ、どうしてこういう報告ってこんなに恥ずかしいんだろう。

「ちゃんと決まったら教えてね」

 ミッチェル君が楽しそうに言った。

「うん、分かった。今日はありがとう。来週くらいからは学園に行かれると思うからまた学園で会おうね」

 こうしてみんなは帰っていった。


-*-*-*-*-


 夜になって兄様が戻ってきた。父様は今日も戻ってこないみたいだった。

「エディ、調子はどう?」
「大丈夫です。来週からは学園に行こうと思っています」
「そう。良かった。無理はしないでね」

 僕の部屋の小さなテーブルセットの椅子に腰かけて、マリーが持ってきてくれたお茶を飲みながら笑った兄様は少し疲れているみたいだった。

「まだお忙しいのですか?」
「うん。そうだね。でもどちらかと言えば良い変化の忙しさも多いかな」
「良い変化、ですか?」

 僕の言葉に兄様はコクリと紅茶を口にして、再び口を開く。

「そう。今までの王国は高位の者や力のある者が役目を果たせばよいっていう考え方が多かったんだ。でも今回は街に魔物が出てしまうって伝わると一気に支援を送る領が出た。本音を言えばもう少し早く出してもらえたら良かったんだけど、それでも以前に比べたら変わってきたのかもしれないって父上とも話をしていたんだよ。それに今回は『首』を封じる所にもちゃんと他の領が最初から入っていたし、モーリスのスタンピードにはギルドと王国の騎士養成所の騎士達の他にも近隣のメルトスやクレバリー、オックス、ロマースクがきちんと自領の騎士達を派遣していたしね」
「そうですね。変わってきているんですね」
「うん。ああ、そう言えば、メイソン子爵がね、今回の魔人や魔物達の事を色々と調べているんだけれど、おそらく元オルドリッジ公爵だろう魔人については、ルシルが力を使って周囲も含めて浄化をかけている為、分裂の欠片は存在しない可能性が高いと言っていた。厄災の『首』が全て封印をされて眠りについているからおそらく魔素の出現自体が少なくなってくるみたいだ。魔素によって魔人化をしたり、魔物が湧き出て来るというのも無くなって来るのかもしれないね」

 兄様の言葉を聞いてほっとすると同時に、ルシルの事が出て以前の事を思い出した。

「兄様、あの」
「うん?」
「今回の僕の力の事で……」
「ああ、皆から何か聞いたのかな。大丈夫。父上もお祖父様もいらっしゃるし、国王陛下も良く守ってくれたって感謝をしていらっしゃるからね。おかしなことはないと思うし、させないよ?」
「はい。僕は今回力を使うかもしれないって思っていて、それがどうなるのかも頭の中では分かっていたし、今まで隠さなければって言われていたけれど、でも、すみません。うまく言えなくて。でも何となく以前ルシルが言われていた事を思い出して。やっぱり化け物って思う様な人も」
「エディ」
 
 そう言った途端兄様がものすごく怖い声を出した。

「その言葉はエディでも許せないよ。出来る事を出来るだけするって決めてやった事だ。そのおかげで助かった人も沢山いる。褒められ感謝される事はあっても、貶める様な事はあってはいけない。勿論無暗に力を煽るような事もだ。エディはそのまま今まで通りに、自分の出来る事をしていけばいい。もしもそれが間違っていたら私も、父上もきちんを話をするよ。今まで通りにね」
「……はい。兄様。すみませんでした。ありがとうございます」

 何だか胸の中でモヤモヤしていたものがすっとしたような気がした。

「ああ、そうだ。エディ。多分来週になったら父上も時間が取れると思うんだ。そうしたらきちんとした報告をしたいと思うんだけどいいかな」

 一瞬、きちんとした報告が何なのか分からなくて、だけどすぐに結婚の事だって思って、僕は一気に顔を赤くした。魔物だとか、魔人だとか、魔素だとか、力の事だとかそんな事は吹き飛んでしまった。

「あ、わ、わか、わかりました。えっと、えっと……はい」

 そんな僕に兄様はすごく嬉しそうに笑って「楽しみだね」って言った。




 そして、三の月の終わりごろ。
 兄様の瞳の色と同じくらい綺麗な青空が広がる日に、僕と兄様は結婚をしたいと父様と母様に正式にお話をして、僕が17になる十の月に婚約式を行う事が決まった。


-------------
8章終了です。


色々と持ち越したものはそのまま9章に。
正式にお話をしている様子は9章の冒頭にする予定です♪

この後はエピソードをいくつか書く予定です。
多分皆様が「え?」と驚くエピソードがある筈。(´∀`*)ウフフ
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