悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

319. 無謀な事だとしても

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 何かが起きている。そうとしか言いようのない現れ方をしている魔物たちの集団を切り抜けながら、僕達は前へと進んだ。さすがのミッチェル君も口数が少なくなっていたけれど、それでも魔物の気配のないポイントを見つけながらミッチェル君の指示に従って、皆で短い転移を繰り返す。魔力は消耗するけれど、あの集団とまともにやりあってはいられないと判断した結果だ。
 あの魔物の集団は森を抜けてエリック君とレナード君、またその先のユージーン君やクラウス君達の元へと向かうだろう。でもきっとそれぞれに最善を尽くしてくれると信じたい。
 それにニールデン公爵は早急に援軍を用意すると言っていた。

「一つ聞いてもいいかい?」

 目の前に現れたホブゴブリンを切り捨てながらダニエル君が口を開いた。

「モーリスのダンジョンに繋がっている扉は空間の捻じれを挟んで二つあるという。一つはモーリスの空の守塚に、そしてもう一つは今王城にスタンピードを起こしている始点の裏だ」
「はい」
「隆起して出来た始点からは現時点でも絶え間なく魔物が出現している。その中でエディはどうやって扉を直して封印をしようと思っているんだい?」

 ダニエル君の問いかけに僕はゆっくりと口を開いた。

「扉の位置を把握してから、その扉の残骸を外へ転移させます」
「うん」
「スティーブが『修復』というスキルを持っています。それで扉と扉にかけられていた魔法陣を修復してもらいます。その間、魔物達を力でねじ伏せるつもりです」
「エディ」
「分かっています。ダン兄様が言いたい事は。でも扉を修復しなければ、スタンピードは止まりません。いつまで続くか分からない。王国の騎士達だってそんなに長く戦い続ける事は出来ないでしょう。ここは森です。あの時のように樹が僕に味方をしてくれます。出来ている通路を魔物で蓋をする形で時間を稼ぎます」
「……………それで? 蓋はいつか壊れてしまうよ? きっと」

 ひどく、冷たい声だった。怒っている。きっとダニエル君は怒っているんだ。僕の計画が無謀だって思っている。

「その後に、空間を閉じたいと思っています」
「空間と空間を繋げる魔法は特別な魔法だという事は」
「聞いています。特別なスキルを持つ者が使える魔法だと」
「では、それを壊そうとするとどんなことが起きてしまう可能性があるのかな?」
「……判りません」
「論外だ。こんな事を認めたら私はアルフレッドから何て言って責められるか分からない。勿論父達にもね。とにかく一度戻ろう。おそらくカルロス様やデイヴィット様もそろそろ帰城するだろう。改めて」
「やらせてください。ダン兄様。僕はこの森を守ると妖精たちと約束をしました。妖精との約束は契約です。マーティン様がこちらへいらしたという事は南の守塚の封印が終わったという事です。だとすれば妖精は僕との約束を果たしました。僕も妖精たちとの約束を守らなければなりません。一つ一つ行っていきます。空間を壊す事が出来なければ、空間のつなぎ目をモーリスへ戻すような方法を探ります。モーリスから出て、モーリスへ戻す。それならばダンジョンの中にちょっと横道が出来た程度のものです」

 森の中は静まり返っていた。誰も、何も言わなかった。遠くの方で微かに聞こえてくる戦いの音。無遠慮に現れた魔物はジョシュアたちが即座に討ち取った。

「でも、それも出来るか分からないよね、エディ。君に何かあったら、アルフレッドはどうするの? 約束をしたばかりだろう?」
「大丈夫です。兄様の事は守ります。勿論、兄様を悲しませるような事もしません。だって、僕は兄様と幸せになるってお返事したから」
「……分かった。出来る限りの援護をしよう。どう動けばいいのか具体的に言ってくれ」
「スティーブ君が扉を直している間と、僕が『お祈り』をしている間に隙が出来てしまうかもしれません。その時に安心して出来るようにしていただければ」
「分かった。ただ、この話は父達とアルフレッドとマーティンにも伝えさせてもらう」
「……はい」

 僕たちは再び歩き出した。出てくる魔物は少し前の集団の時よりも圧倒的に少なかった。ジョシュアが何か大きな魔物が出てこちらへ回ってきたのかもしれないって言っていたから、それが片付いたからこちらへ逃げ込む数が減ってきているのかもしれないなって思った。

 バリバリと大きな音がした。魔物たちの叫ぶような声がどんどん大きくなってきて、騎士達の声も次第にはっきりと聞こえるようになってくる。
 
「始点はこの先だ。とにかく無茶はしない事。まずは本当にそれが出来るのかを自分自身の目で確かめてほしい。出来ないものは出来ないと言っていいんだ。いいね、エディ」
「はい、ダン兄様」

 そうしていきなり開けた視界の中。

「囲めそいつは後ろへ通すな! アル、そろそろポーションを飲め!」
「これを片付けたら」

 聞こえてきたその声に僕は大きく目を見開いて、視線の先でひらりと空中に飛び上がった体と次いで大きな氷の槍が魔物を貫いたのを見つめていた。

「! エディ!?」

 トンと地面におりたその人は、視線に気付いたように振り向いて驚いたように僕の名前を呼んだ。


-*-*-*-*-


「王宮神殿地下の『首』の封印部屋の様子は?」

 国王との謁見後にカルロスは王宮神殿を訪れた。
 さすがに日に三度の封印は難しい。カルロス自身の魔力はさておき、土魔法の使い手たちや神官たちの事を考えれば出来るならば避けたかった。
 勿論現在王宮の敷地内でスタンピードが起きていて、こちらもいつ収束をするのか分からない。
 この為出来るだけ戦力を残しておきたい気持ちもあったのだ。

「魔物が断続的に喚び出されているようです。こちらはスタンピードの通り道にも近いため、スタンリー卿が自領の魔導騎士隊を追加して下さり、奥様のご実家であるバーナード伯爵家より50名の魔導騎士隊の支援も合わせて行なって下さいました。王宮からも光魔法のが使える者と結界の強化が行えるものを送っていただきましたで。ですが、ここと隣り合っている墓廟と神殿内の地下、そして封印の部屋と、場所が幾つもに分かれている為戦力が分散してしまうのが難しい所でして。本来であればスタンピードで怪我などをされた騎士様方の受け入れをしたいところなのですがそういうわけにも行かず、治癒魔法が出来る者を何人か討伐隊の後方に派遣をするくらいしか」

 そう言って王宮神殿の神官長は言葉を濁した。

「封印部屋の結界はどうにかなりそうでしょうか」
「それは……今の所そちらで指揮を執られておりますメイソン卿からは何の連絡もありません」
「他は」
「神殿内、主に地下ですが、そちらには魔物が出ております。スタンリー卿が指揮を執っておられます。墓廟はご子息とバーナード領から支援に来られた皆様が。いずれも状況はあまり変わらぬようで、ご連絡はございません」
「……そうですか。では直接確認をしてまいりましょう。ちなみにですが、その封印部屋というのはこの神殿からかなり離れているのでしょうか?」
「は? 地下の通路がどれくらいあるかという事でしょうか? 今までは隠されておりましたので具体的にはどれほどとは言いかねますが、北西の方向にかなり長く入っているようでございます」
「長く……」
「ええ、スタンピードの始点である場所で、その部屋の魔力を確認出来る者があの辺りと指をさしたようでございますから」
「始点の近くなのですか」
「少し離れているような事を仰ってはいましたが、何分そちらへの通路もメイソン卿が先ほど見つけて確認をした次第でございまして。しかも魔物が湧いているという事で私たち神官はそこへ入っておりません」
ではその通路の上は神殿の建物はございませんな」
「はぁ、左様でございますね。墓廟とも方向が異なりますのでおそらくは森の奥になるかと」
「ここから北東へ……ふむ。スタンピードの始点の真下と言うわけでもないと。さて……」

 カルロスは少し考える様な仕草をしてから「では、少し確認をしてまいります」と立ち上がり、封印部屋の場所を確認するとゆっくりと歩き出した。

「ああ、書簡を送っておかねば」

 カルロスはそう言ってハワードにこれから部屋の様子を確認させてほしいと簡易の書簡を出した。
 返事はすぐに戻ってきた。
 『よろしくお願い致します』そしてもうひとつ。『息子からの知らせです。このままお送りいたします』

<始点を目指しているというエドワード様の意思を確認。封じていた扉を修復出来る者がいるので、その間に加護の力を使ってスタンピードを押えるというもの。最終的には空間自体を壊してしまいたいと考えている。出来なければ空間をモーリスからモーリスへ繋ぎ直すと。とりあえず、またご連絡致します。危険を感じたら強制的に退去させます>

「まったく……誰に似たのか。さて、やる事が増えてしまったな」

 呟くようにそう言ってカルロスは部屋に繋がっていると言う道で短い転移を繰り返し始めた。
 

 
-------------
さて、誰が見ても無謀な計画はどうなるのかな?(;・∀・)
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