187 / 335
第8章 収束への道のり
299. 南の守塚
しおりを挟む
「おいおいおいおい、一体どういう事なんだ?」
南の守塚の地下通路でケネス・ラグラル・レイモンド伯爵は唸るようにそう言った。
「……独り言にしては大きすぎますよ、父上」
それにマーティンがやれやれと言った表情で口を開く。
「お前の方にもアルフレッドから連絡が来るかもしれないが、流刑地から古狐が逃げた」
「……は?」
信じられないというような短い声を上げてマーティンは父からの書簡を受け取った。
「流刑地の孤島には死ぬほど結界をかけたのではないのですか?」
「かけたさ。これでもかってほどかけた。結界魔法を得意とする奴と魔法陣を組ませたら王国一と言われる奴とで島全体にかけさせて、更にその周りの海域にもな。魔法も最低限の生活魔法鹿使えないようになっているし、食糧などを送る転送陣は行くだけで消滅をするものだ」
「それでも魔素が湧けば、その中をくぐって出入りが出来るみたいですね。厄介だな」
「お前が言うとちっとも厄介に聞こえないのがすごいな」
「父上、誉め言葉でしょうか?」
「……そう聞こえたなら、そう聞いておけ」
そんな親子の会話を周りで聞いているレイモンド隊は、いつもの事かというような表情を浮かべていたが、さすがに起きた事の重大性を考えて副団長の男が口を開いた。
「オルドリッジ元侯爵ですか?」
「ああ、魔人化して島から消えたそうだ」
「! 一大事じゃないですか!」
「ああ、どこかに現れたら面倒だよな」
「面倒だけで済めばいいですけどね」
そう言って副団長は仲間と「また忙しくなりそうだな」と顔を見合わせた。
だが、現時点で自分たちに出来ることはない。とにかく北の封印強化とここの封印強化を終わらせなければならないのだ。
「……ああ、北の方はもう始まっていますね。こちらは特に変わった様子はないようですね」
マーティンが静かにそう言った。
「そうだな。今のところは静かなものだ。明日もこの調子で居てくれればいいんだけどな」
ケネスもまた静かにそう返した。
レイモンドの自領団は地上と地下の半々に分かれてその変化を見守っていた。今の所南の森の守塚に変化は見られない。もう見慣れてきた扉の中では何かが息を潜めているような気配もするが、外に向かって何かをするような様子もないし、封印がしっかりしているのか魔物を喚び出すような事もない。このまま何事もなく過ぎてくれれば面倒な報せは来たけれど、とりあえずは一安心できる。そんな事を考えてしばらく時間が過ぎた頃、ハワードからの書簡が届いた。
「面倒ごとはご免だぜ……?」
そう言いながら開いた書簡には、予想通りに面倒ごとが書かれていた。
「今度はなんと?」
「墓廟に魔素が湧き始めたそうだ。『首』の封印場所は未だ見つかっていないらしい」
「…………そちらに向かいましょうか?」
「……ああ、そうだな。いや、待てよ。下手に今の配置は動かさない方がいいか。万が一こちらが手薄になって、こいつが余計なものを喚び出すと戦闘部屋がない分面倒になる」
そう。カルロスが作った魔物と戦うための転送部屋は今日は北の森に設置されている。今日は地上にポイポイと転送するわけには行かないのだ。
「……レイモンドから出すか」
呟くように口にした途端、今度は北の森から書簡が届いた。
「全く大忙しだな」
そう言ってケネスは現れた書簡に触れて開封をした。
「……北の守塚の封印は今の所順調らしいが、手応えがあまりないみたいだな。分裂した奴かもしれないと。それでも最後まで予定通りに封じるとの事だ。墓廟にはフィンレーから魔導騎士隊20名を送ると言ってきた」
「ではこちらはこのまま様子を見て臨機応変に動けるようにしておきましょう」
「ああ、それがいいだろう」
そう言っているうちにまたしても届いた書簡。
「だぁ! 今度はどこだ!」
「再びニールデン卿からです!」
「城か!? 開け!」
「はい!」
書簡を手にした魔導騎士は慌ててそれを開封した。緊急のものは送り先にいる誰でもが開けるようになっているのが常だ。
「た、大変です! モーリスのダンジョンが規模は小さいそうですがスタンピードを起こしたとギルドから救援要請が入ったそうです!」
「モーリスのスタンピードだと!? いったいどうなってるんだ?」
「父上、アルフレッドからです。王国から各領のギルドへスタンピード制圧の依頼を出したそうです。またシルヴァン殿下がまとめている王国騎士養成所より30名ほどの騎士達を派遣する手筈を整えたとの事です」
「……さすがだな。仕事が早く手助かる。よし、スタンピードについては様子見だ。これによって周辺から救援の要請がくれば対応をする。とりあえずは北の封じ込めが無事に終わるのを待つしかないな」
そう言ってケネスは目の前の扉を睨みつけるように見つめて「頼むから大人しくしていてくれよ」と独り言ちた。
------------
少し短めですが。
北と南の雰囲気の違いみたいなのが出てくれているといいなぁ。
南の守塚の地下通路でケネス・ラグラル・レイモンド伯爵は唸るようにそう言った。
「……独り言にしては大きすぎますよ、父上」
それにマーティンがやれやれと言った表情で口を開く。
「お前の方にもアルフレッドから連絡が来るかもしれないが、流刑地から古狐が逃げた」
「……は?」
信じられないというような短い声を上げてマーティンは父からの書簡を受け取った。
「流刑地の孤島には死ぬほど結界をかけたのではないのですか?」
「かけたさ。これでもかってほどかけた。結界魔法を得意とする奴と魔法陣を組ませたら王国一と言われる奴とで島全体にかけさせて、更にその周りの海域にもな。魔法も最低限の生活魔法鹿使えないようになっているし、食糧などを送る転送陣は行くだけで消滅をするものだ」
「それでも魔素が湧けば、その中をくぐって出入りが出来るみたいですね。厄介だな」
「お前が言うとちっとも厄介に聞こえないのがすごいな」
「父上、誉め言葉でしょうか?」
「……そう聞こえたなら、そう聞いておけ」
そんな親子の会話を周りで聞いているレイモンド隊は、いつもの事かというような表情を浮かべていたが、さすがに起きた事の重大性を考えて副団長の男が口を開いた。
「オルドリッジ元侯爵ですか?」
「ああ、魔人化して島から消えたそうだ」
「! 一大事じゃないですか!」
「ああ、どこかに現れたら面倒だよな」
「面倒だけで済めばいいですけどね」
そう言って副団長は仲間と「また忙しくなりそうだな」と顔を見合わせた。
だが、現時点で自分たちに出来ることはない。とにかく北の封印強化とここの封印強化を終わらせなければならないのだ。
「……ああ、北の方はもう始まっていますね。こちらは特に変わった様子はないようですね」
マーティンが静かにそう言った。
「そうだな。今のところは静かなものだ。明日もこの調子で居てくれればいいんだけどな」
ケネスもまた静かにそう返した。
レイモンドの自領団は地上と地下の半々に分かれてその変化を見守っていた。今の所南の森の守塚に変化は見られない。もう見慣れてきた扉の中では何かが息を潜めているような気配もするが、外に向かって何かをするような様子もないし、封印がしっかりしているのか魔物を喚び出すような事もない。このまま何事もなく過ぎてくれれば面倒な報せは来たけれど、とりあえずは一安心できる。そんな事を考えてしばらく時間が過ぎた頃、ハワードからの書簡が届いた。
「面倒ごとはご免だぜ……?」
そう言いながら開いた書簡には、予想通りに面倒ごとが書かれていた。
「今度はなんと?」
「墓廟に魔素が湧き始めたそうだ。『首』の封印場所は未だ見つかっていないらしい」
「…………そちらに向かいましょうか?」
「……ああ、そうだな。いや、待てよ。下手に今の配置は動かさない方がいいか。万が一こちらが手薄になって、こいつが余計なものを喚び出すと戦闘部屋がない分面倒になる」
そう。カルロスが作った魔物と戦うための転送部屋は今日は北の森に設置されている。今日は地上にポイポイと転送するわけには行かないのだ。
「……レイモンドから出すか」
呟くように口にした途端、今度は北の森から書簡が届いた。
「全く大忙しだな」
そう言ってケネスは現れた書簡に触れて開封をした。
「……北の守塚の封印は今の所順調らしいが、手応えがあまりないみたいだな。分裂した奴かもしれないと。それでも最後まで予定通りに封じるとの事だ。墓廟にはフィンレーから魔導騎士隊20名を送ると言ってきた」
「ではこちらはこのまま様子を見て臨機応変に動けるようにしておきましょう」
「ああ、それがいいだろう」
そう言っているうちにまたしても届いた書簡。
「だぁ! 今度はどこだ!」
「再びニールデン卿からです!」
「城か!? 開け!」
「はい!」
書簡を手にした魔導騎士は慌ててそれを開封した。緊急のものは送り先にいる誰でもが開けるようになっているのが常だ。
「た、大変です! モーリスのダンジョンが規模は小さいそうですがスタンピードを起こしたとギルドから救援要請が入ったそうです!」
「モーリスのスタンピードだと!? いったいどうなってるんだ?」
「父上、アルフレッドからです。王国から各領のギルドへスタンピード制圧の依頼を出したそうです。またシルヴァン殿下がまとめている王国騎士養成所より30名ほどの騎士達を派遣する手筈を整えたとの事です」
「……さすがだな。仕事が早く手助かる。よし、スタンピードについては様子見だ。これによって周辺から救援の要請がくれば対応をする。とりあえずは北の封じ込めが無事に終わるのを待つしかないな」
そう言ってケネスは目の前の扉を睨みつけるように見つめて「頼むから大人しくしていてくれよ」と独り言ちた。
------------
少し短めですが。
北と南の雰囲気の違いみたいなのが出てくれているといいなぁ。
268
お気に入りに追加
10,824
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。