悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

310. 戦いの準備

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 王城裏の森で野生動物たちが一斉に逃げ惑うと言う異変が起きている。国王グレアムはすぐに調査隊を森に行かせた。だが、その後フィンレーの元当主カルロスからの知らせでそれが『首』と魔人によるもので、スタンピードが起きる可能性がある事を知らされた。
 会議に参加をしている貴族の中には、そんな裏付けのない妖精の話など信じられないという者もいたが、すでに森での異変は起きている。それに、カルロスはこんな時に法螺話をするような男ではなく、信憑性がないとか、裏付けがないとか、証拠がないとかそんな事を言っていれば王国自体がなくなってしまうとグレアムは思っていた。

 いつもこういったやりとりを支えてくれる重鎮たちはまるで何かに操られているかのように違う場所で縫い留められている。

「調査隊が戻りました。同じく森の調査をしていた賢者と隆起をしている場所を発見。地下に空間魔法を施している所、高い魔力の漏れ出る部屋と王宮神殿へ通じる道を確認。賢者の指示により、結界が出来る者で簡易結界を施していますが、すぐに強い結界が出来る魔導士を手配して頂きたいとの要請です。賢者が仰るには空間魔法が施されている場所にあった扉はすでに壊されており、モーリスのダンジョンの地下と繋がっている可能性が高いと。また、地中の部屋には第三の『首』の三つ目の部屋の可能性が高く、こちらも封印が壊されている可能性が高く墓廟と王宮神殿に魔物やアンデッドが湧き出しています。ですが、封印は現在南の守塚で行われていて、こちらの封印をする事が出来ないため、この部屋に対しても結界と強化を出来る者を派遣してほしいと」
「言われた通りの人材を集めろ。すぐにだ」

 宰相は「御意」と小さく声を出し、そのまま部屋を出た。
 それを目の端で見ながら、グレアムは伝達をしてきた騎士を見た。

「実際に確認をして、本当にスタンピードは起きそうか」
「……私には分かりかねますが、森の中に突然膨れ上がったような隆起は異常で、動物たちの行動もまた異常でした。そして神殿へと繋がる道を持つ部屋から漏れる魔力は恐ろしく、隆起に繋がる別の道、と言いますか、空間、というよりは私はひずみに感じましたが、それはもう、弾ける寸前のような気が致しました」
「よく、分かった。すぐにスタンピードに備えて討伐隊の準備を。ニールデン」
「はい」
「相談役として、至急人を揃えてほしい。規模は分からんが、何としても街に魔物を出さぬように」
「御意」

 ニールデン公爵は深く頭を下げた。その瞬間。

「私もその討伐に加えてほしい」

 声を上げたのは国王グレアムの長子、王太子であるアレックス・オスボーン・ルフェリットだった。

「王太子様が指揮を取られると?」

 ニールデン公爵が静かにそう言った。

「いや、戦術に長けた者や魔物と戦い慣れた者がいるだろう。指揮はそちらへ。私はそれに従います。ですがこの討伐には参加をさせていただきます。お願い致します」
「ではニールデン、そのように」
「陛下!」

 母である王妃がグレアムの言葉に思わず声を上げた。スタンピードの討伐に王太子である我が子を参戦させるなど考えられないという顔だった。

「シルヴァンもドラゴン討伐に参戦している。やりたいと言うのであれば、アレックスも王国の為に王太子として戦えばよい」
「ありがとうございます。初陣として精いっぱい務めます」




「どうしてあんな事を言ったのですか? スタンピードは貴方が考えておられるほど甘いものではありませんよ。それとも王太子が出れば、他の者も出ざるを得ないとお考えか」

 出陣の支度をしている部屋へ、アシュトンは突然現れた。

「……相変わらず手厳しいな、アシュトン」
「いきなり討伐に出たいなどと言うからですよ」

 真っ直ぐに向けられる視線にアレックスは小さく笑った。

「別にシルヴァンに対抗しているわけでも、お飾り王太子と呼ぶ者の鼻を明かしてやろうと思って言ったわけでもない。そして勿論狂ったわけでも、自棄になったわけでもない。ただ」
「ただ?」
「……王国がなくなっては、国王も王太子もないと思っただけだよ。それにたまには暴れたくなる時もあるだろう?」

 それはあの頃のアレックスと同じ顔だった。

『アッシュ、私は良い王になるよ』

 何かを掴もうと足掻いている時のあの顔だ。まだ諦めていないあの頃の。

「そうですね。たまに暴れたくなる時は確かにあります。ではアレックス様の発散に今日はとことんお付き合いを致しましょう。アレックス様は第二隊の隊長となりました。補佐に私とフィンレーのアルフレッド様が付き、主にニールデン家の魔導騎士と王室の近衛隊がお供を致します。思い切りやりきりましょう。ええ、そうですね。確かに王国が無くなっては国王も王太子もありません。……まったく、やっと気づいたのか。ほんとにギリギリだったな、アレク」

 口にした言葉とは裏腹に、恭しく頭を下げたアシュトンに、アレックスは一瞬ポカンとして、次に笑い出した。

「よろしく頼むよ。アッシュ。派手にやろう」
「御意」


-*-*-*-*-


 書簡を出してすぐに兄様の所へ向かおうとした僕を止めたのはマリーだった。

「ご一緒致します」
「マリー」
「ご迷惑はおかけいたしません。どうぞ、マリーを一緒にお連れ下さいませ。お役に立てる事もあるかと思います」

 そう言って頭を下げた僕のメイド。
 するとその隣に控えていたルーカスも頭を下げた。

「あの時よりもお役に立てると自負しております。ご一緒致します」
「ルーカス」

 あの時、というのはきっとあの、東の森でフレイム・グレート・グリズリーと戦った時の事だ。

「お一人では行かせませんよ。何の為の護衛ですか。私がレイモンドの第二魔導騎士団の副団長として独断で動かせる仲間が10名ほどおります。連れて参加を致します」
「ジョシュア」

 僕は何も言えなくなっていた。あの日、一緒に戦った三人が、僕のあの力を知っているこの三人が、また一緒に行ってくれると言っている。
 僕はコクリと頷いて「ありがとう」と言った。その途端。

「私も一緒に行くよ」
「レオン!」
「ふふふ、私はね、エディの最初の友達だって自負しているんだよ。火魔法と風魔法は結構使えるんだ。あと神経系の魔法もね」

 するとすぐさま違う声が聞こえてくる。

「では、私も。闇属性は一通り使えます。あと、重力系の少し面白いスキルも持っている。少しは役に立つと思うよ。それと、マクロードの私自身が持っている私団があるんだ。20名ほどの小隊だけれど一緒に参加をさせていただきたい。今、父に承諾を得た」
「エリック」

「僕も参加をさせてね、エディ。仲間外れは嫌だよ。僕はね、実はそんなに魔法は強くないの。父上や兄上達みたいにバンバン攻撃が出来るわけでもないし、でもね、僕は索敵が出来るんだ。どこにどんな魔物がいるか、薄く薄く意識を伸ばしてそれを探る事が出来るの、だから、一緒に行かせて。ちゃんと転移も出来るようになったしね。それに、闇魔法の防御壁は出来なかったけれど、風魔法の防御壁は出来る。あとはね遠くに音を届ける事も出来るよ。大勢に伝える連絡とか役に立てると思う」
「ミッチェル」

「私も今、父に了承を得ました。ロマースクから自領の魔導騎士団を30名。一緒に参戦をさせていただきます」
「俺も了承されたよ。モーガンから騎士30名。騎士と言っても勿論魔法も使える。だが、剣術はそれよりもさらに鍛えているから安心してくれ」
「私もお連れ頂きたいです。魔法はそこそこ使えますし、実は修復という珍しいスキルを持っています。構造や内容さえ分れば元通りに修復が出来ます。何かお役に立てるかもしれません」
「ジーン、クラウス、スティーブ……」

「エディ、僕はここで待っているよ。ポーションをハロルド君と一緒に作って待っている。皆の帰りを待っているから。だから必ず帰って来てね、約束だよ」
「トーマス!」

 トーマス君が泣きながらそう言うから、僕も泣いてトーマス君にしがみついた。
 もう、みんなったら。ほんとに、ほんとに、何て素敵な仲間たちだろう。
 だから絶対に誰も怪我なんかさせない。
 皆で一緒に戻って来るんだ。

「エディ兄様」

 いつの間にやってきていたのか、温室の入口にウィルがいた。

「本当に行かれるのですか?」
「うん。王都の街を、ううん、アル兄様を守りたいんだ」
「分かりました。では、私はここで留守を守っております。ハリーと一緒にこの家を守っています。無事のお戻りをお待ちしております」
「ありがとう、ウィル」

 泣き虫だったウィルは、真っ直ぐに僕を見てそう言った。毎日鍛錬と剣術の稽古を欠かさない彼はもうすぐ僕の背を追い越してしまうだろう。

「よろしく頼むね」
「はい。でも、早く戻って来て下さいね」
「うん。わかったよ」
 
 頷いてから、僕は皆の方を振り返った。

「では兄様とお話をして皆がお城に入れるようにしてもらいます。どうぞよろしくね。魔物たちを街に入れさせないように、皆で出来る事を出来る限り頑張ろう。そして、皆で無事に帰って来る事を約束しよう」



 そうして僕は兄様との待ち合わせの場所に飛んだ。


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