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第四章 森の終わり
116 出した答え
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「アラタ様、大丈夫ですか?」
ふよふよと飛びながらコパンが俺の顔を覗き込んできた。
目が覚めたのは夜明け前。なんとなく寝直す気持ちになれなくて結局そのまま起きてしまった。
そうしていつもよりも早めに拠点を出て歩いているんだけど、やっぱり女神との話を思い返してしまう。
『聖女』の事。『勇者』の事。そして巻き込まれた事故の事と悪神となった元『勇者』が依り代とするために近づいた存在も気になる。
「う~~~~~~ん」
「アラタ様?」
「何度考えても、関わりたくない」
「え?」
コパンがわけが分からないという表情をして俺の肩に載った。
「いや、女神との話を何度も思い返しているんだけどさ。悪神となった元『勇者』は捕らえられているから、もう会う事もないだろうけど、依り代として狙われた子とも関わりたくないな~って。だってその子は女神に『勇者』になりたいって言っていたんだよね」
多分その後でこの世界の『勇者』がどんな存在なのか聞かされているのだろうと思うけど。
女神はその後のその子については口にしなかった。俺と同じように赤ちゃんからの転生でなく、今は五歳って言っていた。でもこの先、前世の記憶が戻って女神とのやり取りも思い出してもなお『勇者』になりたいなら近づかないの一択だな。もっともこの事故では俺やその子の他にも何人もいるみたいだから、年齢が離れている俺に関わるような事はないと思いたい。
「それにしても俺が巻き込まれた『不幸な事故』が元勇者絡みだったなんてね」
「はい。驚きました。『不幸な事故』としか聞いていなかったので。すみません」
これはコパンにはなんの落ち度もない。だって知らされていない事まで話す事は出来ないし、大体その後に起きた
想定外って言われているゴブリンとかワームとか妖精達との出会いが、元勇者が開けた空間の影響を受けているからかもしれないなんて本来は神様レベルしか知らない話なんだよね。
「静かに、穏やかに、好きな事をして過ごしたいだけなんだけどなぁ」
ため息と一緒にどんなジジイだよって言葉が落ちたけど、コパンはそれを笑うことは無かった。
「はい。それが一番です!外に出る事は女神様も何か考えてくださるみたいですし、アラタ様は自由に、そして幸せに生きる事だけを考えましょう」
「うん。そうだね。とりあえず森の外に出るのは手を貸してくれるみたいだし、あとは俺がどの国を最初の国に選ぶかだけだ」
「はい!」
そしてその翌日。女神は俺が迷っている二つの国だけでなく、森の外周の十二国の詳しい情報を俺が持っている本みたいにしてインベントリに贈ってくれた。勿論約束をした冒険者風の服もだ。それは不思議な服で大きさが変えられるんだって。魔法ってなんだかやっぱり便利だな。
更にその数日後、俺は久しぶりにラタトクス達に会った。どうやら彼らが縁を結ぶものと言っていた贈り物は本当に俺達と縁を結ぶというか、俺達の所にやってくることが出来るものだったらしく、「また見つけた~」「この前の麦とか色々欲しい」「交換!」と口々に言いながらこの前の三匹がやってきたんだ。
三匹はまたしても金貨を出した。よく聞くと一番最近なくなった国だから結構残っている? らしい。
この前よりも多く渡すと嬉しそうに「また来る」と帰っていった。
その日の夜、ラタトクス達との交換が少なくなったものを【補充】して、コパンが食べたいと言っていたルーロー飯と卵スープを食べて大満足をして……
「コパン、決めた! 森の真東にある中国のセヴォーロ王国に行くよ。大国の方が紛れるかもって思ったけど、冒険者ギルドも大きいし。それならダンジョンが二つあって新人の冒険者も多いセヴォーロの方がやっぱりいいかなって。それにほら、この資料によるとセヴォーロのダンジョンにはミノタウロスっていうビーフに似た魔物が出るんだって」
「! 行きましょう!」
俺の『お助け妖精』はどこまでも食いしん坊で正直で可愛い。
行き先を決めても道はただ真っ直ぐのままで変わりはなかったけれど、少しずつ、少しずつ、道の際まで出てくる魔物が増えはじめて、俺たちは森の終わりを意識し始めた。
俺が『神気(低)』に入って三カ月以上が過ぎていた。
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ふよふよと飛びながらコパンが俺の顔を覗き込んできた。
目が覚めたのは夜明け前。なんとなく寝直す気持ちになれなくて結局そのまま起きてしまった。
そうしていつもよりも早めに拠点を出て歩いているんだけど、やっぱり女神との話を思い返してしまう。
『聖女』の事。『勇者』の事。そして巻き込まれた事故の事と悪神となった元『勇者』が依り代とするために近づいた存在も気になる。
「う~~~~~~ん」
「アラタ様?」
「何度考えても、関わりたくない」
「え?」
コパンがわけが分からないという表情をして俺の肩に載った。
「いや、女神との話を何度も思い返しているんだけどさ。悪神となった元『勇者』は捕らえられているから、もう会う事もないだろうけど、依り代として狙われた子とも関わりたくないな~って。だってその子は女神に『勇者』になりたいって言っていたんだよね」
多分その後でこの世界の『勇者』がどんな存在なのか聞かされているのだろうと思うけど。
女神はその後のその子については口にしなかった。俺と同じように赤ちゃんからの転生でなく、今は五歳って言っていた。でもこの先、前世の記憶が戻って女神とのやり取りも思い出してもなお『勇者』になりたいなら近づかないの一択だな。もっともこの事故では俺やその子の他にも何人もいるみたいだから、年齢が離れている俺に関わるような事はないと思いたい。
「それにしても俺が巻き込まれた『不幸な事故』が元勇者絡みだったなんてね」
「はい。驚きました。『不幸な事故』としか聞いていなかったので。すみません」
これはコパンにはなんの落ち度もない。だって知らされていない事まで話す事は出来ないし、大体その後に起きた
想定外って言われているゴブリンとかワームとか妖精達との出会いが、元勇者が開けた空間の影響を受けているからかもしれないなんて本来は神様レベルしか知らない話なんだよね。
「静かに、穏やかに、好きな事をして過ごしたいだけなんだけどなぁ」
ため息と一緒にどんなジジイだよって言葉が落ちたけど、コパンはそれを笑うことは無かった。
「はい。それが一番です!外に出る事は女神様も何か考えてくださるみたいですし、アラタ様は自由に、そして幸せに生きる事だけを考えましょう」
「うん。そうだね。とりあえず森の外に出るのは手を貸してくれるみたいだし、あとは俺がどの国を最初の国に選ぶかだけだ」
「はい!」
そしてその翌日。女神は俺が迷っている二つの国だけでなく、森の外周の十二国の詳しい情報を俺が持っている本みたいにしてインベントリに贈ってくれた。勿論約束をした冒険者風の服もだ。それは不思議な服で大きさが変えられるんだって。魔法ってなんだかやっぱり便利だな。
更にその数日後、俺は久しぶりにラタトクス達に会った。どうやら彼らが縁を結ぶものと言っていた贈り物は本当に俺達と縁を結ぶというか、俺達の所にやってくることが出来るものだったらしく、「また見つけた~」「この前の麦とか色々欲しい」「交換!」と口々に言いながらこの前の三匹がやってきたんだ。
三匹はまたしても金貨を出した。よく聞くと一番最近なくなった国だから結構残っている? らしい。
この前よりも多く渡すと嬉しそうに「また来る」と帰っていった。
その日の夜、ラタトクス達との交換が少なくなったものを【補充】して、コパンが食べたいと言っていたルーロー飯と卵スープを食べて大満足をして……
「コパン、決めた! 森の真東にある中国のセヴォーロ王国に行くよ。大国の方が紛れるかもって思ったけど、冒険者ギルドも大きいし。それならダンジョンが二つあって新人の冒険者も多いセヴォーロの方がやっぱりいいかなって。それにほら、この資料によるとセヴォーロのダンジョンにはミノタウロスっていうビーフに似た魔物が出るんだって」
「! 行きましょう!」
俺の『お助け妖精』はどこまでも食いしん坊で正直で可愛い。
行き先を決めても道はただ真っ直ぐのままで変わりはなかったけれど、少しずつ、少しずつ、道の際まで出てくる魔物が増えはじめて、俺たちは森の終わりを意識し始めた。
俺が『神気(低)』に入って三カ月以上が過ぎていた。
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