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第7章 厄災
230. 厄災の力
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激しい犬の鳴き声と、剣を振るう音、そして父の声と騎士たちの声。
一体何体のヘルハウンドが闇の中から現れたのか。そう思っていると神官の小さな声が聞こえてきた。
「ルシル様の聖魔法であれば、あのような魔物は光の加護ですぐに浄化をして消してしまえるのですが、私たちの聖魔法はそのような事は出来なくて申し訳ない」
「え?」
アルフレッドは驚いたように神官たちを振り返った。
「ああ、ご存じありませんでしたか。同じ聖属性の魔法でも私たちの浄化とは違うのです。ルシル様は【光の愛し子】というご加護があります。光魔法は主に癒しと治癒の魔法とされ、浄化を出来る者もいますが、魔素や瘴気などの浄化はやはり聖属性でないと難しいとされています。ですが一般的な聖属性の浄化では魔に染まったその身体ごと浄化をして消してしまうような事は出来ません。あれはご加護のある愛し子様にしか出来ない事なのです」
「私たちに出来るのはあれが死んだ後に残ってしまった魔素や瘴気などの穢れを浄化する事です」
なるほどとアルフレッドは今更のように思った。
今までは浄化をするという一言で済まされていたので、加護の力との差がよく分かっていなかった。聖属性自体が稀なのだ。だが言われればルシルの力がいかに強いものなのかはっきりと分かる。あの学園に現れたキマイラを一瞬で光に変えた時、聖魔法とはこういう力なのかと思ったが、あれは愛し子の加護の力だったのか。
小説は『記憶』の中にあるが、その辺りの表記を彼はあまり覚えていなかったのかもしれないと胸の中で小さく笑った。
エディも、ルシルも『記憶』はこの世界との差が広がれば広がるほど薄くなっていくというような事を言っていた。自分の『記憶』は彼の『記憶』のままでなく、アルフレッド自身が自分の記憶の中に取り込んだものなので二人とはまた違っているようだ。その『記憶』の中に今回のこの厄災の話があっただろうか。それともそこまで話が進んでいなかったのだろうか。あるいはこれはもう小説から逸脱している事象なのだろうか。
「アルフレッド、もう大丈夫だ」
「はい」
父の声にアルフレッドとマリーはそれぞれに結界と防御壁を解いた。
「ありがとうございました。ヘルハウンドは何体現れたのでしょう」
「7体です。数名が呪いを受けましたので、治癒をしていたければ」
「かしこまりました」
神官たちはすぐさま傷ついた騎士たちに駆け寄った。
「……もう出てこないのでしょうか」
「分からんが今の所、魔物の気配はない気がする。とりあえずは神の間を見て、自分たちの手に負えそうになければ出来る限りの結界を作って撤退をする」
「かしこまりました」
父の言葉に頷いて、アルフレッドは扉の前にやってきた。中は漆黒の闇だ。
何があるのか、どんなものが潜んでいるのか何も分からない。
「こんな扉の近くに隠れていたなんて本当に無事でよかった。だが、この扉があるからおそらくはここにあまり人を近づかせなかったのかもしれないな。それがエドワードにとっては幸いだったのかもしれない。本当にマリーには感謝をしてもしきれないな」
「はい」
親子で話をしていると、神官たちから「終わりました」という声が上がった。
「よし、では中に入って神の間とやらには行ってみるが、自分たちでは無理だと思う事があったら出来る限りの結界をかけて、この扉だけは締めてから転移をして撤退する。繰り返すが無理はするな。では進むぞ」
「はっ!」
こうして一行は暗い中にいくつかの『ライト』を照らしながら前へと進んだ。
道は屋敷の図面に書かれていた通りに一本道だった。途中何体かの魔物が出たが難なく倒して進む事が出来た。
そろそろだろうか。
そう思った辺りから身体が妙に重く感じるようになった。
『厄災』の首が近づく事を拒んでいるのだろうか。
それとも何か恐ろしい魔物が潜んでいるのだろうか。
この狭い空間の中で、例えばフィンレーに現れたようなフレイム・グレート・グリズリーが現れたら一も二もなく撤退だとデイヴィットは思った。
あの時は野外という事もあり、大きな魔法も展開できたし、エドワードの魔力暴走があったから倒す事が出来たが、本来であれば二十数名の魔導騎士で迎え撃つにはかなり難易度の高い魔物だ。それだけではなくこの洞穴のような一本道で火でも噴かれたら筒状になって襲ってくるそれに焼かれておしまいになるのは間違いない。
使える魔法も限られる空間での上位の魔物の討伐は一歩間違えば全滅になりかねない。
「……何だか、重苦しい感じだね」
ハワードがそう言った。
「ああ、魔素か、威圧か………」
神官たちも顔を顰め始めている。これ以上は難しいかもしれない。そう思った時、目の前に再び扉らしきものが見えた。
だが今度のそれは閉ざされてはいない。
そしてその向こうに僅かに見える何か……は禍々しいほどの瘴気? それとも魔力なのだろうか。ユラユラと何かを立ちのぼらせているように見えた。
「扉が閉じられていない。確認をしてみるか………」
「……っ……私には難しいな。足が、進まないよ」
ハワードが顔を歪めるようにしてデイヴィットを見た。
「無理をするな。撤退の準備をしよう。行けそうな者がいたら、扉の内部の様子だけでも確認をしたい。付いて来られる者がいるか」
デイヴィットの声に、アルフレッドと騎士たちの半数ほど、そして神官の一人が前に出た。
「無理をせずとも」
「いいえ。私は大神官様にここで見た事を報告する義務がございます。例え何も出来なくとも、その禍々しさの正体を目にしたいと思います」
「分かった、では。アルフレッド。確認をしたら入口の扉の前まで一気に転移をする用意をしておくように」
「かしこまりました」
ねっとりとした何かの中を手探りで進んでいくような感覚に耐えて、デイヴィットは開いて、僅かに中を覗かせているそれに手をかけた。
同じように騎士たちもそれを押し開けようと力を籠める。
そして扉が半分ほど開いた瞬間。祀られていたと思われる場所で、描かれた魔法陣と思われるものが破られて、その中央に黒でもなく、赤くもなく、けれど仄暗い何かが脈を打つように光っているのが見えた。
「ヒィィィィィ!!!」
神官が引きつるような悲鳴を上げた。
魔素ではない。魔人でもない。放っているものも瘴気ではない。
何かは分からないがもっと恐ろしくて、もっと強いものだ。そんな圧倒的な負の力を持つ塊がゆらりと揺れると、次の瞬間、どこからか唸るような低い声が聞こえ始める。
「ま、さか、ガルム」
いつの間に現れたのか、先程までは存在していなかった漆黒の毛並みの大きな狼が、赤い瞳をしてこちらを見ていた。
冥界の番人、地獄の黒狼と言われる、何をも噛み千切ると言われる牙と、何をも切り裂くと言われる鋭い爪を持つ魔物がじっとこちらを見て飛びかかるタイミングをはかっているのが見える。ゾクリと身体が震えた。
この空間で襲い掛かられたら間違いなく全滅だ。
そんな魔物を一瞬にしてあの禍々しい塊は生み出したのか。魔素もなく、闇の中から。
「撤退だ! 一気にハーヴィンの屋敷の外へ! 結界をかけられる者はこの場に結界を!ガルムを部屋から出すな!」
すぐさま奥の部屋に何重にも結界が展開をした。半分ほど開いた扉にはマリーの防御壁が幾重にもかけられる。
それにむかってガァン! とぶつかってきた身体を見ながら必死にドアを閉じた。
「アルフレッド、ハワード、マリー、結界と氷か風の魔法を使える者は最初の扉の前に、その他の者は神官を連れて屋敷の外へ! 急げ!」
声と同時にそれぞれの場所に転移をする。デイヴィット達の他に扉の前に転移をした騎士は十二名。
扉を閉じる前に風魔法を送り、次いで氷魔法で通路を氷で埋め尽くす。少しでもここに辿り着くのが遅くなるように。閉じる瞬間に更に防御壁を展開させて、鍵を閉め、扉に結界を何重にも張った。そして微かに聞こえる遠吠えを聞きながらデイヴィットたちは屋敷の外へと転移をした者たちと合流をして、一気にハーヴィンの神殿へと転移した。
失敗だ。完全に失敗をした。
デイヴィットはそう思っていた。
ハワードは表情を硬くしたまま何も言わなかった。
神殿に到着するとすぐさまハワードは王宮へ、アルフレッドと何人かの魔導騎士は神官を連れて聖神殿へ、そして三名の護衛を残し、一人はマリーをタウンハウスへ送り他の魔導騎士はフィンレーへ転移をした。
デイヴィットは護衛たちと一緒にたった今起こった事を元ハーヴィンの神殿の神官に話をした。
元領主の屋敷内に何かが封じられていて、それがガルムを生み出した事。結界を幾重にも張って閉じ込めてきたが、絶対に誰も近寄らせないようにしてほしい事。
元々元領主の館は呪われていると言われ、誰も近づかなかったが、万が一ガルムのような魔物が地上に放たれたら大惨事になってしまう。
大神官は震えあがり、いつ誰がそれを退治してくれるのかと言ってきた。
王国と相談をして出来るだけ早急にとだけしか言えなかった。
それからすぐに王宮に行き、先日のメンバーたちを集め今日の事を話した。
「三つあるっていう首がみんなそんな力を持っていたなら、とても封じ込めるなんて出来ないぞ」
「封じ込めに関して何か文献が残っていないか、早急に探します」
顔を強張らせながらそう言うハワードに、さすがにそれ以上何も言えずに、会議は報告のみという形に留まった。
「寝ていた子を起こしたようなものだ」
そう言ったデイヴィットは苦い表情を浮かべた。
「封じ込めるにしても、あの通路が厄介だ。洞窟の中で大型の魔法を使わずに幾人もの騎士を連れて戦うのは狂気の沙汰だ。先頭から順に食われていくのを待つだけだ」
「その通路をこちらの武器にするとしても、戦略を立てづらいな。魔物を生み出せるというのがきつい。しかもそれが万が一無限であるとすれば、こちらに打つ手はないな」
「そういう事だよ。いっそ全てを崩して埋めて、埋めた所を全て封じるという事も考えられるが、結界の範囲が広くなれば、強い力であるほど抑え込む力も大きくなるし、脆くなる」
「ああ、そうだな」
「少し、落ち着いて考える。今回出てきたのはヘルハウンドと小物とガルムだったが、別のものが出てくる可能性もある。どんなものが出てきても勝算がなければ下手に手を付けてはいけない。あれはそういう類のものだ。大昔にあれを五首も退治したという英雄を心から尊敬するよ」
そう言って城を後にしたデイヴィットに友人たちはかける言葉が見つからなかった。
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一体何体のヘルハウンドが闇の中から現れたのか。そう思っていると神官の小さな声が聞こえてきた。
「ルシル様の聖魔法であれば、あのような魔物は光の加護ですぐに浄化をして消してしまえるのですが、私たちの聖魔法はそのような事は出来なくて申し訳ない」
「え?」
アルフレッドは驚いたように神官たちを振り返った。
「ああ、ご存じありませんでしたか。同じ聖属性の魔法でも私たちの浄化とは違うのです。ルシル様は【光の愛し子】というご加護があります。光魔法は主に癒しと治癒の魔法とされ、浄化を出来る者もいますが、魔素や瘴気などの浄化はやはり聖属性でないと難しいとされています。ですが一般的な聖属性の浄化では魔に染まったその身体ごと浄化をして消してしまうような事は出来ません。あれはご加護のある愛し子様にしか出来ない事なのです」
「私たちに出来るのはあれが死んだ後に残ってしまった魔素や瘴気などの穢れを浄化する事です」
なるほどとアルフレッドは今更のように思った。
今までは浄化をするという一言で済まされていたので、加護の力との差がよく分かっていなかった。聖属性自体が稀なのだ。だが言われればルシルの力がいかに強いものなのかはっきりと分かる。あの学園に現れたキマイラを一瞬で光に変えた時、聖魔法とはこういう力なのかと思ったが、あれは愛し子の加護の力だったのか。
小説は『記憶』の中にあるが、その辺りの表記を彼はあまり覚えていなかったのかもしれないと胸の中で小さく笑った。
エディも、ルシルも『記憶』はこの世界との差が広がれば広がるほど薄くなっていくというような事を言っていた。自分の『記憶』は彼の『記憶』のままでなく、アルフレッド自身が自分の記憶の中に取り込んだものなので二人とはまた違っているようだ。その『記憶』の中に今回のこの厄災の話があっただろうか。それともそこまで話が進んでいなかったのだろうか。あるいはこれはもう小説から逸脱している事象なのだろうか。
「アルフレッド、もう大丈夫だ」
「はい」
父の声にアルフレッドとマリーはそれぞれに結界と防御壁を解いた。
「ありがとうございました。ヘルハウンドは何体現れたのでしょう」
「7体です。数名が呪いを受けましたので、治癒をしていたければ」
「かしこまりました」
神官たちはすぐさま傷ついた騎士たちに駆け寄った。
「……もう出てこないのでしょうか」
「分からんが今の所、魔物の気配はない気がする。とりあえずは神の間を見て、自分たちの手に負えそうになければ出来る限りの結界を作って撤退をする」
「かしこまりました」
父の言葉に頷いて、アルフレッドは扉の前にやってきた。中は漆黒の闇だ。
何があるのか、どんなものが潜んでいるのか何も分からない。
「こんな扉の近くに隠れていたなんて本当に無事でよかった。だが、この扉があるからおそらくはここにあまり人を近づかせなかったのかもしれないな。それがエドワードにとっては幸いだったのかもしれない。本当にマリーには感謝をしてもしきれないな」
「はい」
親子で話をしていると、神官たちから「終わりました」という声が上がった。
「よし、では中に入って神の間とやらには行ってみるが、自分たちでは無理だと思う事があったら出来る限りの結界をかけて、この扉だけは締めてから転移をして撤退する。繰り返すが無理はするな。では進むぞ」
「はっ!」
こうして一行は暗い中にいくつかの『ライト』を照らしながら前へと進んだ。
道は屋敷の図面に書かれていた通りに一本道だった。途中何体かの魔物が出たが難なく倒して進む事が出来た。
そろそろだろうか。
そう思った辺りから身体が妙に重く感じるようになった。
『厄災』の首が近づく事を拒んでいるのだろうか。
それとも何か恐ろしい魔物が潜んでいるのだろうか。
この狭い空間の中で、例えばフィンレーに現れたようなフレイム・グレート・グリズリーが現れたら一も二もなく撤退だとデイヴィットは思った。
あの時は野外という事もあり、大きな魔法も展開できたし、エドワードの魔力暴走があったから倒す事が出来たが、本来であれば二十数名の魔導騎士で迎え撃つにはかなり難易度の高い魔物だ。それだけではなくこの洞穴のような一本道で火でも噴かれたら筒状になって襲ってくるそれに焼かれておしまいになるのは間違いない。
使える魔法も限られる空間での上位の魔物の討伐は一歩間違えば全滅になりかねない。
「……何だか、重苦しい感じだね」
ハワードがそう言った。
「ああ、魔素か、威圧か………」
神官たちも顔を顰め始めている。これ以上は難しいかもしれない。そう思った時、目の前に再び扉らしきものが見えた。
だが今度のそれは閉ざされてはいない。
そしてその向こうに僅かに見える何か……は禍々しいほどの瘴気? それとも魔力なのだろうか。ユラユラと何かを立ちのぼらせているように見えた。
「扉が閉じられていない。確認をしてみるか………」
「……っ……私には難しいな。足が、進まないよ」
ハワードが顔を歪めるようにしてデイヴィットを見た。
「無理をするな。撤退の準備をしよう。行けそうな者がいたら、扉の内部の様子だけでも確認をしたい。付いて来られる者がいるか」
デイヴィットの声に、アルフレッドと騎士たちの半数ほど、そして神官の一人が前に出た。
「無理をせずとも」
「いいえ。私は大神官様にここで見た事を報告する義務がございます。例え何も出来なくとも、その禍々しさの正体を目にしたいと思います」
「分かった、では。アルフレッド。確認をしたら入口の扉の前まで一気に転移をする用意をしておくように」
「かしこまりました」
ねっとりとした何かの中を手探りで進んでいくような感覚に耐えて、デイヴィットは開いて、僅かに中を覗かせているそれに手をかけた。
同じように騎士たちもそれを押し開けようと力を籠める。
そして扉が半分ほど開いた瞬間。祀られていたと思われる場所で、描かれた魔法陣と思われるものが破られて、その中央に黒でもなく、赤くもなく、けれど仄暗い何かが脈を打つように光っているのが見えた。
「ヒィィィィィ!!!」
神官が引きつるような悲鳴を上げた。
魔素ではない。魔人でもない。放っているものも瘴気ではない。
何かは分からないがもっと恐ろしくて、もっと強いものだ。そんな圧倒的な負の力を持つ塊がゆらりと揺れると、次の瞬間、どこからか唸るような低い声が聞こえ始める。
「ま、さか、ガルム」
いつの間に現れたのか、先程までは存在していなかった漆黒の毛並みの大きな狼が、赤い瞳をしてこちらを見ていた。
冥界の番人、地獄の黒狼と言われる、何をも噛み千切ると言われる牙と、何をも切り裂くと言われる鋭い爪を持つ魔物がじっとこちらを見て飛びかかるタイミングをはかっているのが見える。ゾクリと身体が震えた。
この空間で襲い掛かられたら間違いなく全滅だ。
そんな魔物を一瞬にしてあの禍々しい塊は生み出したのか。魔素もなく、闇の中から。
「撤退だ! 一気にハーヴィンの屋敷の外へ! 結界をかけられる者はこの場に結界を!ガルムを部屋から出すな!」
すぐさま奥の部屋に何重にも結界が展開をした。半分ほど開いた扉にはマリーの防御壁が幾重にもかけられる。
それにむかってガァン! とぶつかってきた身体を見ながら必死にドアを閉じた。
「アルフレッド、ハワード、マリー、結界と氷か風の魔法を使える者は最初の扉の前に、その他の者は神官を連れて屋敷の外へ! 急げ!」
声と同時にそれぞれの場所に転移をする。デイヴィット達の他に扉の前に転移をした騎士は十二名。
扉を閉じる前に風魔法を送り、次いで氷魔法で通路を氷で埋め尽くす。少しでもここに辿り着くのが遅くなるように。閉じる瞬間に更に防御壁を展開させて、鍵を閉め、扉に結界を何重にも張った。そして微かに聞こえる遠吠えを聞きながらデイヴィットたちは屋敷の外へと転移をした者たちと合流をして、一気にハーヴィンの神殿へと転移した。
失敗だ。完全に失敗をした。
デイヴィットはそう思っていた。
ハワードは表情を硬くしたまま何も言わなかった。
神殿に到着するとすぐさまハワードは王宮へ、アルフレッドと何人かの魔導騎士は神官を連れて聖神殿へ、そして三名の護衛を残し、一人はマリーをタウンハウスへ送り他の魔導騎士はフィンレーへ転移をした。
デイヴィットは護衛たちと一緒にたった今起こった事を元ハーヴィンの神殿の神官に話をした。
元領主の屋敷内に何かが封じられていて、それがガルムを生み出した事。結界を幾重にも張って閉じ込めてきたが、絶対に誰も近寄らせないようにしてほしい事。
元々元領主の館は呪われていると言われ、誰も近づかなかったが、万が一ガルムのような魔物が地上に放たれたら大惨事になってしまう。
大神官は震えあがり、いつ誰がそれを退治してくれるのかと言ってきた。
王国と相談をして出来るだけ早急にとだけしか言えなかった。
それからすぐに王宮に行き、先日のメンバーたちを集め今日の事を話した。
「三つあるっていう首がみんなそんな力を持っていたなら、とても封じ込めるなんて出来ないぞ」
「封じ込めに関して何か文献が残っていないか、早急に探します」
顔を強張らせながらそう言うハワードに、さすがにそれ以上何も言えずに、会議は報告のみという形に留まった。
「寝ていた子を起こしたようなものだ」
そう言ったデイヴィットは苦い表情を浮かべた。
「封じ込めるにしても、あの通路が厄介だ。洞窟の中で大型の魔法を使わずに幾人もの騎士を連れて戦うのは狂気の沙汰だ。先頭から順に食われていくのを待つだけだ」
「その通路をこちらの武器にするとしても、戦略を立てづらいな。魔物を生み出せるというのがきつい。しかもそれが万が一無限であるとすれば、こちらに打つ手はないな」
「そういう事だよ。いっそ全てを崩して埋めて、埋めた所を全て封じるという事も考えられるが、結界の範囲が広くなれば、強い力であるほど抑え込む力も大きくなるし、脆くなる」
「ああ、そうだな」
「少し、落ち着いて考える。今回出てきたのはヘルハウンドと小物とガルムだったが、別のものが出てくる可能性もある。どんなものが出てきても勝算がなければ下手に手を付けてはいけない。あれはそういう類のものだ。大昔にあれを五首も退治したという英雄を心から尊敬するよ」
そう言って城を後にしたデイヴィットに友人たちはかける言葉が見つからなかった。
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