悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第7章  厄災

232. 様々な思い

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王城では少人数の会議が開かれていた。
表向きは魔人の欠片があるかもしれないという仮説の対策について、各領から上がってきた意見をまとめているという事になっているが、その大半はほんの一握りの人間しか知らない『厄災』という名の化け物の首の封印のし直しだ。

昨日調査に行ったフィンレー公爵家の領主と魔導騎士達、第二王子の側近であるフィンレー家嫡子のアルフレッド、そしてこの件をずっと調べていた賢者の称号を持つメイソン子爵と聖神殿の聖属性の神官は、その姿をきちんと見る事すら叶わなかったと言った。

デイヴィットは失敗だったとはっきり言った。
ただ悪戯に刺激をしたようなものだと報告をして頭を下げた。
こんな事は初めてだった。

今日の会議には大神官も来ていた。同行した神官からはあまりの禍々しさと底のないような負の力を感じて為す術もなかったと報告を受けたと言った。

信じられない事だが、王国が出来る以前に首を切り落とされた化け物は、封じ込められ、切り落とされた首だけで生きていた。
そしてその封印が、おそらくは全てではないのであろうが解かれ始め、長い長い眠りから目覚め始めているようだった。

おとぎ話などとはもう言っていられなくなるだろう。
何としてもそれを再び封じ込めなければ、首だけでなく、光の剣で封じられているらしい厄災の体までが起き上がってしまうかもしれない。
そしてそれらが万が一にでも呼び合って、甦るような事があれば、おそらく世界は終わりだ。
いつか、再び『英雄』が現れるまで恐ろしい時代を過ごさなければならなくなる。

けれど……

「眠らせる、ですか?」
「ああ、そう言われたと。間違えている。起きていると怖い。眠らせる。あの首の事だろう。だとすれば、首を眠らせるにはどうしたらいいのか考えたい」

そう言ったデイヴィットにケネスは唸るように「首を眠らせるか……」と呟いた。

代々大魔導師の称号を持つレイモンド家だが、大魔導師であった父が亡くなりレイモンド家を継いだケネスにはまだ大魔導師の称号はついていない。
称号は神が認めると付与されるものだ。スキルとも加護とも違うが、称号が付く事でその力は増す。
ケネスの魔法の能力は確かに高く、魔導師としてその魔法能力を深め、広めたり、魔道具を考え出したり、魔法を強化したり、生み出したりという力はあるものの、ケネス自身は王城の魔導騎士隊に所属をしていた事もあり、魔導騎士として戦う事が自分に合っていると思っている事も大きい。

「魔物を眠らせる魔法は存在をする。その他にも香を焚いて眠らせたり、眠りの魔道具を設置したり、眠り薬もあるだが、そのような化け物に何が効くのかは正直分からない」
ケネスはスラスラとそう言った。

「ああ、それはそうだろう。ハワードの方は何か分かった事が?」
「今のところはそんな文献はない。大体首の話も西の国や、一部の領から出ていたものだからね」

デイヴィットとハワードがそう言って、ケネスが説明をするように話し出した。

「例えば魔法をかけようにも、その前に様々な魔物を生み出して、魔法をかけるまでにこちらが全滅をする事も考えられる。香を焚いたとしても、それが眠りに落ちたのかを確認するのは難しいだろう。それに香の量も分からない。魔道具は対象がその範囲内に居なければならず設置は困難だろう。元より発動には魔力を必要とするな。薬を飲ませるのは論外だ」

それを聞いてニールデン公爵が溜息交じりに声を出す。

「確かに。聞いていると、その場所が厄介ですね。最初の扉から首のある扉までの一本道の洞窟。おそらくはその首が逃げる道を一つにしたつもりでしょうが、逃げる道を一つにするという事は、討つ道も一つだ」

その言葉を聞いてデイヴィットは頷きながら再び口を開く。

「ランクの高い魔物が出てくるとかなり厳しい。戦う場も使える魔法も制限される。少人数で立ち向かえるような魔物であればともかく、今回のようなガルムや、キマイラ、フレイム・グレート・グリズリーなどが出てこられたら狭い洞窟では手の打ちようがない」
「かといって、外に引きずり出して戦うわけにはいかないだろう。そんな事をすれば禍を自ら地に放つようなものだ。あの魔人のように消えてどこにでも出現しながら残りの首を、光の剣で封じ込められているかもしれない身体を探し始める可能性は高い」

デイヴィットの話に首を横に振りながらそう言ったケネスに今まで黙って話を聞いていたグレアムが重々しく「それは何としても避けねばならん」と言った。

「策のないまま、再び確認をしに行けば、辛うじて残っている封印は完全に壊れてしまうだろう。あの中に納まっているという事は、今はまだ封印は解け切ってはいないという事だ。デイヴ達が張った結界や防御壁も効いているのだろう。だがいつまでそれが持つのかというのも分からない。今まで起きた事があれのせいだとしたら、封印が不完全なままであんな事が起きたという事だ。完全に解けたとしたら……」
マクスウェードが眉間に皺を寄せたままそう言った。

「いや、封印は王国内にあと二つある可能性が高いのでしょう? だとすればもしかすると他の封印も緩んでいるのかもしれません。あれだけで起きている事ではないという可能性はあります。あまり嬉しくはない仮説ですが」
シルヴァンが顔を強張らせながら口を開く。

『眠らせる』という新たな情報を手にしても、会議は暗礁に乗り上げたままになっていた。
何かいい手立てがないのか。
誰かが犠牲になって魔物を眠らせるという事をしたとしても成功する確率は極めて低いだろうと、ここに居る全員が言葉にはしないが思っている。

「やるならば全ての事を予想して、万全を期して、一度に賭けるようにしなければならない。先ほどマックスが言っていた通り、二度はおそらく今の結界が持たんだろうな」
疲れたようにケネスが言った。


あれが地上に解き放たれたら……
王国に、英雄は現れるのか。 
それを待つ事はとても出来そうになかった。


-*-*-*-*-*-


「人数を絞って重大な会議が行われているらしいですね」

そう言ったのはアシュトン・ラグラル・レイモンドだった。数ヶ月前から王太子の護衛として登城するようになったレイモンド伯爵家の嫡子だ。今は近衛騎士団に所属をしており、そこからの抜擢だった。

レイモンド家は代々大魔導師の称号を持つ、魔法を極めるような家柄だ。現当主のケネスは元々王国の魔導騎士隊の隊長を務めていた。しかし、先代から爵位を継承すると隊長をすっぱりと辞めて、自領に魔導騎士団を作り、その団長となったのだ。曰く、自領の魔導騎士団を鍛え直す為と魔導騎士の質の向上。一時は謀反かとも言われた逸話だ。
もっとも今ではレイモンド家の魔導騎士団は自領で抱える最高の魔導騎士団であり、近衛騎士団、魔導騎士隊と並んで、王国の守りの要の一つにもなっている。

そんなレイモンド家の嫡子、アシュトンにも父親と同様に逸話がある。その昔王太子の側近候補として王城に上がっていたアシュトンは皇太子に丁寧な口調で、辛辣な言葉を向け続けた。
言葉は丁寧なのに厳しいのだ。
本人に注意をしても、そんなつもりはない。見ていてイライラするだけ。どうして出来ないのか理解に苦しむ。と言い、王太子が神経性の胃炎を起こし、アシュトン自身も胃痙攣を起こして側近候補を辞した。

護衛は普通喋らない。けれどアシュトンは目の前にいる護衛対象者にむかって口を開いた。
すぐさま側近たちが注意をするが、それにめげる様ならば初めから口など開かない。

「側近たちも側近たちだ。なぜ注進をしない? 国の大事を決めているかもしれない、国王自らが出席し、第二王子が参加を願い出たそれに、なぜ王太子である貴方が何も思わないのか理解できませんね。国の政には興味がありませんか?」

「無礼ですよ、レイモンド様」
「きちんとした事をお教えしない事も無礼だと思いますが」
「なんと」
「何も言わず、何も知らず、ただそこに在り続けるような者が王になる。貴方は怖くないのですか? 私なら怖いです。無知は罪ですよ。上に居る者であれば尚更だ」

側近である子息は顔を真っ赤にして口をパクパクと動かした。

「こんなにも何も変わらずに側近に甘やかされていらっしゃるとは正直ガッカリです。もう少し変わられていると思っておりましたが」

「レイモンド! 無礼であろう。 護衛であるお前が殿下に意見をするなど言語道断!」
「なら貴方がその職務を果たせばよい。自分の職務も果たさずに、ただついて回るのは幼子でも出来る。側近として仕える者がすべき事をもう一度考え直すべきだ。いつまでも守ってくれる者がいるわけではない。世界はこんなにも乱れている。それすらも分からぬのならば、貴方も側近など辞めてしまえばよい」
「な………」
「交代の時間ですので失礼。ああ、私は間違った事は言っていませんよ。殿下」

表情を消すと一気に冷たくなるその顔で、真っ赤になっている側近たちを一瞥して、アシュトンはその場を離れた。

ああ、本当に最悪だ。
何年経っても全く変わらない。どうして変わらないのだろう。時間は動いていて、こんなにも世の中は不安定になっている。その中で知ろうとすればそれが叶う立場に居ながら何もしない事が信じられないとアシュトンは思っていた。

「あ~あ、これでまた父上に怒鳴られるかもしれないなぁ」

だけど、無表情でただ目の前の仕事だけをこなせばよいと思っているあの横顔は、今も昔も本当にムカついて腹が立つのだ。幼い頃はもっと自分を出す事が出来たのにと。

『アッシュ、私は良い王になる』

「今のままじゃなれねぇよ。ばーか」

しばらくなかった胃の痛みを感じてアシュトンは顔を歪めた。


--------------
アシュトン好きの方、ちらちら出てきますよ♪
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