悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

256. 賢者の教え子

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「さすが賢者の教え子だ。そうだね。王国内での場所の特定まではおそらくはされていないだろうが、<狂気>の『首』は先王が封じている筈だから、国交が正常化したら教えてやれるかもしれないと言外で言っているのかもしれない。そこは駆け引きだね」
「なるほど……。でも兄様、西の国はどうしてそんなに国を開きたいのでしょうか?」

 それがよく分からないんだ。
 先々王の凶行から国を救い、<狂気>を封じた先王。以前聞いた話では自身も痣のような返しを受けて、その痛みに耐えながらも『首』を封じて、砂漠化を止めて、何となくだけど、他国との国交を断絶したような形をとったのも、もしかしたら他国を守る為だったんじゃないかと思えるんだ。だって『首』にとっては他国との境なんてなかったような時代でしょう?魔素が全て砂になってしまうのならばルフェリットにも被害が出た可能性だったあった筈だ。でもルフェリットで砂漠化が起きたのは<呪い>の『首』の騒ぎの時だ。
 もっとも、魔素が砂に変わるようになったタイミングもよく分からないんだけど。

「外貨を入れたいという事もあるのだろうと思うよ。今は鑑札を持つ商人たちから上がって来るものくらいで実質的なやりとりはない。でも先王の戦い以降、西の国は復活をしてきていて、枯れた土地は元には戻らないけれどそれでも人は増えているだろう。とすれば外貨を得て、食べるものを国の中に入れなければね。魔法を使えても、装飾品やインテリアのような魔道具がルフェリットで売れる事が分かっているので、商機と思う者も出てくるだろう。いつまでもシェルバーネの中だけで生きていくには限界がある。特に魔素から変わった何も生まない、育たない死の砂漠を抱えるシェルバーネにとっては国を開く事が未来へと繋がると考える者が出てもおかしくはないし、原因となった戦が相手国にとって戦と思われていなかったと言うならば、土産を持って正式なお付き合いをと言ってくるのは想定内の事なのかなと思ったよ」
「…………そうですね。切り札はまだシェルバーネに残っていそうですしね」
「うん。ルフェリットとしてはこの茶番を早く終わらせて、出来る限りの情報をシェルバーネから引き出したいと思う。その為に父上が王国の『食糧庫』として、茶番劇に付き合ってこらえているんだからね」

 笑った兄様に僕は母様の言葉を思い出した。

『こんな事をやっている場合ではないと早く気付かないと取り返しがつかなくなると思えないような者はまた切り捨てられていくのでしょう』

 そうか。ちゃんと父様も母様も、そして兄様も分かっているんだ。空回りするような会議や、出世や自分の欲にしか目が行かない人たちの事も、そしてシェルバーネの意図も。

「シェルバーネにとっては得るものが確かにありますね。でも反対に王国にとってはどうなのでしょうか。ほとんどの人が魔法を使えないシェルバーネとの交易はルフェリットにとって何が。だって、いつまでも同じ魔道具が売れる筈もないし、魔道具自体売れるとは言ってもやはりたかが知れていると思うんです。とすると文化でしょうか?シェルバーネの文化。勉強不足で分かりませんが。後は、ああ、でもこれも以前に考えたのですが、ほとんどの人が魔法を使えないシェルバーネの人たちは、ほとんどの人が魔法を使えるルフェリットの人達が怖くはないのでしょうか。ダリウス叔父様は魔法を使える人達が囲われたり奴隷のようにならないように法を整えていると言っていましたが」

 僕の疑問に兄様がゆっくりと口を開いた。

「うん。その辺りはきっと交易などが始まれば法の整備も必要になってくるだろうね。ルフェリットとしてまず気を付けたいのは王国の国民が囲われたり、連れ攫われたりしないように。反対に王国の国民がシェルバーネの人たちを魔法で好きなようにさせないように考えていかなければいけないだろう。まぁ少数とはいえ、魔法を使える者達は居るのだし、ルフェリットもシェルバーネもその辺りは慎重に考えて行ってほしいなと思うよ。下手に争いが起きて封印された所を崩してしまうような事になったら大変だ」
「はい……そうですね。きっとそこはお互いによくすり合わせをして条約を締結させないといけないですものね。宰相様の腕の見せ所でしょうか」
「ははは、そうだね。おそらくは宰相府に賢者を引き込んだり、もしかすると父上も叔父上も巻き込まれるかもしれないが、それよりも何よりも『首』の方が先決だと思うからね。メイソン卿からは密かに調べてほしい所を聞いているよ」
「僕にも、何かお手伝い出来る事はありますか? こんな時期だから皆には伝えない方向がいいのかな」
「父上とメイソン卿に聞いてみるね。とにかく足踏みばかりはしていられないからね。ところでエディは今日はフィンレーに行ってきたのかな?」
「あ、はい。ハリーが母様が少し心配をしていると言っていたので一緒にお茶を飲みましたが、反対に僕が励まされてしましました。考えすぎてはいけないと」

 そう言うと兄様はまた笑った。

「さすが、母上。そうだね。エディは色々考えて皆を助けてくれるけれど、考えすぎてしまうのは駄目だからね。そうなる前に話をしてね」
「はい、アル兄様。その、父様にもよろしくお伝えください」
「うん。伝えておくね」

 兄様はそう言って椅子から立ち上がった。

「エディは食事は?」
「すみません。フィンレーで済ましてしまいました」
「そう。でもお茶くらいなら飲めるかな」
「はい」
「じゃあ、一緒に行こう」

 そう言って兄様は遮音の魔法を消した。

「それにしても、エディが成長していて本当にびっくりするね」
「ええ?」
「一つ言うとちゃんと色々が伝わっている。疑問点もしっかりかえってきて分かりやすい」
「あ、ありがとうございます」

 その瞬間ふわりと兄様に抱きしめられて、僕は驚いて声を上げそうになってしまった。

「あ、あの、兄様」
「うん。ごめんね、少しだけこのまま。なんだか急にエディが大人になった感じでね、嬉しいような淋しいような不思議な気持ちになっているんだ。ふふふ。うん。大丈夫。さあ、行こうか」

 そう言って離れそうになった兄様に、僕はどうしてかは分からないけれど、ギュッとしがみついていた。

「エディ?」
「だ、だって、兄様が嬉しいような淋しいようなっておかしな事を言うから。嬉しいのはいいけど、淋しいのは駄目です。淋しいって聞いたら、僕まで淋しくなります」

 それはおかしな理屈だったけれど、そう感じたんだから仕方がない。兄様が淋しいのは嫌だ。

「…………有難う。エディ。心配させてごめんね。エディと色々な話が出来て嬉しい。一緒に解決に向けて力を合わせて行けるのも。赤いマカロンが大好きだった小さなエディも、次々に難しい話を理解して疑問をぶつけてきてくれるエディもちゃんと、どちらも大好きだよ」

 背中に回った手がいつものようにトントンと優しく叩く。

「はい。色々考えて、お話して、どこかでお役にたてるようになっていたいです」
「うん。よろしくね」

 こうして僕たちは応接室を出て、ダイニングへ向かった。




 後で思い返して、顔が熱くなった。


 
 
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