上 下
99 / 335
第7章  厄災

215. 二人の夕食は美味しい

しおりを挟む
父様からお茶会で話をする事の了承を取ったから、本当なら今日の事は父様にお知らせをするのが正しいのだけれど、一つみんなの前では言い出せなかった事があって、僕は兄様と話をしてから伝える事を選んだ。
父様には、今日の話で色々な面から切り出した出来た事を伝え詳細は後日、もう少し自分の中でまとめてからお伝えしますと連絡をした。
そして、兄様には今日のお茶会について、夕食後にでもお時間をいただけないでしょうかという連絡を入れた。
父様からも兄様からも了承の返事が来た。

そうしたら、あとは……。

「あっちも確認をしておこう」

僕はもう一通、書簡を送ってから、今日出された課題を片付ける事にした。
それほど面倒なものではないのでさほど時間もかからずに終わった。

(それにしても、あの魔道具やっぱりほしいな)

明日の支度をして学園用に使っている兄様から戴いたバッグを閉じながら僕は考えていた。
今日の話合いの事をスティーブ君とユージーン君がまとめてくれて、それを写しの魔道具で写してくれたんだ。
マジックポーチの中に入れてきたんだって。使って貰えているのはとても嬉しい。
今度はバッグをプレゼントしよう。そうだな。卒業の記念にでもしようか。卒業をしてもこれからもよろしくねっていう気持ちを込めて。

そんな事を考えていると一通の書簡が届いた。
声の魔法の書簡だった。

『エディ兄様、学園ではいかがお過ごしですか? 魔人が現れていないか心配です。薬草については順調に育っています。マークも珍しいものばかりなので楽しみにしているようです。さて、先ほどお問い合わせいただきました件ですが、あれ以来温室に遊びに来たりすることはあっても、夢の中には現れません。はっきりと伝えなければいけないと彼らが思う様な重大な事がないからかもしれません。様子も変わりません。特に焦ったり、困っていたりという様子もなく、普通にメロンやナシをねだっています。また何か変化があるようでしたら必ずお知らせいたします。どうか、エディ兄様も無理をなさらずに、またフィンレーにいらっしゃるのを楽しみにしています』

ハロルドの言葉が終わって、発動をしていた書簡の光が消えた。

「そうか。変化はないか……」

魔人の事を含めて、今、王国内は小康状態というような感じだ。
粛清を受けた領主の領には魔素や魔物が湧き出ているようだけれど、それ以外の領は比較的落ち着いている。
今までの王国内でも、また現在の魔素のの特性を考えても上が荒れて人が不安になれば魔素は湧き、人がそれを取り込む。そして更に負の感情を増やそうとする。
そう考えると王都で魔物や魔素の被害がないというのはそれなりに粛清が成功をしたという事なのだろう。

「少し、休もう……」

何だか色々な事を考えすぎて疲れてしまった。幸い今日の事は書き留めておく必要がないほど二人がきちんとまとめてくれた。後はそれを見せながら自分が感じた事を兄様に伝えればいい。

「マリー、悪いけど夕食の前に起こして? 学園から引き続きのはなしだったから少し休むね」
「はい。かしこまりました」

体力がついていないわけではないけれど、それでも僕は無理をし過ぎると未だに熱を出してしまう事がある。
さすがに幼い頃の影響とは言い難いものだけど、そう言った体質なのかもしれないなと思うようになった。
兄様に心配されないうちに身体を休めよう。いざとなったら体力回復ポーションを飲めばいい。
そう思いながら僕はベッドにもぐりこんで、目を閉じた。




「エディ、大丈夫?」
「…………」

声をかけられて意識が浮き上がる。そしてハッとして勢いよく起き上がろうとして、それを止められた。

「急に起き上がると危ないよ」
「アル兄様! え? なんで?」

夕食の前にマリーに起こしてって声をかけておいたのにって、声には出していなかったけれど、それが判ったかのように兄様はクスリと笑った。

「まだ夕食には少し早い時間なんだ。ちょうど区切りがよかったので帰ってきたら休んでいるって言うからね。食事までそれでいいって言ったんだよ。どう? 少しは休めたかな」
「……はい。すみません、病気でもないのにこんな風に……」

シュンとしてしまった僕に兄様はクスリと笑って「大丈夫。病気じゃないならその方がいいしね」と言って改めて「ただいま、エディ」と口にした。

「起きます。ゆっくり。大丈夫です。……えっと、お帰りなさい、アル兄様」

ベッドから半身を起こして僕はようやく挨拶をすることができた。

「うん。ただいま。疲れているなら話は明日にするよ?」
「いえ、大丈夫です。スッキリしました。別に熱が出ているわけでもないし、その、今日の事を兄様に一番最初にお話ししたいと思ったので」
「うん。約束したからね。ありがとう、エディ。それじゃあ、起きたばかりだけど夕食にしようか。それとも先に話にする?」
「……いえ、夕食で。兄様にはちゃんとした食事をとっていただきたいので」

そう言って僕はベッドから下りて立ち上がった。

「ふふふ、食事に関しては信用ないな。分かった食事にしよう。マリーそう伝えてくれるかな」
「畏まりました」

部屋の端に控えていたマリーが出て行ったのを見て兄様はもう一度クスリと笑った。

「アル兄様?」
「ああ、ごめん。ふふ寝癖がついている」
「! ああ、これは、もう、ううう。昼寝はしているし、寝癖はついているし、直します。すぐに直します」

本当に申し訳なくて僕は手で髪の毛をわしゃわしゃと押さえた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。可愛いよ? でもエディが気になるなら、ほら、こうして、こうして、こうしてしまえば、ね? はい、直ったよ」

兄様は水の魔法と風の魔法と長い指を使ってあっという間に僕の寝癖を直してくれた。そして楽しそうに「仕上げ」と言って頭にチュッと口づけた。

「! ふわ! あり、ありがとう……ございます」

思わず真っ赤になって僕は小さく俯いてしまった。それを見て兄様が「ほら行くよ」という。

「なんだか、小さな子供みたいです」
「そう? そんな事は思っていないけど。というかエディが小さな子供になってしまったら困るな」
「アル兄様?」
「ふふ、もうすぐ誕生日でしょう? それなのに小さくなってしまったら駄目だよ」
「あ、はい。そうでした」

そうだった。兄様やハリー達の誕生日は忘れないけど、自分の誕生日はついつい忘れがちだった。

「エディの誕生日には早く帰れるように今から周りに言っておこう」

部屋を出て廊下を歩きながら兄様が嬉しそうにそう言った。

「いえ、あの、そんな。それよりもちゃんと食事をとってくださる方がいいです」
「とっているよ」
「……ポーションで済ませているとお聞きしていますよ」
「誰かな、そんな情報を流しているのは。そんな事はないからね」

そんな事を言いながら僕たちは夕食のテーブルについた。
お茶会ではプチタルトを2つだけにしたから食べられない事はない。
書簡には夕食後と書いたけど、兄様の夕食後の意味だったから、まさか一緒に食事が出来るなんて思ってもみなかったんだ。
少しバタバタしてしまったけれど、向かいの席に見える兄様の顔が嬉しくて、僕は先ほどの寝癖の恥ずかしさも忘れてニコニコしていた。


しおりを挟む
感想 940

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。