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第8章 収束への道のり
311. 誓いと答え
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「エディ!」
約束をした王城の北東門の前に行くと騎士服をしっかりと身につけている兄様の姿が見えた。それだけで僕の胸は締め付けられるような気がした。
「お忙しい所申し訳ありません。少し込み入ったお話があるのです。でもお時間は取らせません」
僕がそう言うと兄様は少し考える様な顔をして、僕を「弟だ」と守衛に言って王城の中に入れてくれた。
そして即座に遮音の魔法を周囲にかける。
「どうしたの? 何があったのかな? ちゃんと話をしたいけど、今、城の中には入れてあげる事は出来ないんだ」
「はい。分かっています。まずはこちらの写真を見ていただけますか?」
「写真?」
妖精たちと作った模型を写した写真を見つめて、兄様は一瞬だけ声を失った。
「妖精たちが教えてくれました。スタンピードはもうすぐ始まります。隆起をしている扉のあった場所にかけ続けている結界が、中から溢れ出そうとする魔物たちに破られるのは時間の問題です。ですが、ご覧いただいたように道は途中で分かれます。逃げ惑った獣たちによって脇道が出来てしまいました。勿論、この道以外に反れるものもいるでしょう。構わずに森の中を進むものも。けれど道があればそれに沿って押し流されるように進む事が多いと思われます。兄様、このスタンピードは本流と支流が出来る可能性が高いのです。そして支流は周遊の流れを持っています。兄様たちがこちらから進み討伐を続けていれば、支流からの流れで背中を突かれる恐れがあります。ですが、このタイミングでスタンピードの討伐隊が二手に分かれるのは戦力を削ぐだけです。ですから、こちらの支流に僕が向かいます」
「エディ!」
兄様が大きな声を上げた。
「僕は、ずっと言ってきました。僕は僕が出来る事をするって。大切な人を守るって。兄様がそうであるように僕も、僕の大切な人を守りたい。支流をこのままにしておけば先ほど言ったように本流を進んでいる兄様たちの背後から襲い掛かる魔物が出ます。『首』の封印は妖精が手伝ってくれることになりました。その代わり僕は王様の森を守る約束を交わしました。あの時の力を開放します」
「…………認められるわけないよ、エディ。そんな事を、私が認めると思ったの?」
「でも、もう約束してしまいました。大丈夫です。封印の事もあって、僕も大分『お祈り』の扱い方が判るようになってきました。命を奪うあの魔法も、今ならば使う事が出来る筈です。だって、兄様を守る為だから」
「エディ……」
兄様の眉が苦し気に寄せられて、その瞳がジワリとにじんだのが分かった。それを見て僕の瞳から涙が零れた。
「本流の方が、きっと魔物が沢山やってきます。ダンジョンの下層の魔物たちのようです。どうか、どうか、生きて帰ってきて下さい」
「当たり前だよ。死のうと思った事なんて一度もない」
「はい、それに兄様、僕は一人だけで行くのではないのです。僕がどうしても行くって言ったら、みんながどんどん一緒に行くと言い出すのです。ジョシュアが自分が第二副団長として独断で動かせるレイモンドの魔導騎士を10名、マクロード伯爵家のエリック君自身が私団として持っている魔導騎士を20名、ロマースクのユージーン君が当主の了承を得て自領の魔導騎士を30名、そしてモーガンのクラウス君も当主と相談をしてくれて自領の騎士を30名支援してくれる事なっています。マリーもルーカスもレナード君も、スティーブ君も、そしてミッチェル君も行くと言っています。兄様から王様に伝えていただければ、すぐに皆を動かします。僕も死ぬ気はありません。だって、乗馬のお約束をしたでしょう?」
「エディ……!」
兄様は僕の名前を呼んで、ギュッと抱きしめてきた。そうして、ゆっくりと体を離すと目の前に跪いた。
「兄様?」
どうしたんだろう。何があったんだろう。急に具合が悪くなったのかな。そうだ、ポーションを……
そう思った途端。
「エドワード・フィンレー様、私、アルフレッド・グランデス・フィンレーは貴方を心から愛しています。学園を卒業したらどうか私と結婚をして下さい」
「…………っ…………」
差し出された手。
出会った時から大好きな、青い空の色の瞳。
「必ず、どんな事があってもエディを守るよ。ずっと、愛している」
心臓が馬鹿みたいに早くなっている。
ねぇ、本当に、僕は、差し出されているこの手を掴んでもいいんだろうか。
でも、だけど、僕は。
「……っ…アル……兄様……でも僕…っ……兄弟だし、兄様は、嫡男だし……け、結婚なんて……できないよ?」
一度止まった筈の涙が落ちた。
一粒落ちるとそれはいくつもいくつもポロポロと頬を伝って流れ落ちる。
こんな事本当は言いたくないんだ。だけど、出来ないでしょう? 大好きだけど、それは難しいでしょう? だからこれは僕が見ている幸せな夢だよね?
「エディ」
優しく名前を呼びながら、涙で揺れる視界の中で兄様は笑っていた。
「大丈夫。どうとでもするよ。何とでもなる。父様にもちゃんと了解済みなんだよ。私が12歳の時にね」
「12歳⁉」
「あははは、そう。エディが選んでくれたらいいっていう約束なんだ。だからもう一度言うね。エディ、愛してる、私と一緒に幸せになろう」
真っ直ぐに僕だけを見つめて兄様がそう言った。そして。
「だからエディ、私を選んで?」
伸ばされていた手に、僕はおずおずと手を伸ばした。けれど手を重ねる前に、兄様はその手をグイと引き寄せながら立ち上がり、僕を腕の中に閉じ込めた。
「にい……」
「エディ、答えは?」
耳元で聞こえてきた甘い声。
涙はもう止まっていた。
大丈夫は魔法の言葉だ。兄様が大丈夫って言うならきっと大丈夫。だから……。
「はい。僕は、兄様と幸せになります!」
そう言った途端、嬉しそうに笑った兄様の顔が近づいて。
「……っ……」
その唇がそっと、そっと僕の唇に重なった。
それから少ししてスタンピードが始まった。
兄様が「これが終わったら婚約式の予定を立てないとね」って言うから、皆が「え!」って顔をして、僕は真っ赤になった。とてもこれから戦いに出る雰囲気ではないけれど、それはそれでいいのかもしれない。
「じゃあね、エディ。また後で」
「はい、兄様。また後ほど」
僕たちは早く終えたら駆けつけるとお互いに約束をして森の中を右と左に分かれた。
-------------
やっと、書けました。
約束をした王城の北東門の前に行くと騎士服をしっかりと身につけている兄様の姿が見えた。それだけで僕の胸は締め付けられるような気がした。
「お忙しい所申し訳ありません。少し込み入ったお話があるのです。でもお時間は取らせません」
僕がそう言うと兄様は少し考える様な顔をして、僕を「弟だ」と守衛に言って王城の中に入れてくれた。
そして即座に遮音の魔法を周囲にかける。
「どうしたの? 何があったのかな? ちゃんと話をしたいけど、今、城の中には入れてあげる事は出来ないんだ」
「はい。分かっています。まずはこちらの写真を見ていただけますか?」
「写真?」
妖精たちと作った模型を写した写真を見つめて、兄様は一瞬だけ声を失った。
「妖精たちが教えてくれました。スタンピードはもうすぐ始まります。隆起をしている扉のあった場所にかけ続けている結界が、中から溢れ出そうとする魔物たちに破られるのは時間の問題です。ですが、ご覧いただいたように道は途中で分かれます。逃げ惑った獣たちによって脇道が出来てしまいました。勿論、この道以外に反れるものもいるでしょう。構わずに森の中を進むものも。けれど道があればそれに沿って押し流されるように進む事が多いと思われます。兄様、このスタンピードは本流と支流が出来る可能性が高いのです。そして支流は周遊の流れを持っています。兄様たちがこちらから進み討伐を続けていれば、支流からの流れで背中を突かれる恐れがあります。ですが、このタイミングでスタンピードの討伐隊が二手に分かれるのは戦力を削ぐだけです。ですから、こちらの支流に僕が向かいます」
「エディ!」
兄様が大きな声を上げた。
「僕は、ずっと言ってきました。僕は僕が出来る事をするって。大切な人を守るって。兄様がそうであるように僕も、僕の大切な人を守りたい。支流をこのままにしておけば先ほど言ったように本流を進んでいる兄様たちの背後から襲い掛かる魔物が出ます。『首』の封印は妖精が手伝ってくれることになりました。その代わり僕は王様の森を守る約束を交わしました。あの時の力を開放します」
「…………認められるわけないよ、エディ。そんな事を、私が認めると思ったの?」
「でも、もう約束してしまいました。大丈夫です。封印の事もあって、僕も大分『お祈り』の扱い方が判るようになってきました。命を奪うあの魔法も、今ならば使う事が出来る筈です。だって、兄様を守る為だから」
「エディ……」
兄様の眉が苦し気に寄せられて、その瞳がジワリとにじんだのが分かった。それを見て僕の瞳から涙が零れた。
「本流の方が、きっと魔物が沢山やってきます。ダンジョンの下層の魔物たちのようです。どうか、どうか、生きて帰ってきて下さい」
「当たり前だよ。死のうと思った事なんて一度もない」
「はい、それに兄様、僕は一人だけで行くのではないのです。僕がどうしても行くって言ったら、みんながどんどん一緒に行くと言い出すのです。ジョシュアが自分が第二副団長として独断で動かせるレイモンドの魔導騎士を10名、マクロード伯爵家のエリック君自身が私団として持っている魔導騎士を20名、ロマースクのユージーン君が当主の了承を得て自領の魔導騎士を30名、そしてモーガンのクラウス君も当主と相談をしてくれて自領の騎士を30名支援してくれる事なっています。マリーもルーカスもレナード君も、スティーブ君も、そしてミッチェル君も行くと言っています。兄様から王様に伝えていただければ、すぐに皆を動かします。僕も死ぬ気はありません。だって、乗馬のお約束をしたでしょう?」
「エディ……!」
兄様は僕の名前を呼んで、ギュッと抱きしめてきた。そうして、ゆっくりと体を離すと目の前に跪いた。
「兄様?」
どうしたんだろう。何があったんだろう。急に具合が悪くなったのかな。そうだ、ポーションを……
そう思った途端。
「エドワード・フィンレー様、私、アルフレッド・グランデス・フィンレーは貴方を心から愛しています。学園を卒業したらどうか私と結婚をして下さい」
「…………っ…………」
差し出された手。
出会った時から大好きな、青い空の色の瞳。
「必ず、どんな事があってもエディを守るよ。ずっと、愛している」
心臓が馬鹿みたいに早くなっている。
ねぇ、本当に、僕は、差し出されているこの手を掴んでもいいんだろうか。
でも、だけど、僕は。
「……っ…アル……兄様……でも僕…っ……兄弟だし、兄様は、嫡男だし……け、結婚なんて……できないよ?」
一度止まった筈の涙が落ちた。
一粒落ちるとそれはいくつもいくつもポロポロと頬を伝って流れ落ちる。
こんな事本当は言いたくないんだ。だけど、出来ないでしょう? 大好きだけど、それは難しいでしょう? だからこれは僕が見ている幸せな夢だよね?
「エディ」
優しく名前を呼びながら、涙で揺れる視界の中で兄様は笑っていた。
「大丈夫。どうとでもするよ。何とでもなる。父様にもちゃんと了解済みなんだよ。私が12歳の時にね」
「12歳⁉」
「あははは、そう。エディが選んでくれたらいいっていう約束なんだ。だからもう一度言うね。エディ、愛してる、私と一緒に幸せになろう」
真っ直ぐに僕だけを見つめて兄様がそう言った。そして。
「だからエディ、私を選んで?」
伸ばされていた手に、僕はおずおずと手を伸ばした。けれど手を重ねる前に、兄様はその手をグイと引き寄せながら立ち上がり、僕を腕の中に閉じ込めた。
「にい……」
「エディ、答えは?」
耳元で聞こえてきた甘い声。
涙はもう止まっていた。
大丈夫は魔法の言葉だ。兄様が大丈夫って言うならきっと大丈夫。だから……。
「はい。僕は、兄様と幸せになります!」
そう言った途端、嬉しそうに笑った兄様の顔が近づいて。
「……っ……」
その唇がそっと、そっと僕の唇に重なった。
それから少ししてスタンピードが始まった。
兄様が「これが終わったら婚約式の予定を立てないとね」って言うから、皆が「え!」って顔をして、僕は真っ赤になった。とてもこれから戦いに出る雰囲気ではないけれど、それはそれでいいのかもしれない。
「じゃあね、エディ。また後で」
「はい、兄様。また後ほど」
僕たちは早く終えたら駆けつけるとお互いに約束をして森の中を右と左に分かれた。
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やっと、書けました。
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