悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

285. 攻めの姿勢で行こう

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「やらなければならない事は三つ。一つは先日確認をした、第二の『首』と思われる『首』の封印強化。二つ目は最有力の容疑者、呪術師チャッドの身柄確保と何の為に人を集めていたかの確認。そして三つめが、行方不明者達の救出。だが、どれから手をつけたら一番リスクがないのか。くろいおおきいのが何なのか。騙しているというその真意は何かなど懸念事項が残る」

 デイヴィットは眉間に皺を寄せたままそう言った。こんな説明をしなくても判り切っている事だったが、それでも口にして自分の中でもう一度整理をする為のようなものだった。

「手を付けられるとすれば、封印の強化が一番動きやすい。そして、行方不明者たちの安否がその男が居なくても変わりがないのであれば呪術師の身柄を確保してしまうのが手っ取り早い」

 ハワードがざっくりと言い放った。それを受けてケネスが頷きながら口を開いた。

「ああ、そうだよな。三つ目があるから手を出せない。くろいおおきいのがはっきりしないからきちんとした手が打てない。いっそのこと妖精にそれは『首』なのかって聞いた方が早いような気がしてきたな」

 それを聞いてデイヴィットは首を横に振った。

「『首』という意識がないんだろうな。『怖いの』とか『黒いの』とかそう言った抽象的な表現が多い。おそらく上級の妖精と思われるものに対しても彼らの言葉は『おおきいひと』だ。厄災という名前の化け物といってもおそらくは通じないし、機嫌を損ねて話をしてもらえなくなる。エドワードでさえそういう事があったんだ。何かを聞き出そうとするのは難しいだろう。あくまでも教えてもらうという事しかできない」
「……そう考えるとカルロス様って本当にすごいな。ゴーレムを使って妖精から聞き出したんだろう?」
「ああ、そうらしいな。我が親ながら本当にすごいと思う。全ての事に手加減というものがないんだからな。本当に、恐ろしいと思う時があるよ」

 そう言って苦笑したデイヴィットに友人たちもまた苦い笑みを浮かべた。

「さて、ではどういたしましょうか。まずは一の『首』と同じような方法で封印が出来るのか。それとも違う方法を考えなければならないのか。その辺りを詰めて早急に対応したいと思います。それと、その呪術師ですが、例えばその者を捕らえた事で『くろいおおきいの』が手駒を奪われたというような動きをする事はないのでしょうか。それとも集めた者達がいる事で、呪術師はただ単にトカゲの尻尾切りというだけで終わるのでしょうか。それを見極めるのはやはりリスクが高すぎますか?」

 ニールデン公爵がゆっくりと口を開いた。

「例えば、影の中に隠れるというものがどういう事なのかもう少し具体的に分かればいいんだが」

 マクスウェードの言葉にデイヴィットは「もう一度ゴーレム劇場でも開いてもらおうか」と真剣な顔して口にした。

「同じ事をしても多分飽きてしまいますよ。妖精とは気まぐれの代名詞のようなものですからね。影の中、とは少し異なりますが、鏡の中に閉じ込められた者の話は見つけましたよ。件の鏡を割ったら死んでしまうかと思ったのですが、封印のようなものが解けたとか。しかし影はそれぞれの影の可能性もありますし、そうでない別の次元の事なのかもしれない。もっとも影を割るわけにも引き裂くわけにも行きませんからね。おそらくですが、その妖精の魔法を奪った者もどこに閉じ込められているのか分かっていないのかもしれませんね。だとしたらどうやってそれを呪術に使うつもりだったんだろうか……」

 次第に自分の思考に沈んでしまうハワードに他の四人は小さく肩を竦めた。

「一つ、仮説というよりも私の疑問なのですが、『首』には人を操る事が出来るような力があるのでしょうか?」
「ニールデン卿、どういう事でしょうか?」
「ああ、ですから、くろいおおきいのというのが私にはどうも『首』のように思えてならないのです。ですが、『首』に人を騙すような力があるのかと言われると分からない。もしも妖精のように人に話しかけたりする事が出来るのであれば、くろいおおきいのが『首』の確率はかなり上がると思ったのです」
「なるほど。ああ、でもそれはあるのかもしれません。西の国の先々王が何かに操られるように供物を捧げなければならないだの、禍がどうだのと言っていたと」
「<狂気>の『首』でしたか?」
「確か」
「人を操る事が出来る力を持つ化け物ですか。たちが悪いですな」

 眉を寄せてそう言ったニールデンにデイヴィットは頷いた。それを見ながらハワードが口を開く。

「もしも今回のこの騒動を裏で引くのが『首』であれば、封印の強化は有効かもしれません。が、封印をしてしまった後、捕らえらえている者がどうなるのかが気になりますね」
「……それは、もしかすると閉じ込められたままになってしまう可能性もあると?」

 マクスウェードが体に似合わず、おずおずとそう言った。

「『首』は妖精を使って集める事だけを教えたのかもしれない。そうすれば呪術師が望んでいる事が叶うといったのかもしれない。だから『首』をきちんと封印しても影響はないのかもしれない。だが、これ自体が仮説であり、かもしれないという曖昧な予測でしかない」

 ハワードの言葉に全員が押し黙った。

「影の中か……。例えば隠れるのに一番近いものは自身の影だろう。その中にストンと落ちる、とする。そうやって逃げた妖精はどうやってその影から出てくるのだろう。いくらでも出入りが自由に出来るのだろうか。自分で隠れたならば自分で出入りが出来るのかもしれない。では他人に隠された場合はどうなるのだろう。隠した者がやはりどこかに集めているのだろうか。誰か妖精が使う魔法に詳しい人間はいないのか。そういえば聖神殿の大神官が以前、妖精の祝福を受けている人間はいるというような事を言っていたな」

 デイヴィットの言葉を聞いてニールデンがにっこりと笑った。

「聞いてみましょう。私の方から手を回しましょう。そして同時進行で封印の強化の方法を決定します。前回と同じような方法でよいのかも大神官に確認しましょう。カルロス様にも確認をした方がいいでしょうね。今回の調査と同じく、待っていても答えは出そうにありません。それならば進むしかない」
「……そうですね。では同じく同時進行として、べウィック侯爵家お抱え魔導士の動きを監視して、出来れば現行犯として捕らえたい。もしダメでも封印同時には捕らえましょう。先程ニールデン卿が仰ったように何か動きがあるかもしれません。とにかく今回は待っていても埒が明かないようです。。こちらから攻めて行かなければ何もかも失ってしまうかもしれない」

 珍しくそんな事を言ったハワードにデイヴィット達は眉間に皺を寄せながらも大きく頷いた。


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