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第8章 収束への道のり
270. それは分かっているけれど
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「あ……」
「うん。考えていた事は残しているでしょう? エディのメモはいつも分かりやすくまとまっている」
僕がメモを取って考える事を兄様はちゃんと分かっている。しかも分かりやすいって言われて何だかそれが嬉しくて僕はコクリと頷いた。
「はい。あの、妖精の事や呪術の事はお祖父様やハワード先生の方が詳しく調べていただけると思ったので、僕は今回の事に『首』が関わっている可能性について考えていました」
そして僕は兄様に先ほどまで考えていた事をメモを見せながら話した。
「う~ん、そうだね。『首』の事は確かに気にはなっているし、メイソン卿もこの騒ぎがなければ守塚の視察に行く段取りを整え始めていたんだ。結局どの『首』がどんな事を起こしているのか分からなくてね。そこは諦めた形になる筈だった」
「はい。僕も何度か考えてみたんですけど、これはこの『首』の禍って分けるのはやっぱり難しいなって」
「うん。状況を見ていると、他の二つの『首』は一の『首』の<呪い>のように封印自体が解けてかけていて色々な事が起きているという事もないと思えたんだ。だから封印の状態を見に行くだけなら何とかなるかってそうきまりかけていたんだけど、今回の行方不明の件があって軌道修正をしなければと思っていた矢先に、妖精と呪術の話になったものだからね。何をどう先行して行けばいいのか父上達も頭を抱えているよ」
苦い表情を浮かべた兄様に僕も小さく頷いた。
「……そうですよね。本当にどの『首』が何を引き起こすのか分かればいいんですけど。先々王は<狂気>の『首』から恐怖とか追い詰められていくようなものを植え付けられていったのかなって思ったんです。それで自分自身が狂っていくような事になったのかもしれないなって。そして<呪い>の『首』は呪いを振りかけられた人が次々に他の人を巻き込んでいくようなものだったのかなって思いました。それで、その中心に魔素があって、魔素を介しながら呪いの様なものが広がっていったのかもしれない。魔物が湧き出したりするのは予兆の時にもあったから、もしかしたらどの『首』も魔物を喚ぶことは出来るのかもしれないなって思ったりもしました」
「ああ、あの魔物の喚び寄せはすごかったな。封印が解けかけてくるととんでもない事になるんだなと痛感したよ」
兄様がその事を思い出したように苦笑した。それを見つめながら僕はメモに残していなかった事を口にした。
「あと、実はもう一つ気になる事があるんです」
「うん?」
「小説は小説ってもう分かっているし、この世界はあの小説とは異なっている事も理解をしているつもりです。でもやっぱりどこかで気になっている」
「エディ?」
兄様は少しだけ眉間に皺を寄せた。これは心配をしている時に見せる顔だ。分かっている。僕だってちゃんと分かっているんだ。あの小説と今は違う。違ってしまったのではなくて違った世界だったのかもしれないし、変わってしまったのかもしれない。でも。
「もう一度、ルシルと、そして兄様と、話してみたいと思っています。仮説でいいんです。こういう事だって決めつけるつもりはありません。でもやっぱり気になる。僕とルシルが同じような時期に、同じハーヴィンで生まれている事に本当に意味はなかったのか」
「エディ」
「分かっています。僕はもう、ううん。僕は悪役令息ではないです。ハーヴィンで父様に見つけてもらって、フィンレーに来て、そこからはきっと小説とは全然違っている。同じような事が起きても違う結果になっている。だから違う未来になっている。同じじゃない。それはちゃんと分かっているんです。でも、その事も、そして世界バランスの崩壊にどうして『首』の事が書かれていなかったのか。どこでどう違ってきているのか」
「エディ、違ってきているとか、比べるようなものではないんだよ」
「はい。分かっています。ただ、どういう事なのかもう一度『記憶』と向き合ってみたら何か分かる事があるんじゃないかなって。すみません。でももうほとんと『記憶』も残っていないし、ルシルもどんどん薄れていくみたいな事を言っていたし、ちゃんと話が出来る最後の機会なのかなって」
「…………エディは、エディだよ。出会った時から私の大好きなエディだ。だからどこかで書かれたというそんなものに振り回される必要はないんだよ」
「はい……」
「それでも、一旦区切りをつけたいって言うならば、話し合いの場を設けてみようか」
「兄様!」
「うん。ルシル・マーロウには私の方から連絡をしておく。決まったら知らせるよ。ただし、これで最後だ。もう比較したりしない。私たちのいる所が私たちの世界で、現実だ。そして、その話でどんな仮説が出てきたとしても、仮説は仮説で、現実に全てを持ち込むことは出来ない。いいね?」
「はい」
「そして、もう一つ」
そう言って兄様はふわりと僕の身体を抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。
「私がエディを好きな事も変わらない。今までも、これからもエディが好きだよ? それだけは忘れないで」
「……はい。兄様。ありがとうございます」
僕も好きです。
その言葉を僕はグッと飲み込んだ。でもその代わりに抱きしめてくれた兄様にぎゅっとしがみついた。
兄様はどうにでもなるって言ったけれど、それでもやっぱり兄様はフィンレーの次期当主になる人だから。だから僕はまだ答えが出せない。でも兄様の隣に誰かが立つのも嫌だって思っている自分もいるんだ。
僕は弱虫で、ずるいな。
「さぁ、いつまでもこうしていたいけど、そろそろ食事にしよう。みんな心配しているよ」
解かれた腕。ゆっくりと離れた身体。
そして、そっと額に落ちた口づけ。
「ふわぁ!」
思わず声を上げた僕に兄様が笑った。
「ふふふ、ほら、行くよ。エディ」
「はい」
そうして僕たちは並んで部屋を出た。
-----------
はい。甘い~(#^.^#)
「うん。考えていた事は残しているでしょう? エディのメモはいつも分かりやすくまとまっている」
僕がメモを取って考える事を兄様はちゃんと分かっている。しかも分かりやすいって言われて何だかそれが嬉しくて僕はコクリと頷いた。
「はい。あの、妖精の事や呪術の事はお祖父様やハワード先生の方が詳しく調べていただけると思ったので、僕は今回の事に『首』が関わっている可能性について考えていました」
そして僕は兄様に先ほどまで考えていた事をメモを見せながら話した。
「う~ん、そうだね。『首』の事は確かに気にはなっているし、メイソン卿もこの騒ぎがなければ守塚の視察に行く段取りを整え始めていたんだ。結局どの『首』がどんな事を起こしているのか分からなくてね。そこは諦めた形になる筈だった」
「はい。僕も何度か考えてみたんですけど、これはこの『首』の禍って分けるのはやっぱり難しいなって」
「うん。状況を見ていると、他の二つの『首』は一の『首』の<呪い>のように封印自体が解けてかけていて色々な事が起きているという事もないと思えたんだ。だから封印の状態を見に行くだけなら何とかなるかってそうきまりかけていたんだけど、今回の行方不明の件があって軌道修正をしなければと思っていた矢先に、妖精と呪術の話になったものだからね。何をどう先行して行けばいいのか父上達も頭を抱えているよ」
苦い表情を浮かべた兄様に僕も小さく頷いた。
「……そうですよね。本当にどの『首』が何を引き起こすのか分かればいいんですけど。先々王は<狂気>の『首』から恐怖とか追い詰められていくようなものを植え付けられていったのかなって思ったんです。それで自分自身が狂っていくような事になったのかもしれないなって。そして<呪い>の『首』は呪いを振りかけられた人が次々に他の人を巻き込んでいくようなものだったのかなって思いました。それで、その中心に魔素があって、魔素を介しながら呪いの様なものが広がっていったのかもしれない。魔物が湧き出したりするのは予兆の時にもあったから、もしかしたらどの『首』も魔物を喚ぶことは出来るのかもしれないなって思ったりもしました」
「ああ、あの魔物の喚び寄せはすごかったな。封印が解けかけてくるととんでもない事になるんだなと痛感したよ」
兄様がその事を思い出したように苦笑した。それを見つめながら僕はメモに残していなかった事を口にした。
「あと、実はもう一つ気になる事があるんです」
「うん?」
「小説は小説ってもう分かっているし、この世界はあの小説とは異なっている事も理解をしているつもりです。でもやっぱりどこかで気になっている」
「エディ?」
兄様は少しだけ眉間に皺を寄せた。これは心配をしている時に見せる顔だ。分かっている。僕だってちゃんと分かっているんだ。あの小説と今は違う。違ってしまったのではなくて違った世界だったのかもしれないし、変わってしまったのかもしれない。でも。
「もう一度、ルシルと、そして兄様と、話してみたいと思っています。仮説でいいんです。こういう事だって決めつけるつもりはありません。でもやっぱり気になる。僕とルシルが同じような時期に、同じハーヴィンで生まれている事に本当に意味はなかったのか」
「エディ」
「分かっています。僕はもう、ううん。僕は悪役令息ではないです。ハーヴィンで父様に見つけてもらって、フィンレーに来て、そこからはきっと小説とは全然違っている。同じような事が起きても違う結果になっている。だから違う未来になっている。同じじゃない。それはちゃんと分かっているんです。でも、その事も、そして世界バランスの崩壊にどうして『首』の事が書かれていなかったのか。どこでどう違ってきているのか」
「エディ、違ってきているとか、比べるようなものではないんだよ」
「はい。分かっています。ただ、どういう事なのかもう一度『記憶』と向き合ってみたら何か分かる事があるんじゃないかなって。すみません。でももうほとんと『記憶』も残っていないし、ルシルもどんどん薄れていくみたいな事を言っていたし、ちゃんと話が出来る最後の機会なのかなって」
「…………エディは、エディだよ。出会った時から私の大好きなエディだ。だからどこかで書かれたというそんなものに振り回される必要はないんだよ」
「はい……」
「それでも、一旦区切りをつけたいって言うならば、話し合いの場を設けてみようか」
「兄様!」
「うん。ルシル・マーロウには私の方から連絡をしておく。決まったら知らせるよ。ただし、これで最後だ。もう比較したりしない。私たちのいる所が私たちの世界で、現実だ。そして、その話でどんな仮説が出てきたとしても、仮説は仮説で、現実に全てを持ち込むことは出来ない。いいね?」
「はい」
「そして、もう一つ」
そう言って兄様はふわりと僕の身体を抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。
「私がエディを好きな事も変わらない。今までも、これからもエディが好きだよ? それだけは忘れないで」
「……はい。兄様。ありがとうございます」
僕も好きです。
その言葉を僕はグッと飲み込んだ。でもその代わりに抱きしめてくれた兄様にぎゅっとしがみついた。
兄様はどうにでもなるって言ったけれど、それでもやっぱり兄様はフィンレーの次期当主になる人だから。だから僕はまだ答えが出せない。でも兄様の隣に誰かが立つのも嫌だって思っている自分もいるんだ。
僕は弱虫で、ずるいな。
「さぁ、いつまでもこうしていたいけど、そろそろ食事にしよう。みんな心配しているよ」
解かれた腕。ゆっくりと離れた身体。
そして、そっと額に落ちた口づけ。
「ふわぁ!」
思わず声を上げた僕に兄様が笑った。
「ふふふ、ほら、行くよ。エディ」
「はい」
そうして僕たちは並んで部屋を出た。
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はい。甘い~(#^.^#)
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