53 / 54
53 普通の転生者、話し合いの準備をする
しおりを挟む
2月に第四王子は大陸の端にある小さな国へ出発した。第三王子の婿入りとはうってかわったような、まるで罪人を引き渡すような気さえするひっそりとした旅立ちだった。
迎えに来た人も少ないし、同行する人も少ない。しかも相手国に着いたらお供の人は友好の覚書を受け取って戻って来るとか。
宰相閣下からはもう少ししたらお話しますって連絡が来た。要するに自分では調べたりするなって事だ。
気にはなるけど、僕にちょっかいを出しただけでこんな事になるとは思えないから、もっと大きな何かがあるんだと思ったよ。だって第四王子が出た後は、結構大規模な爵位の入れ替えがあったり、役職の交代があったり、騎士団の方では罷免とか、家を出されてしまった人とかも居たとか。
そんなこんなで、様々な憶測が飛び交う中で、山のような書類が回ってきて、宰相府や騎士団だけでなく、外務も法務も巻き込みながら僕たち下っ端にも山のような書類がやってきて、どうにかそれを片付けたら、もう3月が目の前に来ていて、そのまま今度は春の祭りの準備になった。
結局僕はフィルとちゃんと話をしていない。
お祖父様と話をして、お祖母様のご実家の伯爵家にも行って、結局は今までのままという形になったって。それだけは聞いた。三年っていうかあと二年。
フィルは時間を区切っているけれど、僕はどうしたらいいのかな。あれからそう言った話もないけど、いや、あってもどうしたらいいのか分からないけどさ。
「やぁ、エマーソン君。仕事の方はどうかな?」
久しぶりに現れた宰相閣下は少しだけ痩せたように見えた。
「こんにちは。お祭りの準備で結構忙しいです」
「ああ、そうだよね~。ここまでずれ込む筈じゃなかったんだけどね~。でもこの前の店で夕飯に付き合ってほしいんだよ。そろそろ春の野菜とか、春の魚が入って来るからね」
「魚ですか?」
「ああ、氷の魔道具が完成してね。運べるようになったんだよ」
「氷の魔道具……」
「そうそう。面倒なのがいなくなったからね、お礼だってレスター様が陣を開放して下さったんだよ。ああ、何かレスター様から聞いている?」
「いえ」
「じゃあ、それも話してあげよう。明日はどうかな。うん明日にしよう」
もしかして疲れてハイテンションになっているのかもしれないと思えるような宰相閣下はそうして予定を自分で決めてどこかへ行ってしまった。
とりあえず、明日の夕食の予定が決まった、らしい。
「うん。まぁ。話を聞きたかったしね」
結局何が起きていたのか。そしてどうなったのか。祭りの前に聞く事が出来ればスッキリ仕事ができる。
「そう言えば春の祭りの日がお休みなるのは新人の特権だったけど、今年は新人が入らなかったし、どうなるんだろう? 今年もお休みっていうのはさすがにないよね」
そんな事を考えながら僕は持っていた書類を次の部署に届けるべく急ぎ足で歩き始めた。
一つ決まると予定が重なるというか、呼ぶというか、そういう事ってあると思う。
明日の予定が決まったその日、僕は久しぶりにフィルと一緒に食事をしていた。今までは中々時間が合わなかったのにって思うと不思議だよね。
「サミーの方は仕事はどうだ?」
「うん? よく分からない感じの書類の山が終わったら春祭りの準備になった感じだよ。でも去年やっているし、見ているから色々が想像がついてやりやすい感じかな」
「そうか、なら良かった」
「フィルはどう? なんだか騎士団の方は詳しくは分からないけど結構異動があったような事は聞こえてきたよ?」
僕がそう言うとフィルは少し苦い笑いを浮かべながら「まぁね」と言って買ってきた芋の炒め物を口に入れた。
「フィルは……」
「うん?」
「何か僕に話せることがあるの?」
「……何が聞きたいんだ?」
「結局何にも分かっていないから話せると思う事なら何でも聞くよ」
自分でも狡いなって思ったけど、ちゃんとした事が分かっていないのは本当だからそう言うとフィルがクシャリと顔を歪めた。
「どこまで話していいのか分からないんだ。俺も全体を知っているわけじゃない。ただ、サミーに逆恨みをしていた奴がいたのは確かで、それが単なる嫌がらせではなく、エマーソン家やレスター様個人に恨みを持っていた事も分かったし、養子に入った伯爵家に圧力をかけている奴がいた事も分かった。だから、どう足掻いても俺には手におえない案件になっていた。気付かずになんとかできると思っていた事が裏目に出ていた。もっとも、騎士団の状況を見ると、それだけではないっていうのは何となく分かる」
「そう、なんだ。でもフィルが無事で良かったよ。丁度今日宰相閣下から明日少し話をしたいって言われたんだ。でも話せる事と話せない事があるって始めから言っていたから、どんな話になるのかは分からないよ」
僕の言葉にフィルは静かに「そうか」と言った。
せっかく久しぶりに一緒に夕食なのに、何だか重い雰囲気になっちゃったな。
「明日、聞いてきた事はフィルに話すよ。聞いてくれる?」
「ああ、勿論」
「良かった。ああ、それと、やっぱり城内でフィルに会うとホッとするね。ちゃんと見回りしてるんだって分かって」
「…………無自覚だよな?」
「え? 何が?」
「……いや、とりあえず、明日は気をつけて行ってきてくれ。その……待ってるから」
「うん」
よし、明日は頑張るぞ!
--------
迎えに来た人も少ないし、同行する人も少ない。しかも相手国に着いたらお供の人は友好の覚書を受け取って戻って来るとか。
宰相閣下からはもう少ししたらお話しますって連絡が来た。要するに自分では調べたりするなって事だ。
気にはなるけど、僕にちょっかいを出しただけでこんな事になるとは思えないから、もっと大きな何かがあるんだと思ったよ。だって第四王子が出た後は、結構大規模な爵位の入れ替えがあったり、役職の交代があったり、騎士団の方では罷免とか、家を出されてしまった人とかも居たとか。
そんなこんなで、様々な憶測が飛び交う中で、山のような書類が回ってきて、宰相府や騎士団だけでなく、外務も法務も巻き込みながら僕たち下っ端にも山のような書類がやってきて、どうにかそれを片付けたら、もう3月が目の前に来ていて、そのまま今度は春の祭りの準備になった。
結局僕はフィルとちゃんと話をしていない。
お祖父様と話をして、お祖母様のご実家の伯爵家にも行って、結局は今までのままという形になったって。それだけは聞いた。三年っていうかあと二年。
フィルは時間を区切っているけれど、僕はどうしたらいいのかな。あれからそう言った話もないけど、いや、あってもどうしたらいいのか分からないけどさ。
「やぁ、エマーソン君。仕事の方はどうかな?」
久しぶりに現れた宰相閣下は少しだけ痩せたように見えた。
「こんにちは。お祭りの準備で結構忙しいです」
「ああ、そうだよね~。ここまでずれ込む筈じゃなかったんだけどね~。でもこの前の店で夕飯に付き合ってほしいんだよ。そろそろ春の野菜とか、春の魚が入って来るからね」
「魚ですか?」
「ああ、氷の魔道具が完成してね。運べるようになったんだよ」
「氷の魔道具……」
「そうそう。面倒なのがいなくなったからね、お礼だってレスター様が陣を開放して下さったんだよ。ああ、何かレスター様から聞いている?」
「いえ」
「じゃあ、それも話してあげよう。明日はどうかな。うん明日にしよう」
もしかして疲れてハイテンションになっているのかもしれないと思えるような宰相閣下はそうして予定を自分で決めてどこかへ行ってしまった。
とりあえず、明日の夕食の予定が決まった、らしい。
「うん。まぁ。話を聞きたかったしね」
結局何が起きていたのか。そしてどうなったのか。祭りの前に聞く事が出来ればスッキリ仕事ができる。
「そう言えば春の祭りの日がお休みなるのは新人の特権だったけど、今年は新人が入らなかったし、どうなるんだろう? 今年もお休みっていうのはさすがにないよね」
そんな事を考えながら僕は持っていた書類を次の部署に届けるべく急ぎ足で歩き始めた。
一つ決まると予定が重なるというか、呼ぶというか、そういう事ってあると思う。
明日の予定が決まったその日、僕は久しぶりにフィルと一緒に食事をしていた。今までは中々時間が合わなかったのにって思うと不思議だよね。
「サミーの方は仕事はどうだ?」
「うん? よく分からない感じの書類の山が終わったら春祭りの準備になった感じだよ。でも去年やっているし、見ているから色々が想像がついてやりやすい感じかな」
「そうか、なら良かった」
「フィルはどう? なんだか騎士団の方は詳しくは分からないけど結構異動があったような事は聞こえてきたよ?」
僕がそう言うとフィルは少し苦い笑いを浮かべながら「まぁね」と言って買ってきた芋の炒め物を口に入れた。
「フィルは……」
「うん?」
「何か僕に話せることがあるの?」
「……何が聞きたいんだ?」
「結局何にも分かっていないから話せると思う事なら何でも聞くよ」
自分でも狡いなって思ったけど、ちゃんとした事が分かっていないのは本当だからそう言うとフィルがクシャリと顔を歪めた。
「どこまで話していいのか分からないんだ。俺も全体を知っているわけじゃない。ただ、サミーに逆恨みをしていた奴がいたのは確かで、それが単なる嫌がらせではなく、エマーソン家やレスター様個人に恨みを持っていた事も分かったし、養子に入った伯爵家に圧力をかけている奴がいた事も分かった。だから、どう足掻いても俺には手におえない案件になっていた。気付かずになんとかできると思っていた事が裏目に出ていた。もっとも、騎士団の状況を見ると、それだけではないっていうのは何となく分かる」
「そう、なんだ。でもフィルが無事で良かったよ。丁度今日宰相閣下から明日少し話をしたいって言われたんだ。でも話せる事と話せない事があるって始めから言っていたから、どんな話になるのかは分からないよ」
僕の言葉にフィルは静かに「そうか」と言った。
せっかく久しぶりに一緒に夕食なのに、何だか重い雰囲気になっちゃったな。
「明日、聞いてきた事はフィルに話すよ。聞いてくれる?」
「ああ、勿論」
「良かった。ああ、それと、やっぱり城内でフィルに会うとホッとするね。ちゃんと見回りしてるんだって分かって」
「…………無自覚だよな?」
「え? 何が?」
「……いや、とりあえず、明日は気をつけて行ってきてくれ。その……待ってるから」
「うん」
よし、明日は頑張るぞ!
--------
14
お気に入りに追加
970
あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。


私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました
山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」
確かに私達の結婚は政略結婚。
2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。
ならば私も好きにさせて貰おう!!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる