43 / 54
43 普通の転生者、久しぶりの友人と会う
しおりを挟む
王都に帰っていつも通りの生活に戻る。この生活が始まってまだ半年位なのにこれが日常と思うんだから、僕の順応力もなかなかのものだって思う。なんてね。
お祖父様のお陰か、王室との婚約者候補問題は無くなったようで、あれ以来第四王子の姿は見ない。
もっとも僕のいる辺りに王子が来る方がおかしいからね。念の為フィルにも確かめたけど、嫌がらせとか、おかしな事は起きていないって言っていたからほっとした。
夏になると王城の中は第三王子の婿入りに向けてまたまた忙しくなったりしたんだけど、自分の国で行うわけでも、他国の王族を迎える訳でもないから、その点はちょっと楽だなって思ってしまったよ。
そんな感じでロイヤルウェディングの夏を乗り越え、収穫祭の秋を越えて、早いもので僕が下っ端官吏になってからもうすぐ一年が経とうとする年の暮れ、久しぶりの友人から書簡が届いた。
ブラッドだ。
ブラッドとは卒業の後、二度会っている。一度目は1月の終わり。宿舎を見に来てくれたんだ。
ちょっと驚いて、それから「なるほど」って言っていた。
宿舎の護衛はフィルだと言うと何故か吹き出すように笑っていた。何でだったんだろう?
二度目は夏の終わり。領に避暑に行ったら沢山のお土産を持たされたからお裾分けって。ブラッドは学生時代と変わらずに僕に幸せを運んでくれるんだ。
そしてもう少しで一年が終わる今日、伯爵家の仕事を任されるようになってきて結構忙しいらしいブラッドの予定と僕の予定が上手く合って、僕達は三度目のお茶会を開催している。
「久しぶりだね、サミー。少し痩せたかな?」
そう言って少し大人っぽくなったブラッドが笑った。
「そうかな。自分ではあんまり分からないけど」
「最初の年だと色々な事に付いていくのだけでも大変なのに、今年は第三王子の結婚があったから、しわ寄せみたいなものもあったんじゃない?」
「うん。まぁ、でも結婚式は送り出しちゃえば実質的には終わりだから正直お祭りの方が大変だったかな」
僕がそう言うとブラッドは「サミーらしい」と、また笑った。
「はい、これは頑張っているサミーに差し入れ。こっちは最近流行り出した店のショコラだって」
ブラッドは学生時代と同じように沢山のお菓子と僕でも聞いた事にある有名店のチョコレートをくれた。
「ありがとうブラッド!」
「どういたしまして。所で彼は今日は仕事?」
「うん? フィル? うん、そう」
「そうか」
そう短く言って黙ってしまったブラッドに僕は何だか不安な気持ちになって彼の名前を呼んでいた。
「ブラッド?」
「あ、ああ、すまないね。この年の瀬にちょっと気になる噂を聞いたんだけどね。私の勘違いなのかもしれないな。そんな顔をしないで、ほら、ショコラを食べてみなよ。前に言っていたみたいに幸せな気持ちになれるかもしれないよ?」
そう言われて僕はとっておきの紅茶を淹れてからお皿の上におもたせのショコラをのせた。
「サミーに持ってきたんだからサミーが食べて?」
「ありがとうでも、せっかくだからブラッドも一緒に食べよう。きっと二人で食べたら美味しさが共感できて、もっと美味しく感じるよ」
「じゃあ、そうしようかな」
僕達は有名店のチョコレートを味わいながら食べた。
「美味しいね」
「うん。でもやっぱりサミーの淹れてくれた紅茶は美味しい。本当に時折無性に飲みたくなるよ」
「ふふふ、そんな風に言って貰えるなんて嬉しいな」
「本当だよ。同じエマーソン産の茶葉を使っても違うんだ」
「ああ、紅茶は結構淹れ方で味も香りも違ってくるからね」
そんな他愛のない話から最近の話をしているうちに時間が過ぎて行く。
でも僕の中には一つ棘が刺さっているような感じだった、さっきブラッドがチラリと言った言葉。
ブラッドはどんな噂を聞いたのかな。
「さぁ、ではそろそろ失礼するよ。お互いに来年も頑張ろう。また会えるのを楽しみにしているよ」
そう言って微笑んだブラッドに僕は「あの」と小さな声を出した。
「うん?」
「あのさ、ブラッド。教えてほしいんだ。ブラッドは、どんな噂を聞いたの? それって僕についての事? それともフィルについての事? どちらにしても教えてほしいんだ」
「不確かな噂だから、不用意に口にしてしまった事は謝るよ。もう少しきちんと調べたら必ず知らせるよ」
「ううん。僕も、僕なりにどんな噂があるのか、調べたいから教えてほしいんだ」
僕の言葉にブラッドは困ったような、言いづらい事を口にするような、そんな表情を浮かべてゆっくりと口を開いた。
-------
お祖父様のお陰か、王室との婚約者候補問題は無くなったようで、あれ以来第四王子の姿は見ない。
もっとも僕のいる辺りに王子が来る方がおかしいからね。念の為フィルにも確かめたけど、嫌がらせとか、おかしな事は起きていないって言っていたからほっとした。
夏になると王城の中は第三王子の婿入りに向けてまたまた忙しくなったりしたんだけど、自分の国で行うわけでも、他国の王族を迎える訳でもないから、その点はちょっと楽だなって思ってしまったよ。
そんな感じでロイヤルウェディングの夏を乗り越え、収穫祭の秋を越えて、早いもので僕が下っ端官吏になってからもうすぐ一年が経とうとする年の暮れ、久しぶりの友人から書簡が届いた。
ブラッドだ。
ブラッドとは卒業の後、二度会っている。一度目は1月の終わり。宿舎を見に来てくれたんだ。
ちょっと驚いて、それから「なるほど」って言っていた。
宿舎の護衛はフィルだと言うと何故か吹き出すように笑っていた。何でだったんだろう?
二度目は夏の終わり。領に避暑に行ったら沢山のお土産を持たされたからお裾分けって。ブラッドは学生時代と変わらずに僕に幸せを運んでくれるんだ。
そしてもう少しで一年が終わる今日、伯爵家の仕事を任されるようになってきて結構忙しいらしいブラッドの予定と僕の予定が上手く合って、僕達は三度目のお茶会を開催している。
「久しぶりだね、サミー。少し痩せたかな?」
そう言って少し大人っぽくなったブラッドが笑った。
「そうかな。自分ではあんまり分からないけど」
「最初の年だと色々な事に付いていくのだけでも大変なのに、今年は第三王子の結婚があったから、しわ寄せみたいなものもあったんじゃない?」
「うん。まぁ、でも結婚式は送り出しちゃえば実質的には終わりだから正直お祭りの方が大変だったかな」
僕がそう言うとブラッドは「サミーらしい」と、また笑った。
「はい、これは頑張っているサミーに差し入れ。こっちは最近流行り出した店のショコラだって」
ブラッドは学生時代と同じように沢山のお菓子と僕でも聞いた事にある有名店のチョコレートをくれた。
「ありがとうブラッド!」
「どういたしまして。所で彼は今日は仕事?」
「うん? フィル? うん、そう」
「そうか」
そう短く言って黙ってしまったブラッドに僕は何だか不安な気持ちになって彼の名前を呼んでいた。
「ブラッド?」
「あ、ああ、すまないね。この年の瀬にちょっと気になる噂を聞いたんだけどね。私の勘違いなのかもしれないな。そんな顔をしないで、ほら、ショコラを食べてみなよ。前に言っていたみたいに幸せな気持ちになれるかもしれないよ?」
そう言われて僕はとっておきの紅茶を淹れてからお皿の上におもたせのショコラをのせた。
「サミーに持ってきたんだからサミーが食べて?」
「ありがとうでも、せっかくだからブラッドも一緒に食べよう。きっと二人で食べたら美味しさが共感できて、もっと美味しく感じるよ」
「じゃあ、そうしようかな」
僕達は有名店のチョコレートを味わいながら食べた。
「美味しいね」
「うん。でもやっぱりサミーの淹れてくれた紅茶は美味しい。本当に時折無性に飲みたくなるよ」
「ふふふ、そんな風に言って貰えるなんて嬉しいな」
「本当だよ。同じエマーソン産の茶葉を使っても違うんだ」
「ああ、紅茶は結構淹れ方で味も香りも違ってくるからね」
そんな他愛のない話から最近の話をしているうちに時間が過ぎて行く。
でも僕の中には一つ棘が刺さっているような感じだった、さっきブラッドがチラリと言った言葉。
ブラッドはどんな噂を聞いたのかな。
「さぁ、ではそろそろ失礼するよ。お互いに来年も頑張ろう。また会えるのを楽しみにしているよ」
そう言って微笑んだブラッドに僕は「あの」と小さな声を出した。
「うん?」
「あのさ、ブラッド。教えてほしいんだ。ブラッドは、どんな噂を聞いたの? それって僕についての事? それともフィルについての事? どちらにしても教えてほしいんだ」
「不確かな噂だから、不用意に口にしてしまった事は謝るよ。もう少しきちんと調べたら必ず知らせるよ」
「ううん。僕も、僕なりにどんな噂があるのか、調べたいから教えてほしいんだ」
僕の言葉にブラッドは困ったような、言いづらい事を口にするような、そんな表情を浮かべてゆっくりと口を開いた。
-------
13
お気に入りに追加
971
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる