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第8章 収束への道のり
286. 呪術師の目的と『首』の目的
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父様から連絡が入ったのは第二の『首』の調査をしてから四日後の事だった。
兄様とお祖父様とハワード先生も集まった。
エリック君が同席をさせてくれないかと言ってきて、父様は少し考えると、参加をしたい者は他で話をしないという事で参加を認めた。結局話し合いには、ハリーもウィルも、そして友人達も皆が参加をする事になった。
最初は『首』の調査の事だった。旧レイモンド領内にあった遺跡のようになっているその場所の地下に、一の首と同じような作りの扉があり、封印はされているものの、中で様子を窺っている様な雰囲気があった。
調査に同行した者達は封印の強化をする事に賛成。遺跡全体に結界を張り撤収。
その際、今回の行方不明者の事件に何か関係があるのではないかという声が上がり、ニールデン公爵子息の提案で周囲に捕らえられている人間が居ないか、おかしな空間のようなものがないかを索敵のスキルを持つ者に調べさせたが、何もない事が判明した。
次に説明されたのは行方不明の事件に関わりがあるのではないかと思われる呪術師の話だった。
妖精から聞いた話などを考えると、他人の力を盗む禁術を使う事が出来る呪術師が関わっている可能性が高く、元べウィック公爵家に仕えていたチャッドという魔導士に容疑がかけられている。すでに居場所は分かっているが、被害者の居場所が確定できずに捕らえる事が出来ないでいる。
「ただ、これについてはこの呪術師が『くろいおおきいの』と妖精が呼んでいるものに操られている可能性がある。そして以前、西の国の話を聞いた時に先々王が『首』に操られている様な言動が見られている事があった為、妖精が言う『くろいおおきいの』が『首』である可能性も出ている。『首』に操られて妖精の力を盗み、人を攫って影に閉じ込めている可能性も視野に入れ、『首』の封印強化に合わせてこの者を捕らえる事とした」
父様のその言葉に今度こそエリック君の顔色が変わった。
「父様、その呪術師を捕らえた事で、あるいは『首』の封印を強化した事で、行方不明の被害者たちに何か起こってしまう様な事はないのでしょうか」
「それは色々と考えたんだが、仮説ばかりを立てて手をこまねいていても埒が明かないのではないかという話があってね。聖神殿の大神官が以前、妖精の祝福を受けている者は何人もいるというような話をしていたのを思い出して、影に隠れると言う妖精の魔法について何か知らないかと訊ねてみたんだ。文献の中に妖精は物の影や自身の影に隠れて危険を回避する魔法があるって言うのがあったが、肝心の影についての詳細が分からなくてね。とりあえず、その祝福を持っている者に会ってみた」
「よ、妖精の祝福を持っている人に会われたのですか!?」
今度はハリーが声を上げた。
「ああ、うん。とりあえず話を先に進めようか」
「すみません」
僕とハリーは揃って頭を下げた。
「では、結論から言うと、妖精の影というのはどうやら彼らが作り出す別の空間のようだ。物や自身の影を使って空間を移動する。人の使う空間魔法は生きている者は入る事ができないが、妖精が作り出す退避の為のその空間は生きていても入る事が可能であると言われているらしい。その人は一度妖精に助けられてその空間に入った事があると言っていた。ただ、自分では出る事は出来なく、妖精と一緒に出る事が出来た。入る事に妖精は必要で、出る事にも妖精の手助けが必要な場所らしい。しかし今回は力を奪われて消えてしまった妖精が作った空間である事と、一人一人が異なる妖精が作った空間に落ちているわけだから」
「あ、あの、待って下さい、父様。妖精は違っても、その力を奪った人間が同じであれば、同じ空間に居る可能性があるのではないでしょうか。その空間がどのようなものなのかは分かりませんが」
「……ああ、なるほど。そう言う考え方も出来るか」
ハリーの言葉に父様は大きく頷いてハワード先生とお祖父様を見た。僕は思わずハリーに「よく気が付いたね」と小さく口にした。ハリーは少し赤い顔をしながら「そんな気がしただけです」と言った。
「うむ。だとすれば、その者を捕らえるのと同時に、『首』から守らねばならぬな。その者が集めた人間たちを『首』に奪われないようにしなければならん。『首』は自分の目的の為にその者達を使おうとする可能性がある。呪術師は己の願いを叶えるために集めていると思っているが、妖精が言っていたようにその者が騙されているのだとすれば、呪術師ともども集めた人間を『首』が先に使おうとするやもしれん」
お祖父様の言葉を聞きながら僕は考えていた。
呪術師の目的とくろいおおきいのが『首』と仮定をした『首』の目的。
べウィック公爵家に仕えていたという呪術師は一体何を願っていたのだろうか。
多分『首』は呪術師の目的を知っていて、人を集める事を教えたと考えられる。呪術師は自分の願いが叶うと思っているけれど、『首』はそれを叶えるつもりはない。
『首』の目的、それはもしかしたら自身の封印を解き放つ事なんだろうか。
「…………」
僕はふと西の国の先々王が、魔力暴走を起こさせて他国からの侵略を防いだ事を思い出した。それがもしも『首』による支配からの行為だとしたら?
「エディ? どうかしたの?」
兄様が僕の顔を見て声をかけてきた。
僕は自分の頭の中に浮かんだ考えを言葉にしてもいいのか迷った。
その間にも話し合いは進んでいく。
「封印強化と同時進行をしながら、呪術師を捕縛。と同時に己が騙されている事を知らさなければならないけれど、そう言った人間が騙されている事を理解するのはなかなか難しそうですね。しかも騙されている事を知らせる為にはその者の目的も知らなければならない。捕縛をして尋問しながら聞き出す他ないでしょうね」
「そうだな。騙されていた事を知って自棄になられても困るからね、その辺りはニールデン卿にでも任せるかな。うん? どうした?」
父様が僕と兄様の様子に気付いた。
「何か思った事があるなら言った方がいい。その為の話し合いだよ?」
兄様がもう一度僕の顔を覗き込む。
「あ、あの、ふと思い浮かんだだけなのですが……」
そう言って、僕は先ほど浮かんだ事を口にした。
父様はすぐに呪術師を確保するように命じ、お祖父様は明日、封印の強化を行う事を決めた。
ハワード先生はすぐにその事を国王に伝えに行った。
奪われる前に何としても防がなければならない。
それが皆が出した結論だった。
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兄様とお祖父様とハワード先生も集まった。
エリック君が同席をさせてくれないかと言ってきて、父様は少し考えると、参加をしたい者は他で話をしないという事で参加を認めた。結局話し合いには、ハリーもウィルも、そして友人達も皆が参加をする事になった。
最初は『首』の調査の事だった。旧レイモンド領内にあった遺跡のようになっているその場所の地下に、一の首と同じような作りの扉があり、封印はされているものの、中で様子を窺っている様な雰囲気があった。
調査に同行した者達は封印の強化をする事に賛成。遺跡全体に結界を張り撤収。
その際、今回の行方不明者の事件に何か関係があるのではないかという声が上がり、ニールデン公爵子息の提案で周囲に捕らえられている人間が居ないか、おかしな空間のようなものがないかを索敵のスキルを持つ者に調べさせたが、何もない事が判明した。
次に説明されたのは行方不明の事件に関わりがあるのではないかと思われる呪術師の話だった。
妖精から聞いた話などを考えると、他人の力を盗む禁術を使う事が出来る呪術師が関わっている可能性が高く、元べウィック公爵家に仕えていたチャッドという魔導士に容疑がかけられている。すでに居場所は分かっているが、被害者の居場所が確定できずに捕らえる事が出来ないでいる。
「ただ、これについてはこの呪術師が『くろいおおきいの』と妖精が呼んでいるものに操られている可能性がある。そして以前、西の国の話を聞いた時に先々王が『首』に操られている様な言動が見られている事があった為、妖精が言う『くろいおおきいの』が『首』である可能性も出ている。『首』に操られて妖精の力を盗み、人を攫って影に閉じ込めている可能性も視野に入れ、『首』の封印強化に合わせてこの者を捕らえる事とした」
父様のその言葉に今度こそエリック君の顔色が変わった。
「父様、その呪術師を捕らえた事で、あるいは『首』の封印を強化した事で、行方不明の被害者たちに何か起こってしまう様な事はないのでしょうか」
「それは色々と考えたんだが、仮説ばかりを立てて手をこまねいていても埒が明かないのではないかという話があってね。聖神殿の大神官が以前、妖精の祝福を受けている者は何人もいるというような話をしていたのを思い出して、影に隠れると言う妖精の魔法について何か知らないかと訊ねてみたんだ。文献の中に妖精は物の影や自身の影に隠れて危険を回避する魔法があるって言うのがあったが、肝心の影についての詳細が分からなくてね。とりあえず、その祝福を持っている者に会ってみた」
「よ、妖精の祝福を持っている人に会われたのですか!?」
今度はハリーが声を上げた。
「ああ、うん。とりあえず話を先に進めようか」
「すみません」
僕とハリーは揃って頭を下げた。
「では、結論から言うと、妖精の影というのはどうやら彼らが作り出す別の空間のようだ。物や自身の影を使って空間を移動する。人の使う空間魔法は生きている者は入る事ができないが、妖精が作り出す退避の為のその空間は生きていても入る事が可能であると言われているらしい。その人は一度妖精に助けられてその空間に入った事があると言っていた。ただ、自分では出る事は出来なく、妖精と一緒に出る事が出来た。入る事に妖精は必要で、出る事にも妖精の手助けが必要な場所らしい。しかし今回は力を奪われて消えてしまった妖精が作った空間である事と、一人一人が異なる妖精が作った空間に落ちているわけだから」
「あ、あの、待って下さい、父様。妖精は違っても、その力を奪った人間が同じであれば、同じ空間に居る可能性があるのではないでしょうか。その空間がどのようなものなのかは分かりませんが」
「……ああ、なるほど。そう言う考え方も出来るか」
ハリーの言葉に父様は大きく頷いてハワード先生とお祖父様を見た。僕は思わずハリーに「よく気が付いたね」と小さく口にした。ハリーは少し赤い顔をしながら「そんな気がしただけです」と言った。
「うむ。だとすれば、その者を捕らえるのと同時に、『首』から守らねばならぬな。その者が集めた人間たちを『首』に奪われないようにしなければならん。『首』は自分の目的の為にその者達を使おうとする可能性がある。呪術師は己の願いを叶えるために集めていると思っているが、妖精が言っていたようにその者が騙されているのだとすれば、呪術師ともども集めた人間を『首』が先に使おうとするやもしれん」
お祖父様の言葉を聞きながら僕は考えていた。
呪術師の目的とくろいおおきいのが『首』と仮定をした『首』の目的。
べウィック公爵家に仕えていたという呪術師は一体何を願っていたのだろうか。
多分『首』は呪術師の目的を知っていて、人を集める事を教えたと考えられる。呪術師は自分の願いが叶うと思っているけれど、『首』はそれを叶えるつもりはない。
『首』の目的、それはもしかしたら自身の封印を解き放つ事なんだろうか。
「…………」
僕はふと西の国の先々王が、魔力暴走を起こさせて他国からの侵略を防いだ事を思い出した。それがもしも『首』による支配からの行為だとしたら?
「エディ? どうかしたの?」
兄様が僕の顔を見て声をかけてきた。
僕は自分の頭の中に浮かんだ考えを言葉にしてもいいのか迷った。
その間にも話し合いは進んでいく。
「封印強化と同時進行をしながら、呪術師を捕縛。と同時に己が騙されている事を知らさなければならないけれど、そう言った人間が騙されている事を理解するのはなかなか難しそうですね。しかも騙されている事を知らせる為にはその者の目的も知らなければならない。捕縛をして尋問しながら聞き出す他ないでしょうね」
「そうだな。騙されていた事を知って自棄になられても困るからね、その辺りはニールデン卿にでも任せるかな。うん? どうした?」
父様が僕と兄様の様子に気付いた。
「何か思った事があるなら言った方がいい。その為の話し合いだよ?」
兄様がもう一度僕の顔を覗き込む。
「あ、あの、ふと思い浮かんだだけなのですが……」
そう言って、僕は先ほど浮かんだ事を口にした。
父様はすぐに呪術師を確保するように命じ、お祖父様は明日、封印の強化を行う事を決めた。
ハワード先生はすぐにその事を国王に伝えに行った。
奪われる前に何としても防がなければならない。
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