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第8章 収束への道のり
268. 妖精の力
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「お祖父様、以前呪術の中に『力を盗む』という術があると聞いた覚えがあるのですが、それは例えば妖精にも使う事は可能なのでしょうか?」
兄様がそう言うとお祖父様は少しだけか考えるようにして小さく頷いた。
「…………うむ。行った事はないが、そう言った術があるという事は見た事がある。妖精の力に影の中に隠れるようなものがあるという事は知らなかったが、まさか妖精を攫ってその力を奪い取っていたとは……」
苦い表情でそう口にしたお祖父様に僕はそっと
「僕の契約した妖精は消えるという表現をしていましたが、自分の力を奪われて使われた妖精はどうなってしまうのでしょうか」
「分からんが、恐らくは無理矢理に力を奪われた妖精は消える……人でいえば死んでしまうのではないだろうか。呪術によって他者の力を奪うと言うのは、その者を生贄にするという事だ。単純に力を奪うだけではなく、命と引き換えにというものだろう。だからこそを「大きい人」と呼ばれているおそらくは上位クラスの妖精が下の妖精たちに行動の制限を出しているのだろう。これは憶測ではあるが、危機を感じて影に隠れるその力を奪うために下級の妖精たちが使い潰されていると考えられる」
「そんな……」
僕とハリーは思わず言葉を失ってしまった。
「妖精のその力というのはどこかに記載されているのでしょうか。その妖精の力を使っている者は妖精が見えるという事でしょうか。妖精を使い潰すような事までして人を影に落とす意味は何なのでしょうか」
「……わからん。妖精の事を記している書物はあると思うが、その力についてはそれほど詳しくは知られてはいない筈だ。妖精の力を使うという事は妖精が見えるという事になるだろう。何も見えないものを捕らえて力を使う事は考えられない。しかし、そう簡単に妖精の姿が見えるという事はないだろう」
「……では、例えばハロルドのように妖精の加護を持っているような者が加担をしているとか、あるいは妖精と同じような存在のものという確率が高いとか」
「それも現時点ではわからん。ただはっきりしているのはその者は妖精の姿が見えて、他者の力を奪う呪術を使う事が出来るという事だ」
「………そんな、そんな人がいるのでしょうか。そんな風にして人を集めて何をするつもりなのでしょうか。これは、今回のこの事件は残っている二つの『首』のどちらかが関与しているのでしょうか」
「それもわからん。ただ、その可能性もある。それしか分からん」
応接室の中に重い沈黙が落ちた。
「至急賢者に知らせを出そう。私も呪術に関する事と、妖精の力に関する事は調べてみる。だが、今回分かった事は大きな事だ。分からない事も沢山あるが、妖精が使われている事、呪術を知る者が関与している事、消息を絶っている者達が影の中に落とされている事。妖精の力を奪い取って影に落としているのだ。魔力など残る筈もない。呪術師に詳しい者にも問い合わせてみよう。だが、くれぐれも一人にならないように。自分の影の中に落とされるのだ。防ぎようがないが、それでも呪術が使われているのであれば、それを回避する陣は有効かもしれん。簡易の魔法陣を離さぬように。姿が見えなければ術も使えない。出来る限り結界が強化された中にいるように。そして、万が一何かの歪みの様なものを感じたら術の前に転移で逃げなさい」
お祖父様が逃げなさいと言うのはとても珍しい事だ。それだけそれを回避できる情報も術も今の所ないという事だと僕たちは改めて思った。ただ、ハリーが聞いた妖精の話では影の中の人は死なないけれど、影に落ちた人がどうなっているのかは分からないらしいし。
「お祖父様……」
ハリーが泣き出しそうな声を出した。
「妖精の加護を受けて妖精を見る事が出来る人はどれくらいいるのでしょうか。妖精が見えていて、妖精を使い潰すような人がいるなんて……」
「……例えば、その「大きい人」と呼ばれる者と話をする事は出来ないのだろうか」
兄様がそう言うと、ハリーは難しい顔をして首を横に振った。
「今の状況では難しいだろうと思います。僕も「大きい人」の事は何度か聞いていますが、実際にはあの子たちが会うための段取りをするのは無理なのだろうと思っています」
「ああ、なるほど」
「夢の中に出てきて話が出来ないかって言ってみたけれど、現実的ではないとは思っているんだ。夢の中だとどうしても言葉が伝わりづらいしね」
「ああ、はい。そうですね」
再び落ちた沈黙。
「とりあえず、妖精の力を利用して人を影の中に落としている者が居る事と、呪術が使われている事は確かなようだね。父上には私の方から伝えておくよ。エディも、ハリーやウィルも十分に気を付けて。勿論母上も」
「はい。母様には僕から伝えます」
ハリーがコクリと頷いた。
こうして僕たちは結局何が起きているのかは分からないままに、現状と注意点の確認をしただけとなった。お祖父様は慌ただしく屋敷に戻り、兄様も王城へと戻った。そして僕は色々と考えたけれど、タウンハウスに戻る事にした。
『こわいのが、つかまえるの。つかまったらきえちゃうの』
ティオの言葉が頭の中に甦る。契約をしてくれた緑の髪の可愛い妖精。消えてしまうなんてことは絶対にさせたくない。とにかく「大きい人」も注意をしている。妖精の力や呪術に関しては恐らくお祖父様とハワード先生の方が早く調べる事が出来るだろう。
「僕に出来る事はないかな……」
小さく漏れ落ちた言葉。けれど今日はその答えを見つける事は出来そうになかった。
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兄様がそう言うとお祖父様は少しだけか考えるようにして小さく頷いた。
「…………うむ。行った事はないが、そう言った術があるという事は見た事がある。妖精の力に影の中に隠れるようなものがあるという事は知らなかったが、まさか妖精を攫ってその力を奪い取っていたとは……」
苦い表情でそう口にしたお祖父様に僕はそっと
「僕の契約した妖精は消えるという表現をしていましたが、自分の力を奪われて使われた妖精はどうなってしまうのでしょうか」
「分からんが、恐らくは無理矢理に力を奪われた妖精は消える……人でいえば死んでしまうのではないだろうか。呪術によって他者の力を奪うと言うのは、その者を生贄にするという事だ。単純に力を奪うだけではなく、命と引き換えにというものだろう。だからこそを「大きい人」と呼ばれているおそらくは上位クラスの妖精が下の妖精たちに行動の制限を出しているのだろう。これは憶測ではあるが、危機を感じて影に隠れるその力を奪うために下級の妖精たちが使い潰されていると考えられる」
「そんな……」
僕とハリーは思わず言葉を失ってしまった。
「妖精のその力というのはどこかに記載されているのでしょうか。その妖精の力を使っている者は妖精が見えるという事でしょうか。妖精を使い潰すような事までして人を影に落とす意味は何なのでしょうか」
「……わからん。妖精の事を記している書物はあると思うが、その力についてはそれほど詳しくは知られてはいない筈だ。妖精の力を使うという事は妖精が見えるという事になるだろう。何も見えないものを捕らえて力を使う事は考えられない。しかし、そう簡単に妖精の姿が見えるという事はないだろう」
「……では、例えばハロルドのように妖精の加護を持っているような者が加担をしているとか、あるいは妖精と同じような存在のものという確率が高いとか」
「それも現時点ではわからん。ただはっきりしているのはその者は妖精の姿が見えて、他者の力を奪う呪術を使う事が出来るという事だ」
「………そんな、そんな人がいるのでしょうか。そんな風にして人を集めて何をするつもりなのでしょうか。これは、今回のこの事件は残っている二つの『首』のどちらかが関与しているのでしょうか」
「それもわからん。ただ、その可能性もある。それしか分からん」
応接室の中に重い沈黙が落ちた。
「至急賢者に知らせを出そう。私も呪術に関する事と、妖精の力に関する事は調べてみる。だが、今回分かった事は大きな事だ。分からない事も沢山あるが、妖精が使われている事、呪術を知る者が関与している事、消息を絶っている者達が影の中に落とされている事。妖精の力を奪い取って影に落としているのだ。魔力など残る筈もない。呪術師に詳しい者にも問い合わせてみよう。だが、くれぐれも一人にならないように。自分の影の中に落とされるのだ。防ぎようがないが、それでも呪術が使われているのであれば、それを回避する陣は有効かもしれん。簡易の魔法陣を離さぬように。姿が見えなければ術も使えない。出来る限り結界が強化された中にいるように。そして、万が一何かの歪みの様なものを感じたら術の前に転移で逃げなさい」
お祖父様が逃げなさいと言うのはとても珍しい事だ。それだけそれを回避できる情報も術も今の所ないという事だと僕たちは改めて思った。ただ、ハリーが聞いた妖精の話では影の中の人は死なないけれど、影に落ちた人がどうなっているのかは分からないらしいし。
「お祖父様……」
ハリーが泣き出しそうな声を出した。
「妖精の加護を受けて妖精を見る事が出来る人はどれくらいいるのでしょうか。妖精が見えていて、妖精を使い潰すような人がいるなんて……」
「……例えば、その「大きい人」と呼ばれる者と話をする事は出来ないのだろうか」
兄様がそう言うと、ハリーは難しい顔をして首を横に振った。
「今の状況では難しいだろうと思います。僕も「大きい人」の事は何度か聞いていますが、実際にはあの子たちが会うための段取りをするのは無理なのだろうと思っています」
「ああ、なるほど」
「夢の中に出てきて話が出来ないかって言ってみたけれど、現実的ではないとは思っているんだ。夢の中だとどうしても言葉が伝わりづらいしね」
「ああ、はい。そうですね」
再び落ちた沈黙。
「とりあえず、妖精の力を利用して人を影の中に落としている者が居る事と、呪術が使われている事は確かなようだね。父上には私の方から伝えておくよ。エディも、ハリーやウィルも十分に気を付けて。勿論母上も」
「はい。母様には僕から伝えます」
ハリーがコクリと頷いた。
こうして僕たちは結局何が起きているのかは分からないままに、現状と注意点の確認をしただけとなった。お祖父様は慌ただしく屋敷に戻り、兄様も王城へと戻った。そして僕は色々と考えたけれど、タウンハウスに戻る事にした。
『こわいのが、つかまえるの。つかまったらきえちゃうの』
ティオの言葉が頭の中に甦る。契約をしてくれた緑の髪の可愛い妖精。消えてしまうなんてことは絶対にさせたくない。とにかく「大きい人」も注意をしている。妖精の力や呪術に関しては恐らくお祖父様とハワード先生の方が早く調べる事が出来るだろう。
「僕に出来る事はないかな……」
小さく漏れ落ちた言葉。けれど今日はその答えを見つける事は出来そうになかった。
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