悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第7章  厄災

208. 現状報告と僕の気持ち

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ハリーの夢の事と、妖精たちと話をした事、そしてそのやりとりについて書簡を送ると、兄様からは気になる事が色々あるので、父様と打ち合わせてから行く事にしたという内容の書簡が来た。
そしてその数日後に兄様から再び連絡があった。
話合いの事を伝えたいというもので、僕はお願いしますと返信した。

兄様は王城のお仕事が終わってからやってきた。

「お疲れなのにありがとうございます」
「そんな風に言わないで? エディに会える機会は無駄にしないってそれだけだからね。さて、夕食は?」
「僕は済みました。兄様は?」
「軽く取ったよ」
「では先に食事を」
「ううん。話をしよう。どうしてもお腹がすいたらエディからの差し入れがここにあるからね」

マジックバッグをポンポンとして笑った兄様に僕は「はい」と頷くしかなかった。

「まずは現状報告だ。ルシルたちが戻ってきた。魔物も魔素も出なかったわけではないけど、前回よりは少なく、保護と補償の手続きはかなり進んだらしい。それにルシルが【光の愛し子】として治癒を使った事で元ハーヴィン内では彼の名前も浸透して結果としてはとても良かった。砂漠化や魔素の検証はまた追々していく事になっている。しかし良かった一方で第二王子を擁立したい者たちの気持ちを刺激してしまったようで、王太子派との火種を作ってしまったのではないかという心配も出てきた。が、今の所表立って何かが起きているわけではないのでこれは様子見だ」
「はい」

頷きながら僕はやっぱり色々と国というのは難しいなと思った。

「次に王国内の立ち入り禁止区域についてだが、調べると各領にそれなりにあり、その半数ほどは忘れ去られている所だそうだ。一つ一つ調べていくにはかなりの時間を要するので、どのように調べていくかこれも今後の課題だね。同じく王家の方だけど、書庫で調べる許可はとれたらしい。魔力の高い信頼できる者に協力をしてもらいながら調べていくという事だ。もしかするとここで世界の事も少し判るかもしれないね」
「すごい、王家のそんな所が調べられるなんて」
「うん。さすが、賢者だね。それで、その賢者に関してだけれど、今のメイソン領には特に聖域や禁区はないそうだ。ただ、元々拝領をした所は今の場所とは違うという事が判ってね。ロマースクとハーヴィンの近くだそうだ」
「ハーヴィン……」
「うん、またハーヴィンだ」

僕の呟きに兄様が頷いた。

「とりあえずはこれも保留。ハーヴィンの古い資料などが手に入らないかは以前から父様も手を回している。何かやっぱり気になるからね」
「はい」

そう、何かが起こると出てくるハーヴィンの名前。
やはり何かあるのではないかとついつい思ってしまう。

「そして、次だ。大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です」
「うん、では次は粛清について。これははほぼ終わっている。そしてその最後とも言われているオルドリッジ公爵は現在蟄居ということで屋敷に軟禁をされている状態なんだ。さすがに自分の家から魔人を出してしまったところを公爵家に据えておく事は出来ないからね。それに元々こうして子息の行方が分からなくなってしまった事も公爵のごり押しが原因だし、何よりも公爵自身が身体の中に魔素を溜め込んでいたという事もある。その他にも色々と横領の類も明るみに出てね。そういう事で公爵家の取り潰しは決まっている。後は魔人化してしまった子息の浄化を認めさせて、今度は公爵自身を魔人化させないために、強力な結界を施している場所への幽閉が決まっている。一応長く続いている公爵家なのでね、死刑には出来なかったらしい」

そうだったんだ。でも幽閉は本当に安全だろうか。今回子息が消えたように、本当に公爵が魔人化をしてその身体を消してどこかに行ってしまう様な事はないのだろうか。
でもだからと言って死刑にした方がいいというのも何とも言えない状況だ。

「その公爵の逃亡を助けようとした者が捕まった。それは粛清の中に入れる事になり、爵位は没収になった。古い家だから色々な伝手があると父上たちが言っていたよ。まだそう言った者が出てくるかもしれないから注意が必要だ」
「そうなんですね。それで、子息の方は」
「手掛かりはない。父上が大きな魔素が湧いた所と、大きな魔物が出た所を手を回して調べているが、今の所現れた様子がない。根比べかも知れないと言っている」
「根比べ、ですか」
「ああ、エディには不便をかけてすまないね」
「いえ……」

でもこのままでは学園に通えなくなってしまう。それに大きな魔素や魔物が現れた所を追いかけて行っても、その魔素か、あるいは子息自身が出入り口となっている場合は根比べはこちらにとってかなり分が悪い。だとすれば後は。

「アル兄様」
「なんだい?」
「もしも、公爵子息が本当に僕に執着をしているのなら僕が」
「エディ、それは駄目だ」

兄様は僕の言葉が終わらないうちにそう言った。

「エディを囮にしておびき出すような事を僕や父上が認められると思うかい?」
「はい……でも……」
「エディに恐ろしい思いをさせたくない。あの化け物をその瞳に映したくない。二度と。これは私と父上の我儘だと思ってくれてもいい。それでも、どうしても、あれの前にエディを差し出すような真似はしたくないんだ」
「…………はい。すみませんでした」
「うん。厳しい言い方をしてごめんね。何とか捕獲をする方法を考えてみるよ。もう少しだけ我慢をしてほしい」
「はい」
「それから父上からエディが退屈をしているのではないかと、結界は屋敷内だけでなく敷地にかけているのでお祖父様との勉強会を再開してはどうかという提案が」
「お、お願したいです!」
「うん。分かった。じゃあそれは僕から父上に伝えて、なるべく早くそうしてもらえるようにしよう。ずっと温室と本の事を考えていては疲れてしまうからね」

兄様はそう言って僕の顔を見た。

「他には何か困っている事はない? こんな事がしたいとか、何が足りないとかそういう要望があれば言って? 先ほどの願いは僕の心臓が止まってしまいそうだから叶えられないけれど、他の事なら出来る限りエディの望みを叶えるようにしたいと思っているよ?」

覗き込んでくるブルーの瞳に僕は小さく笑った。

「大丈夫です。兄様の心臓が止まったら困るのでもう言いません。あと、お祖父様とのお勉強会の件はよろしくお願いします。トーマス君たちも呼んでもいいか確認をしてもらえたら嬉しいです。それから」
「それから?」
「父様と兄様はポーションばかりじゃなくてちゃんとお食事をとってください」
「うん。エディが手配をしてれたからね。取っているよ」
「少なくなったらシェフに、ううん。本当は毎日差し入れをしたいけど、一週間に一度は差し入れをします。それを許して下さい」
「うん。分かったありがとう。ちゃんと食べるよ。約束する」
「はい」

そう言って僕は兄様にしがみついた。

「エディ?」

どうしたのかというように名前を呼ぶ声。そして、そうした事が判っているかのように兄様が僕の背中をトントンとする。

「……妖精に言われた事をどうやって解き明かしていけばいいのかなって考えてしまいます」
「うん」
「書庫を色々と調べていますが、成果は今の所ありません」
「うん」

帰って来る言葉は短いけれど、今はそれが有難いと思う。

「ルシルは……ルシルは光の愛し子として、きちんと成果を上げているのにって思う時があります」
「エディ」
「判っています。でも思う時もあるんです。ずっとここに居るだけで、守られているだけでいいのかなって。でも僕がここに居る事もきっと意味がありますね? 父様や兄様が安心して仕事をすることが出来る。そして、薬草も順調に増えている」
「そうだね。ありがとう、エディ」

しがみついていた僕の身体を兄様が抱きしめた。

「早く、あれを見つけるようにするよ。またエディがいつもの生活に戻れるようにする。約束する。必ずだ。でもこんな風に思っている事があったら吐き出して? いつでも聞くから。だから溜め込まないでこうして口に出してほしい。妖精の事は私には分からないけれど、それでもエディが聞いてくれた言葉をみんなで探している。エディは何もしていないわけじゃないよ」
「はい、兄様。大丈夫です。ちゃんと判っています。みんなが色々と調べている事も、僕がルシルとは違う事も、そして、僕は僕の出来る事をしているって思っています」
「うん。そうだね。エディはちゃんと、エディが出来る事をしているよ」

少しだけ抱きしめる腕を緩めて、再び覗き込んできたブルーの瞳が思っていた以上に近くて、僕は思わず顔を赤くした。

「はい。ありがとうございます。妖精も、助ける力はあると言っているから。必ずそれに辿り着きたいと思っています」
「うん。頑張ろう」
「はい。でも兄様は無理をしないで下さいね。あと……たまには夕食を一緒に食べて下さい」
「わかった。それも約束するね」

そう言って兄様はもう一度僕をギュッとしてくれた。




それから数日は何事もなく過ごした。
せっかくだから温室や書庫の往復だけでなく、ルーカスと剣の稽古をしたり、ゼフと魔法の稽古もしてみた。
お祖父様の講義は明日から再開される事になって、トーマス君やスティーブ君、それにブライトン先生にも会えそうだ。

それから久しぶりに母様ともお茶会をした。
シェフがミルクレープの新作を作ったというので、二人で笑いながら試食用の小さなものを5種類も食べた。
うん。これはまたミッチェル君にも食べてもらわないとね。本当にうちのシェフは腕がいい。



そして、翌日。
「エドワード、息災か」

約束通りにお祖父様がやってきた。

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じいじ、来た~~~♪
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