悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

299. 南の守塚

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「おいおいおいおい、一体どういう事なんだ?」

 南の守塚の地下通路でケネス・ラグラル・レイモンド伯爵は唸るようにそう言った。

「……独り言にしては大きすぎますよ、父上」

 それにマーティンがやれやれと言った表情で口を開く。

「お前の方にもアルフレッドから連絡が来るかもしれないが、流刑地から古狐が逃げた」
「……は?」

 信じられないというような短い声を上げてマーティンは父からの書簡を受け取った。

「流刑地の孤島には死ぬほど結界をかけたのではないのですか?」
「かけたさ。これでもかってほどかけた。結界魔法を得意とする奴と魔法陣を組ませたら王国一と言われる奴とで島全体にかけさせて、更にその周りの海域にもな。魔法も最低限の生活魔法鹿使えないようになっているし、食糧などを送る転送陣は行くだけで消滅をするものだ」
「それでも魔素が湧けば、その中をくぐって出入りが出来るみたいですね。厄介だな」
「お前が言うとちっとも厄介に聞こえないのがすごいな」
「父上、誉め言葉でしょうか?」
「……そう聞こえたなら、そう聞いておけ」

 そんな親子の会話を周りで聞いているレイモンド隊は、いつもの事かというような表情を浮かべていたが、さすがに起きた事の重大性を考えて副団長の男が口を開いた。

「オルドリッジ元侯爵ですか?」
「ああ、魔人化して島から消えたそうだ」
「! 一大事じゃないですか!」
「ああ、どこかに現れたら面倒だよな」
「面倒だけで済めばいいですけどね」

 そう言って副団長は仲間と「また忙しくなりそうだな」と顔を見合わせた。
 だが、現時点で自分たちに出来ることはない。とにかく北の封印強化とここの封印強化を終わらせなければならないのだ。

「……ああ、北の方はもう始まっていますね。こちらは特に変わった様子はないようですね」

 マーティンが静かにそう言った。

「そうだな。今のところは静かなものだ。明日もこの調子で居てくれればいいんだけどな」

 ケネスもまた静かにそう返した。
 レイモンドの自領団は地上と地下の半々に分かれてその変化を見守っていた。今の所南の森の守塚に変化は見られない。もう見慣れてきた扉の中では何かが息を潜めているような気配もするが、外に向かって何かをするような様子もないし、封印がしっかりしているのか魔物を喚び出すような事もない。このまま何事もなく過ぎてくれれば面倒な報せは来たけれど、とりあえずは一安心できる。そんな事を考えてしばらく時間が過ぎた頃、ハワードからの書簡が届いた。

「面倒ごとはご免だぜ……?」

 そう言いながら開いた書簡には、予想通りに面倒ごとが書かれていた。

「今度はなんと?」
「墓廟に魔素が湧き始めたそうだ。『首』の封印場所は未だ見つかっていないらしい」
「…………そちらに向かいましょうか?」
「……ああ、そうだな。いや、待てよ。下手に今の配置は動かさない方がいいか。万が一こちらが手薄になって、こいつが余計なものを喚び出すと戦闘部屋がない分面倒になる」

 そう。カルロスが作った魔物と戦うための転送部屋は今日は北の森に設置されている。今日は地上にポイポイと転送するわけには行かないのだ。

「……レイモンドから出すか」

 呟くように口にした途端、今度は北の森から書簡が届いた。

「全く大忙しだな」

 そう言ってケネスは現れた書簡に触れて開封をした。

「……北の守塚の封印は今の所順調らしいが、手応えがあまりないみたいだな。分裂した奴かもしれないと。それでも最後まで予定通りに封じるとの事だ。墓廟にはフィンレーから魔導騎士隊20名を送ると言ってきた」
「ではこちらはこのまま様子を見て臨機応変に動けるようにしておきましょう」
「ああ、それがいいだろう」

 そう言っているうちにまたしても届いた書簡。

「だぁ! 今度はどこだ!」
「再びニールデン卿からです!」
「城か!? 開け!」
「はい!」

 書簡を手にした魔導騎士は慌ててそれを開封した。緊急のものは送り先にいる誰でもが開けるようになっているのが常だ。

「た、大変です! モーリスのダンジョンが規模は小さいそうですがスタンピードを起こしたとギルドから救援要請が入ったそうです!」
「モーリスのスタンピードだと!? いったいどうなってるんだ?」
「父上、アルフレッドからです。王国から各領のギルドへスタンピード制圧の依頼を出したそうです。またシルヴァン殿下がまとめている王国騎士養成所より30名ほどの騎士達を派遣する手筈を整えたとの事です」
「……さすがだな。仕事が早く手助かる。よし、スタンピードについては様子見だ。これによって周辺から救援の要請がくれば対応をする。とりあえずは北の封じ込めが無事に終わるのを待つしかないな」

 そう言ってケネスは目の前の扉を睨みつけるように見つめて「頼むから大人しくしていてくれよ」と独り言ちた。


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少し短めですが。
北と南の雰囲気の違いみたいなのが出てくれているといいなぁ。
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