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第7章  厄災

235. 新しい魔法の取得

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お祖父様とやってきたのは訓練場だった。
お祖父様のお屋敷はフィンレー領内の少し南側の方で、まだ雪はそんなに積もっていはないそうだけど、こちらはもう真っ白で外での勉強会はとても出来ない。同じフィンレー領内でも結構違うんだなって思う。

訓練場にはジョシュアとアシュトンさんが居た。
僕は「お待たせしてすみません」と挨拶をして、訓練場の端に設置している簡易のテーブルセットの椅子に皆で腰を下ろす。

「眠りの魔法を取得したいと聞いたが」
「はい。妖精から聞いた「眠らせる」という事が、魔人に有効なのかと思って取得しようとしたのです。でも先日兄様からそうではないとお聞きしました。ただ、僕は状態異常の魔法は麻痺パラライズしか取得していないので、使えるようになってもいいのかなって思います」
「うむ。眠りの魔法は私も使った事はないが、エドワードなら取得は可能だろう」
「え! お祖父様もですか?」
「うむ。眠らせるよりはもっと手早く戦闘不能にした方が効率が良いからな」
「ああ、そうですね」

うん。確かにそうだ。戦っている時に他の攻撃魔法が使える中で眠らせる事を選択するのはあまりない。
それならば他の魔法で戦えなくしてしまった方がいいに決まっている。

「魔法の組み立ては分かっているので、とりあえず陣を読んでいく事から始めよう。パラライズ(麻痺)にしてもスリープ(眠り)にしても何かの時に身を守る手立てにはなるだろう。そんな事にならない事が一番だが」
「はい。僕もそう思います」

僕がちょっとだけ笑って頷くと、お祖父様も小さく笑って頷いた。

「あ、あの発言をしてもよろしいでしょうか」
「アシュトン!」
「私も見ながら一緒に取得を目指してもよろしいでしょうか。その……取得できるかどうかは分かりませんが」
「うむ。構わん」
「ありがとうございます!」

ものすごく嬉しそうなアシュトンさんに、そんなに似てはいない筈なのに、魔物の話をしているミッチェル君が重なった。
ふふふ、ミッチェル君とマーティン君はどちらかと言えばお母様似なんだろうな。だって、お会いした事のあるレイモンド伯爵様にはあんまり似ていない。そしてアシュトンさんは両方に似ている感じなのかな。二人はどちらかと言えば綺麗系だけど、アシュトンさんはカッコいい系だ。でもしっかり鍛えている感じだけどレイモンド伯爵みたいなごつい感じではないんだよね。

「気を付けなければならないのは、この状態異常系の魔法は他の魔法が外因のようなものつまり物理的に何かをぶつけたりするような魔法ではなく、相手を支配するような魔法である事を理解していなければならない。使いようを間違えてはならん。良いな」
「はい」
「うむ。では始めよう」

お祖父様はそう言っていつものように僕に眠りの魔法を魔法陣にして見せてくれた。魔法陣の可視化はとても難しくてアシュトンさんは初めて見たと言っていた。

「ああ、なるほど。この辺りが普通の攻撃魔法とは異なるのですね。うう~~ん」
「相手の精神への攻撃のようなものだからな」
「そうですね。そこに命令するように入れ込んでいくと言うのが難しい感じですね。攻撃っていうよりも取り込む? 
強引に介入する感じなのかな。式を使っても個別に違う所も出てきそうですね。それが掛かり方の違いになるのかな」
「うむ」
「頭で覚えた後は実践のみですが、これは難しいですね。相手が必要になる」
「ああ、では私たちでどうぞ。眠るくらいでしたら実害はそうないので」

さらりとそういうジョシュアに僕は思わずブンブンと首を横に振った。

「こういうのは数をこなした方がいいんですよ。とりあえず覚えて出来そうならやってみましょう。同意があれば大丈夫だし、知っている人間にかければそれがどういう状態なのか後で聞く事も出来ますし。慣れてきたら小さな魔物とかにやってもいいかもしれませんよ」
「そうそう。別に特大のファイヤーボールをいきなり投げつけるわけじゃないですから」
「で、でも精神系のものですし、何かあったら困ります」

そう、万が一にでも目覚めなくなってしまったらと思うとまともに練習などできない。

「人形を使えばよい」
「人形ですか?」
「試し打ちようの人形がある。きちんと術がかけられたかどうかも判定できる。それで出来るようになったら一度試させてもらいなさい」
「わ、分かりました」

お祖父様はそう言うとボックスの中から一体の土人形を出した。

「そ、それは」
「うむ、私が練習用に使っていたものだ。強化と保存魔法だけはかけている。誰も相手をしてくれなかった事があってな。魔法を取得したい時に使っていた。こちらに取得をしたい魔法を陣として記憶させておけば、それがきちんとかけられたかを評価できるようになっている。これならば精神系の魔法で相手を気に病むこともないだろう」
「ありがとうございます。お祖父様!」
「す、素晴らしいです! カルロス様! やっぱり、一生ついて行きます! 尊敬します!」
「アシュトン! す、すみません。本当に、悪い奴ではないんです」

キラキラの目になってしまったようなアシュトンさんと、ものすごく焦っているジョシュアを見て僕はつい笑い出してしまった。

「ああ、すみません。僕も、僕のお祖父様がお祖父様で本当に良かったです。お人形と魔法陣はお借りします」
「うむ」

それから僕は少しだけスリープの魔法を練習した。魔法陣としては発動はする感じなので数をこなせば取得は出来そうだと思った。
それを見ながらアシュトンさんも挑戦をしていた。パラライズの方も取るみたいだった。
土人形の作り方をお祖父様に教わって、練習をすると言っていた。




それが終わってから、お茶をご一緒していただく事になった。
始まったのがお昼過ぎだったので、少し遅くなってしまったけれど、シェフがケーキを出してくれたのでありがたく頂く事にしたんだ。

「しばらくはこのまま自分で練習をします。練習には必ずジョシュアかマリーに居てもらいます」
「うむ」
「それから、ハーヴィンの事ですが、お話は」
「すでに聞いておる」

そういうお祖父様にアシュトンさんたちは「外した方がよろしいでしょうか」と言った。

「………いや、他言をしないという誓約魔法の交わしてもらえば問題ないだろう」
「交わします」
「私も」

お祖父様は今王国に起きている事と、厄災の魔物の首の事を大雑把に説明をした。
魔物が多くなった事や、エターナルレディの事、そして現在も騒がれている魔人の事なども関係をしている可能性がある事を聞いて二人は声を失っていた。

「なぜ、このような大事がもっと多くの者に知らせずにいたのでしょうか」
「魔物が増えた事で、その討伐を初等部だった光の愛し子に任せようとしていた者たちが大勢いたと聞く。その後も、エターナルレディの薬の配布で揉め、人の中に魔素が潜む事で揉め、さらには今また魔人の欠片が存在をしているのではないかと揉めている。そんな者たちにおとぎ話のような厄災と呼ばれた化け物の話をしてどうなるだろう?打ち取られた首の封印が解けかけているからそんな事が起きているというのは、仮説でしかない。おとぎ話を前提にした仮説だ。それに首の封印場所もまだ全てが特定したわけではない。そんな時に首が封印されているなどと言ってどうなるか。ここだ、あそこだと勝手に言い合い、調べる事も出来ずに混乱を極めていれば、王国は厄災の首がなくとも沈むやもしれん。賢者と、魔法使いと、王族が封じたと言うならば現時点でその長となる者にその場所を突き止めてもらわねばなるまい」

「………浅はかな意見を失礼いたしました」
「うむ。知る権利というものは誰にでもあるだろう。だが、知ってそれを解決する為に動こうとするものは案外少ないものだ。とりあえず、今一つの封印場場所は確定はしたが、それを封じ直す目途が立たん。調べに行った者が為す術もなく撤退するだけで精一杯だったと報告してきた。首の封印はまだかろうじて解けてはいないという状態だったらしいが、それは近寄れないほどの負の力を持ち、魔物を喚べるらしい。入口にヘルハウンドが7頭、その他に小物が何度か襲てきて、首の近くからはガルムが出てきたそうだ」
「ガルム」
「しかも封印場所は地下の一本道の通路の先で戦うにも不利な状況らしい。撤退後にエターナルレディの時にも協力してくれた妖精がヒントをくれたようでな。だがそれがまたどうしたらいいのか分からん状況になっている」
「地下通路の一本道か……」

渋い顔をして考え込んでしまった二人にお祖父様が再び口を開く。

「残りの首の封印がどうなっているのかはまだ分からん。場所の特定まではまだ少しかかりそうだ」
「お教えいただきましてありがとございました。今日のこの話は他言しないように誓約を交わします。また今後何かお役に立てる様な事があればお声をおかけいただければ馳せ参じます」
「うむ。これを守ってやってほしい」

お祖父様はそう言って僕を見た。

「今後は加護の力の【緑の手】だけでなく、【精霊王の祝福】という力についてもどのようなものかを調べていくつもりだ。未知の力だが、過去に魔物を生気を植物が吸い取ったような事が起きている。扱えるようにしてやるつもりだ」
「………畏まりました」
「私も、出来る限りの事を致したく存じます」

二人がそう言って頭を下げたのを見つめながら、僕もまた「よろしくお願いします」と頭を下げた。


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一旦切ります。

お祖父様はないなら作ればいいじゃないの人だった(;^ω^)
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