悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

312. スタンピードの始まり

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 スタンピードは隆起をしていた場所に施した結界が破られる形で始まった。
 小山のように盛り上がったそこにボコリと穴が開き、地中から飛び出してくる魔物たち。空間の歪みでできている洞窟から次々と押し出されるように魔物たちが現れる様は恐ろしいものだった。
 道の左右に陣を構えた第一討伐隊は、出てきて目の前の道を走り出そうとする塊にドンと一つ雷魔法を落とした。そのまま道の上に転がった焼け焦げたもの。雷の衝撃に吹きに飛ばされたもの達は漏れなく風魔法使い達が絡めとり、一か所に集めて魔法の檻の中に押し込める。

 森という事もあり、出来る限り火属性の魔法が使わないようにと言われているが、それでも檻の中に捕らえられたそれらは土魔法に長けた者が作った大きな穴の中にそのまま落とされて、その中でどんと火柱が噴き上げる。

「ギャァァァァァァァァ!!!!」

 上がる断末魔の声。非道と思われるようなやり方かもしれないが、そうしなければ自分たちがやられてしまうのだ。その証拠に次の一団は騎士達に飛びかかってきた。

「ヘルストーカーだ! 後方へやるな! 糸に注意しろ! 雷は効かんぞ! 水攻めにした後に炙り殺せ!」
「ありえん、ドラゴンフライだと!? 後方へ通すな! 翼を狙え! 凍り付かせろ!」
「マンティコアだ! 人食いだぞ! 尾の毒針に注意しろ!」

 現れる魔物たちは予想されていたように、ダンジョンでは下層に出てくるもの達が多い。それらが待ちかねたように這い出し、あるいは走り出し、または地を震わせるような地響きを立てて飛び出してくるのだ。
 道はあっても勿論木立の中に入っていくものも、空へと羽ばたくものもいる。

 この第一隊の所で全ての魔物が討てるわけではない。が、出来る限り広範囲に広がらないように。そのまま道の流れに沿って進むように。進む中でその数を少しでも減らすように。そして更に可能な限り上位種を後方へ行かせないようにする。それが第一隊に課せられている任務だった。

「全て倒すのは無理だ。高位種に狙いを定めて、他は後ろへ送れ! 向かって来る者は容赦なく切り捨てろ」
「キマイラ、後方へ逃がしました!」
「追うな! 前だけ見ていろ! 次の上位種を逃がさなければいい」

 上がる騎士達の声。魔物の咆哮。そして魔法が炸裂する音。
 キリもなく湧き続ける様な魔物たちに騎士達はゴクリと息を呑んだ。戦いは始まったばかりだ。今回のスタンピードがいつまで続くのかも分からない。とにかく戦い続けるしかないのだ。

「最初に言った通り、魔力回復のポーションは倒れる前に飲むように。手持ちが無くなったら一度後方へ。傷を負った者も同じだ。血の匂いが魔物をおびき寄せる事になる。小型の者でも上位種がいるので惑わされるな。……っと、言っていたらデカいのがきたぞ! 囲め! こいつは通すなよ!」

 梟の頭をした巨大な熊がのそりと姿を現した。先に出ていた小型の魔物が容赦なく踏みつけられていく。

「……アウルベアか。何層から出てきやがったんだ」

 唸るようにそう言って第一隊の騎士達は一斉にそれぞれの属性のチェーンを放った。


-*-*-*-


「ああ、始まったようだね。ではこちらも十分に注意をして、討伐にあたろう」

 穏やかなアレックスの言葉に騎士達は静かに頷いた。
 この第二隊に与えられた任務はとにかく数を減らす事だ。この少し後方に逃げ惑った動物たちが作ってしまった脇道がある。押し寄せる魔物の波がそちらへ向かってしまえば第三隊へ向かう数は減るが、魔物は分散される。なによりその支流には、まだ学生であるアルフレッドの弟がいるのだ。


 支流が出来る可能性がある事を知ったのは討伐隊が出陣する少し前だった。<フィンレーの怪物>と密かに呼ばれている元当主が契約しているという妖精より伝えられたが、本人は南の守塚の封印をしているため、まだ学生の次男が知り合いの騎士達を募って駆けつけてきたという。その数およそ100名。そこに城詰の近衛兵をニールデン公爵がかき集め、130名で支流に待機・討伐を行う事となった。
 騎士服に身を包んだエドワードという少年のような風貌の彼は、短い挨拶だけをしてその任についた。さすがに反対をする者もいたが、今それだけの数の戦力をすぐに揃える事は不可能だった。
 ニールデン公爵はエドワードに「出来る限り早急に援軍を揃えます。どうぞご無理はなさらぬように」と言った。

「はい。ありがとうございます。出来る事を出来る限り精一杯努めたいと思います」

 そうして兄であるアルフレッドに会釈をして、エドワードは魔物たちが押し寄せてくるだろうその道へ向かったのだった。


「一匹たりとも逃すなとは言わない。深追いは禁止だ。だが、ここで行う事は第一に数を減らす事だ。そして次に上で漏れた上位種を始末する。森に逃げ込んだものも脇に反れる前に出来る限り倒す。魔力切れに注意をして、怪我をしたら一旦引け。よいか、心してかかれ!」

 言葉と同時に魔物の波が押し寄せてくるのが見えた。あれでも第一隊がかなりの数を減らしている筈なのだ。そう思うと背中に冷たいものが流れる気がした。その緊張を解きほぐすようにアシュトンが先頭に躍り出た。

「よし、最初に一発お見舞いしよう。カルロス様の戦法だ。一度やってみたかったんだ。少しだけ流れを左に向けるように右手に攻撃を入れてくれ、そうしたら俺が左側にデカい穴をあける。落ちたらアルフレッド様、滝のような水を。そしてアレク、特大の雷を落とせ。数を減らすぞ」

 それは昔、カルロスが一人で行って見せた伝説とも言われている魔法だ。何度も繰り返しやれるものではないが、それでも一発目にはいいかもしれない。

「分かった」

 同じ近衛隊の中では説明済みだったのだろう。迫って来る魔物の右手に近衛騎士達が一斉に氷の魔法を叩きこんだ。何体かはそれに貫かれて地に伏したものがいたが、大きな流れはそのまま右手に振れた。

「Earth Valley」

 アシュトンの言葉を同時に、道のやや右側が大きく、深く、まるで谷底のように地面が消えて、止まり切れない魔物たちの一団はその奈落へと滑り落ちた。

「今だ! アルフレッド!」
瀑布ウォーターフォール

 瞬間、魔物たちが体勢を立て直す前に谷の中に大きな滝のような水がドドド―ッ!と落とされた。そして間髪入れずにアレックスが特大の雷をその水の中に叩きこむ。
 濛々と上がる水蒸気と引き裂くような声。そしてパチパチと小さな稲妻がそこここで跳ねた。

「おお! 結構いけたな。アレク、随分腕を上げてたじゃないか。じゃ、死んでるのはマジックボックスに回収してと。入らないのはとどめをさしてくれ」

 そう言ってアシュトンは何事もなかったかのように目の前の道を修復した。

「よし、奴らが忘れた頃にもう一度やろう。ほら! 我に返ったのが来やがるぞ! 気を抜くなよ!」
「アッシュ、それは私の台詞だよ。ああ、今のに巻き込まれなかったのにキマイラがいるね。あれは絶対にここで討伐を!」
「は!」

 最初の一撃を衝撃的に決めた第二隊は、一瞬止まった波が再び押し寄せてくるのを待ち構えた。


-*-*-*-


「う~~ん、最初の所で森の中に反れたのがこっちに向かっているね。あとは例の脇道からそろそろこちらに来始めるかなぁ」

 いつもと全く変わりのないミッチェル君の声に僕たちは思わず笑ってしまった。

「え? なに?」
「ううん。ミッチェルが来てくれて良かった。じゃあ、とりあえず森の中にいるのを片付けましょう。後は脇からき始めるので臨機応変に。どちらにしても元を止めなければいつまでたってもスタンピードは終わらないので、脇からの数が少し落ち着いてきたら奥に進んでいきます」

 僕がそう言うと皆はコクリと頷いた。
 思いがけず30名も多くの近衛騎士が加わったので、僕たちは最初の脇道の辺りに20名のエリック隊と10名のジョシュア隊。そして僕とマリーとルーカス、更にミッチェル君とスティーブ君を配置した。
 そして緩やかに蛇行をする辺りはユージーン隊とクラウス隊が上手く分散をしてくれて、レナード君は近衛騎士団と一緒に本流の方へと行く道を守ってくれることになった。

「後方の状況が分からないと困るだろうから、きちんと知らせを入れるよ」

 そう言ってくれた、頼りになる一番目の友人。僕は最初に会った時からレナード君には本当に助けられている。
 何としても本流へは行かせない。勿論、街にも踏み込ませたくない。僕たちにとってはここが最後の砦だ。

 気がかりなのは封印できない王宮神殿から伸びた部屋と墓廟の辺りに現れている魔物やアンデッドたちだ。ハワード先生たちがどこまで防ぐ事が出来るのか。本流は王宮神殿の脇も通るので、そこで万が一にでも中へながれこまれてしまうととんでもない事になってしまうからね。

「エディ、くるよ。エイプだ」

 ミッチェル君の声に僕たちは森の中を見つめた。



---------------
スタンピード始まりました。
しばらく戦闘シーンばかりです( ;∀;)
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