悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

321. 父と息子

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 その声は特別な風の魔法に乗って、王城の敷地内に届いた。

『し、始点に、第二波が来たよ! 助けて! 助けてー! 皆、死んじゃうよ~~~~!』

「ミッチェル!?」

 思わず空を見上げたのは南の守塚から帰還をしたケネスだった。そのまま急いでグレアムの元へ行くと、すでにデイヴィットが詰め寄っていた。

「では、フィンレー隊40名はすぐにスタンピードの始点まで行きます。ご許可を」
「私も、レイモンド第二隊40名です」

 二人はそのまま応接の間を出るとすぐさま隊を整えた。第二波というのがどういう事なのかよく分からないけれど、始点と呼ばれるスタンピードの始まりの場所で何かが起きているのは確かだ。
 こんな事ならもっと早く南の森を撤退しておけばよかった。先にマーティンを送っていたので油断をしたとケネスは臍を噛む。
 同じようにデイヴィットもワイバーンをもっと早く倒していればと悔やんでいた。
 叶うことならばあの声が聞こえた瞬間に、自分だけでも駆けつけてやりたかったのだ。だが、隊を率いる者として、侯爵家の当主として、それは出来なかった。
 
 ニールデン公爵は約束通りに支流に自領の魔導騎士達を送ってくれていた。しかも北の森から戻ってきた騎士達ではなく、自領に居る騎士を呼び寄せて支援を出したのだ。これはかなりの荒業だった。いくら森から帰還をする魔導騎士達が居ると言っても、一時的に自領の守りがほとんど無くなるからだ。
 フィンレーでそれが出来ないのは妖精の加護を持つハロルドがそこに居るからだった。勿論他の家族たちも守らなければならないが、ハロルドの力が万が一他に漏れれば一大事になる。一つの家に二人の大きな加護者がいるというのはフィンレーにとっての弱点にもなるのだ。

 話を戻し、ニールデン公爵が送った魔導騎士達は支流の蛇行をしている地点と最初の脇道から流れて来る地点へと向かったが、前方の森の中から想定外の数の魔物達が現れて、結局その先に進んでいると言うエドワードの元へは届かなかったのである。

 エドワードが始点に向かっているという知らせは届いていた。ケネスの息子も一緒だったのだろう。そしてスタンピードの第二波というものに巻き込まれている。

「始点まで一気に飛ぶのは無謀だろうな」
「ああ、第二波というのであればおそらくは魔物が今まで以上に溢れ出したという事だろう。とにかく一刻も早く駆け付けたいが、隊を率いてというのは難しいな。索敵が出来る者を使って魔物が少ない点を探りながら飛んでいくしかない。本流からでも支流からでもそのまま進んでいっては間に合わんかもしれん」

 二人はそう言ってそれぞれの隊へ命令を飛ばした。


-*-*-*-


「エディ!!」

 始点から少し入った森の中、マリー達に囲まれるようにしていた僕の所へ兄様が走ってきた。

「兄様!」

 呼ばれた名前に思わず声を上げる。
 あの日と違って魔力暴走を起こしたような様子はなかったけれど、それでも明らかに僕の中の魔力は少なくなっていて声を出しただけで少しだけクラリとした。

「怪我はしていない?」
「僕は大丈夫です。兄様は、ここも、ここも、切れているのではないですか? すぐにポーションを」
「大丈夫だよ。こちらで怪我をしている者はいないかい? 居ればとりあえずポーションをとってほしい。重傷者が居ればすぐに神殿へ行く手配をする」

 兄様は周囲を見回してそう言った。そして。なぜか少しだけ不思議そうな顔をした。

「大丈夫です。すでに負傷者には傷用のポーションを飲ませました。魔力回復のものもエディから十分すぎるほど預かっていましたので」

 レナード君がそう言って兄様に説明をした。それに頷きながら兄様は「それなら、良かった。ところで、人が増えていないかい?」と口にする。思わず僕たちは笑いを漏らしてしまった。

「ミッチェルが風の魔法を使って叫んだら、皆が駆けつけてきてくれたんです」
「え?」

 どういう事なのか。全く分からないというような兄様に今度はエリック君が口を開いた。

「助けを求める声が聞こえたので、とりあえず抜ける事の出来る少人数で転移をしました。あまり多くても魔物達に標的にされると思いましたので。でもどうやらここにいた全員がそう思ったようです」
「ありがとう、心配かけてごめんね」

 ミッチェル君が少し恥ずかしそうにそう言ったので僕は思わず首を横に振った。

「ううん。ミッチェルのお陰で僕は安心してお祈りが出来たよ。クラウスがものすごい形相で駆けつけてきた時はびっくりしたけどね」
「言うなよ、エディ。だって、空から降ってきた声がミッチェルの声だって思ったら、助けて、死んじゃうよ~だぜ? 何事かと思うだろう」
「確かに、びっくりしたね。でもすごい魔法だね。あれは一度に知らせるにはとても便利だよ」
「そうかなぁ。でもあんまり使い道はないけどね。今回はまぁ、良かった、かな」

 そんな僕たちのやりとりに、小さく笑いを浮かべた兄様を見つめながら、僕は周囲にいる、森の中に溶け込んだ様な魔物達に視線を移してゆっくりと口を開いた。

「兄様、魔物達はどうですか? この辺りにいたものはあの日の魔熊と同じようになりました」
「……ああ、全部は確認できていないけれど、多分出てきていたものは同じような姿になっていると思う」
「では、とりあえず、『蓋』は出来たという事ですね」
「そうだね」

 そう。あれは『蓋』なのだ。地中にある道のどの辺りまでの魔物達があの姿になったのかはわからないけれど、空間はまだモーリスのダンジョンに繋がっている。その苔むした魔物達を、後ろから新たにやって来る魔物達が退かして、再び穴の口を復活させる前に僕たちはやらなければならない事があるんだ。

「すぐに壊れた扉を探します」
「ああ、でも無理をしてはいけないよ?」
「大丈夫です。魔力暴走も起こさなかったし。お祖父様たちと色々と試したりしたお陰ですね」
「うん。エディはすごいね」
 
 ニッコリと笑ってそう言われて僕は思わずテレッとなってしまった。でもそんな僕達にダニエル君の声が割り込んだ。

「アル、気持ちは判るがエディを甘やかすのは家に帰ってからやってくれ。とりあえず、今のうちに色々と立て直そう。エディも探し物はもう一本魔力回復のポーションを飲んでからするように。さて、手伝える者はあちらの第一隊の状況を確認して神殿に送らなければならない者は早急に送ってやってほしい。マーティ、こちらにも指示を。扉の修復に携わる者とその護衛につく者はエディの方へ」

 わわわわわ! ダニエル君てば。思わず顔を赤くしてしまった僕の頭を兄様がポンポンと叩いた。

「ふふふ、じゃあ、エディ、早く帰れるように頑張ろう。マーティにあの入口の所を魔物ともども強化出来ないか相談してみるよ」
「はい、兄様。お願いします。僕たちは始点の後ろの方から探し始めます。スティーブ、修復には欠片が全て必要だろうか」
「あった方がいいけれど、その構造や、状態、内容が判れば多分行けると思う」
「よし、じゃあ探そう。あの中に入る事は出来ないから、地上から探すことになるけれど、多分壊れていても空間を遮って封じ込めるような魔法陣を使っていれば多分かなり異質な感じがすると思うんだ」

 僕がそう言うと他の皆もコクリと頷いた。索敵の魔法は使えなくても異質なものは感じる事が出来ると思う。

「分かった。私たちも探すのを手伝うよ。でもエディ。本当はもう少し休んだ方がいい。顔色があまり良くないよ」
「ありがとう、ジーン。ポーションをもう一本飲むよ」

 そう言いながら僕たちは始点の方に向かって歩き出した。けれどやっぱり少しだけフラフラしているような僕の側にマリーがすぐにやって来て付き添ってくれた。

「エドワード様、無理はなさらないように。マリーもご一緒させてくださいませ」
「ありがとうマリー。でもマリー達も少し休んで? もしかしたらまた戦いになるかもしれない」
「はい。でも大丈夫です。マリーにもお手伝いをさせて下さいませ」
「うん。ありがとう。えっとね、マリーさっき言っていた希望って言うスキル。すごく嬉しくて、元気が出たよ」
「それは、良かったです。本当はどんなスキルなのかはっきり分からないのですが、エドワード様のお役に立てたなら嬉しいです」
「うん。マリーにはいつもいつも沢山助けられているよ。ありがとう」

 僕がそう言うとマリーは嬉しそうに小さく頷いてくれた。そうして僕たちは苔むした魔物を横目に始点の裏の方に向かった。駆け付けてくれた友人達とマリーの他に、そしてルーカスとジョシュア隊が護衛に付いてきてくれた。
 
「この隆起の境の辺りの可能性が高いだろうか。もう少し後ろの方かな」
「それにしてもどうなっているんだろうね。この先がモーリスのダンジョン島に繋がっているなんて信じられないよ」
「確かに。空間と空間を直接結ぶ魔法か」

 僕たちは思わず地面を見つめた。

「もしもその魔法を、ううん。その空間自体を閉じてしまうとしたら、何か反動のようなものってあるのかな」
「うう~ん。分からないな。何しろものすごく離れている空間を転送陣や転移を使わずに魔法で道を作って繋いでしまうなんて聞いた事がなかった。無理にそれをいじったり、消したりしたらどうなるか分からないな」
「エディ。とりあえずはその空間の前に扉を置きなおして元のように塞ぐことを考えよう。空間をいじるのはカルロス様と相談をしてからにしよう」
 
 スティーブ君にそう言われて、僕はそうした方がいいのかなって思い始めていた。お祖父様も空間魔法を持っている。下手に触って無理やり閉じようとするよりも、お祖父様と相談をした方がいいのかもしれない。
 そう思った途端、地面がズズズッと揺れた。繋がっている空間の中に魔物達がひしめき合っているような気がした。
 
「急ごう」
「うん」

 僕たちは恐らく緑色に苔むした魔物が詰まっている地下の洞窟を、地上から探るようにして扉の欠片を探し始めた。


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