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43 普通の転生者、久しぶりの友人と会う
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王都に帰っていつも通りの生活に戻る。この生活が始まってまだ半年位なのにこれが日常と思うんだから、僕の順応力もなかなかのものだって思う。なんてね。
お祖父様のお陰か、王室との婚約者候補問題は無くなったようで、あれ以来第四王子の姿は見ない。
もっとも僕のいる辺りに王子が来る方がおかしいからね。念の為フィルにも確かめたけど、嫌がらせとか、おかしな事は起きていないって言っていたからほっとした。
夏になると王城の中は第三王子の婿入りに向けてまたまた忙しくなったりしたんだけど、自分の国で行うわけでも、他国の王族を迎える訳でもないから、その点はちょっと楽だなって思ってしまったよ。
そんな感じでロイヤルウェディングの夏を乗り越え、収穫祭の秋を越えて、早いもので僕が下っ端官吏になってからもうすぐ一年が経とうとする年の暮れ、久しぶりの友人から書簡が届いた。
ブラッドだ。
ブラッドとは卒業の後、二度会っている。一度目は1月の終わり。宿舎を見に来てくれたんだ。
ちょっと驚いて、それから「なるほど」って言っていた。
宿舎の護衛はフィルだと言うと何故か吹き出すように笑っていた。何でだったんだろう?
二度目は夏の終わり。領に避暑に行ったら沢山のお土産を持たされたからお裾分けって。ブラッドは学生時代と変わらずに僕に幸せを運んでくれるんだ。
そしてもう少しで一年が終わる今日、伯爵家の仕事を任されるようになってきて結構忙しいらしいブラッドの予定と僕の予定が上手く合って、僕達は三度目のお茶会を開催している。
「久しぶりだね、サミー。少し痩せたかな?」
そう言って少し大人っぽくなったブラッドが笑った。
「そうかな。自分ではあんまり分からないけど」
「最初の年だと色々な事に付いていくのだけでも大変なのに、今年は第三王子の結婚があったから、しわ寄せみたいなものもあったんじゃない?」
「うん。まぁ、でも結婚式は送り出しちゃえば実質的には終わりだから正直お祭りの方が大変だったかな」
僕がそう言うとブラッドは「サミーらしい」と、また笑った。
「はい、これは頑張っているサミーに差し入れ。こっちは最近流行り出した店のショコラだって」
ブラッドは学生時代と同じように沢山のお菓子と僕でも聞いた事にある有名店のチョコレートをくれた。
「ありがとうブラッド!」
「どういたしまして。所で彼は今日は仕事?」
「うん? フィル? うん、そう」
「そうか」
そう短く言って黙ってしまったブラッドに僕は何だか不安な気持ちになって彼の名前を呼んでいた。
「ブラッド?」
「あ、ああ、すまないね。この年の瀬にちょっと気になる噂を聞いたんだけどね。私の勘違いなのかもしれないな。そんな顔をしないで、ほら、ショコラを食べてみなよ。前に言っていたみたいに幸せな気持ちになれるかもしれないよ?」
そう言われて僕はとっておきの紅茶を淹れてからお皿の上におもたせのショコラをのせた。
「サミーに持ってきたんだからサミーが食べて?」
「ありがとうでも、せっかくだからブラッドも一緒に食べよう。きっと二人で食べたら美味しさが共感できて、もっと美味しく感じるよ」
「じゃあ、そうしようかな」
僕達は有名店のチョコレートを味わいながら食べた。
「美味しいね」
「うん。でもやっぱりサミーの淹れてくれた紅茶は美味しい。本当に時折無性に飲みたくなるよ」
「ふふふ、そんな風に言って貰えるなんて嬉しいな」
「本当だよ。同じエマーソン産の茶葉を使っても違うんだ」
「ああ、紅茶は結構淹れ方で味も香りも違ってくるからね」
そんな他愛のない話から最近の話をしているうちに時間が過ぎて行く。
でも僕の中には一つ棘が刺さっているような感じだった、さっきブラッドがチラリと言った言葉。
ブラッドはどんな噂を聞いたのかな。
「さぁ、ではそろそろ失礼するよ。お互いに来年も頑張ろう。また会えるのを楽しみにしているよ」
そう言って微笑んだブラッドに僕は「あの」と小さな声を出した。
「うん?」
「あのさ、ブラッド。教えてほしいんだ。ブラッドは、どんな噂を聞いたの? それって僕についての事? それともフィルについての事? どちらにしても教えてほしいんだ」
「不確かな噂だから、不用意に口にしてしまった事は謝るよ。もう少しきちんと調べたら必ず知らせるよ」
「ううん。僕も、僕なりにどんな噂があるのか、調べたいから教えてほしいんだ」
僕の言葉にブラッドは困ったような、言いづらい事を口にするような、そんな表情を浮かべてゆっくりと口を開いた。
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お祖父様のお陰か、王室との婚約者候補問題は無くなったようで、あれ以来第四王子の姿は見ない。
もっとも僕のいる辺りに王子が来る方がおかしいからね。念の為フィルにも確かめたけど、嫌がらせとか、おかしな事は起きていないって言っていたからほっとした。
夏になると王城の中は第三王子の婿入りに向けてまたまた忙しくなったりしたんだけど、自分の国で行うわけでも、他国の王族を迎える訳でもないから、その点はちょっと楽だなって思ってしまったよ。
そんな感じでロイヤルウェディングの夏を乗り越え、収穫祭の秋を越えて、早いもので僕が下っ端官吏になってからもうすぐ一年が経とうとする年の暮れ、久しぶりの友人から書簡が届いた。
ブラッドだ。
ブラッドとは卒業の後、二度会っている。一度目は1月の終わり。宿舎を見に来てくれたんだ。
ちょっと驚いて、それから「なるほど」って言っていた。
宿舎の護衛はフィルだと言うと何故か吹き出すように笑っていた。何でだったんだろう?
二度目は夏の終わり。領に避暑に行ったら沢山のお土産を持たされたからお裾分けって。ブラッドは学生時代と変わらずに僕に幸せを運んでくれるんだ。
そしてもう少しで一年が終わる今日、伯爵家の仕事を任されるようになってきて結構忙しいらしいブラッドの予定と僕の予定が上手く合って、僕達は三度目のお茶会を開催している。
「久しぶりだね、サミー。少し痩せたかな?」
そう言って少し大人っぽくなったブラッドが笑った。
「そうかな。自分ではあんまり分からないけど」
「最初の年だと色々な事に付いていくのだけでも大変なのに、今年は第三王子の結婚があったから、しわ寄せみたいなものもあったんじゃない?」
「うん。まぁ、でも結婚式は送り出しちゃえば実質的には終わりだから正直お祭りの方が大変だったかな」
僕がそう言うとブラッドは「サミーらしい」と、また笑った。
「はい、これは頑張っているサミーに差し入れ。こっちは最近流行り出した店のショコラだって」
ブラッドは学生時代と同じように沢山のお菓子と僕でも聞いた事にある有名店のチョコレートをくれた。
「ありがとうブラッド!」
「どういたしまして。所で彼は今日は仕事?」
「うん? フィル? うん、そう」
「そうか」
そう短く言って黙ってしまったブラッドに僕は何だか不安な気持ちになって彼の名前を呼んでいた。
「ブラッド?」
「あ、ああ、すまないね。この年の瀬にちょっと気になる噂を聞いたんだけどね。私の勘違いなのかもしれないな。そんな顔をしないで、ほら、ショコラを食べてみなよ。前に言っていたみたいに幸せな気持ちになれるかもしれないよ?」
そう言われて僕はとっておきの紅茶を淹れてからお皿の上におもたせのショコラをのせた。
「サミーに持ってきたんだからサミーが食べて?」
「ありがとうでも、せっかくだからブラッドも一緒に食べよう。きっと二人で食べたら美味しさが共感できて、もっと美味しく感じるよ」
「じゃあ、そうしようかな」
僕達は有名店のチョコレートを味わいながら食べた。
「美味しいね」
「うん。でもやっぱりサミーの淹れてくれた紅茶は美味しい。本当に時折無性に飲みたくなるよ」
「ふふふ、そんな風に言って貰えるなんて嬉しいな」
「本当だよ。同じエマーソン産の茶葉を使っても違うんだ」
「ああ、紅茶は結構淹れ方で味も香りも違ってくるからね」
そんな他愛のない話から最近の話をしているうちに時間が過ぎて行く。
でも僕の中には一つ棘が刺さっているような感じだった、さっきブラッドがチラリと言った言葉。
ブラッドはどんな噂を聞いたのかな。
「さぁ、ではそろそろ失礼するよ。お互いに来年も頑張ろう。また会えるのを楽しみにしているよ」
そう言って微笑んだブラッドに僕は「あの」と小さな声を出した。
「うん?」
「あのさ、ブラッド。教えてほしいんだ。ブラッドは、どんな噂を聞いたの? それって僕についての事? それともフィルについての事? どちらにしても教えてほしいんだ」
「不確かな噂だから、不用意に口にしてしまった事は謝るよ。もう少しきちんと調べたら必ず知らせるよ」
「ううん。僕も、僕なりにどんな噂があるのか、調べたいから教えてほしいんだ」
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