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第7章 厄災
225. 王城紛糾
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魔人だったもの、今はもう何と言っていいのか分からないそれを捕らえてきてから、王城は蜂の巣をつついたような状況になった。
何重にも厳重に結界が施されたそれを見た時には吐き気すらした。
蟄居していた屋敷から引き出されたオルドリッジ公爵自身も、さすがに浄化する事を認めた。
浄化はルシル一人に行わせるのではなく、聖魔法を持つ神官たち全員が参加をする事になった。それは第二王子のシルヴァンが願い出た事だった。
ルシルだけでは浄化する力が足りないというわけではない。
以前魔人をハーヴィンの領民たちの前で浄化をさせた事があり、ルシル自身の精神的な負担を軽減すると同時に、万が一何かあった時に対応できる者がいた方がいいという配慮からだった。
集まっていた王国の重鎮たちもそれに同意をした。
浄化は即日のうちに行われた。またどこかと繋がって消えられてはまずいと判断した為だ。
緊急の会議で決まったように、聖神殿の奥にある浄化用の部屋には聖魔法を使える神官たちと、そして王族からは第二王子のシルヴァンが、貴族たちからは見届けとしてニールデン公爵、フィンレー侯爵、レイモンド伯爵、メイソン子爵が参加をした。
浄化が済めば、滞っていたオルドリッジ公爵への粛清が開始されて、これで一旦王国内の粛清については幕を閉じる筈だった。
しかし、ここにきて新たなる課題が上がってしまったのだ。
魔人、とはもう呼べないようなものを捕らえてきたという報告から、魔素がまた新たに変化をしたのではないかという報告が上がってきてしまったのだ。
王室も、役人たちも、領主たちも、まだこのわけの分からないような混乱が続くのかと愕然とした。
特に重鎮と呼ばれている高位の爵位のものや、側近たち、そして賢者などの称号を持つ者たちはおそらくは胸の中で頭を抱えていただろう。
だが、とにかく進んでいかなければ終わらない。それは誰もが理解をしている事だった。
もっとも、理解と感情は遠に乖離をしているのだが。
「何とか無事に浄化を終えて、まずは一安心だな。課題は山積だが。とりあえず次はオルドリッジ公爵家への粛清か。ああ、浄化する事を優先に止めた魔素の案件が持ち上がってきそうだな」
ケネスが息を吐きながらそう言った。
「まったくです。まさかここにきて魔素が変化をするなんて想定外もいいところだ。しかも人の中にいつの間にか溜まるのではなく、勝手に他の人間に異動をする事も可能で、吐き出されたものは魔素だまりを作る? 分裂する?
意思があるように動く? 核があるかもしれないので魔人がもう分裂をして他の者の中にいる可能性がある? どれだけ有能なんだ!」
珍しく声を荒げたハワードに、ニールデン公爵は少しだけ驚いたような顔をして、デイヴィットはこめかみの辺りを揉んで椅子に深く腰掛けなおした。
そうしておもむろに目の前のテーブルの上に、食事を並べ出す。
「おい、デイブ」
さすがのケネスもギョッとしたような顔をした。
「ああ、とにかく頭が動かなくなったら食べる事にしたんだ。週一でマジックバッグごと持たされていてね。良かったら一緒に」
「エドワード様ですか? ふふふ、ではいただきますね。うん、フィンレーの料理は本当に美味しいですね」
「……で、では、私も」
「そうだな。どうせ今日も遅くなるしな。ここらできちんとしたものを食べておくのもいいな」
男たちはそのまま黙ってテーブルの上の料理を食べ始めた。そして、デザートまである事に笑いを漏らしながら、ハワードが口を開いた。
「どう思いますか? 分裂体の有無について」
「分からない。あるというのならばまだエドワードを狙う可能性があるかもしれない。だけど良く分からないのが、あれほどのものになったとしても、人であった頃の執着は残るのだろうか。執着と言う負の感情として残っているんだろうか。でも、本当にそれだけなんだろうか。ただ、あの子を手に入れたかったというそれだけなのか私は段々分からなくなってきている」
「なるほど……」
ハワードが眉間に皺を寄せながら少し考え込むようにそう言うと、ニールデン公爵が口を開いた。
「エドワード様が魔のものに狙われるような何かがある、という事ですか?」
「分かりません。本人は魔のものとは全く関りがないような子ですので」
「ああ、そうですな。以前王城にいらした時にもそう感じました」
「ええ、なのでどうしてなのかとふと気になりました。まぁ、親馬鹿の延長戦かもしれませんが」
「ははは、それならば、その方が良いでしょう。さて、本当に美味しいお料理でした。久しぶりにこのような時間にまともなものを食べた気がします。公爵家が減ってしまって私も何やら忙しくなってきてしまいました。早く色々が落ち着いてもらわないと、家督も譲れません」
「いや、まだまだお早いでしょう」
ケネスが苦笑いをしながらそう言った。
「じじいは早めに引退をして、後につないだ方が良いのですよ。しっかりしているうちなら何かをした時に窘める事も、気づかれんように軌道修正もしてやれますしね。それに孫には甘いじじいになるのが私の夢なんです。エドワード様の魔法の講義をされているというカルロス様が本当に羨ましい」
そう言われてデイヴィットは温い笑いを浮かべた。
「さて、ではそろそろ次の会議に参りましょう。各領からも魔素などの報告が上がってくるでしょう」
「そうですね。願わくば、魔人の欠片が見つかった等という報告がない事を祈ります」
そう言って本日の浄化の見届け人たちはゆっくりと立ち上がった。
だが、本来であればその日の各領からの報告だけで終わる筈の会議は、四人が思っていた以上に紛糾する事になったのだった。
-------------
少し短いですが……紛糾シーンを書くとまた5000超えそうなので( ;∀;)
何重にも厳重に結界が施されたそれを見た時には吐き気すらした。
蟄居していた屋敷から引き出されたオルドリッジ公爵自身も、さすがに浄化する事を認めた。
浄化はルシル一人に行わせるのではなく、聖魔法を持つ神官たち全員が参加をする事になった。それは第二王子のシルヴァンが願い出た事だった。
ルシルだけでは浄化する力が足りないというわけではない。
以前魔人をハーヴィンの領民たちの前で浄化をさせた事があり、ルシル自身の精神的な負担を軽減すると同時に、万が一何かあった時に対応できる者がいた方がいいという配慮からだった。
集まっていた王国の重鎮たちもそれに同意をした。
浄化は即日のうちに行われた。またどこかと繋がって消えられてはまずいと判断した為だ。
緊急の会議で決まったように、聖神殿の奥にある浄化用の部屋には聖魔法を使える神官たちと、そして王族からは第二王子のシルヴァンが、貴族たちからは見届けとしてニールデン公爵、フィンレー侯爵、レイモンド伯爵、メイソン子爵が参加をした。
浄化が済めば、滞っていたオルドリッジ公爵への粛清が開始されて、これで一旦王国内の粛清については幕を閉じる筈だった。
しかし、ここにきて新たなる課題が上がってしまったのだ。
魔人、とはもう呼べないようなものを捕らえてきたという報告から、魔素がまた新たに変化をしたのではないかという報告が上がってきてしまったのだ。
王室も、役人たちも、領主たちも、まだこのわけの分からないような混乱が続くのかと愕然とした。
特に重鎮と呼ばれている高位の爵位のものや、側近たち、そして賢者などの称号を持つ者たちはおそらくは胸の中で頭を抱えていただろう。
だが、とにかく進んでいかなければ終わらない。それは誰もが理解をしている事だった。
もっとも、理解と感情は遠に乖離をしているのだが。
「何とか無事に浄化を終えて、まずは一安心だな。課題は山積だが。とりあえず次はオルドリッジ公爵家への粛清か。ああ、浄化する事を優先に止めた魔素の案件が持ち上がってきそうだな」
ケネスが息を吐きながらそう言った。
「まったくです。まさかここにきて魔素が変化をするなんて想定外もいいところだ。しかも人の中にいつの間にか溜まるのではなく、勝手に他の人間に異動をする事も可能で、吐き出されたものは魔素だまりを作る? 分裂する?
意思があるように動く? 核があるかもしれないので魔人がもう分裂をして他の者の中にいる可能性がある? どれだけ有能なんだ!」
珍しく声を荒げたハワードに、ニールデン公爵は少しだけ驚いたような顔をして、デイヴィットはこめかみの辺りを揉んで椅子に深く腰掛けなおした。
そうしておもむろに目の前のテーブルの上に、食事を並べ出す。
「おい、デイブ」
さすがのケネスもギョッとしたような顔をした。
「ああ、とにかく頭が動かなくなったら食べる事にしたんだ。週一でマジックバッグごと持たされていてね。良かったら一緒に」
「エドワード様ですか? ふふふ、ではいただきますね。うん、フィンレーの料理は本当に美味しいですね」
「……で、では、私も」
「そうだな。どうせ今日も遅くなるしな。ここらできちんとしたものを食べておくのもいいな」
男たちはそのまま黙ってテーブルの上の料理を食べ始めた。そして、デザートまである事に笑いを漏らしながら、ハワードが口を開いた。
「どう思いますか? 分裂体の有無について」
「分からない。あるというのならばまだエドワードを狙う可能性があるかもしれない。だけど良く分からないのが、あれほどのものになったとしても、人であった頃の執着は残るのだろうか。執着と言う負の感情として残っているんだろうか。でも、本当にそれだけなんだろうか。ただ、あの子を手に入れたかったというそれだけなのか私は段々分からなくなってきている」
「なるほど……」
ハワードが眉間に皺を寄せながら少し考え込むようにそう言うと、ニールデン公爵が口を開いた。
「エドワード様が魔のものに狙われるような何かがある、という事ですか?」
「分かりません。本人は魔のものとは全く関りがないような子ですので」
「ああ、そうですな。以前王城にいらした時にもそう感じました」
「ええ、なのでどうしてなのかとふと気になりました。まぁ、親馬鹿の延長戦かもしれませんが」
「ははは、それならば、その方が良いでしょう。さて、本当に美味しいお料理でした。久しぶりにこのような時間にまともなものを食べた気がします。公爵家が減ってしまって私も何やら忙しくなってきてしまいました。早く色々が落ち着いてもらわないと、家督も譲れません」
「いや、まだまだお早いでしょう」
ケネスが苦笑いをしながらそう言った。
「じじいは早めに引退をして、後につないだ方が良いのですよ。しっかりしているうちなら何かをした時に窘める事も、気づかれんように軌道修正もしてやれますしね。それに孫には甘いじじいになるのが私の夢なんです。エドワード様の魔法の講義をされているというカルロス様が本当に羨ましい」
そう言われてデイヴィットは温い笑いを浮かべた。
「さて、ではそろそろ次の会議に参りましょう。各領からも魔素などの報告が上がってくるでしょう」
「そうですね。願わくば、魔人の欠片が見つかった等という報告がない事を祈ります」
そう言って本日の浄化の見届け人たちはゆっくりと立ち上がった。
だが、本来であればその日の各領からの報告だけで終わる筈の会議は、四人が思っていた以上に紛糾する事になったのだった。
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少し短いですが……紛糾シーンを書くとまた5000超えそうなので( ;∀;)
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